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番外編 山賊に愛されて

第4話

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 僕は、この街の寮で暮らした。

 異世界での暮らしは慣れないけど、家出したのは僕なんだから自業自得と思うことにした。



 異世界は、文化が違うし、話し方も、一人称も個性的だった。



 ピンクの髪、青い髪、赤い髪、緑の髪、紫の髪など、見たことも聞いたことのない髪の色が何人もいた。

 

 瞳の色も、黄色、白などもあった。



 昔、人間世界で暮らしていたという人もちらほら。



「やっと‥‥見つけた‥‥」

 顔が腫れた状態のヤンスがいた。

「帰って‥‥」

「くれない?」と言おうとしたら、キスをされた。

 まただ、ヤンスはこうして迫る。



 唇が離れた瞬間

「ヤンス?」

「会いたかった‥‥どこに消えたか心配で‥‥」

 僕は、なんて言葉を返していいかわからなくなった。

 何か言わなくちゃいけない。

 だけど、何を?

「心配かけてごめんね‥‥」

 その言葉しか出てこなかった。

「いいんだ‥‥らいが無事でいてくれれば‥‥」



「こおら、山賊め」

 きるとが、現れた。

「山賊よ、今度は何を盗む気だ?」

「誤解しないでくれ。

ただ、らいが気になるだけで」

 やっぱりだよ。

 ヤンスは、僕だけを気にする。

「やめてくれ‥‥ヤンス。

僕たちは、そんな関係になれない。

どんなに頑張ったところで、恋愛感情には変わらない」

「いや、変えてみせる」

「変わらないよ。

人の気持ちを何だと思ってる?」



「こんなところで、喧嘩ですかなー?」

 声をした方を向くと、小柄で綺麗な赤い髪の女の子。



「山賊専門退治家の一人が登場したな」

 そう言えば、水湖以外にも山賊専門退治屋がいると聞いたことがある。

「また、山賊専門退治屋か。

この街に行けば普通に何人かいると思ったんだけどな」



「君の悪事もそこまでですよ」

 女の子が、剣を引き抜き、ヤンスと戦う。

 ヤンスも短剣を引き抜くが、女の子が水で剣を被い、切り裂いた。

「水剣斬り!」

 ヤンスは、勝てないとわかったのか、短剣を右手で持ったまま何も言わずに逃げた。



「みんな、大丈夫でしたか?」

「大丈夫だ。心配ない」

「助けてくれてありがとう」

「そんなとんでもないです。

ところで、君は‥‥?」

「最近、異世界に来たばかりの‥‥

らいだよ」

「うちは、るら水《み》です」



 るら水は、山賊専門退治屋の中で一番小柄らしい。

 聞いてみると、身長142センチとのこと。

 ほぼ小学生だろ?

 訓練生の中ではそうじゃないかもしれないけど、山賊専門退治屋の中では一番小柄になるな。



 僕は、異世界に来た経緯を、るら水に話した。

「あの山賊と何か因縁があるかもしれませんね」

「にしても、何の因縁かもかめわからないのに」

「そりゃあ、前世としたらわからないですね。

なら、本人に聞いてみるしかないですよ」

 本人に聞く‥‥。

 そんな勇気が、僕にはある。

 ヤンスは僕に攻撃してこないってわかってるから。

「やるしかないのかな」

「やらなくてもいいですが、その代わり何もかもわからないままになりますね」

 

「怖かったら、うちが守ってあげますよ?」

「ううん‥‥」

 こんな小さな女の子に守ってもらうなんて‥‥。

「うちは、君が守らなくちゃいけない存在って、なんとなくだけど思うんです」

 僕は、頷くことも否定することもできなかった。



 僕に戦う力はない。

 なら、山賊専門退治屋に頼るしかないのかな?

 僕にも戦う力を身につけることができるのかな?
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