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第1章 最弱時代

第4話 裏切りに裏切りを重ねて

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「俺は、無謀なんかじゃない。

ただ、青葉を助けたいだけだ。

行くぞ」

「誠君!」

 誠君は走っていったので、私はあわてて追いかけた。
 
 おかしい。
 緑ちゃんに、騙されたということは、今回もそうかもしれない。
 まず、その教えられた場所に、青葉ちゃんはいるの・・・?

 こうして、二人で向かった場所は、倉庫だった。

 倉庫を誠君が開けてみると、青葉ちゃんがいた。
 白の拘束衣装を着せられ、黒いベルトで止められて、黒のゴム製の猿轡をされて、よだれを垂らしていた。
 そんな状態で、椅子に座らされている。

「んんっー!」

「青葉、今助けてやるかな!」

 だけど、誠君が駆けつける前に現れたのは、知らない男の人。

「久しぶりだな、誠」

「勇気・・・・」

 勇気?
 もしかして・・・・。

「せっかく、兄が来てやったのに再会を喜ばんないのか?」

 やっぱり、誠君のお兄さんだ。

「だって、唄が誘拐したんじゃ・・・・」

「誘拐したのは、間違いなく唄。

だけど、とっちゃた」

「とったって?」

「俺が奪って、お前の幼馴染を好みの変態に変えちゃったってこと」

「青葉は、俺の大切な幼馴染・・・・」

「幼馴染だけど、誠の物じゃないよね?」

「信じない」

「俺の言葉が信じられない?

なら、本人の言葉で実証してもらおうか」

 こうして、勇気さんは青葉ちゃんのゴム製の猿轡を外した。

「青葉は、俺と誠、どっちが好き?」

「勇気さん」

「誠のことをどう思っている?」

「ただの幼馴染です!」

「今、君はこうして縛られているけど、どんな気持ちだい?」

「最高です!

ずっと縛ってほしいですし、猿轡もされていたいです。

勇気さん、ありがとうございます」

「今の発言、聞いたか?

俺好みの変態に豹変してしまって、俺なしじゃ生きられない体になってんの」

「勇気、何をしたんだ?」

「うーん、青葉のことを唄から助けてさ、あれから縛って監禁生活を過ごしてもらっただけ。

だけど、唄もドン引きしちゃうくらいのあほになったの。

これで、認めた?」

「勇気さん、大好きです・・・・」

「ああ、俺もだ。

ということで、誠の両片思いはここで終わったということで」

「勇気、またとったのか?」

「お互いの合意の上でだ。

青葉もそうだろ?」

「はい!」

 誠君はその場で泣き崩れた。

「青葉・・・・!

青葉・・・・!」

「誠はここまで、あたしに執着してたの?

ただの幼馴染なのにね。

あたしは、誠の兄である勇気さんに恋しちゃったの。

勇気さんは、縛るの上手だから」

「そんなの聞いてない・・・・!

聞いてない・・・!

俺じゃ、満足できなかったのか?」

「それは、青葉が決めることだ。

好きな相手の恋を応援することも、時としては必要だってことをわかれ」

 誠君は、しばらく泣いていた。
 私はなぐさめてあげたいけれど、どうしていいのかわからなかった。
 他人の恋事情に口出ししていいのだろうか?

「大丈夫だよ。

誠君。

私がいるから、元気だそ?」

 って、声をかけられたらどんなにいいか。
 
 泣いていた誠君は、しばらくしてから涙をふいた。

「誠君?」
 私は心配になって、思わず声をかけた。

 だけど、それ以上のことは言えなかった。

「目の前にいるのは、青葉じゃない。

青葉は、俺が目の前で泣いていても、傍観することなんてしない。

俺に何かしらの喝ぐらいかける。

青葉と名乗る女は誰なんだ?」

 誠君は、鋭い顔つきで問いかける。

 勇気さんも青葉ちゃんもきょとんとしているけれど、私も誠君の考えていることがわからなくて、戸惑っている。
 
「本当に青葉なのか?」

「何を言いたい?

