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閑話 セバスチャンの職務放棄
しおりを挟むアレク様をお部屋にお連れした後、メイが連れてきた医者を案内してそれからお嬢様に今後の事をお聞きしたら予想通りの答えが返ってきた。
まあそれが予想できたから、侍女のメイも一緒に連れてきたのだが。
メイにお嬢様の事をお願いしてエントランスへ戻ると旦那様は先ほど居た場所から動いておらず、まるで石像のように固まっていた。
「旦那様、帰りましょう。」
「…………。」
旦那様の肩に手を当て促すように立ち上がらせた。旦那様は何も話さずそのまま私に背中を押されるまま歩き出す、表情もすっかり抜け落ちてまるで人形のようだ。
そのまま馬車へと乗せて、私も一緒に乗り込んだ。
「……リアは?」
「アレク様のお側にいると……お嬢様のせいで怪我をされたので責任をとりたいと。」
「……そうか。」
「ああ、あと『私はアレク様に雇われた身なのですものお側を離れるのは職務放棄になっちゃうわ』とかも言っていましたね。いやはや、はっきり自己主張されるとは以前のお嬢様からは考えられませんね。前世の記憶が蘇るとこうも性格まで変わるかと。ふふ、なんだか母上達を思い出してしまいました。」
「……違うぞ、あれは本来のリアだよ。幼い頃のあの子はかなりのお転婆だったんだぞ? 覚えていないのか? 子猫を追いかけて木に登って降りられなくなったり、風で飛んだ帽子を池からすくいあげようとして落ちたり…それはもう次は何をやらかすのかとあの頃は毎日気が気じゃなかったぞ。」
それまでは、オウムのように単調な言葉しか返してこなかったのに娘の話になるととたんに饒舌になる。
「ああ! そうでしたねぇ。あの頃は、毎日のようにあなたの怒鳴り声とお嬢様の泣き声が屋敷中に響いていましたね。その後、静かになったと思ったらあなたの腕の中で泣き疲れて眠ったりしていましたねえ、懐かしゅうございます。」
「…怖かったんだよ。あの子も失うと俺は生きていけないと知っているから、だから危険なものから遠ざけて『お前の為だ』と言い聞かせて。本当は俺が安心したかっただけなんだ。あの子はずっと我慢していたのだな、そしてずっと俺の事を嫌っていたんだ。俺は、俺はっ……。」
ああ!! もう面倒くせーな!
「まったく、お前ってやつはそのウジウジした女みたいな性格ヤメロって昔、俺言わなかったか?」
「せ、セバスチャン?」
思わず昔のような口調になったのは、あまりにもこいつにムカついたから。
「今日の俺の勤務は終了した。んで、これからは友人として話を聞いてやる。屋敷に帰ったら久しぶりに飲もうぜ。なんでも話を聞くが俺もお前に言いたい事がたくさんあるから覚悟しておけよ。」
と言ってニヤリと笑った。
それから屋敷に戻って、ルイスが酔いつぶれるまで付き合ってやった。
まあ、こんな日だからこいつの事だ。眠れないだろうと思って友人として気を使ってやったんだ感謝しろよ?
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