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4.池の邸宅
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しおりを挟む「まだ葵に屋敷を案内できていないのですが……」
「それなら私におまかせください。この蓮華が屋敷の隅々までご案内しておきますから」
「だが……」
「けれど、兄様。青嶺神社への報告はどうされるおつもりですか? 人の子との婚姻となれば、縁戚となる蒼玄様へのご挨拶も必要でしょう。それに、澄のことも青嶺神社に返さなくては」
葵を手放すまいとする御蔭だったが、蓮華の言葉に、めずらしくうんざりとしたようなため息を吐いた。
「そうですねえ」
「もう……! 兄様は、いつも肝心なときにのらりくらりとされているんですから。あちらへ伺って白雪様と顔を合わすのが億劫なのもわかりますが、葵様とのこと、はっきりとお伝えしておかないと。葵様のことは蓮華が責任を持ってお預かりするので、兄様はまず蒼玄様にお手紙をお書きになられては? のちのち面倒なことになってもしりませんよ」
蓮華の言葉に、御蔭は苦虫を噛み潰したような顔になった。
蓮華の口から次々と出てくる固有名詞が、葵にはなんのことだかわからないが、何事にも動じず、感情を表に出すことのない御蔭の不機嫌顔はめずらしい。
その横顔をじっと見つめていると、御蔭が葵のほうを向いて眦を下げた。
「ほんとうはひとときも離れたくはないのですが……少し勤めがあります。そのあいだ、蓮華に付き合ってやってくれますか?」
龍神である御蔭や池の鯉たちには、人とは異なったしきたりや勤めがあるのだろう。
離縁の雨が異例の長さで降り続け、雨がやんでから、葵の周りで起きることは不可思議なことばかり。
御蔭とともにいるには、何事も受け入れなければならない。
「わかりました」
頷く葵の頬に、御蔭がおもむろに手を伸ばしてくる。少し上目遣いになる葵に、御蔭がやさしいまなざしを向けてきた。
澄んだ空のような美しい青い右目。その瞳にやさしさだけでなく、ほんのりと甘い熱がのっているような気がして、葵の胸が高鳴る。
おもわず目を伏せると、御蔭が葵の額にそっと唇を押しあててきた。
周囲には蓮華も含めて、ほかの鯉たちもいるというのに。人目を憚る気配もない。
「御蔭……!」
額に手をあてて目を白黒させる葵に、御蔭が余裕たっぷりに微笑みかけてくる。
以前は御蔭の気のない態度に焦れていた葵だったが、あからさまに好意を向けられるとそれはそれでどうすればいいかわからない。
「すぐに勤めを済ませて戻ります」
頬を染める葵にそう言うと、御蔭が蓮華に視線を向けた。
「蓮華、しばらく葵を任せますよ。それから、葵に余計なことは話さないように」
「おまかせください、兄様。葵様、どうぞこちらへ」
蓮華に手を引かれた葵は、屋敷の奥へと導かれた。
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