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16 伝説の真相
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今、僕の婚約者はなんと言った?
史師エリオンは、聖王アトレウスの伝説を探し求め、ネクロザールが偽物だと暴いた。史師の言葉に感銘を受けた七人の勇者は、魔王を滅ぼした。
理解できない。なぜ彼女は、魔王が聖王の真の生まれ変わりだと言う?
「ロバート様、続けてよろしいでしょうか?」
無言で頷くしかない。
「聖王アトレウスの都の近くで、まるで魔王の所業のような遺跡が見つかったということは、少なくとも聖王がその所業を認めていたということでしょう」
反論の余地はない。あえて指摘するなら、同定した年代が間違っている可能性だ。
「最新の科学技術は不安定なものです。年代そのものが違う場合もありますし、私はそれほど歴史に詳しいわけではありません」
僕の疑いなど、彼女はお見通しだ。
「ただ、前世の知識ですみませんが、古代の一部の国では、残酷な生贄が行われていました。大切な者を差し出すことで、神の怒りを鎮めようとしたのかもしれません」
「君は、聖王アトレウスがそのような儀式を行っていたと?」
「古代では残酷な儀式が行われていました。が、時代が経つにつれ、神への捧げものは、生身の人間から人形に代わっていきました。このゴンドレシア大陸でも同じことが起きたのかもしれません」
「僕には信じられない。『聖王紀』には、何も記されていない」
「これは私の考えです。聖王アトレウスの時代はまだ古く、生贄の儀式は、神の怒りを鎮めるため民も受け入れていました。でも千年経ち、エリオン様の時代になれば、生贄はただの残虐行為です。そんな時代に真実の聖王アトレウスが復活したらどうなるでしょう?」
メアリはなにを言っている?
「聖王は聖妃アタランテを深く愛されたと『聖王紀』にあります。千年後目覚めた聖王は、愛する聖妃を復活させるため、多くの生贄を捧げたのかもしれません」
魔王が千年前の聖王だと? いや、絶対に認められない!
「史師エリオンは、魔王が偽物だと暴いた。だからこそ、七人の勇者は立ち上がったのではないか?」
「エリオン様の時代では、子供を生贄にする魔王は倒されるべき存在でした。だからエリオン様は、魔王を倒すよう教えを広めた……史師エリオンはなにも間違っておりません」
ただ、頭を抱えるしかない。
なぜなら、彼女に反論する材料を僕は持ち合わせていないのだ。
隣国ラテーヌでは、史師エリオンこそ聖王アトレウスの生まれ変わりだと崇めている。そう、ある意味その解釈の方が、つじつまが合う。聖王の生まれ変わりと称する魔王を偽物だと断言できるのは、聖王だけだから。
「ロバート様、勝手なことを言って、申し訳ありません」
彼女はソファから立ち上がった。
「君のその考えは、君と僕だけに留めておくべきだ。聖王の都から見つかった遺跡については、君のお父上を含めた歴史学者たちが、解明するだろう」
「おっしゃる通りです。ただ私は、どうしても自分の前世が妄想とは思えず、私以外にも転生者がいるのかと思ったのです」
彼女は自分の妄想を肯定したくて、聖王が千年後生まれ変わったら魔王になったと思い込んだのか。
「時間をかけて思い込みを治せばいいよ」
メアリは「私にはできません!」と頭を振った。
「父も母も私を慈しんでくださいました。本来ならニ十歳になる前に社交界デビューすべきなのに、両親は内気な私はむしろ学問をした方がいいと、大学進学を認めてくださったのです」
よく考えれば、メアリほどの美しい令嬢が誰とも噂にならなかったのは、おかしなことだ。僕は父の勧めで何度か社交パーティーに参加させられたが、彼女と出会っていない。
「父は、無理に結婚をすることはない。文学が好きならずっと大学に通えばいい、職業婦人になりたいのなら知り合いの出版社を紹介してやると……こんなに愛してくれる両親を抑圧などと、どうして思えましょう」
「では、僕が君を追い詰めたのか?」
「それはありえません。はっきりと前世を自覚したのは、殿下との婚約がきっかけでした。でもその前から私は、前世の……事務所で上司に叱られたり、ファックスを送ったり……不思議な夢を何度も見ていたのです」
ファックス? またよくわからないことを言っている。
「私はただの中年派遣社員でした。受付でお客様の苦情に応対して、パソコンに打ち込んで、社員に見下されて、友もなく、老いた親とは疎遠で、休日なんてコンビニや宅配の店員しか話す相手はいない……」
相変わらず、彼女は呪文のような単語をつらつら述べる。これも抑圧による妄想なら、たいしたものだ。
「私を慰めてくれるのは、二次元の美青年たちばかり。耽溺しすぎて私は寿命を縮めてしまいましたが」
よくわからないが、たとえ妄想でも、彼女が他の男に懸想していたというのは、面白くない。
「せっかく憧れの異世界に転生できても、私は両親の愛に、そしてロバート様の優しさに甘えるだけでした。でも」
メアリは、ダークパープルの本を手に取った。魔王ネクロザールの物語を。
「テイラー先生からこんな言葉をいただいたのです!」
メアリの美しい指が、ダークパープルの表紙を開いた。
そこには目を疑う文言が書かれていた。
『この物語はペンブルック伯令嬢メアリ・カートレットとの対話により生み出された。私の敬愛するプリンセスに感謝を捧げる』
史師エリオンは、聖王アトレウスの伝説を探し求め、ネクロザールが偽物だと暴いた。史師の言葉に感銘を受けた七人の勇者は、魔王を滅ぼした。
理解できない。なぜ彼女は、魔王が聖王の真の生まれ変わりだと言う?