この目の前にいる彼女こそが、青葉だ。

人は、誰でも俺色に染まるのさ。

人っていうか、全世界の女ども、イチコロにできるかもしんないな!」

 勇気さんは、なぜかケラケラと笑っていたけれど、誠君は表情を崩すことはなかった。

「偽物だ・・・」

「なんて?」

「ほくろの位置が、青葉は左下にあるのに、こいつは右下にある。

だから、青葉じゃない」

「ほくろの位置なんて、覚えているのか?」

「青葉のことなら、何でもすみずみまで確認してるから」

「これは、これで気色悪いな。

はぁ、うまく騙せたと思ったけどなあ。

ほくろでバレるとか、想定外だ。

甘く見すぎたかもな」

「仕方ないわね」

 青葉ちゃんそっくりの女の人か拘束を自力で解き、椅子から立ち上がった。

 拘束、解けるんだ・・・。
 私は思わず、まじまじと見てしまっていた。

「聞いていると思うけど、あたしは東海青葉の3つも年上の姉よ。

そして、勇気の恋人」

「自己紹介なんて、重要じゃない」

 誠君は冷たく言い放つけど、自分から聞いておいてそれは酷いと私は思い、一言。

「誠君!?」

「自己紹介を求めておいて、失礼なやつ」
 
 私が言うよりも早く、青葉ちゃんのお姉さんが正論を言い放つ。

 誠君は悪気はないけど、時々理不尽なことをする。
 
「青葉をどこにやった?」

「まだ、妹が好きなわけ?

青葉に彼氏できたら、どうするの?」

「奪い返す」

「重っ!?

さすがにドン引き。

それは、ないわあ」

「だろ?

本当に血がつながっているとは思えないくらい、真逆なんだ。

ハニー、なく子に地頭は立てぬと言わないか?」

「何?

そのことわざ、知らないわ。

そろそろ、本物の青葉、登場させない?」

「そうだな。

青葉がどこだとかで埒が明かないしな」

 偽物って、私でも見抜けなかったものを、見抜けてしまう誠君は、それだけ青葉ちゃんのことを見ているということになる。
 そのことに、私は嫉妬が強くなるけれど、何でもできないでいる。

 私は、こんなに近くにいて、誠君のことを支えていても、恋愛対象にならない。
 あの時、告白しなかったことを強く後悔した。
 ラブレターも書いてばかりいて、全然1通も渡せていない。

 私は誠君と青葉ちゃんの幸せを見届けたいのか、自分が誠君の一番に昇格したいのか、どれが自分の本当の気持ちかわからなかった。
 このふたつの気持ちがいったりきたりしていた。

「お遊びはここまでにして、そろそろ囚われのお姫様を登場させるか」

「それを言うなら、お嬢様じゃないかしら?」

「自分で言い始めたことだけど、どっちだっていいさ。

青葉、そろそろ出てきてもいいぞ」

 勇気さんがそう言うと、どこからか青葉ちゃんが現れた。

「はい、勇気さんにお姉様」

「青葉!!」

 誠君が、青葉ちゃんに駆け寄った。

「大丈夫か?

怪我はないか?

あいつらに、何かされてないか?」

「大嫌い・・・・」

「え?」

「大嫌いって言っているの。

本当に、わからない?」

 青葉ちゃん、いつもと様子がおかしい。
 瞳はいつもの明るい感じじゃなくて、人を見下すような雰囲気になっていた。

「いつも、いつも、鬱陶しいの。

どんなに、どんなに、言っても、全然わかってくれない。

あたしは、理解してもらうためにどうすればよかたの?」

「急に、何を言っているんだ?」

「あたしは、好きな人がいるの。

だけど、君は邪魔をした。

あたしの気持ちなんて、どうでもいいの?」

「それは君が本気で好きだったから、俺だけのものにしたくて、止めただけだ。

何が悪い?

自分の気持ちに、俺はいつでも正直なんだ!」

 何の話をさているのか私にはわからなかったけれど、なんとなく想像がついた。
 青葉ちゃんは好きな人ができたことを誠君が何かしらの方法で知ってしまって、一途で一直線な誠君は邪魔してしまった。

 だけど、誠君のことだ。
 共感能力に欠けているために、やらなくてもいいことまでやってしまって、人を追い込むこともある。

「それが嫌だって言うのが、わからないの?

告白したところに、乱入して恥ずかしくないの?

大嫌い。

あたしの恋心はわからないのに、自分のことだけ理解してほしいとか都合がよすぎる。

君って、嫌われる男だよね」

「そんな言い方ないじゃないか!

俺だって、さすがに傷つくよ!

幼馴染みだからって、何を言ってもいいとかじゃない!」

「ここまで言わないと、わかんないじゃない!

無神経だってことを自覚してよ!」

 誠君は、何か言おうとしている様子がなかった。
 反論を諦めたのか、青葉ちゃんの気持ちに気づけたのか。

 どちらにしても、誠君は追い込まれる一方だと思う。

「嫌い、大嫌い。

鬱陶しい、鬱陶しいだけ。

パラレルループしてきたとか言うけど、今のあたしは幼馴染みなんて恋愛対象にしない。

好きな人ができたから、告白したいから、この場を借りて言わせてもらうよ。

大嫌い。

二度と関わらないで?

あたしの気持ちなんて、ちっともわかってない。

あたしの感情を、誠君は無視してる。

これで懲りたら、もうさようなら」

「待てよ」

「往生際が悪い。

何なの?」

 誠君は泣きながら、青葉ちゃんに一言を伝えた。

「何もわかってあげられなくて、ごめんね?」

「嘘でしょ?

嘘つき。

君と言うことは、信じないことにしたの。

大嫌いだから」

「多分、わかってる。

君にまだ伝えたいこと、あるの」

「君の声なんか、二度と聞きたくない」

 青葉ちゃんは冷たく言い放った。

 本当に青葉ちゃんなの?

「青葉をこんなに傷つけているなんて、知らなかった。

本当にごめんね?

だけど、俺はまだ青葉が好きなんだ」

「好きになってほしくない。

こんな障害持ちなんかに。

騎士を目指す厨二病なんかに。

だから、追いかけてこないで?

二度と、二度とね。

やっぱり、あたしは大人な男が好き。

じゃあね」

 青葉ちゃんは、勇気さんと青葉ちゃんのお姉さんがいるところに向かった。

「行きましょう、お姉様、勇気さん」

「あら、もういいの?

執拗にアプローチしてきた人なんでしょ?

もっと、立ち直れないくらいに罵倒した方がいい、んじゃないのかしら?」

「もういいの。

言いたいことは、全て言い切ったから。

それに、誠は罵倒しきったし、前に進めないだろうから」

「偉いわ。

嫌なことは、はっきり伝えることはすごく大切なのよ。

姉として、感激しちゃう。

さすが、あたしの妹ね。

失恋の傷は深いかもしれないけど、誰もが通る道だから、あまり気にしすぎなくても大丈夫よ。

今日は、焼き肉パーティーにする?

それとも、スイーツビュッフェ?」

「うーん、勇気さんとお姉様も一緒に行くこと前提なら、みんなが食べれる物にした方がいいかな?」

「さすが!

青葉は、細かいところまで気が配れるのね。

勇気は、何なら食べれそう?」

「実はスイーツも焼き肉もそんなに好きじゃなくて、回転寿司とかラーメン屋がいいな」

「あら、まあ。

それなら、バイキングにする?

好きな物を、自分でとって食べるの」

「いいね、それ。

勇気さんは?」

「おっ、これで寿司もラーメンも食べれそうだ」

「それはどうなのか、わかんないけどね」

 勇気さん、青葉ちゃん、青葉ちゃんのお姉さんは笑いながら倉庫を出た。
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