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1章 アラサー女子、年下宇宙男子と出会う
1-6 物理は難しい
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家に戻り、私はパソコンに眠っている塾の職員名簿のファイルを開いた。
基本、職員名簿は年賀状を印刷する時しか使わない。
初めて年賀状以外の目的で名簿のデータを利用する。もしかすると今回が最初で最後かも。
もう夜の十二時をまわっている。この時間、電話は顰蹙だろう。スマホでメッセージを入れることにした。
『アサカワリュート君に真智君の時間割伝えました。入塾希望みたい』
と、メッセージを入れたらすぐ、電話がかかってきた。
「那津美さん! マジ那津美さん!?」
真智君の声は、切羽詰まったように聞こえる。
「真智君、夜中にごめんね」
「いや俺たち講師にとって十二時なんて夜中じゃないでしょ?」
塾講師は午後から夜遅くまでの勤務となる。帰宅は十二時過ぎることも多い。
「それもそうだけど、年取ると夜がきつくって」
「何言ってんの! 那津美さん、全然若いじゃん。肌キレイでめっちゃ可愛いよ」
実は、彼のセリフを本気にしてトキめくこともあった。年下だしなあ、と本気で悩むこともあった。が、六十代パートの丸山さんにも似たようなことを言ってたため、私のトキめきはあっさり終了した。
「そういうこと言うと丸山さんが泣いちゃうよ。真智君のファンなんだから」
「いやいや丸山さんも好きだけどさ、やっぱ那津美さんがいーの。それよりさあ」
真智君の声が低くなる。
「リュート、来たんだ。まさか授業受けるって言った?」
「塾に真智拓弥という人がいるか、聞いてきたわ。だから、私、真智君のファンの高校生かと思ってパンフレットを渡したの。アサカワ君は真智君の後輩だと言ってたよ」
後輩? 自分で言って違和感を覚えた。
真智君は、今、修士一年だ。浪人と留年をしたので今は二十五歳。高校生のアサカワ君とは少なくとも八歳は離れている。
八年も離れた先輩というと、普通の公立学校では難しい。私立の小中高一貫校か、部活のOBか、学校とは別にスポーツクラブなどで知り合ったのかな?
「……那津美さん、リュートのことは知らないよな……」
真智君の声の調子がおかしい。嫌な予感がする。
入塾希望だとしても、真智君の後輩ならいきなり塾に押しかけず、先に真智君に連絡するはず。
なぜ彼は、真智君に知らせないで塾に来たの? 連絡が取れない真智君を一方的に追いかけ待ち伏せするつもりだったとか?
「真智君はアサカワ君から逃げているの?」
そんなことはない、と返事してほしい。
「こんなところまで追ってくるんかー」
あああ! 迂闊に真智君のスケジュールを教えるんじゃなかった。
アサカワ君について整理しよう。わかっていることは、真智君の知り合い、宇宙に詳しい、甘いドリンクが好き、大学近くのマンションに住んでいる、それぐらい。
でも……車のお礼にと律儀にジュースを奢ってくれた。
「あの子、宇宙オタクっぽいけど、いい子だったよ……真智君だっていい子だもの。どうしてアサカワ君が真智君を追っているか知らないけど、誤解あるんじゃない?」
そうであってほしい。
「リュートは宇宙オタクっていうか……それより俺もいい子なんて那津美さん、ひどいなあ」
真智君の声がいつも通りのチャラいトーンに戻った。
「ごめん。立派な大人にいい子は失礼ね。真智君はいい人に訂正。とにかく、いい子といい人なら、何とかなるよ」
「いい人ってーのも、すごーくがっかりな感じ、オレ的には」
真智君の微妙な冗談が余計辛い。申し訳ない。何とかして軽率な行動を挽回したい。
「真智君、私でできることなんでもするよ」
「じゃあ、次の物理、代講たのんます」
「素芦那津美先生に任せなさい!」
それは、真智君らしい冗談で気遣いなのだ。
だって、こっちは文学部。高校生の物理なんて教えられるわけない。
「今日はね、真智先生がお休みだから、代わりに来ました。よろしく!」
