3 / 13
ダンスは得意なんです
しおりを挟む
朝食が終わった後、お父様は早速使用人を手配してくれた。
私は普段ドレスを着ているのだけれど、流石にこれから体を動かすのだから動きやすい服に着替えた。
花の世話をするときの格好なのだけど、大丈夫よね。
メイドに案内された場所はどうやら普段は使っていない部屋のようだ。
広い部屋だが、余り物がない。
床には厚い毛布が敷かれている。
中には警備を統括している使用人の男がいた。
名前はボーテス。初老で決して体は大きくないが、凄みを感じさせる人物だった。
お父様は彼をとても頼りにしている。私の警護にもよく付いてくれていたわ。
顔こそ昔から怖かったが、彼が優しい人物なのは良く分かっていた。
「ティアナお嬢様、ようこそいらっしゃいました」
ポーテスは私に頭を下げる。
私を連れてきたメイドは壁へと下がった。
「旦那様より、護身術を習いたいとお聞きしております」
「ええ、そうなの。勿論ポーテスたちが普段守ってくれていて、それで安全なのはわかっているわ。でも……」
私が言いにくそうにしていると、ポーテスは言わなくても良いとでもいうように言葉を遮る。
「お嬢様を取り巻く環境は大変複雑で困難です。お嬢様自身が身の安全を守れるならそれに越した安全はないでしょう。旦那様もそう思ったからこそお許しくださったのでしょう」
ポーテスは私にそう言う。
随分と心配をさせてしまっていたようだ。私は本当に情けない娘ね。
「それで、お嬢様に教える内容ですが、ひとまず武器を扱うのは後にしましょう」
「そうなの?」
私が不思議そうに聞くと、鞘に入れた剣をポーテスが渡してきた。
思ったよりもずっと重くて、それを私はうっかり落としそうになった。
ポーテスは分かっていたのか柄を掴んだままにしていたので、落としても私が怪我をするなんて場面は無かっただろうけど。
「そう、剣を始め武器はこのように女性には大変重いのです。お嬢様では振れるようになるのにも時間がかかります。武器は持っても短剣まででしょうね」
「ええ、分かったわ」
本当に私に武の才能なんてあるのかしら……剣を振ることもできないのに。
「短剣の扱いもいずれ。お嬢様にはしばらく、ラーゲン王国流武体術を学んでいただきます」
「武体術?」
私が聞くと、ポーテスは右手を差し出してきた。
「お嬢様、私の手を握ってもらえますか?」
「握ればいいのね?」
良く分からないまま私はポーテスの右手を握る。
いや、違う。握ろうとした瞬間に膝が全く抵抗なく曲がり、私は膝立ちになっていた。
私は一瞬何が起きたのかわからなかったが、次の瞬間再び立ち上がった。自分の意志ではなく。
何かしらこれ。すっごく楽しいわ!
「不思議でしょう? 今のがラーゲン王国流武体術です。武器を一切使用せず、自分の肉体のみで相手を制する。護身に向いていて御婦人方が学ぶには最適です」
ポーテスは説明してくれていたが、私の頭の中は先ほどの不思議な体験でいっぱいだった。
私は彼の手を握っただけ。それなのになぜ私の膝が曲がったのかしら。
「ああ、手を握ったままでしたな。一度離します」
そう言ってポーテスが手を放そうとした瞬間、私は右手の手首を少しだけひねった。
ポーテスの体が少しだけ傾く。
「なっ!?」
「これ、ダンスみたいね」
何を隠そう、私はダンスがとても得意なのだ。
相手がどれだけ下手でもうまく合わせられる。
その時やっている動きに先ほどの動きはそっくりなのだ。
ポーテスはそんな私を唖然としながら見ている。
「これは……お嬢様、もう一度やってみてください」
「ええ、こうよね」
私はポーテスの手を握りながら、ポーテスの手の動きに集中する。
えいっ。
ポーテスは一切抵抗することなく地面に手をついた。
ああ、楽しいわね。これ。
「……天性の才」
ポーテスは滅多にしない驚いた顔で呟いた。
良かった。少しは向いているんだわ。私。
そのあとポーテスはなぜそうなるのかを細かく教えてくれた。
力には向きがあって、その向きに対抗するには同じだけの力が必要なのだけど。
その向きを優しく逸らすのなら力はほぼ必要ないのだそう。
ラーゲン王国流武体術を収めた達人は、たとえ老人になっても大柄の騎士を難なく投げ飛ばしたのだとか。
その時老人が言った言葉は、相手の力があるなら、最後には私の力は一切必要ない。
聞くば聞くほどに、私は向いていると感じた。
私に何の力もないのなら、相手に借りればいい。そう、そうなのね。
私は今日久しぶりに自分が聖女だったことを忘れて熱中した。
私は普段ドレスを着ているのだけれど、流石にこれから体を動かすのだから動きやすい服に着替えた。
花の世話をするときの格好なのだけど、大丈夫よね。
メイドに案内された場所はどうやら普段は使っていない部屋のようだ。
広い部屋だが、余り物がない。
床には厚い毛布が敷かれている。
中には警備を統括している使用人の男がいた。
名前はボーテス。初老で決して体は大きくないが、凄みを感じさせる人物だった。
お父様は彼をとても頼りにしている。私の警護にもよく付いてくれていたわ。
顔こそ昔から怖かったが、彼が優しい人物なのは良く分かっていた。
「ティアナお嬢様、ようこそいらっしゃいました」
ポーテスは私に頭を下げる。