「ロバート様、続けてよろしいでしょうか?」
無言で頷くしかない。
「聖王アトレウスの都の近くで、まるで魔王の所業のような遺跡が見つかったということは、少なくとも聖王がその所業を認めていたということでしょう」
反論の余地はない。あえて指摘するなら、同定した年代が間違っている可能性だ。
「最新の科学技術は不安定なものです。年代そのものが違う場合もありますし、私はそれほど歴史に詳しいわけではありません」
僕の疑いなど、彼女はお見通しだ。
「ただ、前世の知識ですみませんが、古代の一部の国では、残酷な生贄が行われていました。大切な者を差し出すことで、神の怒りを鎮めようとしたのかもしれません」
「君は、聖王アトレウスがそのような儀式を行っていたと?」
「古代では残酷な儀式が行われていました。が、時代が経つにつれ、神への捧げものは、生身の人間から人形に代わっていきました。このゴンドレシア大陸でも同じことが起きたのかもしれません」
「僕には信じられない。『聖王紀』には、何も記されていない」
「これは私の考えです。聖王アトレウスの時代はまだ古く、生贄の儀式は、神の怒りを鎮めるため民も受け入れていました。でも千年経ち、エリオン様の時代になれば、生贄はただの残虐行為です。そんな時代に真実の聖王アトレウスが復活したらどうなるでしょう?」
メアリはなにを言っている?
「聖王は聖妃アタランテを深く愛されたと『聖王紀』にあります。千年後目覚めた聖王は、愛する聖妃を復活させるため、多くの生贄を捧げたのかもしれません」
魔王が千年前の聖王だと? いや、絶対に認められない!
「史師エリオンは、魔王が偽物だと暴いた。だからこそ、七人の勇者は立ち上がったのではないか?」
「エリオン様の時代では、子供を生贄にする魔王は倒されるべき存在でした。だからエリオン様は、魔王を倒すよう教えを広めた……史師エリオンはなにも間違っておりません」
ただ、頭を抱えるしかない。
なぜなら、彼女に反論する材料を僕は持ち合わせていないのだ。
隣国ラテーヌでは、史師エリオンこそ聖王アトレウスの生まれ変わりだと崇めている。そう、ある意味その解釈の方が、つじつまが合う。聖王の生まれ変わりと称する魔王を偽物だと断言できるのは、聖王だけだから。
「ロバート様、勝手なことを言って、申し訳ありません」
彼女はソファから立ち上がった。
「君のその考えは、君と僕だけに留めておくべきだ。聖王の都から見つかった遺跡については、君のお父上を含めた歴史学者たちが、解明するだろう」
「おっしゃる通りです。ただ私は、どうしても自分の前世が妄想とは思えず、私以外にも転生者がいるのかと思ったのです」
彼女は自分の妄想を肯定したくて、聖王が千年後生まれ変わったら魔王になったと思い込んだのか。
「時間をかけて思い込みを治せばいいよ」
メアリは「私にはできません!」と頭を振った。
「父も母も私を慈しんでくださいました。本来ならニ十歳になる前に社交界デビューすべきなのに、両親は内気な私はむしろ学問をした方がいいと、大学進学を認めてくださったのです」
よく考えれば、メアリほどの美しい令嬢が誰とも噂にならなかったのは、おかしなことだ。僕は父の勧めで何度か社交パーティーに参加させられたが、彼女と出会っていない。
「父は、無理に結婚をすることはない。文学が好きならずっと大学に通えばいい、職業婦人になりたいのなら知り合いの出版社を紹介してやると……こんなに愛してくれる両親を抑圧などと、どうして思えましょう」
「では、僕が君を追い詰めたのか?」
「それはありえません。はっきりと前世を自覚したのは、殿下との婚約がきっかけでした。でもその前から私は、前世の……事務所で上司に叱られたり、ファックスを送ったり……不思議な夢を何度も見ていたのです」
ファックス? またよくわからないことを言っている。
「私はただの中年派遣社員でした。受付でお客様の苦情に応対して、パソコンに打ち込んで、社員に見下されて、友もなく、老いた親とは疎遠で、休日なんてコンビニや宅配の店員しか話す相手はいない……」
相変わらず、彼女は呪文のような単語をつらつら述べる。これも抑圧による妄想なら、たいしたものだ。
「私を慰めてくれるのは、二次元の美青年たちばかり。耽溺しすぎて私は寿命を縮めてしまいましたが」
よくわからないが、たとえ妄想でも、彼女が他の男に懸想していたというのは、面白くない。
「せっかく憧れの異世界に転生できても、私は両親の愛に、そしてロバート様の優しさに甘えるだけでした。でも」
メアリは、ダークパープルの本を手に取った。魔王ネクロザールの物語を。
「テイラー先生からこんな言葉をいただいたのです!」
メアリの美しい指が、ダークパープルの表紙を開いた。
そこには目を疑う文言が書かれていた。
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