10 / 19
6 父の手掛かり
しおりを挟むお昼休み。
今日の私は木の上で日向ぼっこの最中だ。この学校に来てからもう半年、いい思い出が多くて我ながら驚く。
まさか、王子の婚約者に教師になってくれ何て言われて挙げ句の果てにはお助けキャラになるなんて。
「まぁ、お助けキャラっぽい事は何もしてないけどな」
今までしたとすれば…
王子の足音が聞こえたら素早くクリスティーナに知せたり(獣人の耳のお陰)
去年知り合った鑑定士を紹介したり(何でも私物を売りたいんだとか)
友達の薬師から貰った薬をクリスティーナに売ったり(婚約の座を狙う令嬢によって薬が盛られるだとか)
…思ったより役に立ってるな。
それに、本当のこの学園に来た意味は父の行方を探す為だ。
しかし、こっちの方は中々進まない。ウメにも協力を頼んだが、そういう類の噂話は聞かないと言われた。
「どうしたもんか…」
木の下辺りでガサっと音がした。
みると、学園の生徒らしき人が2人コソコソと会合をしていた。
「……見つ……か?いや、いい素材……な……」
悪巧みでもしているのだろうか。
しょうもない悪戯ならいいが、タチの悪いイジメや嫌がらせならあまりよろしくはないだろう。
こういう時に便利な耳が私にはあるのだ。
隠していたケモ耳をピョコッと出してさっきの声を聞き取る。
「おい、依頼はどうすんだよ」
「そりゃ行くに決まってんだろ、主人からの命令のようなものじゃないか」
「ケッ、こんな趣味の悪いのを受けなきゃならないなんてなぁ」
「まぁ、獣人を見つけて持っていくだけで金貨500枚だぜ。こんなにもおいしいもんはねえよ」
「んじゃま、行きますか。今回はこの国に獣人が来てるらしいから、そこの辺り狙いでいくか」
そう言って男達は去っていった。今すぐにでも飛びかから無かっただけ偉いと思う。
まさか、獣人攫いを稼業にしている輩がいるなんて…
獣人は一般の人よりも極めて身体能力が高い。それに、魔法を持っている可能性もあるので今までさらう者はいなかった。返り討ちにされるからだ。
それに獣人国の人間は戦後以降、基本国から出る事はない。
外で自分達がどういう風に思われているか知っている為だ。獣人も単体の力は強くても、集団には勝てない。それに、人間よりも集団行動を意識しやすいので、周りの国民からの圧もすごい。
私の父のような例外の獣人くらいしか今は他国にはいないはずだ。
と言う事は、獣人を捕獲している奴らは何か秘策でもあるのかもしれない。それに、私の父巻き込まれている可能性が高い。
◇
昨日の男達の顔は覚えておいた。
私の一つ上、2年C組のレイジ先輩とリュカ先輩だ。
彼らは今、獣人を探している。となると私が捕まって内部に入るのが一番早いのだが、相手を知らない以上下手に手を打てない。
まずは情報収集だ。
クラスの人やクリスティーナに聞いて分かった事は、
平民出身の学生だそうで、成績は中の下だが体育の成績はかなりいいらしい。
街の何でも屋を二人で営んでいたとか。
基本、二人で行動しており幼馴染のような関係らしい。
気になるのは何でも屋だな…
今日の昼休みには、2年生の教室に行ってみよう。
「えーっと…」
2年生の階に来たものの、クラスの配置が1年生と違うので分からない為探さなければならない。
「わっ!!」
「うぉ!!」
つい、キョロキョロしていたので不注意になっていた為に曲がり角でぶつかってしまった。
「すみません」
慌てて頭を下げる。先輩で、尚且つ貴族の可能性が高いので不満を買ってしまうととてもまずい。
「いやいや、こっちも悪かったからさ。嬢ちゃんは大丈夫?」
顔を上げると、そこには私が探していた対象のリュカ先輩がいた。手を差し出してくれていたので素直に受け取る。
「い、いえ大丈夫です」
思ったよりも親しみやすい?のか。いい人そうなオーラを出しているが、逆に怪しくなってくる。
「ん?もしかして、1年生?」
「あ、はい。1年C組のリンといいます」
「リンちゃんか、かわいい名前だね。名字が無いって事はもしかして平民?」
「はい。もしや、先輩も平民なのですか?」
