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過去の私、未来の私。選ぶのは、私。
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しとしとと降る雨の音で私は目が覚めた。
いつの間にか、私は部屋に戻ってきて寝てしまったのだろう。
はっきりしない意識のまま私は用意された水で顔を洗う。
冷たい水がぼんやりとした私の意識をはっきりさせた。
絹布の手ぬぐいで顔をぬぐって鏡を見る。
「ひどい顔ね……」
泣き腫らした後がまだ残っている。顔も生気がなく、誰がこの女を見て聖女だと思うのか。自然とため息がでた。
聖女……昨日の事を思い出す。あれは夢だったのだろうか? それにしてはあまりにもはっきりと記憶がある。
私にはろくに聖女の力が備わっていないこと。そして信じられないが、武の神様は私に武の才能があるという。
私はついに狂ってしまったのかしら。
それでもいいと思う。もう私の未来は八方塞がりでしかない。今の状況を考えれば公爵令嬢でなければ私はとっくに死んでいたかもしれないのだ。
あまりに感傷的かもしれないが、しかしその考えは多分あっている自信がある。
私自身がそう考えてしまった程だから。
ジワリと目頭がまた熱くなる。もう一度水で顔を洗った。冷たい水が心地いい。
私は死にたくない。今死ねば私の人生は何だったのか。
道具入れから私ははさみを取り出した。
そして、腰まで伸ばしていた髪を肩の部分で切る。
私にとってこの髪は数少ない自慢だった。両親も好きだと言ってくれた。
王子殿下もかつては褒めてくれたことがある。
だから今の自分と決別するにはこれしかない。
切った髪は床に落ちて、頭が随分と軽くなってしまった。
鏡を見ると横に切ってしまったので、随分と不格好になってしまっている。
どうしようかな、と思ったが素直にベルを鳴らした。
控えているメイドがノックの後、すぐに私の部屋に入ってくる。
「ティアナお嬢様、御用でしょうか?」
メイドは頭を下げ、私を見ると驚きの顔で口に両手を当てた。
「お嬢様!? これは一体どうなさったのですか!」
その様子に少し申し訳なく思う。いきなりこんな光景を見たら驚くわよね。
「驚かせてごめんなさい、レイ。髪を切ったのだけど不格好になってしまって。整えてくれるかしら」
メイドのレイは私の足元に散らばった髪と、随分と短くなってしまった私の髪型をみて困惑するものの、すぐに気を取り戻した。
「あれほど大切にしておられたのに……、分かりました。こちらへ」
レイは私を鏡の前に連れてくると、瞬く間に私の髪を整えてくれた。
随分と不格好だったのに、短くても私に似合うように。
「ありがとう、レイ。流石ね。本当に手先が器用だわ」
私はお礼の言葉を言う。
「短い髪形も大変お似合いですよ、ティアナお嬢様。切った髪は処分してよろしいですか?」
レイの言葉に床に無残に散らばった私の髪を見る。
「ええ。掃除しておいて頂戴。私にはもう不要だわ」
レイは手際よく部屋を掃除してくれ、朝食の用意も間もなく整うと伝えて部屋を去った。
私をまた鏡を見る。
ずっと長い髪だったから随分と別人に感じてしまう。でもその方が私の心は軽くなった。
後は……武を収める? 武を収めるって何をすればいいのかしら。
朝食の席で、お父様に是非とも相談せねば。でもこの髪以上に驚かれるかもしれない。
そして朝食の場にて。
私を見た両親はなんと言葉をかければいいのかわからない様子だった。それでも最後には受け入れてくれたのだから、やはり私は愛されているのだと思う。
「それでお父様」
「なんだい、私の可愛いティアナ。何か欲しい物でもあるのかい」
「私、えっと……武術を習いたいの」
私の言葉はやっぱり予想外だったのだろう。真意を測りかねていた。
「武術かい。なぜ? ティアナの安全には気を配っているつもりだよ」
お父様は私が誰かの悪意で害されないように気を配っているのは知っていた。
気を使ってか私に言わないけれど、昨日神殿に行ったことも知っているだろう。
あの出来事を説明するのは難しい。
頭が変になったと思われても、話すべきか。
……話すのはやめた。お父様にこれ以上心理的負担をかけたくない。
わがままで通した方がまだ良いだろう。
「お願いお父様。難しいようだったらすぐに辞めるから」
「思えばティアナのお願いは随分と久しぶりだ……分かった。まずは警護の使用人に話を聞いてみなさい」
このところ元気のなかった私がわがままを言ったのが、少しうれしかったのかもしれない。お父様は快諾してくれた。
お母様は嫁入り前の体なのだからケガだけはしないように、と念押しした。
そういえば私の結婚はどうなるのかしら……あれ、引き取り手の殿方っていないのでは?
