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1.龍神の花嫁
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「竜堂 章太郎様は、葵の次の結婚相手として決して悪くはない相手なのでしょう? 立派な軍人様で、容姿も良いと評判だとか」
竜堂 章太郎との結婚についての不安を伝えると、御蔭は鯉の餌を池に投げ入れながら、ゆっくりとした口調で葵を宥めた。
「もちろん、肩書きは悪くはないわ。けれど、わたしはあの方の目が嫌い。わたしのことを欲の対象としか見ていないのがはっきりとわかるんだもの。今も、龍神様と離縁したあとに着てほしいと華やかな着物が贈られてきたのだけど……着物からあの方の下心が透けて見えるようで、嫌気がしたわ。まだほかの方と婚姻関係にあるわたしの機嫌をとろうとする章太郎様のことを、奥様はどう思っているのかしら」
不快げに、葵が柳眉をひそめる。
龍神様との離縁した葵を迎えることになっている章太郎には、既に正妻がいる。
子はいないらしいが、だからこそなおのこと、龍神の次代の花嫁を産むための側妻をよく思わないだろう。
先代の龍神様の花嫁であった葵の母が、離縁の後に嫁がされたのも既に結婚をしている男のところだった。
母は次の龍神様の花嫁となる葵を産むまでも、産んだ後も、嫁いだ竜堂家の男の欲の対象にされ、正妻に疎まれ、葵が三つで龍神様の花嫁になったのと同時に、竜堂家から離縁された。
母が竜堂家から追い出されていたことは、葵は成長してからキヨとマキノのウワサ話で知った。
その後の母がどうなったのか。今もどこかで無事でいるのか、葵には知る手立てもない。
葵も、章太郎の元に嫁いで次の龍神の花嫁となる女児を産めば、母のように竜堂家から捨てられてしまうのかもしれない。
葵は、着物の胸元に手をあてた。そこには、幼い頃に母からもらった紫の袋のお守りが入れてある。
顔はもうよく覚えていないが、そのお守りが葵と母を繋ぐ唯一のものだ。
「龍神様の花嫁なんて、結局のところ、竜堂家に良いように使われているだけの使い捨ての駒と同じ。龍神様と離縁して、章太郎様の側妻になったら、わたしは竜堂の屋敷の中に閉じ込められて、子を産むまで、あの方の欲を満たすための道具にされるのよ。章太郎様ところに嫁ぎ直すくらいなら、このまま一生、一つ目の龍神様の妻でいたほうがずっとマシ」
「今からそんなに自棄になって、どうするのです? あなたが母君と同じ運命を辿るとは限らないでしょう」
御蔭は苦く笑うけれど、自棄にならずにはいられない。
「お母様と同じようにはならなくても、似たような目に合うに決まってる。章太郎様には正妻がいるんだもの。ここを出たら、自由も与えられずにひっそりと息を潜めて暮らさなければいけないのよ」
「自由がないのは、ここにいるのも同じでしょう」
「でも、ここには御蔭がいるわ」
葵は、御蔭の顔を熱のこもったまなざしで見つめながらそう言った。
葵にとって、御蔭がどれほど特別な存在か。
まなざしで、声音で直接言葉にできない気持ちを訴える。
「竜堂 章太郎様は、葵の次の結婚相手として決して悪くはない相手なのでしょう? 立派な軍人様で、容姿も良いと評判だとか」
竜堂 章太郎との結婚についての不安を伝えると、御蔭は鯉の餌を池に投げ入れながら、ゆっくりとした口調で葵を宥めた。
「もちろん、肩書きは悪くはないわ。けれど、わたしはあの方の目が嫌い。わたしのことを欲の対象としか見ていないのがはっきりとわかるんだもの。今も、龍神様と離縁したあとに着てほしいと華やかな着物が贈られてきたのだけど……着物からあの方の下心が透けて見えるようで、嫌気がしたわ。まだほかの方と婚姻関係にあるわたしの機嫌をとろうとする章太郎様のことを、奥様はどう思っているのかしら」
不快げに、葵が柳眉をひそめる。
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子はいないらしいが、だからこそなおのこと、龍神の次代の花嫁を産むための側妻をよく思わないだろう。
先代の龍神様の花嫁であった葵の母が、離縁の後に嫁がされたのも既に結婚をしている男のところだった。
母は次の龍神様の花嫁となる葵を産むまでも、産んだ後も、嫁いだ竜堂家の男の欲の対象にされ、正妻に疎まれ、葵が三つで龍神様の花嫁になったのと同時に、竜堂家から離縁された。
母が竜堂家から追い出されていたことは、葵は成長してからキヨとマキノのウワサ話で知った。
その後の母がどうなったのか。今もどこかで無事でいるのか、葵には知る手立てもない。
葵も、章太郎の元に嫁いで次の龍神の花嫁となる女児を産めば、母のように竜堂家から捨てられてしまうのかもしれない。
葵は、着物の胸元に手をあてた。そこには、幼い頃に母からもらった紫の袋のお守りが入れてある。
顔はもうよく覚えていないが、そのお守りが葵と母を繋ぐ唯一のものだ。
「龍神様の花嫁なんて、結局のところ、竜堂家に良いように使われているだけの使い捨ての駒と同じ。龍神様と離縁して、章太郎様の側妻になったら、わたしは竜堂の屋敷の中に閉じ込められて、子を産むまで、あの方の欲を満たすための道具にされるのよ。章太郎様ところに嫁ぎ直すくらいなら、このまま一生、一つ目の龍神様の妻でいたほうがずっとマシ」
「今からそんなに自棄になって、どうするのです? あなたが母君と同じ運命を辿るとは限らないでしょう」
御蔭は苦く笑うけれど、自棄にならずにはいられない。
「お母様と同じようにはならなくても、似たような目に合うに決まってる。章太郎様には正妻がいるんだもの。ここを出たら、自由も与えられずにひっそりと息を潜めて暮らさなければいけないのよ」
「自由がないのは、ここにいるのも同じでしょう」
「でも、ここには御蔭がいるわ」
葵は、御蔭の顔を熱のこもったまなざしで見つめながらそう言った。
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