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目覚めた生贄
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しおりを挟む「答えられないのなら、すぐにでもここを去れ。目障りだ」
「ですが……」
咄嗟に由椰が顔をあげると、烏月がため息とともに憂いを孕んだ声を零した。
「他人のために魂を捧げるなど、どうかしている。消えてしまいたいのは、おれのほうだ。もう何百年も前から……」
「え……?」
「だいいち、おれは三百年も現世にとどまり続けた古い魂は喰らわない。おとなしく、人の世に還るといい」
烏月は静かに立ち上がると、冷たくそう言い放って由椰のそばを離れた。
「風夜、この娘を直ちに屋敷から追い出せ」
烏月が黒い翼を持つ紫の瞳の男、風夜に命じる。
「かしこまりました」
「あ、ちょ……、烏月様!」
泰吉と呼ばれていた栗毛の男は、風夜を横目に見て舌打ちすると、速足で部屋から出て行く烏月を追いかける。
風夜とともに部屋に取り残された由椰は、ひざまずいたまま途方に暮れた。
帰れと言われても、どこへ帰ればいいのだろう。生贄として追いだされた自分に、帰る場所などどこにもない。
村の人たちも「村を救うための生贄」という名目で体よく厄介払いした由椰が戻ってきては困るだろう。
黙ってうつむいていると、烏月を追って部屋を出て行った泰吉が戻ってきた。
「……で? この娘はどうするんだ? 烏月様は追い出せとおっしゃったが、そのお言葉通りにこのまま屋敷から出すわけではないんだろう?」
風夜が、由椰に気怠げな眼差しを向けながら泰吉に訊ねる。
「そりゃ、そうだろ。烏月様は、一週間でこの娘の魂を清めて人の世に戻せとおっしゃってる」
「やはり、そうか。不自然なカタチで何年も現世にとどまっていた人間を、今さら人里に返すわけにはいかないからな」
「そうだな。それに、麓の村だってとうの昔になくなっているし……」
「おい、狸。そのことは……」
風夜が、由椰を気にしながら泰吉の言葉に制止をかける。だが、由椰はそれを聞き逃さなかった。
「それは――、麓の村がなくなっているとは、どういう意味でしょうか。さっき出て行かれた方は、三日前に雨が降ったと……」
「……」
由椰がそろりと視線をあげると、泰吉と風夜がそれぞれに、気まずそうな、憐れむような目で見つめてきた。
「あ、の……」
由椰の心臓が不穏な音をたてる。ふたりの男を戸惑い気味に見つめ返すと、風夜が面倒くさそうにため息を吐いた。
「だから、初めに言っただろう。『やはり人違いだった』などという話は通用せぬ、と」
「そんなこと言われても、仕方ないだろ。どのみち、ほっとくわけにもいかないんだから」
「わかっている……」
ふたりで少し言い合ったあと、風夜が由椰に視線を向けた。腕組みをして立って顎を少し突き出すようにして見下ろしてくるその男は、烏月のそばでは恭しくかしこまっていたくせに、由椰に対しては、やや高圧的だ。
由椰がゴクリと唾を飲み込んだとき、紫の瞳の男が口を開いた。
「娘、お前が今置かれている状況を説明しよう。ここは二神山。その土地神である烏月様の屋敷だ」
「二神山……」
由椰の住んでいた村は神無司山の麓にあったが、それと隣り合うように並んでいたのが二神山だった。
「数日前、ここにいる泰吉が、神無司山との境で不思議な気配を感知した。伊世様の気配がするという泰吉の鼻を頼りに行ってみると、神無司山の奥の祠にお前が眠っていた。このアホが、間違いなく伊世様だというから連れてきたが……」
「私の名は由椰です」
「そのようだな」
風夜にジロリと横目で睨まれて、泰吉が肩を竦める。
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