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君の時間はみつのあじ
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俺と彼に、見た目や肉体構造の差はあまりない。ただ、生まれ持った「時間」に大きな差があった。何千年と生きる種族の彼と違い、俺は数十年と生きれば天寿を全うする生物だった。
けれど、俺達は出会い、絆を深め、愛し合った。
離れることは考えなかった。俺が先に逝き、彼が見送り、その先の長い人生には、俺は関与できなない。それでも良いと、仕方がないことなのだと、限りある時間を共に過ごせるだけでも幸せなのだと、納得していたはずだった。
それなのに、どこかで諦めきれていなかった俺は、この結末を変えられる術を研究し、探し続けていた。
そんなある時、この方法を見つけた。巡り合わせというのは、時に残酷なものだ。見つけてしまったのなら、と、試さずにはいられなかった。彼は優しい。俺の願いを断るなんてことはしなかった。
******
「こんなこと、試そうと思ったのがいけなかったんだ。……お前を傷つけてまで、俺は」
今、俺は何度目かの実行を目前にしている。後悔と、罪悪感が胸を刺す。
「いいんだ、僕はすっごく幸せだから」
穏やかな、あたたかい声が背後からかけられた。暗い色は微塵も感じない、そのクリアな音が、鋭く、刺さる。
そっと肩に置かれた手の温度も、声と同じように心地良い熱を俺に与えた。ゆっくりと撫でさする彼の手は優しく、いつだって慈愛に満ちていて、自分自身の濁りが、汚れが、より浮き彫りになる。
「一緒に、生きたいんだ。もっと……」
言葉にしてみたって、単なる俺のワガママじゃないか。
「うん、僕もだよ。だから……ほら」
彼はそう言って、目の前のものを俺に近づける。見た目は何かの肉片でしかないそれが、俺に与えるのは"時間"だ。
「……いただきます」
手を合わせる。ナイフで一口大に切り分け、フォークで刺して、口元へと運ぶ。躊躇うのは、一秒までと決めている。目を瞑り、口内へ運ぶ。
あまい。やさしい味が、舌の上で溶けて喉へと流れ、俺の体内に取り込まれていく。
「"僕"は、おいしい?」
本当は味なんて関係ないけれど、彼の肉は確かに美味だった。それも、この行為を繰り返してしまう要因の一つだと思う。
「ああ……美味いよ、止められなくなりそうだ」
食べながら、目から溢れ、頬を伝う雫は、何を意味しているのだろう。食事の時に抱く感情は、もう、自分でも分からない程に複雑なっていた。
全てを胃に収める頃には涙も止まり、食器を置いて手を合わせた。彼の手が俺の髪を優しく撫でる。
「お疲れ様。これで、もっと一緒にいられるね」
彼の肉を俺が喰らう。そんな単純なことで、俺たちの時間の差は埋められる。
「………ああ、そうだな。……向こう、行くか。処置をしないと」
ただ、欠けた肉体がそのままではいけない。代替品で埋めることで、機能も見た目もそのままにできる。そこにもたどり着いていなかったら、踏み切れなかったかもしれない。
「そうだね、今回は少なめだったし、早くやっちゃおう」
そう言う彼は俺の手を取り、引いた。濁りのない笑顔で、処置室へ向かう足取りも軽い。時間をもらう事を、彼は実際はどう思っているのか。本当の、本音は一体どうなんだと、そこまでは聞くことができていなかった。
それに、どんな返答があっても、きっと俺は辞められないのだろう。
処置室のベッドに横たわる彼の、修復箇所に触れる。見た目も、肌触りも、細胞の機能だって、変わらない。けれど。
「欠けたところを修復しても、これはお前の組織じゃない。」
彼の肉体が、少しずつ、俺のエゴに挿げ替えられていく。そして、彼の時間が、俺の中へと注がれていく。俺は、奪っているんだ。彼の肉体も、時間も。心だって、独り占めしたいと常に思っている。
「不便もないし、大丈夫だよ」
「……ここも、もうないんだよな」
「僕から、君に移っただけ」
「でも、もう、お前の一部じゃ無くなってる」
「……後悔してるの?」
