BL短編まとめ

やきとり

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失敗は成功のもと

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「これが今回の試作だ、いつも通りよろしくな」
「わかった。任せとけ」
「レポートは明日までに所感を提出してくれ。ヒアリングは明後日の予定だ」
「オーケー。あー……そうだ、今日はA室空いてる?」
「ああ、空いてる。運が良いな、ゆっくり過ごしてくれ。何か問題があったら言えよ。遠慮はいらない」
「はいはい、わかってるよ」
 と言いながら、俺は同僚に背を向け足早にA室へと向かった。遠慮したい気持ちはある。俺がやるのは、精力剤のモニターなんだから。あくまで業務の一環だし、初めてでもないが、どうにもこの言葉だけは素直に聞き入れづらかった。

 モニター用に準備されている各部屋は、一見してビジネスホテルの一室のようだが、いかがわしい映像を自由に見られる設備が整っている……いわゆるビデオ試写室に近い。シャワールームも併設されたA室は他の部屋よりも設備が充実していて、何よりオカズとして用意されているものが好みに合っている。今日は疲れも溜まっていたから、空いていて本当に良かった。自宅のものよりも座り心地の良いソファに腰掛け、いつものように試作品を服用し効果が出るのをを待つ。
 服用後数分が経過して、身体が温かい感じがしてくる。違和感が生じたのは、どれで抜こうかDVDの並んだ棚の前で悩もうというところだった。
「あれ……?」
 いつもならとっくに反応しているはずの股間が何も変化を見せていない。改めてソファに戻り、ズボンの前を寛げ、下着の上から撫でてみる。
 ――半勃ちにもなっていない。時間的には完全に勃起している頃なのに。
 失敗作だろうか、けれど、身体は火照って仕方がない。いつも熱くなる場所よりも、下……というか、奥……?が疼いているように思えるから、全く効果がないわけでは無さそうだ。
「うーん……」
 この段階で同僚にヘルプを求めるのは早い気がした。俺の下半身事情はレポートという形で普段から共有されているとはいえ、文章や口頭で伝えるのと現場を見られるのでは大違いだ。できる限り避けたい。もう少しだけ様子を見ることにして、意識的にリラックスをして待つことにした。


「はぁっ、はっ、ぅ…………なん、だよコレ……っ」
 数分後、俺は仰向けでベッドに寝転びながら、今まで感じたことのない昂りを持て余す羽目になっていた。これ、無理だ。自分でどう対処したものか全くわからない。恥ずかしいだの何だのという思考は追いやられて、ベッドサイドの緊急時用電話に手を伸ばす。背に腹は代えられない、一秒でも早くこの状況から脱したかった。
「……あっ!俺だ。今回の……っ、なんか、おかしいぞ。助けてくれ、頼む」
 通話を切り、ぼーっと天井を見つめる。助けてくれとは言ったが、助ける術などあるのだろうか。毒……ではないけれど、解毒剤みたいな物でも持ってきてくれるのかもしれない。そんなことを考えていると、個室のドアがガチャリと音を立て同僚が入ってきた。
「どうした、何があった?」
「いつもみたいに勃たなくて……でも、身体が、あつい。辛いんだ、何とかしてくれ」
「……新しく入れた成分が良くなかったか……?とりあえず見せてみろ」
 そう言ってこちらに向かってくる同僚は、至って真面目な顔つきだ。……待て、いま、見せろって言ったか?
「えっ、な、何……うわ、やめろ!」
「大人しくしろ。何とかしろと言っていたのはお前だろう」
「だからって、オイ……っ、あ!」
 あっという間に下半身からは下着もろとも衣類を剥ぎ取られてしまった。身体にうまく力が入らず、抵抗することもできなかった。同僚はまじまじと俺の股間を……萎えたままの性器を見つめる。いくらなんでも気まずすぎる。
「触るぞ。……ああ、確かに兆してもいないな……。こっちはどうだ、何か感じるか?」
「っひ、……んんっ……やめ、そこ、ダメだっ」
 触れられたのは玉と肛門の間あたり。指で優しくくすぐるみたいな動きが、何とも言えずもどかしい感覚を伝えてくる。
 俺の反応を見た同僚は、なるほど、と呟き納得顔をしている。一体何がどうなっているのか、聞く余裕は無かった。
「前立腺の方に作用したんだろう。外から触ってこうなら、内側から擦れば解消できるかも知れない」
「ぜんり、つ……うちがわ……?」
「ああ、お前こっちの知識はないのか。多少は驚くかも知れないが、俺に任せておけ」
「ん、ああ……なんか分からないけど、頼む……」
 見られて、触られて。こうなったらもう、気にしても仕方がない。イマイチついて行けてないが、流れに任せる以外にどうしようもなかった。


「えっ……どういうこと」
 任せろと言った同僚は、部屋の隅にあるラックから何やら取り出してきた。ベッドに乗り上げ、手に持っているのはローションとコンドーム。一体、なんだってそんなものを持ち出してくるのか理解が追いつかない。
「言っただろ、内側から擦ると。とりあえず、解していくから力を抜いていろ」
 仰向け状態は変わらないまま、膝を曲げ脚を開かされた。急所どころか尻の穴まで、相手に見せ付けるような体勢に耳まで真っ赤に染まっている気がした。恥ずかしいなんてもんじゃない。
「ゆっくり息吐け、入れるぞ」
「……うっ、……きもち、わる……」
 粘度の高そうなローションを指に纏わせた同僚は、俺の尻の穴にぬるりと中指を侵入させた。ひどい異物感が襲ってくる。何も入れたことの無かった場所だが、痛みは無かった。
「キツイな……少し、時間がかかりそうだ」
 指を一旦抜き出して、穴の縁をなぞったり軽く押したりの動きに変わる。不快感はなく、最初に触れられた時のようなもどかしさが、だんだんと心地よさに変わってきている気がする。やっぱり身体はあつくて、頭がぼんやりしてくる。
「なあ、おれ、……どうなったんだ……?」
「心配するな、作用した場所が違っただけだ。ただ、経験がないなら所感の言語化も難しいだろう。効果は詳しく知りたいから、俺も手伝うことにした。お前は感じたことがあれば伝えてくれ、今回でヒアリングも兼ねる」
 感じたことを、伝える。……今、されて感じていることを、そのまま……?
「そんなっ、できるかよっ!恥ずかしいだろ!」
「何を言ってる。これも仕事だぞ、ちゃんとやれ」
「うっ……だって、これ失敗作だろ……?」
「性的興奮はあるんじゃないのか?」
「あ…………」
 確かに、ムラムラしてはいる。身体の中で熱が燻って、解放を求めていること自体は否定できない。
「あるだろ?今回はペニスに作用してないだけだ。レアケースだが、それなら寧ろ詳細に知る必要がある」
 あまりにも真剣な様子に、反論なんかできなかった。ここは、腹を決めるしかないか……。
「っ、わかったよ、できるだけ伝えるから」
「分かればよし。……とりあえず、ここはどうだ?」
 また、玉と穴の間くらいを触られる。撫でられたり、軽く押されたり。不快感はなく、少しずつ言葉としてまとめられる程度には集中できてきた。
「なんか、ふわふわする……ぁ、きもちい、かも」
「作用している部位は、間違いないようだな」
 次はこっちだ、と、再び尻の穴に指を入れられる。少しマッサージされたからか、最初よりもすんなり入って来ているのが分かった。
「うう……そこ入れんのは……やっぱ気持ち悪い……」
「そのうち慣れる。しばらく待つか」
 出し入れするのではなく、ゆるやかにぐるりと回したり、中で軽く指を曲げられたり。どんな動きをしているのか、思ったよりはハッキリと感じる。
「……んっ!?……ちょっ、ぅあっ……ぁ」
「良い反応だな、ここが前立腺だ」
「なんかっ……ぞわぞわする……っ、や、とめろ、いやだ……っ」
 言葉にするどころか、ただの呻きとか喘ぎしか出なくなりそうで。情報量が、多すぎる。
「すこし、解れてきたな。指増やすぞ」
「んぁっ!ぅ、うう~っ……くっ……ぁ……」
 圧迫感。異物感。穴が拡げられる感じ。それよりも、さっきの腰から背中が甘く痺れるような未知の感覚がまだ、残ってる。
「いい具合だ。もう少しで……ああ、こっちも触っておくか」
「あっ、あ、うぅ……んっ、……ふ、ぅ」
 いつの間にか、萎えていた性器も一緒に弄られている。上下に擦られて少し勃ちかけてはいるし、気持ちいいけれど、意識は自然と後ろの方にいってしまう。いつもと違う快感に、慣れた快感が追いやられてしまう。こんなの、感想とか、無理過ぎる。
「ここまで入れば、いよいよだな」
 さらに指が増やされ、バラバラに動いたり、拡げるように開いたり。始めたときでは考えられないくらい、穴が異物を受け入れられるようになっているのは確実だった。
「は、ぁ……こんなことして……っ、あと、どうすんだよ」
 嫌な予感は、してる。というより大体想像がついてる。けど、できれば俺の想定よりはマシなものが出てきてほしい。
 そんな願いも虚しく、結局返ってきたのは最悪な回答だった。
「決まってるだろ。俺のペニスを、解したここに入れるんだ。いわゆるアナルセックスだな」
 目の前が、真っ暗になった。
 ……こんなにも、夢であって欲しいと願ったことがこれまでにあっただろうか。


「ほんとに、お前のが入んのか……?」
「そのために解したんだろ、とにかく安心して俺に任せろ」
 四つん這いで相手に尻を向けている状態で、往生際が悪いのはわかっている。それでも、今からこれが入るんだと見せつけられた勃起状態の性器は、あまりにも大きく見えた。
 そもそもなんで完勃ちしてんだよ、と問えば「勃起するのは得意だからな。モニターとしての意味を成さないから、俺はデータ収集業務に回されたんだ」と返され、思わぬところで同僚の人事について知ったのだが、今はそれどころじゃない。とはいえ逃げ場もない。試作の効果だってしっかり持続していて、俺の意思に反し前立腺とやらは熱く、触れられるのを待っている気がした。はやく、この熱を開放してやりたい。
「あー!もう、ひと思いにやってくれ……!」
「言われなくとも、やってやるさ」
 そう聞こえてすぐに、先端が穴にくっつけられた。ああ、ダメだ。しっかり解された穴は入り口として機能する気マンマンだ。受け入れようとひくついてるのがわかる。中に押し込まれるのを今か今かと待ってる。
 くちゅ、と卑猥な水音と一緒に熱いものがゆっくりと侵入してきた。
「うっあ……ぁっ、あぁ……っ」
「飲み込むのが上手いじゃないか。ほら……ここ、擦ると気持ちいいだろ?」
「やっ、あ、そんな、……っ、やだ、とまれ……っ」
「じゃあ、このまま当てておくか」
 そう言って同僚は動きを止めた。前立腺のすぐそばに、ペニスが触れている。他の部分に動きがないぶん、余計に意識が行ってしまう。
「んんっ……あぁ……」
 熱だけは感じるのに、もどかしい。激しくされたい、足りない、そう思うのに、言ってしまったら負けな気がして。
「……しっかり勃ってる。もともと素質があったのかもしれないな」
「えっ!?……あ、あっ、うぅ……んっ」
 性器を擦られて、思わず後ろにも力が入る。そのせいで相手のペニスの存在感が増してしまう。本来は俺のモノだって入れるためにあるのに、今はただ快感を受け取るためだけの存在になってる。情けなくて泣き出してしまいそうだ。
「締め付け、もう少し……ゆるく出来ないか……っ、…………ん、どうしたんだ?」
 どうやら堪えることは出来なかったらしい、嗚咽を漏らす俺に、同僚は素直に疑問を投げかける。弱音だって、抑えておけそうもない。
「っ……おれっ、おとこ、なのに……こんな、……でも、うしろ、きもちいから……なんでっ、こうなんだよ……!」
 口に出したら余計惨めで、涙まで溢れてくる。こんな状態で相手が萎えたりしないだろうかなんて、心配してしまう自分も嫌だ。
「なんだ、そんなことか。男が入れられて善がるのは、別に恥ずべきことではない。単に身体の仕組みとしてあるだけだ。気持ちいいなら素直に感じておけば良い」
 だからしっかり伝えてくれ、と言われ、そういえば仕事だったと今更思い出す。呆れたようでも優しい物言いが陰鬱な気持ちを軽くしてくれた。
 恥ずべきことではない、か。その言葉に、少しホッとする。
「ん……前も、後ろも気持ちいい……もっと、なか、擦ってほしくなってる……」
「そうか、それなら動くぞ」
 ぎりぎりまで引き抜いてゆっくりと押し込まれる動きに、待ち望んだ刺激にだらしなく甘い声を垂れ流す。少しずつ速くなると、快感が増えていくようで。気持ちいい。もっと。今はそれしか考えられない。
「あ、あ、んんっ、そこ、きもちいぃ……っ」
「っ……よく締まるな、全体的にっ、動いて、……本当に、素質が……あるらしい」
 同僚はさらに動きを激しくして、それが射精に向けたものだとわかる。余裕ぶった口ぶりでも、切羽詰まってるんだろうな。
 余計なことを思ううちに、自分の方も、なにか未知のものに追い詰められていった。
「あ、っう……なんか、くる、っ、あ、あ――っ」
「ぐっ……もう、出すぞ……っ」
 ぐりぐりと奥に擦りつけられ、視界の端が弾ける。中に入ってるペニスが激しく脈打って、射精されているのを感じる。
 俺の方は、精液も出せてないのに気持ちよくてたまらない。身体が勝手に震えている間ずっと、快感から逃げられなくておかしくなりそうだった。

******

「実は、こっちの方のモニターも欲しくなったんだ。新商品のためにな」
 後処理を終え、マトモに足腰の立たない俺はベッドに座って同僚の話を聞いていた。
「こっち……って」
「前立腺の感度が……要は後ろでイケる人材が必要になった。やってみないと分からないから、一時的に試作の種類を変えてるんだ」
 つまりは、全部仕組まれてたってことか。あんなに気持ちい……屈辱的な経験をして、納得いかないとは思いながらも、怒る余力もない。
「はぁ……俺、実験体じゃん」
「もともと実験体のようなものだろう」
「そうだけど……」
 疲れ切った態度の俺の顔を覗き込み、同僚はニヤリと口角をあげ、会話を続ける。
「どうだった?男に抱かれてみて。次からこっちもいけるか?」
「……どーだろ……」
 正直に言えば、ものすごく良かった。いつもの性処理どころか、これまでしてきたセックスが馬鹿らしくなるくらいの快感。思い出すと、今でも奥が疼いてくる。ただ、それを素直に吐き出すことはできなくて、誤魔化した。
「あれだけ反応しておいて迷うのか?」
「えっ」
 そんなに反応してたっけ。実際良かったけど、恥ずかしさもあったからかなり抑えたはず……。
「お前、才能あるぞ。違うタイプの試作を供する時は、基本的に効能を抑えてあるからな。初回でドライオーガズムに至るのはかなりのレアケースだ。悪いことは言わない、報酬も高いし今度からこっちにしとけ」
「え~……」
 高報酬、と、出さずにイったときの、快感。思わず頭を抱える。見事にハメられた。そんな悔しさは、結局一瞬しか保たなかった。
「それで、どうする。次から」
「ん……じゃあ、やる……けど、たまにで良いからな。あんなの、しょっちゅうやってたら疲れちまう」
「わかった。お疲れ様、じゃあまた次、期待しとけよ」

……こんな会話をしてから数カ月。要望は見事にスルーされ、通常の勃起促進タイプの試作が全然来なくなった。この状況に俺は悲しむべきか喜ぶべきか、何とも言えない気持ちで今日も仕事に勤しむのだっだ。
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