婚約破棄された私の就職先はワケあり騎士様のメイド?!

逢坂莉未

文字の大きさ
42 / 92

37話 もうやめて! アレクのライフはゼロよ。

しおりを挟む


「本当によかったわ~、やっぱりアレックスちゃんとリアちゃんは運命の恋人だったのねえ~。」

少し間延びした声でエマ様がニコニコしながら言った。

「運命の恋人?ってどういうことですか?」

さっきもそんなこと言っていたような気がしたけど。

「あなた達はずーっと昔にもう会っていたのよ!」

エマ様の目が心なしかキラキラしていて話したくてウズウズしているようだ。

「ああ、あの話をするの? 別にいいけどアレックス殿下が嫌がるかもよ?」

アンジュ御祖母様おばあさまが少し憐れんだ目でアレクを見ている。

「あの、ヴィクトリア嬢とは先日お会いしたばかりだと思いますが、昔会ったという記憶が私にはありません。」

アレクが不思議そうに首をかしげている。

「そうねえ、あの頃は、あなたもいろいろあって思い出したくないのかもしれないわね…。」

「何時の頃の話なのでしょうか?」

「今から17年前くらいになるわね。リアちゃんがまだ生まれて6か月頃だったかしら、アンジュ姉様と私とリアちゃんで王宮に行ったことがあるの。」

「17年前といったら、私が7歳くらいですか…… あ…。」

アレクは何か思い出した様だがそのまま口を閉ざした。なんだか表情が沈んだようにも見える。

「……あなたのお母様がお亡くなりになった頃よ。」

アンジュ御祖母様おばあさまが静かに言った。
そうか、アレクが自分は側妃の子供だと言っていた。すでに亡くなられていたなんて知らなかった。

「リアちゃんが赤ちゃんの頃は私達が育てていたのよ、乳母を雇ってね。よく泣く子でね~、夜泣きもすごかったし大変だったけど楽しかったわ。」

御祖母様おばあさまは懐かしそうに笑って話されているけど、当人としては気恥ずかしい。
うー我慢我慢。

「ある時ね、乳母さんが体調を崩しちゃったのよ。他の乳母さんを探していたのだけど、ちょうどその頃にアルフレッド殿下を生んだ王妃様が話をお聞きになられて『私でよければお乳をあげましょう』と言ってくださったの、それでエマと私で赤ん坊のリアちゃんを連れて王宮でしばらくすごさせてもらうことになったわ。」

「まあ、そんなことが…。」

「そうそう! だからアルフレッド殿下とリアちゃんは乳兄弟になるわね!」

「はは、そうですね…。」

なんだか気恥ずかしくて、曖昧に笑ってしまった。

「それでねえ、ありがたいことに王妃様からお乳を分けて頂いていたのよ。リアちゃんはさっきも言ったけどよく泣く子だったからぐずると大きな声で泣いたの。それで寝ているアルフレッド殿下を起こすわけにはいかなかったからよく庭園を散歩しながらあやしていたわ。そこで、アレックス殿下に会ったの!」

