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2.初恋は記憶の底に
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しおりを挟む村田さんは、優しくていい子だ。それが素の彼女なのか、それとも虚構なのかわからないけれど、野宮さんたちの厚かましさに腹が立たないんだろうか。
心の中でそう思いながらも何も言えずにいると、星野くんが村田さんのそばに近付いてくる。
「智ちゃん、俺、ゴミ捨て手伝うよ」
星野くんがそう言うと、野宮さんと持田さんの笑顔が少しひきつった。その表情からは「余計なことするな」という、野宮さんたちの本音が伝わってくる。
「いいよ。カナくんだって今日、部活の準備あるでしょ?」
「それは智ちゃんだって同じだろ」
「大丈夫だよ。私はマネージャーだし」
席替えをする前に、私を挟んで繰り広げられていた星野くんと村田さんの会話から、星野くんが男子バスケ部で、村田さんはそのマネージャーをやっているということは知っていた。
マネージャーだって、部活前の準備はあるだろうに、嫌な顔ひとつせずゴミ捨てを引き受けた村田さんに、「それでいいの?」と疑問が湧く。
ふたりのやりとりを黙って見ていたら、不意に星野くんが私のことをジッと見てきた。
「お前は暇なんじゃないのか」と、そんなふうにも受け取れるほどの無言の圧を感じて、つい視線をそらす。いつも私のことを無視するくせに、こんなときばかり視界にいれられても困る。
「悪い! 俺、もう行くわ」
「村田さん、悪いけどお願い。私たちも、行かなきゃ」
山辺くんがカバンを引っ掴んで教室を飛び出すと、そのあとを追うように、野宮さんと持田さんも教室を出て行く。
残されたのは、星野くんと村田さんとそれから私。なんとなく他の三人のように立ち去るのも気が引けて黙って立っていると、星野くんがため息をついた。
「山辺はともかく、野宮たちは面倒ごとを智ちゃんに押し付けたんだよ。ゴミ捨て、俺も手伝う」
そう言ってゴミ袋の口を結んだ星野くんは、黙ったままでいる私を冷たい目で一瞥した。
私が村田さんにゴミ捨てを押し付けたわけでもないのに。こんなときだけ私が悪いみたいに睨んでくる星野くんに、ほんの少し憤りを感じる。
私が何したっていうのよ。おとなしく、自分の仕事をこなしただけなのに。余計なことはしないように気を付けてるのに。
今までは初恋の相手だった星野くんに冷たくされて悲しい気持ちしかなかったけれど、今回ばかりは彼に対する怒りの感情が湧いてきた。
あの状況で、私が何を言えばよかったっていうの?
先に帰ってしまった三人に、「村田さんだけに押し付けるのはよくない」って楯突けばよかった?
星野くんの態度に少し苛ついたけれど、それをあからさまに顔には出せない。
俯いて顔をそらしていると、星野くんが村田さんとふたりでゴミ袋を協力し合って持ち上げて、教室から出て行く。笑って話しながら歩いていくふたりは、相変わらず仲が良さそうだった。
結局ふたりで仲良くゴミ捨てに行くくせに。どうして私が星野くんに睨まれないといけなかったんだろう。
楽しそうに並んで歩いていく村田さんと星野くんの後ろ姿を見送りながら、なんだかモヤモヤとした。
人と関わらないようにしながら過ごしているはずなのに、それでもこんな気持ちになるなんて、学校という場所はどこも面倒くさい。
私は小さくため息を吐くと、教室を出た。
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