早くこの魔の時間が終わってほしい。
「みんな、来年から三年生だよね。受験するよね。三年生になると物理はもっと難しくなるから、今日は今までのおさらい、やってみようか」
カメノ塾は、個別指導が中心だが、集団指導の教室もある。
目の前には、高校二年生が五人いる。直接教えたことはないが、みんな知ってる。私はこれから物理の集団指導をしなければならない。
無理でしょ、高校の物理なんて。
昔は首都総合大学の理学部に憧れ、過去問に挑戦したこともある。模擬試験だって受けた。
それだけだ。もう十年以上、物理とは縁がない。
卒業論文に宇宙は登場したけど、扱ったのは中世の日記に書かれた天体現象だ。星の位置を確かめるため、ある程度の数学は必要だったが、ガンマ線バーストがわからなくても問題なかった。
昨晩、真智君から電話があった。切羽詰まった様子だった。
「ごめん! 遠距離恋愛の彼女がこっちの下宿に来ちゃって、明日は無理!」
私や丸山さんに「きれー」とか言ってるくせに、ちゃんと彼女いるんだ、と妙に納得しつつ、いやいや納得している場合ではないでしょう。
他の理系のバイト仲間に頼もうとしたが誰も捕まらないそうだ。
「何とか彼女を説得して!」「バイトの間、時間潰してもらって!」と、がんばって抵抗してみた。見境なくチャラいことするから、遠距離彼女が不安になって押し掛けたんじゃないの? ただの職場の先輩である私が、なぜ尻拭いをしなければいけない?
しかし、見知らぬ少年に後輩バイトのスケジュールを明かしてしまったという罪悪感のため、とうとう引き受けてしまった。
ネットでバズってる物理の講義動画をチェックする。絶望しかなかった。
それでも疋田塾長が拒否してくれるだろうと物理の代講について話したら「那津美ちゃんは、理科も得意だったから大丈夫よ」とまさかのOKが出た。
叔母が知ってる「理科が得意な那津美ちゃん」って、中学の話だ。
私は、初めてそして恐らく唯一となる物理の講義を始めた。
「真智先生の時間が空いたら今日の代わりの講義をしてくれるって。だから、今日はみんなで物理の疑問をまとめて、来週、真智先生に質問しようね」
私は、ネットの物理の講義動画を眺め、この結論に達した。
そう言われても、生徒たちは大人しく固まっている。
申し訳ないので参考書をパラパラめくってネタを探す。使っているテキストは教えてもらった。塾オリジナルのテキストはなく、市販の参考書を使っている。
気圧と温度について解説されている。昔習った気もするが忘れた。
「山に昇ると寒いのは、気圧が下がると温度が下がるからなんだって。おもしろいよね。太陽に近づくのに寒いんだもの」
何を言ってるんだろう、高校生相手に。
「珂目山にみんなよく登るでしょ? 夏でも上着を用意した方がいいよ。あの山にはね、亀さまがいらっしゃるから。突然、雨降るのは、亀さまがウサギさまを思って泣くからだって」
物理の授業じゃないよ、これ。宇関の子どもたちが散々聞かされている昔話を高校生にして時間潰すなんて、どうかしてる。
「最近、突然の豪雨が多いよね。秋の月祭り、ずっと雨だよね。前は、祭りの日は必ず晴れて、お月様が見えたんだよ。これも異常気象の一種かもね」
何とか軌道修正しないと。
「そういう気象の問題もね、物理を勉強するとわかるかもよ。じゃ、力学からいこうか。試しにこの問題、前もやったと思うけど、おさらいね」
強引に時間を稼ぎつつ、参考書で単元の後ろの問題を指定した。
深い理由はない。
単元の後ろの問題なら難しくて時間が稼げる、というだけ。
「解いたら、テキストの後ろの答え確認してね。間違ったら、次回、真智先生に聞いて」
うん、ひどい。
なのに五人の生徒は、大人しく問題に取り組み始めた。
みんな、私が国語の先生であることを知って、仕方ないと諦めてくれている。
いや、その中に固まっている子がいる。私が以前国語を教えたことがある子だ。
「翔太君どうしたの?」
「全然、わかんない」
それは私も同じだ。
「これって万有引力の問題だよね。地球にリンゴが落ちるっていう」
私は、参考書をめくって、万有引力の式を見せた。