エマ様はここからが本番とばかりに張り切って話し出した。





~ 17年前 ~

「んぎゃー! おぎゃー!」

「あらあら、今日もリアちゃんはご機嫌ナナメねえ~。ほうら、あんまり泣いているとお花さんたちに笑われてしまいますよ~。」

「お姉様、腕が疲れていませんか? 私が代わりましょうか?」

「エマったら、さっき交代したばかりでしょう? だーめ。」

「ええ~?」

そんなやり取りをしていたら前方から少年が歩いてきた。

「これは、アレックス殿下。ごきげんよう。」

エマが綺麗にカーテシーをする横でアンジュはヴィクトリアを抱っこしているので腰を少し屈めるだけにとどまった。

「その赤ちゃんは、アルフレッド?」

「違います。この子は私達の孫のヴィクトリアにございます。」

アレックスにヴィクトリアの顔が見える位置まで腰をかがめた。

「…なんでこんなに泣いているのだ?」

「アレックス殿下、赤ちゃんは泣くのがお仕事なのです。」

「泣くのがしごと?」

「そうです。赤ちゃんは言葉がまだ話せないのでお腹がすいたり、おむつが濡れていたり、機嫌が悪かったら泣いたりしますのよ。」

「では、いまはおなかがすいているのか?」

「いえ、お腹はいっぱいですよ。ただ、機嫌が悪いだけかもしれません。」

そんな会話をしているといつの間にかヴィクトリアが泣き止んでアレックスの方をじっと見ていた。
そこでエマが思いついたように言った。

「アレックス殿下。ヴィクトリアを抱っこしてみますか?」

「お、おれが?」

「そうです。ヴィクトリアは殿下が気になっているようです。抱っこしたら笑うかもしれませんよ。」

「おとしてしまったらどうするっ。」

「大丈夫です。ちゃんと下で支えますから、抱っこしてみます?」

「う、うん。」

アレックスはそう答えて、恐る恐るといった感じでヴィクトリアを抱っこした。もちろん7歳の子に赤ちゃんは重たいので下からアンジュが支える形となった。

そうしてアレックスが間近で見ると、ヴィクトリアがいきなり「キャ、キャ」と笑いだした。手を伸ばしてアレックスの顔をその小さい手で触っている。

「わ、わらったぞ! かわいいな。」

嬉しそうに報告してくるアレックスに二人は微笑みを返すと同時に密かに胸をなでおろした。
アレックスはつい最近、母親を亡くしてから笑うことがなくなったと、国王父親が胸を痛めているのを知っていたから。
共に母親を亡くしたもの同士、何かが共鳴したのだろうか。
それから、王宮にいる間は毎日のようにヴィクトリアに会いにアレックスはアンジュ達のところへとやって来た。不思議とヴィクトリアもアレックスがいるときだけは泣いたりせず、ずっと楽しそうに笑っていた。

そんな日々も終わるときが来た。乳母の体調も良くなり復帰することになり、王宮から家へ戻ることになったのだ。
明日には家に帰ることをアレックスに話すと落胆したように部屋へと戻って行った。


次の日、アンジュ達が帰る時刻になると、たまたま国王陛下も時間が空いたという事で見送りに来ていた。父親と一緒に来ていたアレックスは、なにやら思いつめた表情をしていたがやがて決心したように父親に向かって言った。

「ちちうえ、ヴィクトリアをうちの子にできませんか?」

「「「「ええっ!?」」」」

その場にいた大人たちが一斉に驚いた。

「お、わたしはヴィクトリアとはなれたくありません。」

「そ、それは、好きだということか?」

「すき? はい! すきです。かわいいです。ずっとそばにいてほしいのです。」

多分、恋愛とかではなく純粋に好きという子供心なのだろう。一生懸命に訴えてくる少年に大人たちは胸がいっぱいになった。

アンジュがアレックスの前に腰を下ろして同じ目線になるとゆっくりと話した。

「申し訳ございません。アレックス殿下。今は殿下の希望にはお答えできません。」

「どうして?」

「私達は、ヴィクトリアの母上様とお約束したのです。立派にヴィクトリアを育てると。ですから、ヴィクトリアをお渡しするわけにはまいりません。いずれお二人が大きくなられてそれでも一緒にいたいというのならお止め致しません。」

「……わかった。」

少年の頬に一筋の涙の雫が流れていく。母親の葬儀でも泣かなかった少年が泣いたことに父親は驚いた。そして初めて何かを欲しがった息子にそれを与えることが出来ないことに胸が痛んだ。

「ヴィクトリア、お別れ言いましょうね。」

ヴィクトリアを抱っこしていたエマがアレックスに顔が見えるように腰を下ろした。

「リア、さようなら。また会おうね。」

そう言って、ヴィクトリアの頬にチュっと唇を落とした。






「……ということがあってねえ~、もうすっごいその時のアレックス殿下がかわいくて~。」

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っー!!!!」

横にいるアレクが顔を両手でふさぎながらその場でのたうち回っている。


うん、気持ちはわかる。
本人が記憶にないのに、そんなエピソード聞かされた日には羞恥心でいっぱいだろう。

ほんわかエピソード(と当人は思っている)をまだ話し続けるエマ様に心の中で言った。


もうやめて! アレクのライフはゼロよ!


しおりを挟む
感想 186

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...