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9.君にちゃんと触れたいです。
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しおりを挟むスライドドアの隙間から顔を覗かせたのは、20歳前後に見える若いお姉さん。
隣の病室に入院しているおばあさんの身内なのか、よくお見舞いに来ていて、何度か会釈程度の挨拶をしたことがある。
その人が、わたしのことを心配そうに見てきた。
「大丈夫? なんか、話し声が響いてきたから」
「すみません。うるさくして……」
慌てて頭を下げて、一度由井くんの病室に戻ろうとすると、隣の病室のお姉さんが「あの……」とためらいがちに口を開いた。
「隣に入院してた人だったら、何時間か前に先生や看護師さんが来て、バタバタと移動していったよ」
「え、なにか知ってるんですか?」
「詳しいことはわからないけど、花瓶に水を入れ替えてるときに隣の部屋でバタバタしてて……。ICUとかって話がちらっと聞こえてきてたかな」
「ICU……?」
それって、病状が危なくなった人が入るところだよね……?
焦りと不安で、心臓がドクドクとめちゃくちゃに音をたて始める。
「由井く……、ここの病室の人になにかあったってことですか?」
切羽詰まった声で訊ねると、隣の病室のお姉さんが申し訳なさそうに首を横に振った。
「ごめん。そこまではちょっと……」
「そう、ですか……」
「大丈夫だといいね」
お姉さんは慰めるような声でそう言うと、わたしに会釈してから病室の中に戻った。
「由井くん、だめもとで、もう一回看護師さんに話を……」
お姉さんの姿が見えなくなってから由井くんを振り返ろうとして、ドクンと心臓が不穏に脈打つ。
さっきまで隣にいたはずの由井くんがいない。
焦って病室を覗くと、由井くんが空っぽになったベッドのそばにぼんやりと浮かんでいた。
「由井くん、びっくりさせないで……」
泣きそうになりながらベッドのほうに駆け寄ったわたしは、由井くんの異変に気が付いた。
「由井くん、身体が……」
由井くんの身体の色が、いつも以上に透けて薄くなっている。
病室の窓際に立っている由井くんを見たときも、身体の透明度が強くなっているような気がしたけど、それ以上だ。
はっきりと見えていたはずの由井くんの身体の輪郭は、ところどころぼやけている。
「衣奈ちゃん……。おれの体、やっぱり死にたがってるのかな……」
由井くんが、輪郭を失って消えかかっている自分の両手を茫然と見つめる。
「そんなことないよ。死にたがってるなんて、あるはずない。冗談でも、死にたがってるなんて言わないでよ」
頭を振って精一杯に否定するわたしを、由井くんが泣きそうな目で見つめてくる。
由井くんが諦めたような哀しい顔をするから、わたしも泣いてしまいそうだ。
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