今日も、由井くんに憑けられています…!

碧月あめり

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3.離れられないみたいです。

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「いや、今はそういう話じゃなくて……。青南学院の制服も同じように刺繍があれば、あなたの名前がわかるんじゃないかなって思ったんだけど……。あなた、わたしのことしか覚えてないって言ってたのに、わたしの名字は覚えてないの?」

「うん。おれが覚えてたのは、衣奈ちゃんの顔と名前だけ。三住って名字は、今初めて知ったような気がする。なんとなくだけど……」

 彼がそう言いながら、ボタンを止めずに着ていたブレザーの左側を手で引っ張る。

 わたしのことしか覚えてないって言われたときもわけわからないって思ったけど……。名前は知ってて、名字は覚えてなかったっていうのもよくわからない。

 彼は、下の名前と顔しかわからないわたしのことが好きだったってこと?

 イケメンユーレイの話にぐるぐると頭を悩ませていると、ブレザーの左側を広げた彼が「あ!」と声を上げた。


「衣奈ちゃん、すごい。天才かも」

 ベッドからふわりと降りてきた彼が、わたしにブレザーの左胸の内側を見せてくる。


「おれの制服にも、名前が刺繍してある」

 彼のブレザーの裏に刺繍されている名前は〈由井ゆい〉だった。


「由井、くん……?」

「みたいだね」

 ブレザーの左側を開けたまま、イケメンユーレイ――、もとい、由井くんが、他人事みたいに少し首を横に傾ける。

「みたいだね、って。名前を見てもピンとこない?」

「まったく。衣奈ちゃんは?」

 訊ね返されて、少し困る。


「わたしに聞かないでよ。そもそもわたしは、あなたに見覚えすらないんだから」

「由井って名前にも?」

「ないよ。わたしには青南学院の知り合いはいないし、由井くんなんていう知り合いもいない」

 そう答えながら、自分の言葉に少し違和感がした。

 由井くんなんて人は知らないはずなのに、なにかが妙に引っかかるのだ。でも、それがなんなのかは考えてみてもわからない。


「衣奈ちゃん、どうかした?」

 黙り込んだわたしを、由井くんが不思議そうに見てくる。そんな彼に、わたしは「別に」と答えて首を横に振った。

 なにかが引っかかるような気がするけれど、考えても思い出せないってことは、大して重要なことではないんだろう。

 それよりも……。

 自分の名前がわかっても何も思い出す様子がない由井くんを、どうするかだ。

 手っ取り早く、霊媒師に頼んで祓ってもらう……?

 でもそういうのって、すごくお金がかかりそう。

 そうなったら、お父さんやお母さんにも説明が必要になってくるし。

 とりあえず、話し合いで、わたしから離れていってもらうしかない。

 わたしのことしか思い出せなくてわたしに執着してるなら、彼が他に執着できるものを探るしかない。

 でも、名前と通っていた学校しか手がかりのない状態から、どうやって探ればいいだろう。

 うーん、と考え込んでいるうちに、ふと、幼なじみのアキちゃんのことを思い出す。

 そういえば、アキちゃんの中学時代の友達に、青南学院を受験した子がいたはず……。そこから、何か手がかりが得られないかな……。

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