わからない。本来は存在しなかったはずの、彼とともに過ごす時間は、何にも代えがたい。ただ、彼の一部を切り出すたびに、それを咀嚼するたびに、胸の中がズシリと重くなるのも、事実だった。彼の"生命"そのものを歪める行為であるのは確かだ。
彼からの質問に答えられず黙っていると、代わりに彼が口を開いた。
「僕は嬉しいよ、君といられる時間が増えること」
「……おまえ、本当に」
「大丈夫。難しいことは考えなくて良いから、ね」
そう言って彼は、ベッドから身体を起こす。そのまま両腕がこちらに伸びて、ぎゅう、と抱きしめられた。彼の体温を感じる。紛い物の混ざった彼の肉体の、温度。出会ったときと何も変わらない。
「……そうだな、今は、考えるのは止めにする」
「そのほうが良いよ。それにもう、我慢できないでしょ?……僕も、だから」
処置を終えるとすぐに、俺は、彼を抱く。抱かずにはいられなくなる。
引きちぎられた時間が彼のもとに戻ろうとしているのか、俺の肉体が彼の時間を返そうとしているのか。ただ、彼の存在を確かめたいだけなのかもしれない。
「ふ……っ、はぁ…………」
まだ従来の組織である彼の舌に、自分のものを絡める。ざらついた表面を擦り合わせ、感触を確かめる。ここも、いつか、俺の時間として消費されてしまうかもしれない部分だ。
上顎をくすぐられ、脚の力が抜けそうになる。誤魔化すように彼の身体をベッドに押し倒し、着衣を解いていく。
見た目は、変わらない。継ぎ目だってない。それでも俺は、すべて覚えている。食べたところと、まだ彼自身の肉体であるところ。切り取って、抉って、血が滴る、その様子、匂い、刃が組織を断つ感触、ぜんぶ、昨日のことみたいに。
そんな心理状態でも、身体が、心が、……性欲が、彼を求めて燃え上がる。お互いのものはすっかり勃ちあがって、擦れるたびに気持ちがいい。
「ふふっ、……熱くなってるね」
手のひらで、きゅ、と、ペニスが包みこまれ、思わず息を詰めてしまう。そのまま上下に扱かれ、情けなく声を上げてしまいそうで、唇を噛み締めた。
「我慢しなくていいって。僕、きもちい時の君の声、好きだよ」
「なっ……ぅあ、やっ、やめろ……って」
「ね、僕のも気持ちよくして……」
そういって、空いてるほうの手で導かれた箇所はやはり熱く、濡れ始めていた。親指で先端のぬめりを塗り拡げるように刺激する。ゆるく扱きながら、裏筋をくすぐると、彼も息を乱す。
俺も、彼の声が好きだ。形にならない、食べることができない、俺のものにならない、彼だけのもの。
「あっ、……それ、だめ……いっちゃう、から……っ」
胸元の粒も口に含んで舌で転がすと、俺のペニスは余裕のなくなった彼の手から完全に解放された。
可愛らしく喘ぎながら、彼は必死に身を捩って逃げようとする。射精に至らないよう、ペニスからは手を離した。陰嚢を包み込むように優しく撫でながら、乳頭への刺激は強める。押しつぶし、弱く歯を立て、舌先で弾く。そのたびに短く上がる喘ぎが、俺を追い立てた。
硬くなった乳首からは口を離し、首筋に移り、皮膚に吸い付く。ひとつ、ふたつと印をつけていく。数日もすれば消える内出血の跡に過ぎないそれも、浅ましい執着心を満足させる行為の一つだ。
鎖骨の凹凸に舌を這わせ、表皮の味を堪能する。肉を咀嚼する時とは全く別のものだ。暖かい。この皮膚の下には、絶え間なく彼の血液が流れているのだと、生を実感する。
それでも、肌を擦り合わせ、体温を共有するだけでは満足できない。彼の手はとっくに離れていたが、いつのまにか、俺の性器は限界まで張り詰めていた。
「指、入れるからな」
彼の肉体を修復する設備と、彼の内側を侵すための必需品はほとんど同じ場所にある。手元を見ることなく潤滑剤の容器を掴み、粘ついた液体を指に纏わせ、これから受け入れさせる孔に塗り込む。周りを軽く押していると、みるみる柔らかくなり、なんなく指を一本飲み込んだ。
「ん……っ、ぅ、……あっ、ふ、……っう」
二本、三本と増やすまで、そう時間はかからなかった。今までに何度もしてきた行為を、彼の身体は覚えているのだろう。中のしこりを時折掠めながら、バラバラに動かして入り口を拡げていく。すっかり膨張しきった、俺の性器を押し込むために。
