【R18】僕は彼女としたいだけ 微妙なリケジョに振り回される

さんかく ひかる

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一章 僕は彼女を忘れない

21 勉強合宿開始 ※R

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「三好く~ん、このウネウネ、どーやって書くの?」

 篠崎あいらが、リビングのテーブルに、テキストやノートパソコン、関数電卓を広げて、唸っている。
 夏休みに入り、彼女がマンションに泊まりにきた。
 堀口宗太を初め男らを泊めたことはあるが、女の子は初めてだ。枕はもちろん、歯ブラシも買ってしまったが、あいらは律儀にうがい用のコップまで持ってきた。

「いつでも泊まれるよう、荷物置いてったら?」と提案したが、「それは彼女さんに悪いよ」と断られる。
 夏らしく、昼食にビシソワーズにトマトソースの冷製パスタを用意したら、評判がよかった。
 が、彼女は食事が終わると「勉強合宿よろしくお願いします」と頭を下げて、本当に勉強を始めてしまった。


「グチャグチャしている謎の文字、これ何?」

 あおらがスマホの写真を見せた。物理講義の黒板を撮影したらしい。

「グザイだよ」

 ギリシャ文字の中では、複雑な形をしている。数式によく登場する。

「……読み方わかっても、書けないよ」

 確かにグザイは書くのにコツがいる。僕も少し練習した。

「僕は、イプシロンεの上に小さいヒゲをつけて、下半分をSにして書いてるよ」

 あいらはノートパソコンのメモ帳を起動し、僕にペンを握らせた。

 こうなったらグザイ――ξを書くしかない。

「カッコいい! 保存しておこう。お手本にするね。そうだ、他の文字は?」

 大きな目を潤ませるものだから、αアルファからωオメガまで書く羽目になった。


 その後も彼女は黙々と勉強を続けた。仕方ないので僕も合わせる。

「粒子と波動の二重性? わけわかんない~」

「波動関数って結局なんなの~」

「何で、電磁気学では虚数がjになるの?」

「大体、虚数って誰が考えたのよ~。二乗してマイナス? 気持ち悪い」

 彼女の疑問に対して僕なりに答えてみたが、僕も彼女と同じただの一年生だ。自信はない。
 煮詰まる彼女のため、できることは他にもある。キッチンでローズヒップティーを淹れ、フルーツタルトを出した。

「いい香り。ここに来ると私もセレブになれるなあ」

 ようやく彼女の笑顔を今日見られた。そこで僕は、素朴な疑問をぶつける。

「あいらは何で工業大学に入ったの?」

 パートナーの笑顔が固まった。
 これは聞いてはいけない質問だったか。が、膨れ上がる疑問を解消したい。

 あいらは一般試験で入学できたのだから、理数系科目はそれなりにできるのだろう。
 が、彼女の学問に対する姿勢は、工業大学の学生らしくない。単位のために、イヤイヤ勉強しているのが、すごく伝わってくる。彼女の脳波を測らなくても、勉強への嫌悪感が伝わってくる。
 知らないことを知る喜びを感じたことはないのだろうか?

「……私、単語とか歴史年表とか、とにかく暗記は大っ嫌いなの」

 わからないでもないが、語呂合わせをするとかイメージを作るなど工夫すれば何となる。暗記用のイメージ作りはなかなか楽しいのに。

「でも三好君、数学とか物理って、式一つ覚えれば何とかなるでしょ?」

 それはわかる。高校で万有引力の法則を習ったとき、感動した。一つの式から、地球と月、惑星の未来を描けるのだ。

「理系なら暗記しなくていいから楽だと思ったの」

「楽になった?」

 篠崎あいらから笑顔が完全に消えた。眉を寄せて首を振る。

「前も言ったかな? 高校では勉強できる方だったけど、ここじゃ完全に落ちこぼれだよ。暗記しなくて済む、というのは大学受験までなんだね」

 そうだ。理数系に限界を感じた彼女は、小説を書き始めたのだ。それがきっかけで、僕らは今こうして過ごしている。

「あいらが書いた小説、読みたいな」

「恥ずかしいから駄目!」

 恥ずかしい? 小説で書くエッチシーンの参考にする、という口実で彼女は僕に近づいてきたのに。

「ネットに公開してるんだよね? もっと読まれたいって言ってたじゃないか」

「それとこれは別。知ってる人には読まれたくない」

 わからない。小説を公開しているのに、恥ずかしいから読まれたくないとは、どういう心理だ?
 小説創作の手伝いをしてきた身としては、知りたいところだ。彼女が書くエロいシーン……そこに大いに関わっている自分としては、確認しなければならない。
 彼女の肩をぐいっと引き寄せる。

「小説を手伝ってる人間としては、成果を確認したい」

「帰ったらアドレス送る。それじゃ駄目?」

 答える代わりに僕は彼女の肩をカーペットに押し付けて、ふっくらした唇を吸い取った。
 そこから先は、彼女を喜ばせるため、勉強どころではなくなった。

「床の上でするのって、すごいエッチ」

「あいら、こういうの好きだよね」

 それは本当だ。ベッド以外の場所でする方が、彼女は激しくなる。
 女がとろけて言葉を失った頃を見計らい、温かく弾力ある入口を貫こうとする。
 その時。

 ──ピンポーン

 最悪なタイミングでのインターフォン。
 あいらは侵入を阻もうと、僕の胸に小さな腕を突っぱねる。

 ──ピンポーン

「三好君、お客さん……だ、駄目……で、出ないと」

 開きかけた彼女の唇を噛んだ。
 僕も彼女も下半身が剥き出しだ。ましてや直立した僕の息子を人前に晒せと言うのか!
 なおも抵抗する女を封じ込めるため、濡れた襞をなぞった。

 ── ピンポーン、ピンポーン

「あいら、ネット契約のセールスだよ」

 僕の指と舌の技によって、あいらは抵抗を諦め僕を受け入れた。
 腰を打ち付けながら、自分の言葉に引っ掛かりを覚える。

 ── セールスマン? だってこのマンションは……

 が、放出を求める激しい熱波が疑問を掻き消し、ほどなく僕らは叫び果てた。
 うるさい訪問者がいつ去ったのか、互いを貪るのに忙しすぎてわからなかった。


 その後、僕らは、バスルームで求めあった。
 何度も僕の技でイカされたあいらは、ベッドの上で放心したまま天井を眺めていた。

「さっきのピンポン……彼女さんじゃないよね?」

 僕は、沸騰したばかりの蒸気のようにガバッと跳ね起きた。

「そんなわけない! 彼女がここに来るわけないんだ!」

 僕が一人暮らしを始めたのは卒業してからだ。青山星佳はここを知らない。母に聞けばわかるかもしれないが……いや?

「あいら、その……彼女とはずっと疎遠で、僕が引っ越したことすら知らないと思う」

「三好君、彼女さんとここでしたことはないの?」

 僕は大きく頷いた。やばい。あいら以外の女を知らない、と思われてしまう。

「その……自宅で親がいない時とか、誰もいない教室とか学校の倉庫とか、たまにはホテルも……」

「高校生の時からエッチだったんだね。私はブスだし、バイトで部活もできないから、彼氏なんか無理だった。一生こんなことできないと思ってたよ」

 よかった。ホテルがどんな場所か聞かれたら、危なかった。

「エッチなホテルって、どんな感じ?」

 うわあ! 時間差で聞くなよ。

「ああいう下品なホテルは嫌いだから、普通のホテルだった」

「すごい! やっぱりお坊ちゃんだね。高いでしょ?」

「たまにね。正月でお年玉もらった時とか」

 あいらが身を起こして、僕の背中にむき出しの大きな胸を押しつけた。柔らかくて気持ちい。

「ずるいよ。彼女さんと疎遠で、私だけがここでしてるなんて、嘘でも期待しちゃうよ」

 泣きそうな声でボソッと呟かれた。そうだよな。そう来るよな。
 これ以上、恋人がいるフリは苦しくて続けられない。事実を告げよう。
 僕はくるっと向いて彼女を腕に閉じ込めた。

「ごめん。その……彼女とは別れたんだ。随分前に」

「え?」

 彼女の声も眼も喜びに溢れている。脳波など測定するまでもなく、彼女の考えが伝わってくる。

「私とこんなことしてるって、バレちゃったのかな?」

 もう嬉しくて仕方ないって声だ。

「そうじゃない。彼女とは、君に会う前から別れてたんだ。本当だ」

「そ、そうだったの? じゃ、じゃあ……」

 じゃあ、私じゃ駄目? だよな。見え見えすぎる。

「だけど、僕は彼女が好きなんだ! 忘れられない。ごめん!」

 腕の中の小さな生き物が縮こまった。

「三好君、振られちゃったの? 三好君を振るなんて信じられない」

 君は怒っているふりをしているけれど、本当は嬉しいんだろ?
 しかし、この三好雅春が一方的に彼女に振られたなどと、告白したくない。

「そうじゃないんだ! 僕と彼女は互いの両親から反対され、別れさせられたんだ!」

 僕は何を口走った?

「お父さんとお母さんが反対? 三好君……彼女さん妊娠させたとか?」

 なんでそういう発想になる!

「まさか! 僕と彼女の父は同業者の社長で、家族ぐるみで付き合ってたんだ」

 それは本当だ。僕の父は不動産会社、青山星佳の父は建設会社を経営し、協力関係にある。

「でも二つの会社が対立して付き合えなくなったんだ」

 我ながらよく出来た嘘だと感心する。
 事実は正反対。
 母は未だに「今からでも星佳ちゃんに謝りなさい」と催促する。父は「青山さんが『娘がわがままで申し訳ない』と謝ってきたぞ」と知らせ「お前が振られて青山さんに多少貸しができた。よくやった」と喜んでいた。愛情の欠片もないひどい父親だ。

「ロミオとジュリエットみたいな話が、今の日本でもあるんだね」

 あいらが僕の背中にキュッとと腕を回した。

「君とこうしているのは本当に楽しい。でも、僕も彼女も無理に別れさせられたから、他の子とちゃんと付き合うわけに行かないんだ」

 目を潤ませてあいらはコクンと頷いた。

「私、安心した。彼女さんがいる人とこんなことしていいのかなって悩んでたから。でも、三好君は辛いよね」

 彼女のショートヘアを撫でた。僕の指は生体電極。彼女の脳波が伝わってくる。

「本当は三好君が彼女さんと元に戻ればいいんだよね。でもごめんね。私、そこまでいい人じゃないの」

 君は充分過ぎるほどいい子だよ。

「三好君と彼女さんのお父さんたちが仲悪いのは悲しいことなのに……私、喜んでる。ひどいよね」

 君は悪くない。ひどいのは僕だ。
 居た堪れず僕はベッドから出て服を着た。

「お腹すいただろ? そろそろ夕食の時間だ。コンビニ行ってくるよ。あいらはそのまま寝てな」

「私も行くよ」

 篠崎あいらは寂しげに笑い、ノロノロと着替えた。そんな彼女がまた欲しくなったが、僕は理性を総動員し、小さな手を引いてマンションを後にした。
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