私を連れてきたメイドは壁へと下がった。
「旦那様より、護身術を習いたいとお聞きしております」
「ええ、そうなの。勿論ポーテスたちが普段守ってくれていて、それで安全なのはわかっているわ。でも……」
私が言いにくそうにしていると、ポーテスは言わなくても良いとでもいうように言葉を遮る。
「お嬢様を取り巻く環境は大変複雑で困難です。お嬢様自身が身の安全を守れるならそれに越した安全はないでしょう。旦那様もそう思ったからこそお許しくださったのでしょう」
ポーテスは私にそう言う。
随分と心配をさせてしまっていたようだ。私は本当に情けない娘ね。
「それで、お嬢様に教える内容ですが、ひとまず武器を扱うのは後にしましょう」
「そうなの?」
私が不思議そうに聞くと、鞘に入れた剣をポーテスが渡してきた。
思ったよりもずっと重くて、それを私はうっかり落としそうになった。
ポーテスは分かっていたのか柄を掴んだままにしていたので、落としても私が怪我をするなんて場面は無かっただろうけど。
「そう、剣を始め武器はこのように女性には大変重いのです。お嬢様では振れるようになるのにも時間がかかります。武器は持っても短剣まででしょうね」
「ええ、分かったわ」
本当に私に武の才能なんてあるのかしら……剣を振ることもできないのに。
「短剣の扱いもいずれ。お嬢様にはしばらく、ラーゲン王国流武体術を学んでいただきます」
「武体術?」
私が聞くと、ポーテスは右手を差し出してきた。
「お嬢様、私の手を握ってもらえますか?」
「握ればいいのね?」
良く分からないまま私はポーテスの右手を握る。
いや、違う。握ろうとした瞬間に膝が全く抵抗なく曲がり、私は膝立ちになっていた。
私は一瞬何が起きたのかわからなかったが、次の瞬間再び立ち上がった。自分の意志ではなく。
何かしらこれ。すっごく楽しいわ!
「不思議でしょう? 今のがラーゲン王国流武体術です。武器を一切使用せず、自分の肉体のみで相手を制する。護身に向いていて御婦人方が学ぶには最適です」
ポーテスは説明してくれていたが、私の頭の中は先ほどの不思議な体験でいっぱいだった。
私は彼の手を握っただけ。それなのになぜ私の膝が曲がったのかしら。
「ああ、手を握ったままでしたな。一度離します」
そう言ってポーテスが手を放そうとした瞬間、私は右手の手首を少しだけひねった。
ポーテスの体が少しだけ傾く。
「なっ!?」
「これ、ダンスみたいね」
何を隠そう、私はダンスがとても得意なのだ。
相手がどれだけ下手でもうまく合わせられる。
その時やっている動きに先ほどの動きはそっくりなのだ。
ポーテスはそんな私を唖然としながら見ている。
「これは……お嬢様、もう一度やってみてください」
「ええ、こうよね」
私はポーテスの手を握りながら、ポーテスの手の動きに集中する。
えいっ。
ポーテスは一切抵抗することなく地面に手をついた。
ああ、楽しいわね。これ。
「……天性の才」
ポーテスは滅多にしない驚いた顔で呟いた。
良かった。少しは向いているんだわ。私。
そのあとポーテスはなぜそうなるのかを細かく教えてくれた。
力には向きがあって、その向きに対抗するには同じだけの力が必要なのだけど。
その向きを優しく逸らすのなら力はほぼ必要ないのだそう。
ラーゲン王国流武体術を収めた達人は、たとえ老人になっても大柄の騎士を難なく投げ飛ばしたのだとか。
その時老人が言った言葉は、相手の力があるなら、最後には私の力は一切必要ない。
聞くば聞くほどに、私は向いていると感じた。
私に何の力もないのなら、相手に借りればいい。そう、そうなのね。
私は今日久しぶりに自分が聖女だったことを忘れて熱中した。
0
あなたにおすすめの小説
婚約者を奪った妹と縁を切り、辺境領を継いだら勇者一行がついてきました
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
聖女の私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
重田いの
ファンタジー
聖女である私が追放されたらお父さんも一緒についてきちゃいました。
あのお、私はともかくお父さんがいなくなるのは国としてマズイと思うのですが……。
よくある聖女追放ものです。
聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
2025/9/29
追記開始しました。毎日更新は難しいですが気長にお待ちください。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました
毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作
『魔力掲示板』
特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。
平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。
今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる