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9.隻眼の龍
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しおりを挟む「もし龍の鱗を持っていたのが、わたしではなく別の花嫁だったら……御蔭はその方と心を通わせていたかもしれないということよね……」
「そうかもしれませんね」
冷たく平坦な蓮華の声が、葵の胸を刺す。
「御蔭の姿も見えず、池の邸宅にも行くことができなくなって……わたしはどうすればいいの……」
このまま神主に従って、竜堂家に戻るしかないのだろうか。
そうして、章太郎か、もしくはまた他の竜堂家の男のもとに嫁がされる。御空色の瞳の、次の龍神の花嫁を産むために。
古い因習は終わったと思ったが、やはり生まれもった運命からは逃れることができないのだ。
呪われた人生に、吐き気がする。
口元を抑えると、葵は膝をついて項垂れた。そんな葵の肩に、蓮華がそっと手をのせる。
着物越しにもわかるほど、重たく湿った冷たい手だ。
わずかに視線をあげると、蓮華が葵をじっと見つめていた。
鈍色に染まった空から、しとしとと雨が降っている。それを全身に受けながら、冷たく葵を見おろす平坦なまなざし。同じようなまなざしを、別の誰かにも向けられたことがあるような気がする。
それは、いつ、どこでだったか。
思い出そうとしていると、蓮華が口を開いた。
「白雪様は、あなたが自ら青嶺神社に挨拶に来ることを望まれています。そうすれば、龍の鱗を返し、あなたを正式な龍神の花嫁として認めてくださるそうです」
「ほんとう……? そうすれば、ずっと御蔭のそばにいられるの?」
「ええ、もちろん」
跳ねるように顔を上げた葵の目に、蓮華の深紅の唇がゆっくりとつりあがるのが、やけにはっきりと色濃く映った。その紅の色も、蟲惑的な微笑みも、葵の知る蓮華らしくない。頭の隅でそう思うが、その理由を深く考えることができなかったし、考える気にもなれない。
葵にとっての最重要事項は、御蔭のこと。
「それでは葵様、雨が降る間にまいりましょう。私が外へとご案内します」
薄く微笑みながら、蓮華が白い手を差し伸べてくる。
しばらくぼんやりと見つめた後、葵は蓮華の手をとった。
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