私は嫌なことに気づき、またショックを受けた。お家の危機だわ。
いつの間にか、私は部屋に戻ってきて寝てしまったのだろう。
はっきりしない意識のまま私は用意された水で顔を洗う。
冷たい水がぼんやりとした私の意識をはっきりさせた。
絹布の手ぬぐいで顔をぬぐって鏡を見る。
「ひどい顔ね……」
泣き腫らした後がまだ残っている。顔も生気がなく、誰がこの女を見て聖女だと思うのか。自然とため息がでた。
聖女……昨日の事を思い出す。あれは夢だったのだろうか? それにしてはあまりにもはっきりと記憶がある。
私にはろくに聖女の力が備わっていないこと。そして信じられないが、武の神様は私に武の才能があるという。
私はついに狂ってしまったのかしら。
それでもいいと思う。もう私の未来は八方塞がりでしかない。今の状況を考えれば公爵令嬢でなければ私はとっくに死んでいたかもしれないのだ。
あまりに感傷的かもしれないが、しかしその考えは多分あっている自信がある。
私自身がそう考えてしまった程だから。
ジワリと目頭がまた熱くなる。もう一度水で顔を洗った。冷たい水が心地いい。
私は死にたくない。今死ねば私の人生は何だったのか。
道具入れから私ははさみを取り出した。
そして、腰まで伸ばしていた髪を肩の部分で切る。
私にとってこの髪は数少ない自慢だった。両親も好きだと言ってくれた。
王子殿下もかつては褒めてくれたことがある。
だから今の自分と決別するにはこれしかない。
切った髪は床に落ちて、頭が随分と軽くなってしまった。
鏡を見ると横に切ってしまったので、随分と不格好になってしまっている。
どうしようかな、と思ったが素直にベルを鳴らした。
控えているメイドがノックの後、すぐに私の部屋に入ってくる。
「ティアナお嬢様、御用でしょうか?」
メイドは頭を下げ、私を見ると驚きの顔で口に両手を当てた。
「お嬢様!? これは一体どうなさったのですか!」
その様子に少し申し訳なく思う。いきなりこんな光景を見たら驚くわよね。
「驚かせてごめんなさい、レイ。髪を切ったのだけど不格好になってしまって。整えてくれるかしら」
メイドのレイは私の足元に散らばった髪と、随分と短くなってしまった私の髪型をみて困惑するものの、すぐに気を取り戻した。
「あれほど大切にしておられたのに……、分かりました。こちらへ」
レイは私を鏡の前に連れてくると、瞬く間に私の髪を整えてくれた。
随分と不格好だったのに、短くても私に似合うように。
「ありがとう、レイ。流石ね。本当に手先が器用だわ」
私はお礼の言葉を言う。
「短い髪形も大変お似合いですよ、ティアナお嬢様。切った髪は処分してよろしいですか?」
レイの言葉に床に無残に散らばった私の髪を見る。
「ええ。掃除しておいて頂戴。私にはもう不要だわ」
レイは手際よく部屋を掃除してくれ、朝食の用意も間もなく整うと伝えて部屋を去った。
私をまた鏡を見る。
ずっと長い髪だったから随分と別人に感じてしまう。でもその方が私の心は軽くなった。
後は……武を収める? 武を収めるって何をすればいいのかしら。
朝食の席で、お父様に是非とも相談せねば。でもこの髪以上に驚かれるかもしれない。
そして朝食の場にて。
私を見た両親はなんと言葉をかければいいのかわからない様子だった。それでも最後には受け入れてくれたのだから、やはり私は愛されているのだと思う。
「それでお父様」
「なんだい、私の可愛いティアナ。何か欲しい物でもあるのかい」
「私、えっと……武術を習いたいの」
私の言葉はやっぱり予想外だったのだろう。真意を測りかねていた。
「武術かい。なぜ? ティアナの安全には気を配っているつもりだよ」
お父様は私が誰かの悪意で害されないように気を配っているのは知っていた。
気を使ってか私に言わないけれど、昨日神殿に行ったことも知っているだろう。
あの出来事を説明するのは難しい。
頭が変になったと思われても、話すべきか。
……話すのはやめた。お父様にこれ以上心理的負担をかけたくない。
わがままで通した方がまだ良いだろう。
「お願いお父様。難しいようだったらすぐに辞めるから」
「思えばティアナのお願いは随分と久しぶりだ……分かった。まずは警護の使用人に話を聞いてみなさい」
このところ元気のなかった私がわがままを言ったのが、少しうれしかったのかもしれない。お父様は快諾してくれた。
お母様は嫁入り前の体なのだからケガだけはしないように、と念押しした。
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