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第1章 最弱時代

第5話 幼馴染みとのすれ違い

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「青葉・・・青葉・・・・」

 誠君は、青葉ちゃん、青葉ちゃんのお姉さん、勇気さんがいなくなってから、好きな人の名前を呟きながら、一人で泣いていた。

 誠君の好きな人が私だったら、どんなにいいいか。
 だけど、誠君はなぜか、私のことなんて一向に好きにならない。

 誠君の瞳には、いつも青葉ちゃんばかりうつっていて、私のことは昔から眼中になかった。

「誠君?」

「許せない・・・。

本当に許せなよ・・・・」

 誠君は、まだ泣いている。

「うん、許せないね」

「俺、いつか青葉を見返して、いい男になる。

それで、あの時に俺を選ばなかったことを後悔させてやるんだ・・・・」

「そっか・・・・」

 誠君は、袖で涙を拭った。

「ありがとう。

赤音。

君は、どんな時も一緒にいてくれる最高の幼馴染みだよ。

大、。大、大親友だよ」

「うん。

そうだね。

私もそうだよ」

「俺も、君みたいな姉がいたら、もっと幸せな家庭とか築けただろうし、今の俺は赤音がいるだけで幸せだよ。

何だって乗り越えられそうだ。

これからは、赤音という大切な幼馴染みを守れるためだけの世界一無敵な騎士になるよ」

「ありがとう。

誠君。

だけどね、誠君、君はすでに、世界一無敵な騎士だよ。

だって、私の幼馴染みは、世界一無敵な騎士だから。

だから、誠君のことは私が全力でサポートするから、安心して前進していいよ。

誠君、青葉ちゃんが嫌いだとしても、私は誠君が大好き」

「うん、幼馴染みとしてね」

「この大好きには、もうひとつどんな意味が含まれていると思う?」

 私は、告白のつもりだった。
 だけど、告白する勇気ないから、気づかせてもらおうと思った。
 だけど、期待はしていない。

 誠君は、鈍感だから。
 しかも、天然だし、いつも見当違いな答えをだすんだろうな。

「親友として?」

「もうひとつは?」

「大親友として!」

「どっちも、同じ意味でしょ?

なら、ほかの答えを出すなら?」

「姉弟として!

俺のことは、弟みたいな存在と思っているんじゃなくて?」

 私は、ここで諦めた。
 そうか、誠君は私を恋愛対象として見ていないし、私の気持ちにも気づかない。

「やっぱ、なんでもない」

「えー、どうして?」

「どうしても」

 こうして、誠君と私は、二人で笑い合った。

 こうして、家に帰った。
 
 学校に行くものの、青葉ちゃんは誠君を避けていて、その度に私のところに着た。

「赤音、俺、学校に行きたくない。

青葉に避けられるの辛いよ」

「青葉vちゃんは女子校に進学するみたいだし、私と誠君は同じ高校に行くことになるから、大丈夫だよ」

「それ、励ましているの?」

「励ましているよ!」

 誠君は、かわいい弟のようなものだったけれど、頼られていくうちに惹かれていった。
 私は、こういうだめ男を好きになるタイプなんだなって自分でも思ってしまうけれど、そもそも誠君が私を異性として意識していないことは、一目瞭然だった。

「井藤君と、西園寺さんって、付き合ってるの~?」

 友達の華《はな》ちゃんに聞かれた。

「えっと、付き合っていない」

「お互いいい感じだし、付き合っちゃいなよ」

「でも、誠君は私のことをそういう対象として見ていないし、それに誠君には好きな人がるみたいだしさ・・・・」

「あー、東海さんのことでしょ?

東海さん、もうすでに彼氏いるよー」

「そうなんだあ。

それに、東海さんは、伊藤君が嫌いだって、本人からも聞いたし、彼氏にも公言してた。

昔はあんなに仲良かったのに、どうしたんだろうね~」

「なんか、よくわからないけど、いろいろあったみたい」

「幼馴染みでしょ?

なら、井藤君のどこが嫌いなのか聞いてきてよ~」

「それは、難しいかな?

青葉ちゃんと最近、話とかしていないし、高校も別々になるから、このままでいいかなって」

「へえ~、東海さん、男嫌いだもんね。

だから、女子校にするみたい。

それに、意外だなあ。

まさか、ヤンキーと付き合うなんてね」

「ヤンキー?

