6 / 45
2.初恋は記憶の底に
4
しおりを挟む村田さんは、優しくていい子だ。それが素の彼女なのか、それとも虚構なのかわからないけれど、野宮さんたちの厚かましさに腹が立たないんだろうか。
心の中でそう思いながらも何も言えずにいると、星野くんが村田さんのそばに近付いてくる。
「智ちゃん、俺、ゴミ捨て手伝うよ」
星野くんがそう言うと、野宮さんと持田さんの笑顔が少しひきつった。その表情からは「余計なことするな」という、野宮さんたちの本音が伝わってくる。
「いいよ。カナくんだって今日、部活の準備あるでしょ?」
「それは智ちゃんだって同じだろ」
「大丈夫だよ。私はマネージャーだし」
席替えをする前に、私を挟んで繰り広げられていた星野くんと村田さんの会話から、星野くんが男子バスケ部で、村田さんはそのマネージャーをやっているということは知っていた。
マネージャーだって、部活前の準備はあるだろうに、嫌な顔ひとつせずゴミ捨てを引き受けた村田さんに、「それでいいの?」と疑問が湧く。
ふたりのやりとりを黙って見ていたら、不意に星野くんが私のことをジッと見てきた。
「お前は暇なんじゃないのか」と、そんなふうにも受け取れるほどの無言の圧を感じて、つい視線をそらす。いつも私のことを無視するくせに、こんなときばかり視界にいれられても困る。
「悪い! 俺、もう行くわ」
「村田さん、悪いけどお願い。私たちも、行かなきゃ」
山辺くんがカバンを引っ掴んで教室を飛び出すと、そのあとを追うように、野宮さんと持田さんも教室を出て行く。
残されたのは、星野くんと村田さんとそれから私。なんとなく他の三人のように立ち去るのも気が引けて黙って立っていると、星野くんがため息をついた。
「山辺はともかく、野宮たちは面倒ごとを智ちゃんに押し付けたんだよ。ゴミ捨て、俺も手伝う」
そう言ってゴミ袋の口を結んだ星野くんは、黙ったままでいる私を冷たい目で一瞥した。
私が村田さんにゴミ捨てを押し付けたわけでもないのに。こんなときだけ私が悪いみたいに睨んでくる星野くんに、ほんの少し憤りを感じる。
私が何したっていうのよ。おとなしく、自分の仕事をこなしただけなのに。余計なことはしないように気を付けてるのに。
今までは初恋の相手だった星野くんに冷たくされて悲しい気持ちしかなかったけれど、今回ばかりは彼に対する怒りの感情が湧いてきた。
あの状況で、私が何を言えばよかったっていうの?
先に帰ってしまった三人に、「村田さんだけに押し付けるのはよくない」って楯突けばよかった?
星野くんの態度に少し苛ついたけれど、それをあからさまに顔には出せない。
俯いて顔をそらしていると、星野くんが村田さんとふたりでゴミ袋を協力し合って持ち上げて、教室から出て行く。笑って話しながら歩いていくふたりは、相変わらず仲が良さそうだった。
結局ふたりで仲良くゴミ捨てに行くくせに。どうして私が星野くんに睨まれないといけなかったんだろう。
楽しそうに並んで歩いていく村田さんと星野くんの後ろ姿を見送りながら、なんだかモヤモヤとした。
人と関わらないようにしながら過ごしているはずなのに、それでもこんな気持ちになるなんて、学校という場所はどこも面倒くさい。
私は小さくため息を吐くと、教室を出た。
2
あなたにおすすめの小説
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わり、転校してきたのは、初恋の相手だった——。
鬱々とした気分で二学期の初日を迎えた高須明希は、忘れかけていた記憶と向き合うことになる。
名前を変えて戻ってきたかつての幼馴染、立石麻美。そして、昔から気になっていたクラスメイト、河西栞。
親友の田中浩大が麻美に一目惚れしたことで、この再会が静かに波紋を広げていく。
性と欲の狭間で、歪み出す日常。
無邪気な笑顔の裏に隠された想いと、揺れ動く心。
そのすべてに触れたとき、明希は何を守り、何を選ぶのか。
青春の光と影を描く、"遅れてきた"ひと夏の物語。
前編 「恋愛譚」 : 序章〜第5章
後編 「青春譚」 : 第6章〜
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】僕は君を思い出すことができない
朱村びすりん
青春
「久しぶり!」
高校の入学式当日。隣の席に座る見知らぬ女子に、突然声をかけられた。
どうして君は、僕のことを覚えているの……?
心の中で、たしかに残り続ける幼い頃の思い出。君たちと交わした、大切な約束。海のような、美しいメロディ。
思い出を取り戻すのか。生きることを選ぶのか。迷う必要なんてないはずなのに。
僕はその答えに、悩んでしまっていた──
「いま」を懸命に生きる、少年少女の青春ストーリー。
■素敵なイラストはみつ葉さまにかいていただきました! ありがとうございます!
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。
東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」
──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。
購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。
それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、
いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!?
否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。
気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。
ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ!
最後は笑って、ちょっと泣ける。
#誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる