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6.雨の日は、
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「西條さん」
雨の降る放課後。昇降口に立って雨空を見上げながらため息をついていると、後ろから肩を叩かれた。
振り向くと、そこには思ったとおり佐尾くんの笑顔があって、思わず顔が綻ぶ。
「途中までいれて。傘、忘れちゃった」
いつものごとく、そんなセリフを吐いて私の隣に並ぶ彼を呆れた目で見つめる。
「今日、午後から雨予報出てたのに? 佐尾くん、そもそも雨の日に傘持ってくる気がないでしょ」
「そんなことないよ。天気予報見てこなかっただけ」
不満気にそう言いながらも、結局は傘を開いて佐尾くんの上に翳してしまう。そんな私を見下ろして、彼が悪戯っぽくと笑った。
傘を高く掲げる私に寄り添うように並んだ佐尾くんが、傘を握る私の手の甲にそっと手のひらを重ねる。
冷たい外気に晒されていた手が優しい温もりに包まれて、ドクンと胸が揺れた。
佐尾くんの手のひらの下で傘を握る手にぎゅっと力を込めたとき、彼の唇が遠慮がちに唇の端に落ちてきた。
その瞬間身体中の力が抜けて、傘を握る手の力も緩む。
ふたりの頭上でグラリと揺れた折りたたみ傘を、佐尾くんが私の手の上から支え直してくれる。
そうしてさりげなく傘の傾きを変えたかと思うと、軽く口の端に触れていただけだった佐尾くんの唇が、私のそれを覆うように重なった。
そっと優しく触れてくる佐尾くんのキスに、だんだん雨の音も聞こえなくなる。
聞こえてくるのはドキドキと鳴る心臓の音と、佐尾くんの少し浅い息遣い。
折りたたみ傘の下。雨の音も、肌に絡みつくような湿度も、全て意識の底に遠のいていく。
だから。雨の日は、……。
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