が、翔太君は動かない。
「時間がtで、速度がvって決めるのムカつく」
「そ、それは……」
それならわかる! だって、時間がt、速度がvって物理というより外国語の問題だもの。
私は翔太君に、時間=time 速度=velocity 位置=positon 力=force と説明した。
物理や数学は外国で生まれた学問なのだ。だから、外国の記号を使って記述される。
これを知らなくても物理の問題は解けるだろう。でも、知っておくと「決めつけてムカつく」ことは少なくなるんじゃないかな。
これで時間を潰そう。ありがとう翔太君。
そのうち生徒たちも盛り上がってきた。
「フレミングの法則って手が痛くてさあ」
「ばねつけた台車を坂で転がすってありえない。ヤバすぎ」
雑談が収集つかなくなってきたけど、全部、真智君が悪い。
「あー、これよく見る偉そうな式だ。E=MC2ってやつ」
また翔太君が突っ込む。
E=MC2
思い出そう。えーと……大丈夫、意味はわかる。テレビの科学解説番組で見覚えがある。
EはEnergy エネルギー。MはMass 質量。質量って要は重さだよね? Cは、あれ? 元のことばはわからないけど、光の速さだ。
「エネルギーと質量の関係ね」
参考書をパラパラとめくりつつ、私は、昔見た番組を思い出しながら語った。
「えーと、これはね、原子力発電のエネルギーはここからきてるの。逆に、原子爆弾がとてつもない威力なのも、質量がエネルギーになるからだよ」
私もよくわかってない。「質量がエネルギーになる」って何? でも、こういう話をしているうちに、現代社会では重要な式なんじゃないかって思えてくる。
「普通に生きてたら実感わかないし、昔の人には関係ない式だけど、今は、原子力を使う時代だから、大事だと思うよ」
物理のことわからないけど、自分、なんかカッコいいこと言ってる気がするぞ。
が、そのいい気分は長く続かない。
「先生! 待ってください!」
と、その時、教室に甲高い少年の声が大きく響き渡る。
五人の生徒の声ではない。
声は後ろの壁から聞こえてきた。
「あ、あれ?」
声の主がこっちにやって来た。
「素芦先生、交代しましょう」
謎の高校生、アサカワ君だった。
基本、職員名簿は年賀状を印刷する時しか使わない。
初めて年賀状以外の目的で名簿のデータを利用する。もしかすると今回が最初で最後かも。
もう夜の十二時をまわっている。この時間、電話は顰蹙だろう。スマホでメッセージを入れることにした。
『アサカワリュート君に真智君の時間割伝えました。入塾希望みたい』
と、メッセージを入れたらすぐ、電話がかかってきた。
「那津美さん! マジ那津美さん!?」
真智君の声は、切羽詰まったように聞こえる。
「真智君、夜中にごめんね」
「いや俺たち講師にとって十二時なんて夜中じゃないでしょ?」
塾講師は午後から夜遅くまでの勤務となる。帰宅は十二時過ぎることも多い。
「それもそうだけど、年取ると夜がきつくって」
「何言ってんの! 那津美さん、全然若いじゃん。肌キレイでめっちゃ可愛いよ」
実は、彼のセリフを本気にしてトキめくこともあった。年下だしなあ、と本気で悩むこともあった。が、六十代パートの丸山さんにも似たようなことを言ってたため、私のトキめきはあっさり終了した。
「そういうこと言うと丸山さんが泣いちゃうよ。真智君のファンなんだから」
「いやいや丸山さんも好きだけどさ、やっぱ那津美さんがいーの。それよりさあ」
真智君の声が低くなる。
「リュート、来たんだ。まさか授業受けるって言った?」
「塾に真智拓弥という人がいるか、聞いてきたわ。だから、私、真智君のファンの高校生かと思ってパンフレットを渡したの。アサカワ君は真智君の後輩だと言ってたよ」
後輩? 自分で言って違和感を覚えた。
真智君は、今、修士一年だ。浪人と留年をしたので今は二十五歳。高校生のアサカワ君とは少なくとも八歳は離れている。
八年も離れた先輩というと、普通の公立学校では難しい。私立の小中高一貫校か、部活のOBか、学校とは別にスポーツクラブなどで知り合ったのかな?
「……那津美さん、リュートのことは知らないよな……」
真智君の声の調子がおかしい。嫌な予感がする。
入塾希望だとしても、真智君の後輩ならいきなり塾に押しかけず、先に真智君に連絡するはず。
なぜ彼は、真智君に知らせないで塾に来たの? 連絡が取れない真智君を一方的に追いかけ待ち伏せするつもりだったとか?
「真智君はアサカワ君から逃げているの?」
そんなことはない、と返事してほしい。
「こんなところまで追ってくるんかー」
あああ! 迂闊に真智君のスケジュールを教えるんじゃなかった。
アサカワ君について整理しよう。わかっていることは、真智君の知り合い、宇宙に詳しい、甘いドリンクが好き、大学近くのマンションに住んでいる、それぐらい。
でも……車のお礼にと律儀にジュースを奢ってくれた。
「あの子、宇宙オタクっぽいけど、いい子だったよ……真智君だっていい子だもの。どうしてアサカワ君が真智君を追っているか知らないけど、誤解あるんじゃない?」
そうであってほしい。
「リュートは宇宙オタクっていうか……それより俺もいい子なんて那津美さん、ひどいなあ」
真智君の声がいつも通りのチャラいトーンに戻った。
「ごめん。立派な大人にいい子は失礼ね。真智君はいい人に訂正。とにかく、いい子といい人なら、何とかなるよ」
「いい人ってーのも、すごーくがっかりな感じ、オレ的には」
真智君の微妙な冗談が余計辛い。申し訳ない。何とかして軽率な行動を挽回したい。
「真智君、私でできることなんでもするよ」
「じゃあ、次の物理、代講たのんます」
「素芦那津美先生に任せなさい!」
それは、真智君らしい冗談で気遣いなのだ。
だって、こっちは文学部。高校生の物理なんて教えられるわけない。
「今日はね、真智先生がお休みだから、代わりに来ました。よろしく!」
早くこの魔の時間が終わってほしい。
「みんな、来年から三年生だよね。受験するよね。三年生になると物理はもっと難しくなるから、今日は今までのおさらい、やってみようか」
カメノ塾は、個別指導が中心だが、集団指導の教室もある。
目の前には、高校二年生が五人いる。直接教えたことはないが、みんな知ってる。私はこれから物理の集団指導をしなければならない。
無理でしょ、高校の物理なんて。
昔は首都総合大学の理学部に憧れ、過去問に挑戦したこともある。模擬試験だって受けた。
それだけだ。もう十年以上、物理とは縁がない。
卒業論文に宇宙は登場したけど、扱ったのは中世の日記に書かれた天体現象だ。星の位置を確かめるため、ある程度の数学は必要だったが、ガンマ線バーストがわからなくても問題なかった。
昨晩、真智君から電話があった。切羽詰まった様子だった。
「ごめん! 遠距離恋愛の彼女がこっちの下宿に来ちゃって、明日は無理!」
私や丸山さんに「きれー」とか言ってるくせに、ちゃんと彼女いるんだ、と妙に納得しつつ、いやいや納得している場合ではないでしょう。
他の理系のバイト仲間に頼もうとしたが誰も捕まらないそうだ。
「何とか彼女を説得して!」「バイトの間、時間潰してもらって!」と、がんばって抵抗してみた。見境なくチャラいことするから、遠距離彼女が不安になって押し掛けたんじゃないの? ただの職場の先輩である私が、なぜ尻拭いをしなければいけない?
しかし、見知らぬ少年に後輩バイトのスケジュールを明かしてしまったという罪悪感のため、とうとう引き受けてしまった。
ネットでバズってる物理の講義動画をチェックする。絶望しかなかった。
それでも疋田塾長が拒否してくれるだろうと物理の代講について話したら「那津美ちゃんは、理科も得意だったから大丈夫よ」とまさかのOKが出た。
叔母が知ってる「理科が得意な那津美ちゃん」って、中学の話だ。
私は、初めてそして恐らく唯一となる物理の講義を始めた。
「真智先生の時間が空いたら今日の代わりの講義をしてくれるって。だから、今日はみんなで物理の疑問をまとめて、来週、真智先生に質問しようね」
私は、ネットの物理の講義動画を眺め、この結論に達した。
そう言われても、生徒たちは大人しく固まっている。
申し訳ないので参考書をパラパラめくってネタを探す。使っているテキストは教えてもらった。塾オリジナルのテキストはなく、市販の参考書を使っている。
気圧と温度について解説されている。昔習った気もするが忘れた。
「山に昇ると寒いのは、気圧が下がると温度が下がるからなんだって。おもしろいよね。太陽に近づくのに寒いんだもの」
何を言ってるんだろう、高校生相手に。
「珂目山にみんなよく登るでしょ? 夏でも上着を用意した方がいいよ。あの山にはね、亀さまがいらっしゃるから。突然、雨降るのは、亀さまがウサギさまを思って泣くからだって」
物理の授業じゃないよ、これ。宇関の子どもたちが散々聞かされている昔話を高校生にして時間潰すなんて、どうかしてる。
「最近、突然の豪雨が多いよね。秋の月祭り、ずっと雨だよね。前は、祭りの日は必ず晴れて、お月様が見えたんだよ。これも異常気象の一種かもね」
何とか軌道修正しないと。
「そういう気象の問題もね、物理を勉強するとわかるかもよ。じゃ、力学からいこうか。試しにこの問題、前もやったと思うけど、おさらいね」
強引に時間を稼ぎつつ、参考書で単元の後ろの問題を指定した。
深い理由はない。
単元の後ろの問題なら難しくて時間が稼げる、というだけ。
「解いたら、テキストの後ろの答え確認してね。間違ったら、次回、真智先生に聞いて」
うん、ひどい。
なのに五人の生徒は、大人しく問題に取り組み始めた。
みんな、私が国語の先生であることを知って、仕方ないと諦めてくれている。
いや、その中に固まっている子がいる。私が以前国語を教えたことがある子だ。
「翔太君どうしたの?」
「全然、わかんない」
それは私も同じだ。
「これって万有引力の問題だよね。地球にリンゴが落ちるっていう」
私は、参考書をめくって、万有引力の式を見せた。
が、翔太君は動かない。
「時間がtで、速度がvって決めるのムカつく」
「そ、それは……」
それならわかる! だって、時間がt、速度がvって物理というより外国語の問題だもの。
私は翔太君に、時間=time 速度=velocity 位置=positon 力=force と説明した。
物理や数学は外国で生まれた学問なのだ。だから、外国の記号を使って記述される。
これを知らなくても物理の問題は解けるだろう。でも、知っておくと「決めつけてムカつく」ことは少なくなるんじゃないかな。
これで時間を潰そう。ありがとう翔太君。
そのうち生徒たちも盛り上がってきた。
「フレミングの法則って手が痛くてさあ」
「ばねつけた台車を坂で転がすってありえない。ヤバすぎ」
雑談が収集つかなくなってきたけど、全部、真智君が悪い。
「あー、これよく見る偉そうな式だ。E=MC2ってやつ」
また翔太君が突っ込む。
E=MC2
思い出そう。えーと……大丈夫、意味はわかる。テレビの科学解説番組で見覚えがある。
EはEnergy エネルギー。MはMass 質量。質量って要は重さだよね? Cは、あれ? 元のことばはわからないけど、光の速さだ。
「エネルギーと質量の関係ね」
参考書をパラパラとめくりつつ、私は、昔見た番組を思い出しながら語った。
「えーと、これはね、原子力発電のエネルギーはここからきてるの。逆に、原子爆弾がとてつもない威力なのも、質量がエネルギーになるからだよ」
私もよくわかってない。「質量がエネルギーになる」って何? でも、こういう話をしているうちに、現代社会では重要な式なんじゃないかって思えてくる。
「普通に生きてたら実感わかないし、昔の人には関係ない式だけど、今は、原子力を使う時代だから、大事だと思うよ」
物理のことわからないけど、自分、なんかカッコいいこと言ってる気がするぞ。
が、そのいい気分は長く続かない。
「先生! 待ってください!」
と、その時、教室に甲高い少年の声が大きく響き渡る。
五人の生徒の声ではない。
声は後ろの壁から聞こえてきた。
「あ、あれ?」
声の主がこっちにやって来た。
「素芦先生、交代しましょう」
謎の高校生、アサカワ君だった。
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