公爵令嬢として生まれた私は待望された聖女でした。聖女としての才能がなくて見捨てられましたが、武の極みに至る才能はあったみたいです。

HATI

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なぜ、私が聖女なのですか?

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 ラーゲン王国。

 肥沃な大地に恵まれ、豊かな水が流れる山脈は他国からの侵略を阻む。



 理想的な国だったラーゲン王国はしかし、魔物の被害だけは防ぐことができなかった。

 神に祈りと供物を捧げ、神殿を建造する事で神の加護を得て魔物から人々を守る存在が生まれた。



 それが聖女。



 聖女が生まれてからはラーゲン王国は豊かになり続け、やがて大陸で最も豊かな国となった。



 しかし100年前に聖女が亡くなってから一向に新たな聖女は生まれなくなってしまった。



 魔物の被害は増大し、国の根幹産業である食料の輸出にも影響が出た。



 100年続いたそれはラーゲン王国の覇権を過去のものとし、神との加護以前と同じ状態にまで落ち込んだ。



 故に王から国民までが渇望した。新たな聖女を。再び栄光を。



 そして聖女の証を持って私は生まれました。

 その日からしばらく盛大なお祭りが開かれたそうです。



 私は初代聖女の名前をあやかり、ティアナと名づけられました。



 しかし、10になる頃にはその期待は消え失せました。私には聖女としての力が殆ど無かったのです。



 期待が高ければ高いほど、それが裏切られた時に反動は大きくなるもの。

 私が生きている限り次の聖女も生まれません。

 酷い言葉を親しかったはずの友人から受けました。



 そして今。16歳の私の誕生日であり、王国で最も大切にされる日である豊穣祭の日。豊穣を祈願するパーティーの席で、私の婚約者だったラーゲン王国の王子、マーカス様は私に言いました。



「お前との婚約は破棄だ。無能を后には迎えられない。聖女だからこそ受け入れたが、元々好みではなかった」



 ショックでした。そこまで言わなくてもいいでしょう?

 聖女としての役割を果たせない私には何も文句が言えません。



 私は逃げるようにその場を去りました。

 王子から聖女だから当然参加しなければならないと言われ参加しましたが……最低の誕生日になりました。



 私ははしたないと思いながらも泣きながら家に帰りました。

 帰りの馬車では、御者は心配そうにするも何も言わず私を連れ帰ってくれました。

 母と父が迎えてくれ、そっと抱きしめてくれました。



 何があったのか、両親はもう知っているのでしょう。



 私がまがい物の聖女だと分かった時、公爵である父は私を守ることを選び大きく影響力を失ったと聞いています。



 私を受け入れてくれるのはこの家だけです。



 神様、私はなぜ聖女になど選ばれたのですか?

 ただの貴族の娘として生まれたら、こんな苦しみを味わなくても済んだのではないのですか?



 私は耐えかねて神殿へと向かいました。

 神殿には誰にもいません。掃除だけはされているようで奇麗ですが、誰もいない神殿には冷たさだけが感じられました。



 長らく聖女が居なかったこと、そして新たに生まれた聖女が国にとって役に立たなかったこと。



 神殿はもはや人々の希望の象徴ではないのでしょう。



 私は跪き、ただただ一心に神様への祈りを捧げました。

 朝早くから、夜の遅くまで。

 水も喉を通らなかった私はふらついてしまい、祭壇に倒れ掛かりました。



 聖女としての価値のない私には、神様も会おうとはしないのでしょうか……。



 涙が零れました。全身が冷え切っているのに、悔しさと情けなさが入り混じり、目から流れる涙だけが熱いのです。



「童よ泣くな」



 いつの間にか私の後ろに、男の御老人が立っていました。

 神殿の関係者の方でしょうか。しかし見たことがありません。



「貴方は……誰ですか」

「童に呼ばれた来たのに誰とは。仕方ないかの。童が会いたかったのはソーラであろう。しかしあの女神はこの国には来ない」



 女神ソーラ。その名前を知らない人間はこの国にはいない。



「ソーラ……女神ソーラ様。聖女の加護を与えてくださった神様ではないですか。なぜ私にお会いになってくれないのですか。私が無能な聖女だから?」

「違うよ童。この国にはもう聖女は生まれない。だからソーラも来ない。決して」

「しかし私は聖女の証を持って生まれました」

「不幸な子よ。僅かに残った血が表面に現れただけだというのに」



 私は、唾を飲み込むのにさえ苦労しました。

 この御老人が本当に神様だというのなら、私は……私はとんだ間抜けではないですか。



「……私はただの聖女ですらないというのですか」

「そうだとも。そして私が代わりに来たのは、天啓を教えるためだ」

「これ以上私に何があるというのでしょう」



 ……死んで母と父に詫びようか。そんな事すら頭によぎった。



「死ぬのは勿体ないよ童。お前には才能がある。武の神である私が思わず引き寄せられる程の武の天稟よ。後にも先にもお主ほどの才覚は生まれまい」

「……はい? あの、私は荒事を嗜んだこともないのですが」

「聖女が不徳にて去り、しかし武の極みが現れるか。中々どおして面白い」

「あの、武の神様?」

「古来より、異議があるものは戦いそれを示してきた。童。お前はこれからも苦しみにさらされ続けるのか? それとも、私を信じてみるか?」



 この老人のことは普通ならとても信じられない。

 正気を失った老人が私の前でめちゃくちゃなことを話しているだけかもしれない。



 でも、私はもう限界だった。

 何かに縋りたかった。王子に言い返したかった。



 私は、自分の価値を信じられるような力が欲しかった。



 公爵の娘として生まれ、ティアナとして生きる意味が。



「聖女がなぜ生まれなくなったのか。何れ知るだろう。案ずることはない。武の極みを前に、恐れるものはないのだから」


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