電書魔術プロジェクト タブレットマギウス ~狂いし龍と妖魔の王妃~

南雲遊火

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第3話 ~アスクレピオスの杖~

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「……とは、言ったものの」
 ジュッドが、はぁぁ……と、大きなため息を吐いて、脱力した。
「……これだけか」
 ごめんなさい……と、シュナはジュッドに頭を下げる。
 机の上には、小さな円筒形の容器が3つ。中にはMacro-extent Atmospherically-released Nano-size ActuatorMANAが詰まっている……との事ではあるが。
「その……MANAの成分解析は終わって、試験的に作ってはみたんですけれど、まだ、本格的に増産できる状態じゃありませんの……」
 しゅん……と、シュナが小さくなる。ジュッドは慌てて、気にするな! と、首を横に振った。
「お前のせいじゃな……」
「ところで……」
 質問! と、ジュッドの言葉にかぶせるように、コウガが手をあげた。
 例によってジュッドが、鋭いにらみを利かせたことはさておき。
「その、みょうちくりんな鉄板が、異界の術の発動体ってことはわかったけど、一体何をどうするつもりだ?」
「それは……その、とても説明しづらくはあるのですけれど……」
 失敗するかもしれないし……と、口ごもるシュナの肩を、ポンっとアズハルトが叩く。
「いいから。言ってみろ」
 能天気なアズハルトに対し、わかりました。と、シュナは、至極真面目な顔で、口を開いた。
タブレットマギウスコレを使って、お父様に、ライヨウ伯父様の受けている『害』を、丸ごと被ってもらいます」
「……はい?」
 理解が追い付かず、思わず三人は固まった。


「えっと、まず、一般的に、呪術と医術、そして科学は別物と扱います。もちろん、普段は私もそうです。しかし、共通する考え方や要素は、ところどころにあるんです」
 シュナは一同が理解しやすいようにと、なるべく、やさしい言葉で説明する。
タブレットマギウスこの異界の技術も、そうですね。根本的な仕組みや要素、考え方は『科学』に近いものがあります」
 ただ、起こされる『結果』は『呪術』に近く、場合によっては『医術』に近いことも可能……。
「そもそも、異世界かの世界において、科学や医術の元になった『錬金術』という学問は、『呪術』と紙一重の学問であったと、お父様からききました」
 ちんぷんかんぷんそうな表情を浮かべ、アズハルトとコウガが目を合わせる。二人とも生まれながらの現地民カーネリアンではあるのだが、どちらかというと、脳筋……術にはやや、縁が遠い。
 シュナは二人の様子に気がつきコホン……と、申し訳なさそうに咳払いをした。
「その……つまり、どういうことかといいますと、皆様ご存知の通り……『五指の龍龍家の直系』の双子は、兄が弟の、姉が妹の受ける『害』を、例外なく肩代わりする『体質』を持ちます」
 その事から、伯父様が眠って起きないのは、「お父様が、何らかの外因によって、眠らされている」と考えられますわ。と、シュナはタブレットを机の上に置いた。
「お父様と伯父様の害の肩代わりが『体質』であるのなら、体質改善……『医術』で『呪術』を遮断するアプローチすることも、理論的には可能だと思いますの。直接的な遮断は無理でも、対処療法として」
 そしてそれを、『科学タブレットマギウス』で実行することも……シュナの言葉を、「ちょっと待て……」と、ジュッドが遮る。
「理屈はわかったが……電書魔術リーダーアプリePUG電子魔術書はどうするんだ?」
「……それは……もう有ります」
 私が、作りました。そう言うと、シュナはタブレットのあるアプリケーションを起動させた。
 画面には、杖に巻き付く一匹の蛇の絵が浮かび上がる。
「もっとも、実証実験まで進んでは無いんですけれど……」
 準備の良さに、アズハルトとコウガが拍手をした。唯一、ジュッドだけが、先ほどから渋い顔を浮かべている。
 もしかして……と、口にしたところで、シュナは、にっこりとほほ笑んだ。
「さあ、ぶっつけ本番になりますけれど、伯父様のところへ、行きましょう!」


「……」
 あまりの凄惨さに、一同目を背けた。
 ライヨウは、相変わらず眠り続けている。しかし、寝台の白いシーツは真っ赤に染まり、吸いきれない血液が、ポタポタと床に滴っている。
 一瞬、既に死体ではないかとアズハルトが確認したが、息は一応、あるようだ。
「その、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です」
 シュナの様子に、そうじゃない。と、ジュッドが質す。
「今の状態で起動すると、ジュランが……」
 シュナは首を、縦に振る。
「……いいんです。お父様は、一度、痛い目をみるべきなんです」
 珍しく、キッと、シュナはライヨウを見据えた。
「そもそもこれは、お父様の受けたモノ。伯父様がダメージを受けるなんて、完全なるとばっちりですわ」
「それは……そうだが……」
 しかし、ライヨウが肩代わりすることで、これだけの大怪我を負いながらでも、二人が生きる事ができていること。それもまた、事実。
 シュナはだんだんいつもの調子に戻りつつ、口を開いた。
「その、実は言いにくいんですけれど……どのように遮断されるかは、本当のところは未知数……だったりしますの。一応想定としては、「遮断されて、逆流してお父様が怪我を負う」と認識してますけれど、もしかすると、滞るだけで、解除したとたんに伯父様が一気に大ダメージ……なんてことも、あるかもしれません」
 トホホ……と、ため息を吐く。
「ジュッドおじさまがお考えのように、これは、私に……いえ、「フーゲツお姉様にかけるため」に作ったものです。本当は、ちゃんと完成させた上で、使いたかった……」
 欠損した左腕の義手を、シュナは撫でた。
 それは、三期ほど約半年前に失った腕。
 シュナもまた双子として生まれ、赤子の頃に世界を隔てて生き別れた姉がいた。
 シュナが腕を失った時、先ほどの「前提条件」を踏まえるのであれば、姉もまた、腕を失ったと考えるのが自然だろう。もっとも、強すぎる『害』は肩代わりの兄姉のキャパシティを越え、お互い『共有』することになる。
 しかし、肩代わりさせようが共有しようが、腕を失ったのは自分の過失。何も知らない姉には、何の責任も罪も無い……。
「とにかく、私の事はいいですわ。まずは、伯父様を起こしましょう」
 シュナはMANAの入った容器を開け、ライヨウに向かって、ひっくり返した。
 ぼんやりとタブレットが輝いたことを確認し、シュナは凛とした声で叫ぶ。

「発動! STAFF OF AESCULAPIUSアスクレピオスの杖!」
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