私の瞳に映る彼。

美並ナナ

文字の大きさ
4 / 47

3.御曹司のウワサ(Side百合)

しおりを挟む
「百合、大丈夫?」

意識が過去に飛んでいた私は、響子の声で現実に引き戻される。

そうだ、今は響子と太一くんとランチしていたんだった。

過去の恋愛の話題から、久しぶりに高校時代のことを鮮明に思い出してしまった。

動揺する心を落ち着けるため、グラスに入った水をゴクっと一口飲み、大丈夫なことをアピールするため2人に向かって微笑む。


これ以上私が恋愛の話をしたくないのをなんとなく察してくれたのか、いつの間にか話題は9月から入社してくる新しい社員の話に移っていた。


「ねぇ、2人とも聞いた?新しく入社する社員なんだけど、なんと社員だけじゃなく新しい役員の就任もあるらしいよ。それがなんと、大塚社長の息子なんだって!いわゆる御曹司よ!しかも、超イケメンなんだって!」

「あぁ、ちょうど今頃、イントラに人事通知が上がってるだろうから言えるけど、俺その方ならこの前のニューヨーク出張の時に向こうで会った」


情報通の響子が色々知っているのは分かるけど、太一くんが知っているのは意外だった。

太一くんは社内のウワサとかはあまり気にしないことが多いし、海外ですでに会っているとは驚きだ。

響子もそう思ったのか、興味津々で質問を重ねる。

私は、そういえば安西部長が午前中にもうすぐイントラが上がるとか話していたなぁ、その話かなぁとぼんやり考えていた。


「ニューヨークで会ったの?なんで?どんな人だった!?」

「うちの会社で海外事業を統括する役員に就任するらしくてさ。今はアメリカの会社にいるらしくて、だから出張でニューヨークに行った時に先駆けて挨拶させてもらうことになったんだ」

「じゃあアメリカから帰国して、創業者一族として役員として会社に入社するわけか。で、イケメンだってウワサは本当なの?」

「スゲーかっこいい人だったよ。男でも憧れる感じでさ」

どうやら2人の話を総合すると、

・現社長の一人息子で創業者一族の御曹司
・現在アメリカ在住
・帰国して大塚フードウェイの役員に就任予定
・男も憧れるくらいのイケメン

ウワサの人物はこういう人のようだ。


そこで今朝の安西部長との会話を思い出す。

見開きで2ページ分を使って紹介したい人がいると言ってたのは、きっとこの人のことだ。

(うん、確かにこれは特別扱いになるのは仕方ないかもね)


