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10.ずっと、そばにいてください。
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しおりを挟む「じゃあ、もう、おれのこと好きじゃなくなっちゃった?」
「……、そんなわけないじゃん。この二ヶ月間、忘れられちゃったのかなとか、もう好きじゃなくなったのかなって思ってたのはこっちのほうだよ。病院に行っても、全然会えないし」
わたしが彼に「好きだ」と言ったのは、ただ一度きり。
わたしたちだけが知っている不思議な時間を、彼は全部覚えてくれている。
そう思ったら、もっと泣いてしまいそうで……。
わたしは、きゅっと奥歯を噛みしめた。
だけどけっきょく、堪えきれなくて。ぼたぼたっと、涙がこぼれ落ちてしまう。
「わ、わ、衣奈ちゃん……」
泣き出したわたしを前にあたふたするばかりで、女の子の涙を拭うことなんてまるで頭にない彼は、見た目はモテそうなイケメンなのに、全然スマートじゃない。
でも、そんなところもいとおしく思う。
「ご、ごめんね、衣奈ちゃん……。泣かないで。でも、おれ、目を覚ましたあともずっと、衣奈ちゃんのこと好きってことしか考えてなかったよ」
わたしの涙を止めようと、彼が一生懸命なにか言っている。
わたしは制服の袖で涙を拭うと、相変わらず、どこか変態じみた発言をする彼をちらっと見上げた。
「キモい……」
「え……、」
わたしの言葉に、彼がショックを受けた顔で固まる。ガーンッという効果音でも聞こえてきそうな表情に、ふっと吹き出すと、彼が困惑の目でわたしを見てきた。
「ウソだよ。だって、わたしももうずっと、由井くんのことばっかり考えてた」
わたしの前から消えてしまったあの日から、ずっと会いたくて仕方なかった。
「やった、いっしょだ」
由井くんが、ふわっと嬉しそうに笑う。その笑顔に、ギュンッと胸がときめいて、奥のほうから熱くなる。
手を伸ばすと、わたしの指先がすり抜けることなく、彼の手に触れる。
指の長い、由井くんの綺麗な手。その手を握りしめてグイッと引っ張ると、わたしはそのまま、彼の胸に飛び込んだ。
「え、衣奈ちゃん……?」
わたしの額が、由井くんの胸にトンッとぶつかる。
びっくりして揺れる由井くんの声に、こっそり微笑みむと、わたしは由井くんの背中にぎゅっと腕を回した。
わたしを受け止めるたしかな感覚。それを感じられることが嬉しくて、人目も構わず、由井くんにぎゅーっと抱きつく。
「もう離れないで。ずっといて」
「うん……」
小さく頷いた由井くんが、遠慮がちにわたしを抱きしめてくる。
ドクン、ドクンと。由井くんの胸に押しつけた耳に、高鳴る鼓動が響く。
不器用に抱きしめてくれる由井くんの腕の中は、とてもあたたかくて。わたしは、また少しだけ、泣きそうだった。
fin.
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