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7.わかったかもしれません。
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しおりを挟む「由井くんとは最近知り合ったばかりだったんですけど、学校も違うし、共通の友達もいないし。だから、事故のことも昨日知ったばかりで……」
「そうだったんだね……。周に、君みたいなかわいい友達がいたとは知らなかった。事故のあとに周のスマホを見たら、部活の連絡網みたいなグループラインぐらいしか登録されてなかったし。あと、周に嫌がらせしてたあいつら……」
「あいつら?」
聞き返すと、わたしに優しく笑いかけてくれていたお兄さんの表情が曇る。
「ううん、なんでもないよ」
お兄さんはごまかすように首を横に振ったけど、なにかが引っかかる。
もう少し突っ込んで聞いてみてもいいものか迷っていると、お兄さんが腕につけていた時計に視線を向けた。
「ごめん、俺、もう行かなきゃいけないんだ」
「そうなんですね……」
「うん。だけど、ぜひゆっくりしていって。家族ぐらいしか会いに来ないから、話しかけてやったら喜ぶと思う」
お兄さんはそう言うと、少し切なげな目でベッドに眠る由井くんを見つめてから、病室を出て行った。
お兄さんが出て行ったあと、病室に置いてあった花瓶に持ってきたお見舞いのお花を生けて、ユーレイ状態の由井くんとともに、ベッドに眠る由井くんのそばに立つ。
ベッドに眠る由井くんの綺麗な寝顔は、あたりまえだけど、毎朝わたしのそばで眠っているユーレイの由井くんとそっくりそのままで。
由井くんはやっぱり、今ここで眠っているこの人なんだ……、となんとも言えない気持ちになった。
でも、当の由井くんは、ベッドに横たわる自分の姿にすらピンとこないらしい。
「これ、ほんとうにおれなのかな……」
真上から自分の寝顔をマジマジと見つめてぼやいている。
「ユーレイかと思ってたけどそうじゃなくて、幽体離脱してる状態だったんだね」
「ユウタイ、リダツ……」
カタコトみたいにつぶやく由井くんは、やっぱりなにも思い出せないらしい。
「体に直接触ってみたら、戻れたりするんじゃない?」
「そうかな……」
わたしの適当なアドバイスにしたがって、由井くんがベッドに横たわる自分の手や顔に触れたり、身体の上に仰向けに寝転がってくっついて見ようとしたりする。
だけど、ユーレイ状態の由井くんの手や身体は、ベッドに寝ている本体をすり抜けるばかり。
「全然、身体に入れる感じしないよ……?」
五分ほどマジメに実践してくれたあと、由井くんがため息をついた。
「うーん、何がだめなんだろうね……」
「わかんないけど……。おれがこの身体が自分だって思えない限り、だめな気がする」
「自分だって思えないの? わたしからしてみれば、ここで寝てるのはどっからどう見ても由井くんだけどな……」
「うん、なんていうか……。問題の答えは合ってるんだってことはわかるんだけど、そこにたどり着くための理解が追いつかない感じ。ここで寝てるのがおれって言われたらそんな気もするけど、気持ちがふわふわしてて、まったく実感がない」
「それは、由井くんがわたし以外の記憶をなくしちゃってるせいなのかな……?」
「わからない……」
由井くんの名前や学年、わたしとの関係、居場所までわかって。さらには、お兄さんと話ができて……。
由井くんに関する情報はいくつも集まっているはずなのに、由井くんが記憶喪失なままなのはどうしてだろう。
もしかして、由井くんが無意識のうちに思い出すことを拒否してる……?
「とりあえず、しばらくの間病室に通ってみようか。毎日通っていれば、何か思い出すこともあるかもしれない」
少し考えてから提案すると、由井くんが「そうだね」と頷く。それから、ふとなにか思い出したようにまばたきをした。
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