入れたい。繋がりたい。ぐちゃぐちゃにかき回して、強く抱きしめて、一つになったみたいに錯覚して、余計なことは全部忘れて。
「も、いいよ、入れて……」
「ああ……」
すっかり柔らかく解れた彼の後孔に、ペニスの先端をあてる。吸い付くようにヒクヒクと震えているそこに、少しずつ埋め込んでいく。
「う、っ…………」
まだ先端が飲み込まれただけなのに、入り口の締め付けで思わず息を詰める。そのまま押し進めていくと、ふわふわと優しく包み込むような感触に、また少し理性が溶かされる。すべて沈み込ませてしまった後、じっと彼の様子を伺う。
「大丈夫か、痛くないか?」
「んっ……ぜんぶ、っ、入った……?」
呼吸はすこし乱れているが、苦しくは無さそうだ。そっと頬を撫でると、彼は目を細めて俺の手に頬擦りをする。
根本はぎゅう、と締め付けられたまま、動きたいのを抑えてじっと待つ。痛みか圧迫感で萎えてしまったのであろう彼のペニスを撫でると、ぴくりと反応を示した。こちらの快感も忘れていない彼の身体は、上下にそっと扱くとすぐに膨らんだ。揺さぶる程度に腰を動かすと、それきもちい、と彼が呟いた。
「もっと動いて、いいか」
「ぅ、ん……大丈夫、きて」
深く挿し込んだペニスを中ほどまで引き抜き、ゆっくりとまた沈めていく。肉の輪に程よく絞られ、快感に思わず声が漏れた。数回も往復していると、もっと、もっとと身体が欲しがる。頭の中も、雄の本能に侵されていく。
「ごめんな。こっからは多分、優しくできない」
「いいよ、いっぱいして……」
自分の身体なのに制御が効かなくなって、ひたすら腰を打ち付ける。気持ちいい。彼の柔らかい内側をいじめることが、こんなにも。
「ひっ、う、……んぁ、あ、ぁあっ、」
「は、あっ、……ぅ、んっ」
二人分の喘ぎと、肉のぶつかる音が室内に響く。打ち付けるたびに揺れる彼の性器が、先端からじわりと透明な液を滲ませている。
「きもちいよ……っ、……ね、ちゃんと、きもちいからっ……」
泣かないで。と、こちらを見つめる瞳は慈愛に満ちている。彼はあまりに眩しくて、光そのものみたいに全部を照らす。俺の中にある醜いもの全部、無視することが許されない。
「……っ、う…………も、出るっ…………」
涙も、汗も、肌の上に落ちては彼を汚していく。
「出して……僕の、なかに……っ、あ、あぁっ……!」
仕上げとばかりに、何の代替にもならない、俺の精液が彼の中に放たれる。搾り取るような動きにつられて、最後の一滴まで注がれていく。こんなことしたって無意味なのは分かっているのに、妙な満足感があるのは何故だろう。
強い性的衝動からすっかり解放された俺は、くったりと脱力した彼の身体を拭いていく。
何度も食べて、欠けたところを埋めて。そうして一緒に生きている彼の肉体は、やはり見た目は変わらない。
ここは、あのとき食べたところ。そっちは、また違う時に食べた。今日食べた場所はここ。
次のときが来るまでに味わうのは、彼と共に過ごす時間だ。いつだって彼の肉体も時間も、甘いあまい味がする。
「君のことが好きだよ。だから僕はこうしてる。憎んでもいないし、嫌いになることなんてないからね」
ゆっくりと腕を持ち上げた彼は、俺の後頭部を引き寄せ、口づけに導く。触れるだけのそれを何度か繰り返した。
「ああ、俺もだ。好きだから……やめられない」
小さく、ごめん、と付け足すと、目の前の彼は微笑んだ。
眩しい、けれど、目を背けることの許されない笑顔。胸の中は暖かさを通り越して、ジリジリと焦げ付くような、苦味を含んだ感情が広がる。
これを繰り返して、俺と彼のもつ時間が横並びになったとき、彼の肉体はほとんどが紛い物になっているだろう。以降、共に過ごす時間は本当に穏やかなものだろうか。まだ、何もわからないけれど。
とにかく今は、生きている。彼も、自分も。
抱きしめて感じる体温、優しく撫でるような声、安心感で肺を満たす匂い、体中に染みわたる甘い味だって、全部生きてる証拠だ。
あまくて、あたたかくて、愛おしい。一秒だって離れたくない。
「貰うからな、今回の分」
「うん」
