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54話 王宮へ行きます
しおりを挟む私が拉致された事件から一週間が経った。
救出されてから3日間ほど熱を出してしまったが、優秀な治癒師の方に私が熱でうなされている時に来ていただいたらしく癒しの魔法で4日目からは熱もすっかり下がり、お腹や体の打撲の跡もすっかり消え去っていた。
治癒師の方にお礼を言いたかったのだけど、お忙しい方だったらしく、私の分もお祖母様達がお礼を言ったので大丈夫だと言われた。
アレクからローガンの話を聞いたが、リュウが踏みつぶさなくてもあの魔法具は禁忌の製法で作られたものらしくいずれは魔法具によって魔力と生命力をすべて奪われる仕組みとなっていたらしい。
地下から救出されたジャンさんは、一時は危なかったらしいが今は安定して命に別状はないとのことだった。少しずつだが取り調べにも素直に話しているらしい。そしてデイジーさんはずっとジャンさんに付き添っているらしい。
ジャンさんの処遇がどうなるかはわからないけど、悪いようにはしないとアレクが言っていたので大丈夫だろう。
そして今回の件を機会に、アレクは自身が第一王子のアレックスだということを公表することにした。
何故、今まで素性を隠していたのかという理由は、幼少の頃に病弱で命の危機もあったため、騎士団長のマーカスの屋敷で静養することにした。その折にアレックスは騎士として国を支えることを目指すようになった。第二王子のアルフレッドが無事、成人を迎え、立太子する運びとなった今、公表することにした。
と、いう筋書きだ。
そして私との婚約も同時に発表された。
病気療養で領地へ向かう際に出会い、次第に惹かれあってしまったという恋愛小説の様な話がすでに王都に広まっている。
身分を隠した王子と婚約破棄されて傷心した令嬢の恋物語はすごい話題になっているらしい。全部、お祖母様達が考えた事なのだけどなんだかこそばゆい。
そして、私が大泣きしたあの夜からアレクの様子が明らかにおかしくなった。
「ヴィクトリア、本当に体の方は大丈夫なのだな? 無理してはいないか?」
「だ、大丈夫です! …あの少し距離が近すぎませんか?」
今現在、私は王城へと向かう馬車にアレクと乗っているのだけど、向かい側に席はあるのにアレクは私の隣にくっつくように座って私を見つめていた。
その瞳がなんだかすごく甘いのだ。
いや、私の気のせいかもしれないけど!
でも、あの日からなんだかずっと私の事を気にかけているし、毎日、騎士団から帰ってくると私に赤いバラの花を1本渡してくる。
そして赤いバラの花言葉は―― 『I love you』
いやいや! ないない! そんなわけあるわけない!
ただ、怪我した私へのお見舞いの為の花に違いない。
変に期待して違かったら恥ずかしいし……。
そっとアレクを見上げると私を見つめる優しい瞳とぶつかって慌てて顔を伏せた。
今のアレクは王子様仕様で髪を後ろに流し、衣装も騎士服ではなく王族用の正装をしている。いつもより3割増しにカッコよく見えて目のやり場に困る。
私達はこれから王城へ行って国王陛下に婚約の許可を頂くことになっている。その後はすぐに婚約の儀が行われて、私はそのまま結婚式まで王宮に住むことになった。
王宮にはしばらくの間、お祖母様達も一緒に住むことになっている。先日の件でアレクの屋敷では危険だと判断されたらしく、このような形となってしまった。
それはいいのだが、私にはアレクに確認したいことがあった。
「あ、あの…。ひとつ聞いてもいいですか?」
「何かな?」
「このままですと、そのまま結婚までさせられてしまいそうなのですけど、アレク様はいいのですか?」
「ヴィクトリアは嫌なの?」
アレクは私の言葉に少し驚いたような表情をしたがすぐに笑顔で聞いてきた。
…笑顔が怖い。
「い、いえ! 全然っ。むしろ私でいいのかと思いましてっ。」
「そうか、それならよかった。…俺はね、このまま君と結婚してもいいと思っているよ。」
アレクはそう言って、私の手をすくうように持ち上げてそのまま手の甲にキスをした。
まるで物語の王子様の様な仕草にどぎまぎして、平常心を保つのが大変だった。
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