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悪役令嬢の宿命
しおりを挟む私が記憶を取り戻したのは、7歳の婚約者とのお見合いだった。
「初めまして、僕はリベル。よろしくね」
そういう私の将来結婚するであろう綺麗な男の子を見た時、頭の中で様々な記憶がフラッシュバックし、あまりの情報量と驚きにより倒れてしまった。
結局、その日は私が倒れて意識を失った為にお開きになった。
「この世界は…ギャルゲーの世界…?」
前世の頃、中高と女子校に行っていた私は、異性との出会いも無きまま事故でこの世を去った。前世の私はゲームと二次元の女の子を眺める事が好きだった。
そんな私が亡くなる直前までしていたゲーム、それこそがこの世界だった。
大好きな神絵師によって産み出されたキャラが苦難に立ち向かって行くノベルゲーム。絶望を経験した王子が何度も立ち上がり、どんな壁も諦めずに乗り越え、メインキャラ達と魔女を倒して行く内容は涙無しには見れなかった。
主人公はこの国の王子。幼い頃に母と共に事故に遭い、6歳まで孤児院で院長に酷い扱いを受けながら育ってきた。そんなある日、行方不明の自分の息子を探しに孤児院に王様が来る。王子としての生活を強いられて私と婚約するも、自分の事が嫌いな貴族の手によって魔女退治に行かなければならなくなる。が、その道中で運命の人に出会い、愛を知るのだ。
そう…真実の愛を…
というのが"ゲーム“の話である。
その中で私は王子の婚約者であり、平民として育った王子を嫌って虐める悪役令嬢だ。最終的には魔女を封印した王子の手によって断罪され、殺される。
「そんなのは嫌!!何とかしなきゃ…」
そう思ってから早5年、12歳になった私は今日も王子のわがままに付き合っていた。
何を思っているのか、私を皇居に呼び出しては大声で騒ぎ立てて暴れ、私を罵倒する。ゲーム内の王子の影すら見当たらない。
というのも、初めから狂っていたのかもしれない。
そう、王子は孤児院育ちでは無かった。王妃は事故に遭う事なくずっと健在で、国王夫婦の愛情を一心に注がれた王子は完全な我儘クソ王子になっていた。
お父様に頼んで婚約解消を何度も頼んだが、却下されている。私の父は王家との繋がりを作る事に必死なのだろう。私を政治の道具としか思ってない。
どうしようもない日々に絶望仕掛けていた時だった。寒い冬の日、道で蹲っている小さな子供を見つけたのは。
ただの直感だったが私はこの子は助けたいと思い、家に連れて帰って綺麗にした。洗って綺麗にした頭からは耳が、後ろには尻尾生えており、すぐに獣人だと分かった。
「貴方、名前は?」
何か言葉を発しようとしても声が出ないのか、口をパクパクした後に首を振った。
「そう…ないのね。なら私がつけてあげるけど…いい?」
その言葉にコクコクと首を振る。
「そうね、貴方の黒い髪に黒い瞳は私の住んでいた日本を思い出すから…ウメ!どう、ウメ?」
名前が気に入ったのか尻尾を振っていおり、その姿が可愛くてこちらも嬉しくなる。
それからはほぼ毎日ウメと過ごした。知識を吸収するスピードは素晴らしく早く、運動神経もとても良かった。
何か成功するたびに「天才だわ!!」と私が叫ぶくらいである。
そんなウメと過ごしていたある日、私は不埒な輩に襲われてしまった。
原因は、王子が今人気のケーキを直接店に行って買って来いと命令した為に街に行く事になった為である。
「おいおい、暴れるなよ~。嬢ちゃんは良い値段で売れそうなんだからよ~」
「は…なしなさいっ」
そう言って必死にもがくが大の大人には到底敵わない。もうだめだ…そう思った時、黒い影が視界に端に映った。何だ?と思っているうちにその男は呻き声を上げて倒れた。
「……間一髪…助かりましたの?」
最初はボーゼンとしていたが、ハッとして大の男の方を見るとウメが男をボコボコにしていた。
「う、ウメ?」
「なに?」
そう言った顔はいつもの可愛いウメだった。しかし、顔からしたはかなりグロテスクで上下でギャップが激しくなっている。
その顔を見ながら考えた。いくらでも言える言葉や表す態度はある。罵倒、叱責、私の恐怖など…だが、ここでそのような言葉をかけて良いのだろうか?この子はまだ小さい子供。
きっと襲われている私を助ける為にしたのだろう事は一目瞭然だった。
「ウメ…ありがとう」
その言葉と共にニコッと微笑んで抱きつく。
その体は小さかった。
ウメも最初はびっくりして驚いていたが、嬉しそうに抱きつき返してきた。
「うんっ!」
そんなこんなして、ウメは護衛として役に立つと思った父が専属メイドとして私につけてくれた。
そして、私は覚悟し、この世界の思い通りになるかと、あの王子に断罪されてたまるかと再度強く思った。
14歳。学園にはあと1年も経たないうちに入る事になるのだが、王子は女遊びとやらを覚えたらしい。私は不埒な輩に襲われてから、一生懸命努力した。周りとの人間関係はもちろん、高位貴族のご令嬢との交流も深めていった。王妃教育は、王妃様にも褒められるくらいまで上達した。しかし、王子だけはどうにもならなかった。
王子からの手紙を開ける。
"体調が悪い為、会うのはまた今度にしよう"
王子ではない筆跡で書かれていた。私はため息を吐く。
「またなの……」
体調不良というのは言い訳で、今のお気に入りの女の子とのデートでもするのだろう。
その日の晩餐、私は父に怒られた。父は王子の心を射止めろという。毎回毎回同じような内容で怒って飽きないのだろうか。
最初頃は、何とかしようとはした。しかし、私ではどうにもならない事が分かってからは極力悪く思われないよう振る舞うだけにしている。こんなやつに断罪されるなんてたまったものじゃない。
そうして迎えた学園生活での王子も早々に見目麗しい令嬢達を連れ始めた。
彼女達には見覚えがあったので、攻略対象者だろう。
「でも、攻略対象者って4人じゃなかったっけ?」
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そうして私は、木の上にいる女の子との出会いを果たしたのである。
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