止まらない涙、食欲、彼への想い、共に過ごす時間への執着。
愚かな行為だとは痛いほど分かっている。
それでも、手を合わせて。
「……いただきます」
けれど、俺達は出会い、絆を深め、愛し合った。
離れることは考えなかった。俺が先に逝き、彼が見送り、その先の長い人生には、俺は関与できなない。それでも良いと、仕方がないことなのだと、限りある時間を共に過ごせるだけでも幸せなのだと、納得していたはずだった。
それなのに、どこかで諦めきれていなかった俺は、この結末を変えられる術を研究し、探し続けていた。
そんなある時、この方法を見つけた。巡り合わせというのは、時に残酷なものだ。見つけてしまったのなら、と、試さずにはいられなかった。彼は優しい。俺の願いを断るなんてことはしなかった。
******
「こんなこと、試そうと思ったのがいけなかったんだ。……お前を傷つけてまで、俺は」
今、俺は何度目かの実行を目前にしている。後悔と、罪悪感が胸を刺す。
「いいんだ、僕はすっごく幸せだから」
穏やかな、あたたかい声が背後からかけられた。暗い色は微塵も感じない、そのクリアな音が、鋭く、刺さる。
そっと肩に置かれた手の温度も、声と同じように心地良い熱を俺に与えた。ゆっくりと撫でさする彼の手は優しく、いつだって慈愛に満ちていて、自分自身の濁りが、汚れが、より浮き彫りになる。
「一緒に、生きたいんだ。もっと……」
言葉にしてみたって、単なる俺のワガママじゃないか。
「うん、僕もだよ。だから……ほら」
彼はそう言って、目の前のものを俺に近づける。見た目は何かの肉片でしかないそれが、俺に与えるのは"時間"だ。
「……いただきます」
手を合わせる。ナイフで一口大に切り分け、フォークで刺して、口元へと運ぶ。躊躇うのは、一秒までと決めている。目を瞑り、口内へ運ぶ。
あまい。やさしい味が、舌の上で溶けて喉へと流れ、俺の体内に取り込まれていく。
「"僕"は、おいしい?」
本当は味なんて関係ないけれど、彼の肉は確かに美味だった。それも、この行為を繰り返してしまう要因の一つだと思う。
「ああ……美味いよ、止められなくなりそうだ」
食べながら、目から溢れ、頬を伝う雫は、何を意味しているのだろう。食事の時に抱く感情は、もう、自分でも分からない程に複雑なっていた。
全てを胃に収める頃には涙も止まり、食器を置いて手を合わせた。彼の手が俺の髪を優しく撫でる。
「お疲れ様。これで、もっと一緒にいられるね」
彼の肉を俺が喰らう。そんな単純なことで、俺たちの時間の差は埋められる。
「………ああ、そうだな。……向こう、行くか。処置をしないと」
ただ、欠けた肉体がそのままではいけない。代替品で埋めることで、機能も見た目もそのままにできる。そこにもたどり着いていなかったら、踏み切れなかったかもしれない。
「そうだね、今回は少なめだったし、早くやっちゃおう」
そう言う彼は俺の手を取り、引いた。濁りのない笑顔で、処置室へ向かう足取りも軽い。時間をもらう事を、彼は実際はどう思っているのか。本当の、本音は一体どうなんだと、そこまでは聞くことができていなかった。
それに、どんな返答があっても、きっと俺は辞められないのだろう。
処置室のベッドに横たわる彼の、修復箇所に触れる。見た目も、肌触りも、細胞の機能だって、変わらない。けれど。
「欠けたところを修復しても、これはお前の組織じゃない。」
彼の肉体が、少しずつ、俺のエゴに挿げ替えられていく。そして、彼の時間が、俺の中へと注がれていく。俺は、奪っているんだ。彼の肉体も、時間も。心だって、独り占めしたいと常に思っている。
「不便もないし、大丈夫だよ」
「……ここも、もうないんだよな」
「僕から、君に移っただけ」
「でも、もう、お前の一部じゃ無くなってる」
「……後悔してるの?」
わからない。本来は存在しなかったはずの、彼とともに過ごす時間は、何にも代えがたい。ただ、彼の一部を切り出すたびに、それを咀嚼するたびに、胸の中がズシリと重くなるのも、事実だった。彼の"生命"そのものを歪める行為であるのは確かだ。
彼からの質問に答えられず黙っていると、代わりに彼が口を開いた。
「僕は嬉しいよ、君といられる時間が増えること」
「……おまえ、本当に」
「大丈夫。難しいことは考えなくて良いから、ね」
そう言って彼は、ベッドから身体を起こす。そのまま両腕がこちらに伸びて、ぎゅう、と抱きしめられた。彼の体温を感じる。紛い物の混ざった彼の肉体の、温度。出会ったときと何も変わらない。
「……そうだな、今は、考えるのは止めにする」
「そのほうが良いよ。それにもう、我慢できないでしょ?……僕も、だから」
処置を終えるとすぐに、俺は、彼を抱く。抱かずにはいられなくなる。
引きちぎられた時間が彼のもとに戻ろうとしているのか、俺の肉体が彼の時間を返そうとしているのか。ただ、彼の存在を確かめたいだけなのかもしれない。
「ふ……っ、はぁ…………」
まだ従来の組織である彼の舌に、自分のものを絡める。ざらついた表面を擦り合わせ、感触を確かめる。ここも、いつか、俺の時間として消費されてしまうかもしれない部分だ。
上顎をくすぐられ、脚の力が抜けそうになる。誤魔化すように彼の身体をベッドに押し倒し、着衣を解いていく。
見た目は、変わらない。継ぎ目だってない。それでも俺は、すべて覚えている。食べたところと、まだ彼自身の肉体であるところ。切り取って、抉って、血が滴る、その様子、匂い、刃が組織を断つ感触、ぜんぶ、昨日のことみたいに。
そんな心理状態でも、身体が、心が、……性欲が、彼を求めて燃え上がる。お互いのものはすっかり勃ちあがって、擦れるたびに気持ちがいい。
「ふふっ、……熱くなってるね」
手のひらで、きゅ、と、ペニスが包みこまれ、思わず息を詰めてしまう。そのまま上下に扱かれ、情けなく声を上げてしまいそうで、唇を噛み締めた。
「我慢しなくていいって。僕、きもちい時の君の声、好きだよ」
「なっ……ぅあ、やっ、やめろ……って」
「ね、僕のも気持ちよくして……」
そういって、空いてるほうの手で導かれた箇所はやはり熱く、濡れ始めていた。親指で先端のぬめりを塗り拡げるように刺激する。ゆるく扱きながら、裏筋をくすぐると、彼も息を乱す。
俺も、彼の声が好きだ。形にならない、食べることができない、俺のものにならない、彼だけのもの。
「あっ、……それ、だめ……いっちゃう、から……っ」
胸元の粒も口に含んで舌で転がすと、俺のペニスは余裕のなくなった彼の手から完全に解放された。
可愛らしく喘ぎながら、彼は必死に身を捩って逃げようとする。射精に至らないよう、ペニスからは手を離した。陰嚢を包み込むように優しく撫でながら、乳頭への刺激は強める。押しつぶし、弱く歯を立て、舌先で弾く。そのたびに短く上がる喘ぎが、俺を追い立てた。
硬くなった乳首からは口を離し、首筋に移り、皮膚に吸い付く。ひとつ、ふたつと印をつけていく。数日もすれば消える内出血の跡に過ぎないそれも、浅ましい執着心を満足させる行為の一つだ。
鎖骨の凹凸に舌を這わせ、表皮の味を堪能する。肉を咀嚼する時とは全く別のものだ。暖かい。この皮膚の下には、絶え間なく彼の血液が流れているのだと、生を実感する。
それでも、肌を擦り合わせ、体温を共有するだけでは満足できない。彼の手はとっくに離れていたが、いつのまにか、俺の性器は限界まで張り詰めていた。
「指、入れるからな」
彼の肉体を修復する設備と、彼の内側を侵すための必需品はほとんど同じ場所にある。手元を見ることなく潤滑剤の容器を掴み、粘ついた液体を指に纏わせ、これから受け入れさせる孔に塗り込む。周りを軽く押していると、みるみる柔らかくなり、なんなく指を一本飲み込んだ。
「ん……っ、ぅ、……あっ、ふ、……っう」
二本、三本と増やすまで、そう時間はかからなかった。今までに何度もしてきた行為を、彼の身体は覚えているのだろう。中のしこりを時折掠めながら、バラバラに動かして入り口を拡げていく。すっかり膨張しきった、俺の性器を押し込むために。
入れたい。繋がりたい。ぐちゃぐちゃにかき回して、強く抱きしめて、一つになったみたいに錯覚して、余計なことは全部忘れて。
「も、いいよ、入れて……」
「ああ……」
すっかり柔らかく解れた彼の後孔に、ペニスの先端をあてる。吸い付くようにヒクヒクと震えているそこに、少しずつ埋め込んでいく。
「う、っ…………」
まだ先端が飲み込まれただけなのに、入り口の締め付けで思わず息を詰める。そのまま押し進めていくと、ふわふわと優しく包み込むような感触に、また少し理性が溶かされる。すべて沈み込ませてしまった後、じっと彼の様子を伺う。
「大丈夫か、痛くないか?」
「んっ……ぜんぶ、っ、入った……?」
呼吸はすこし乱れているが、苦しくは無さそうだ。そっと頬を撫でると、彼は目を細めて俺の手に頬擦りをする。
根本はぎゅう、と締め付けられたまま、動きたいのを抑えてじっと待つ。痛みか圧迫感で萎えてしまったのであろう彼のペニスを撫でると、ぴくりと反応を示した。こちらの快感も忘れていない彼の身体は、上下にそっと扱くとすぐに膨らんだ。揺さぶる程度に腰を動かすと、それきもちい、と彼が呟いた。
「もっと動いて、いいか」
「ぅ、ん……大丈夫、きて」
深く挿し込んだペニスを中ほどまで引き抜き、ゆっくりとまた沈めていく。肉の輪に程よく絞られ、快感に思わず声が漏れた。数回も往復していると、もっと、もっとと身体が欲しがる。頭の中も、雄の本能に侵されていく。
「ごめんな。こっからは多分、優しくできない」
「いいよ、いっぱいして……」
自分の身体なのに制御が効かなくなって、ひたすら腰を打ち付ける。気持ちいい。彼の柔らかい内側をいじめることが、こんなにも。
「ひっ、う、……んぁ、あ、ぁあっ、」
「は、あっ、……ぅ、んっ」
二人分の喘ぎと、肉のぶつかる音が室内に響く。打ち付けるたびに揺れる彼の性器が、先端からじわりと透明な液を滲ませている。
「きもちいよ……っ、……ね、ちゃんと、きもちいからっ……」
泣かないで。と、こちらを見つめる瞳は慈愛に満ちている。彼はあまりに眩しくて、光そのものみたいに全部を照らす。俺の中にある醜いもの全部、無視することが許されない。
「……っ、う…………も、出るっ…………」
涙も、汗も、肌の上に落ちては彼を汚していく。
「出して……僕の、なかに……っ、あ、あぁっ……!」
仕上げとばかりに、何の代替にもならない、俺の精液が彼の中に放たれる。搾り取るような動きにつられて、最後の一滴まで注がれていく。こんなことしたって無意味なのは分かっているのに、妙な満足感があるのは何故だろう。
強い性的衝動からすっかり解放された俺は、くったりと脱力した彼の身体を拭いていく。
何度も食べて、欠けたところを埋めて。そうして一緒に生きている彼の肉体は、やはり見た目は変わらない。
ここは、あのとき食べたところ。そっちは、また違う時に食べた。今日食べた場所はここ。
次のときが来るまでに味わうのは、彼と共に過ごす時間だ。いつだって彼の肉体も時間も、甘いあまい味がする。
「君のことが好きだよ。だから僕はこうしてる。憎んでもいないし、嫌いになることなんてないからね」
ゆっくりと腕を持ち上げた彼は、俺の後頭部を引き寄せ、口づけに導く。触れるだけのそれを何度か繰り返した。
「ああ、俺もだ。好きだから……やめられない」
小さく、ごめん、と付け足すと、目の前の彼は微笑んだ。
眩しい、けれど、目を背けることの許されない笑顔。胸の中は暖かさを通り越して、ジリジリと焦げ付くような、苦味を含んだ感情が広がる。
これを繰り返して、俺と彼のもつ時間が横並びになったとき、彼の肉体はほとんどが紛い物になっているだろう。以降、共に過ごす時間は本当に穏やかなものだろうか。まだ、何もわからないけれど。
とにかく今は、生きている。彼も、自分も。
抱きしめて感じる体温、優しく撫でるような声、安心感で肺を満たす匂い、体中に染みわたる甘い味だって、全部生きてる証拠だ。
あまくて、あたたかくて、愛おしい。一秒だって離れたくない。
「貰うからな、今回の分」
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止まらない涙、食欲、彼への想い、共に過ごす時間への執着。
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