今の彼氏さんって、東海さんの幼稚園の頃からの幼馴染みで、小学校では別々になってしまったけれど、中学で再会したらしいよ?

学校一のヤンキーで、井藤君の次に喧嘩に強いんだって。

いいなあ、私もあんな強い人に守ってもらいないなあ」

「いいことばかりじゃないよ、それ。

誰かに恨みを買うことだってあるし、誠君みたいにね」

「ふうん、それって、井藤君がデリカシーがないとかじゃなくて?」

 これは、完全に図星だ。

「そうかもしれないけど、とにかく喧嘩強くても何も得することなんてないし、あーあ、男の子はどうしていつも強くなりたがるのかな?」

「私は強い男の子がタイプだけど、西園寺さんはそうじゃないの?」

「まあね。

私の好みのタイプは、いつだって弟みたいで、頼りのない人だから」

「ふうん、だから、西園寺さんは井藤君が好きなのか?」

「気づいていたの?」

「まあ、西園寺さんってすぐに顔に出るタイプだから、クラスの女子はみんなで勘づいていたけど、それを気づかない井藤君の方が鈍感なのさ」

 そっか、私がわかりにくいアピールをしているわけじゃなくて、誠君が鈍感なだけなのか。

「西園寺さんは、井藤君に告白しないの?」

「告白、何回もしようとしても、誠君は違う意味にとるからさ、もう諦めてる」

「えー、諦めちゃうの?

男女なんだし、友情のままでいられるのも、いつまでなのかわかんないんだよ?」

 私は正直に言うと、誠君に気づいてほしかった。
 異性として意識していること。

「それなら、私が代わりに告白してあげようか?」

「いいの?」

「うん、ずっと言い続ける。

だから、西園寺さんは安心して、高校受験に挑んでいいよ」

「ありがとう。

あんまり、期待はしてないけど」

「傷つくなあ。

でも、いいよ」

 こうして、華ちゃんと分かれた。

 私と誠君は同じ高校を目指し、受験をした。
 そうしたら、誠君も私も受かった。

「これで、高校でも一緒だね、赤音」

「うん。

私も、すっごく嬉しい」

「俺、青葉のことを忘れての高校生になる」

「あれ?

青葉ちゃんを見返すんじゃなかったの?」

「そうだった。

そうだったの。

だけど、赤音の大親友の華って人に言われたんだ」

 大親友って、わけじゃないんだけどね。
 あの子、余計なことしかしないし、表面上だけ仲良くしていたんだけど、それを誠君は大親友ってとるのか。

「過去の恋を乗り越えるには、新しい恋。

初恋を引きずっても、かっこ悪いだけ。

それに、赤音は鯉が好きって華さんから聞いたから、高校に入ったら、鯉を一緒に見ようね」

「え?

どういうこと?」

 私は、鯉は好きでもなければ、嫌いでもない。

 それに、誠君は完全に、華ちゃんの言いたいことを勘違いしている。

「華さんから、いろいろ話は聞いたんだ。

青葉を気にするより、目の前の人に目を向けるようにって言われたから、それはきっと、高校に入ってから、新しい恋をするようにって意味だと思う」

「誠君、華ちゃんから何を聞いたの?」

「たくさん、聞いた。

いろんなことを、聞かされた。

どれも、素晴らしい内容だった。

俺、新しい恋をして、素晴らしい人と付き合って、その人も、赤音を守れる騎士になることと、赤音に鯉を見せることを目標として、前に進んでいくよ」

 だめだ、こりゃあ・・・・。

 きっと、私が何を言っても無理なんだ・・・。

「それに、赤音は俺のことを蕎麦として支えているって」

「蕎麦?」

「だから、蕎麦食べようね?

蕎麦が好きなんでしょう?」

「誠君?」

 受験合格発表日は、これで終わった。
 
 後で、華ちゃんに電話で聞いてみた。

「・・・ってことがあったけど、華ちゃんは何を言ったら、そうなったの?」

「ごめーん。

井藤君、そこまでトンチンカンだとは思わなかった。

西園寺さんは、よく一緒にいられるね」

「詳しい話はわからないけど、これでわかったでしょ?

誠君は、私がどんなにアプローチしても、気づかないの」

「たしか、井藤君は発達障害があるんだっけ?」
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