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ハレの日
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しおりを挟む「やはり、私には無相応でしょうか……」
膝にのせた手を握りしめて下を向いた由椰の左耳で黒瑪瑙の耳飾りが艶やかに光る。
「いや……」
烏月は部屋に足を踏み入れると、由椰の左耳を指でそっと撫で、その手で彼女の頬に触れた。
「とてもよく似合っている。あまりに美しくて、つい見惚れていただけだ」
烏月が由椰の顔を上げさせると、頬を赤く染めた由椰の左右色違いの瞳が困惑気味に揺れる。
「烏月様も、とてもお似合いです……! お隣に並ぶのが私ではもったいな――」
烏月の婚礼着を褒めたあと、自信なさげにまたうつむこうとする由椰に、烏月が顔を寄せて口付ける。
「お前は、おれと共に生きると約束したのだろう」
烏月が由椰の左耳の黒い石を、指で擦りながら訊ねる。由椰は真っ直ぐに見下ろしてくる烏月の美しい金の瞳を見つめると、「はい」と唇を震わせた。
由椰と見つめ合う烏月の右耳で、彼女と揃いの黒瑪瑙の石が艶やかに光る。互いの右耳と左耳に分け合って付けた黒瑪瑙の耳飾りは、由椰が烏月に贈ったものだ。
屋敷に野狐が侵入し、由椰を失うかもしれない恐怖を味わった夜。烏月は一度は返してしまった耳飾りを受け取り、その片方を由椰に渡した。
『おれが消えるまでは、ここで共に生きてほしい』
そう告げた烏月に、由椰はふわりと微笑んだ。
『烏月様が望まれるなら、ずっとお側におります。私がいる限り、烏月様が消えることはありません』
柔らかな笑顔を浮かべながら力強く宣言する由椰の言葉を聞いて、烏月はできるだけ長い時を、彼女と共に生きたいと思った。
伊世が姿を消してから、ずっと「消えてしまいたい」と願っていた烏月にとって、由椰は何百年かぶりに心に生まれた希望だった。
幽世に留まることになった由椰との婚礼の儀を開くことを決めたのも、何百年も閉じてきた大鳥居を外に開いたのも、由椰と共に生きていこうという烏月の決意の証だ。
「そろそろ行くか」
烏月が声をかけると、その手を取って立ち上がった由椰がはっとしたように烏月の唇に手を伸ばす。
「烏月様、紅が……」
先ほど、口付けを交わしたときについたものだろう。
恥ずかしそうに顔を赤くして、烏月の唇を拭おうとする由椰が愛おしい。
「愛している」
烏月は口元に触れる由椰の手をとると、白く小さな手の甲に、誓いの言葉とともに口付けた。
Fin.
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