「おう、俺はリュカ。2年C組だ」
その後も少しばかり平民話で盛り上がり、別れた。貴族率の高いこの学園ではやはり、平民同士親しみやすい。
思ったよりも簡単にコンタクトが取れた。
その日の放課後は授業の日だった。
「今日の授業を始めます」
「はい!」
もう何回目かも分からないくらい授業は続いており、何かとトラブル無しで済んでいる。
でも、クリスティーナを王子の護衛が呼びに来た時はヒヤッとしたけど。
「獣人には、人間と違う点がありました。何でしたか?」
「魔力を持てる事と身体能力が高い事です」
「個人差はありますが、基本そうです。しかし、もう一つあるんですよ」
あまり他国では知られていないが、獣人にはもう一つの習性がある。
「番制度があるんです」
「つがい?」
「ええ、運命の相手とでもいうんですかね。番を結ぶとその人としか結婚出来なくなるんですよ」
より詳しく説明すると、
番は、獣人特有のフォルモンをお互いに擦り付ける感じで行うとなれる。そして、一度番ってしまうとその相手以外とは結婚出来ないので、よく幼少期に遊び半分でなった番が問題になったりする。番の解消はかなり難しいのだ。
そして、もう一つ。運命の番というものがある。
運命の番とは、遺伝子レベルで結婚すべきって感じのやつだ。それ以上説明しようとしたらウメの教育上悪い。
「こんな感じかな。強い結婚の誓いって感じだよ」
「そうなんだ、私にもいるのかな?」
「うーん、ウメからは他のフェロモンは感じないから大丈夫そうだけどね…専門家じゃ無いからちょっと分かんないけ」
「そっか。じゃあ、リンにはいるの?」
やっぱり聞かれるよなぁ…。私も番については父伝いだから今はどうか知らないので、もしかするともう勝手に解消されているかもしれないが、いる。
少し、気まずげながら小さく頷く。
「い、いるんですの!???」
「ま、まぁ…」
「どんなお方なのですか?」
ウメから聞かれたはずなのに、クリスティーナがすごい食いついて来て質問攻めにされる。
「幼少期に結んじゃったやつだから……あんま…」
「リンは、その人の事は好きなの?」
小さい子の意図しないグサっとくる言葉が来た。50のダメージと麻痺をくらった気分だ。
「ゔ……好きだよ。一応…」
その後、質問攻めにされる前に無理あり切り上げて終わらせた。
危ない。年頃の女の子には好きな話題だったか。
◇
「あ…!」
授業の終わりにクリスティーナが声を上げる。
また質問攻めが再開するのかと身構える。
「そうですの!リンに聞かれた、レイジ先輩とリュカ先輩についてなのですが」
あ、そっちか。
「思い出したのですが、そのお二人は私の家が推薦してここに来ていますの」
「そうなのか。何故なのかとか分かったりする?」
「すみませんわ…そこまでは。お父様の管轄ですので」
お父様という言葉にウメが反応して嫌悪を露わにする。もしかすると、親子間はあまり良くないのかもしれない。
「すまない、変に深く聞いてしまって」
「いえいえ、大丈夫ですわ。あまりお父様と仲良く無いのは仕方ないので」
0
あなたにおすすめの小説
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
悪役令嬢に転生しましたが、全部諦めて弟を愛でることにしました
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したものの、知識チートとかないし回避方法も思いつかないため全部諦めて弟を愛でることにしたら…何故か教養を身につけてしまったお話。
なお理由は悪役令嬢の「脳」と「身体」のスペックが前世と違いめちゃくちゃ高いため。
超ご都合主義のハッピーエンド。
誰も不幸にならない大団円です。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
小説家になろう様でも投稿しています。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる