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番外編 アクアマリン編集部

第10話

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 人生経験を積むと、勘が鋭くなり、隠し事がばれる。
 ここが年上と付き合うことの面倒くささだった。

 熱烈な恋愛がしたい。
 これがオレの願いだった。

 暇つぶしを目的とした恋愛なんてしたくない。
 ただ、両親の束縛が激しくて、男らしさを強要されてしまうんだ。

 男で生まれたとしても、何もかも両親が設定することではない気がする。

 何で、オレを引き取ったんだろう?
 オレが本気で嫌いなら、引き取らなきゃいいのに。
 そこらへんにいるホームレスになれるものなら、なってみたい。

「大学卒業したら、就活ね」
「アクアマリンに就職な」
「いいわね」

 こうやって、オレの意思とか関係なく、決めるんだ。

 オレの本当にやりたいことが何なのか、わかなくなっていた。
 完全なる両親の操り人形になってしまったんだと思う。

 納得いかないなら、反論すればいいと思うかもしれないが、
 どのように反論していいのかわからないし、
 オレが何をどうしたいのか、
 何にどうして納得していないのか、
 自分のことなのにわからなくなっていた。

 オレは何も為す術もなく、
 アクアマリンに面接を受けて、
 内定をもらってしまった。

「おめでとう」
 両親は喜んでいた。

 この両親は、本当にオレを愛しているのか?
 愛していないから、こんなことができるのだろうか?

 アクアマリン編集部に入社することとなった。
 男ばかりの職場で、女性はそんなにいないかな。

 スーツを着た。
 スーツを着ての出社だった。

 そこでオレは、会社に馴染めなかった。
 指示待ち人間のオレは、自分から何かをすることはできなかった。
 わからないことを聞くなんて、オレはしたことないし、自分から動くことなんてできそうにない。

 滴舟さんだけだ、オレに優しくしてくれるのは。
 優しく声をかけて、
「何かわからないことはない?」
 と聞いてくれるのは。

「いつもいつも、オレを気にかけてくれてありがとうございます。
滴舟さんは優しいんですね」
「優しいって程でもないよ。
ただ、困った人はほうっておけなくてさ」
「そこが優しいと言うんですよ」

 オレは滴舟さんの優しさに、
 いつかオレもこんな誰に対しても優しくなれるような人になりたい、
 と憧れを抱くようになった。

 滴舟さんはオレの目標とする人で、
 尊敬できる先輩だった。

 頑張って、仕事を覚えようとも意気込むようにもなっていた。

 会社の同期から「あいつに近寄らない方がいいよ」と言われたことがあった。
「極度の浮気性で、騒動があると聞いたよ」
「浮気なんて、滴舟さんがするのかな?」
「ねー、最近知ったんだ。
噂で聞いた」

 あれ、オレ、傷ついてる?
 信じたくない気持ちがどこかにある。
 浮気してようが、してなくても、オレに関係のない話なのに。
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