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3 巻き込まれ事故
しおりを挟む『ねえ、何しているの?』
その声の方へ振り向く。そこには茶色の髪の男の子がいた。
『えーとね、はなかんむり作ってるの!!おとうさんとおかあさんにあげるんだ』
『そうなんだ』
その声はそっけなく、その男の子は羨ましそうに花冠を見ているような気がした。
『……このはなかんむり君にあげるね!!』
『え…?いいの?』
その男の子の顔は戸惑った表情の中に嬉しそうな感情が紛れているように見えた。
『いいよ!おとうさんとおかあさんには明日つくるからだいじょうぶだよ!』
『ほ、ほんとう?』
『うん!』
そういうと男の子はパッと笑顔になって嬉しそうに冠を頭にのせた。
『ずーーっと大事にする!ありがとう!』
◇
やけに懐かしい夢だったなと思いながら起き上がる。確かに夢の出来事は幼少期に実際にあったはずだ。確か4歳くらいだった気がする。
急いで支度を整えて学校に行く準備をする。寮から行く途中で母への手紙を投函しに行くため、毎日早くに出かけている。時間に余裕がない。
少しばかり歩いて、前世とは違う落ち着いた緑色の丸いポストに手紙を入れる。緑は精霊の加護をイメージしたものだ。ちなみに、この国は精霊の"加護を受けている人が多い"というだけで全員が精霊の加護を受けているわけではないらしい。加護があったらラッキー感覚だと1年間住んでいた村のお姉さんの言葉を思い出す。
「精霊か。どんな見た目してるんだろ?かわいい羽の生えた小人だったらいいけど」
色々と想像しながら学校への道を歩く。小動物みたいでもいいなぁ…なんて
門の前に着くと、人だかりが出来ていた。朝から誰かが喧嘩でもしているのだろうか。
「………だから!!私はそういう事を言っているわけではございません!!」
クリスティーナの声だ。どうしたんだろうか
人混みを掻き分けて覗くと、王子と女の子達vsクリスティーナが起こっていた。完全にクリスティーナ不利じゃん…ていうか、一人の女の子と複数人で言い合うって…
周りの聴衆も何もせずに…ってこの状況を楽しんでるな、これ
周りの目には、演劇の一部にでも見えているのだろう
「でもさ、君が嫉妬してリネットやベイルローズ、ダリシャに嫌がらせしているって聞いたよ。しかも、権力を誇示して言いがかりをつけるだけでなく、ヴォナ侯爵の力を使って家にも圧力をかけているとも」
「断じてしておりません。まさか殿下は婚約者の私よりも彼女達を信じるとでも?」
「ハッ…どの口が言ってるんだか」
クリスティーナはその無責任な言葉に対して少なからず憤りを感じているだろうに我慢している。聴衆は気づいていないだろうが、クリスティーナが手を強く握り締めてしまっている。血が滲む程に。
王子の遊び癖がどうかは知らないが、きっとこれまでも我慢していたのだろう。
「貴方はこの国を担う者でしょう?ならそれ相応な人選びをしませんと」
「何だと…?彼女達が不相応だと?」
殿下はキレて圧力のある声で言う。こんな人の目がある場所で婚約者にそんな態度をするなんて、腐った男だ。
クリスティーナは覚悟を決めたような顔をして殿下を強く見つめ直す。
「ええ、そう言っております。そんなアバズレ女等に王妃が務まるわけがありませんわ」
ハッキリとクリスティーナが言う。その声は恐怖を隠した威厳ある立派なものだった。しかし、そんなクリスティーナの覚悟に対し殿下は完全にキレたようで、顔を赤くして拳をつくって今にも殴りそうである。
「ほう、言うじゃないか。だが、俺が誰だか知って言っているのだろうな」
「ええ!私は下半身がふしだらな王子に向かって言っておりますわ!」
その言葉に聴衆から噴き出す声が聞こえた。
「っ……この!!」
怒り任せに王子がクリスティーナを殴ろうと右腕を振り上げた。
私は咄嗟に二人の間に入る。
門のあたりにパンッと盛大に音が鳴った。
「リン…!」
何故か、目の前ギリギリで拳を受け止めていた。獣人の身体能力があってよかったと今更ながら思う。
私の名前を呼ぶクリスティーナの声は震えていて、目には僅かだが涙を浮かべていた。
「貴様は誰だ!私が誰か知っていての行動だろうな!!」
完全にキレている殿下が大声で私を問い詰める。これが、次の王か…この国も危ういなぁ
「……私はクリスティーナ様に雇われている者です」
「雇われているだと?」
「ええ。それ以上でも以下でもありません」
殿下…もとい、クソ野郎は私をじろじろ見たのち、クリスティーナを馬鹿にしたように見て
「お前も大概ではないか。よく私に言えたものだ」
と鼻で笑いながら言った。
「「 は? 」」
私とクリスティーナの声が重なる。
まさかこいつ…私を男だと思ってやがる
服装は確かにズボンだし、ハイヒールを履いているので背はクソ野郎と同じくらいだし、顔は中性的。それに胸は…まな板か。これか。クソ野郎はこれで女を判別しているのか?
若干キレ気味で私が思っていた事を全て察知したのか、クリスティーナが笑いそうになっている。
「…すみませんが、クリスティーナ様に用があるので失礼させていただきます」
まずい、このままだとクリスティーナが噴き出すし、私が爆発する。
「おい待て、まだその女の狼藉を許していな…」
その場から逃げた。
◇
「ありがとう。私に付き合ってくれて」
保健室でクリスティーナの手の怪我を治していた。
「いえ、私も流石に見過ごせなかったので」
「そうね…それに、貴方が私の浮気相手とも……ふふふ」
流石にあれは酷い。私は女だ
「まぁ、背が高めですし、力も強い方なので仕方ないです」
「そうね、でも私はカッコよくて羨ましいわ」
「そうですかねー」
ふとクリスティーナが俯いているのに気づく。
「ねぇ、リン。貴方は前世って信じる?」
「まぁ……」
そりゃ、体験者だし
「私ね、前世の記憶があるの。この話、聞いてくれる?」
「……分かりました。ですが、その前に私から言わなければならない事が出来ました」
クリスティーナはきょとんと私を見る。流石にこのまま言わないのは気持ちが悪い。
「私にも前世があります」
「え!!?」
驚いて大声を上げるクリスティーナを見ながら続ける。
「ですが、前世とは関係なく今の人生を送っているつもりですし、記憶もあまり残ってなくて」
だが、一概にそうとも言えない。私の今までの境遇は、前世の私がいなければ乗り越えれていなかっただろう。
「そうなの…」
「はい、黙っていてすみません」
「ううん、私も言ってなかったし、何より仲間が出来たみたいで心強いわ」
そう笑ってくれるクリスティーナはいつにも増して輝いていた。
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