「男から見ても憧れるなんて期待値上がっちゃうわね!年齢はいくつくらいだったの?」

「聞いてないから正確には分からないけど、たぶん30代前半くらいなんじゃない?俺たちよりは少し上くらいな感じだと思う」

「や~ん、来週が楽しみ!早く見てみたい!」


ミーハーな気質のある響子が興奮している。

こんなふうに感情のまま騒げる響子がうらやましい。


「響子ってば、彼氏いるじゃない」

「それはそれ、これはこれ。お腹いっぱいでもデザートは別腹っていうのと同じで、彼氏がいてもイケメン鑑賞は別の楽しみよ!」

「今朝安西部長に言われたんだけど、たぶん今度の社内報でその方の紹介をどどーんと載せるよ」

「うそー!すっごく楽しみ!」

こうして色々と3人で話していると、気がつけばもうすぐ13時になろうとしていた。

「2人とも時計見て!そろそろお店出よう」

「あ、やばっ!イケメンの話題に興奮して時間忘れてた」

「俺も午後から打合せだ」


私たちは急いで伝票を手に取るとお会計を済ませ、会社へと急いだ。


会社に着くと、お手洗いで歯を磨き、簡単にお化粧直しをする。

お昼の後の女子トイレは、私と同じように身だしなみを整える女性社員で混み合う。

女性同士が集まるとお喋りも賑やかだ。

ここでも例の御曹司のことが話題になっていた。

「イントラ見た?」

「見た見た!社長の息子が来週から常務として就任するんでしょ」

「そうそう。しかも秘書課の子の情報によると、イケメンで独身らしいよ!」

「「うそーー!楽しみーー!!」」

ワイワイと盛り上がるウワサ話にこっそり耳を傾けながら、手早く身支度を整え、私はお手洗いから立ち去った。

デスクに戻ると、安西部長はお昼休憩のため不在にしていて、代わりに午前中に外出していたメンバーが戻ってきていた。

「あ、百合さん、お疲れ様です。新商品のプレスリリース作成終わったので、原稿をメールで送っておきました。あとでチェックお願いします」

「分かった。あとで確認しておくね」

同じ広報部の後輩の女の子・由美ゆみちゃんから声をかけられニッコリ微笑んだ。

すると由美ちゃんがいきなり身をくねらせながら目をキラキラさせる。

「あーー百合さま、神さま、仏さま!今日も百合さんが美しいーー!眼福~~!」

3つ年下の由美ちゃんはたまにこんなふうになる。

由美ちゃん曰く、「私の幸せは百合さんの美しさを愛でることです。百合さんと同じ部署で後輩として働けるのが私史上最大のラッキーです」とのこと。

ちょっと発言が変わってるけど、仕事は一生懸命だし、慕ってくれるのは嬉しいので、可愛い後輩だ。

そんな由美ちゃんも例の御曹司の話題を持ち出してきた。

「百合さん、御曹司ですよ、御曹司。社内のあちこちでウワサになってますね。うちの部は役員と接する機会も多いんで、楽しみですね」

「由美ちゃんも気になるの?」

「見目麗しいらしいので、百合さんと並ぶと絵になりそうだなーと思って楽しみなんです!」

「‥‥‥‥」

(やっぱり由美ちゃんの楽しみポイントは他の人とちょっと違う気がする)


私は何も返答せず、あいまいに微笑んだ。

返答に困った時、これ以上踏み込まれたくない時など、私はよくこの曖昧な微笑みを駆使している。

「あーー!その憂いのあるミステリアスな微笑みもいつもながらに素敵です!」

(もう放置しておこう)

私は由美ちゃんを尻目に、自席につくと、さっそくイントラを立ち上げた。

イントラの新着情報には、みんながウワサをしていた人事通知がアップされている。


ーー大塚亮祐おおつかりょうすけ 常務取締役 海外事業担当役員に9月付で就任


例の御曹司は大塚亮祐という名前らしい。

入社前からこんなに話題になってウワサされるなんて大変だな、と思いながら私は人事通知を閉じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

ズボラ上司の甘い罠

松丹子
恋愛
小松春菜の上司、小野田は、無精髭に瓶底眼鏡、乱れた髪にゆるいネクタイ。 仕事はできる人なのに、あまりにももったいない! かと思えば、イメチェンして来た課長はタイプど真ん中。 やばい。見惚れる。一体これで仕事になるのか? 上司の魅力から逃れようとしながら逃れきれず溺愛される、自分に自信のないフツーの女子の話。になる予定。

禁断溺愛

流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。

氷の上司に、好きがバレたら終わりや

naomikoryo
恋愛
──地方から本社に異動してきた29歳独身OL・舞子。 お調子者で明るく、ちょっとおせっかいな彼女の前に現れたのは、 “氷のように冷たい”と社内で噂される40歳のイケメン上司・本庄誠。 最初は「怖い」としか思えなかったはずのその人が、 実は誰よりもまっすぐで、優しくて、不器用な人だと知ったとき―― 舞子の中で、恋が芽生えはじめる。 でも、彼には誰も知らない過去があった。 そして舞子は、自分の恋心を隠しながら、ゆっくりとその心の氷を溶かしていく。 ◆恋って、“バレたら終わり”なんやろか? ◆それとも、“言わな、始まらへん”んやろか? そんな揺れる想いを抱えながら、仕事も恋も全力投球。 笑って、泣いて、つまずいて――それでも、前を向く彼女の姿に、きっとあなたも自分を重ねたくなる。 関西出身のヒロイン×無口な年上上司の、20話で完結するライト文芸ラブストーリー。 仕事に恋に揺れるすべてのOLさんたちへ。 「この恋、うちのことかも」と思わず呟きたくなる、等身大の恋を、ぜひ読んでみてください。

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」 突然、降って湧いた結婚の話。 しかも、父親の工場と引き替えに。 「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」 突きつけられる契約書という名の婚姻届。 父親の工場を救えるのは自分ひとり。 「わかりました。 あなたと結婚します」 はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!? 若園朋香、26歳 ごくごく普通の、町工場の社長の娘 × 押部尚一郎、36歳 日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司 さらに 自分もグループ会社のひとつの社長 さらに ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡 そして 極度の溺愛体質?? ****** 表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。

処理中です...