私の瞳に映る彼。

美並ナナ

文字の大きさ
11 / 47

9.同期飲み(Side百合)

しおりを挟む
あの2人きりの取材の日から約2週間。

9月下旬となり、肌寒い日が多く、秋らしい気候になってきた。


先日の取材内容をまとめた原稿が仕上がった。

原稿をメールに添付して常務に送り、確認依頼を出す。

事前に安西部長に内容を確認してもらったが「社員が気になるポイントをちゃんと押さえていて読み応えがあるわ!」と出来映えには太鼓判をいただいた。

他の広報部メンバーからも好評だった。

そんなことを思い出していると、常務からもう返信が届いていた。

メールを開くと、確認済みで内容に問題ない旨が述べられていた。

(さすが仕事が早い‥‥!)



この2週間の間、率直に言って、私は混乱している。

常務を見かけたり、メールでやりとりする度にドキドキが止まらないのだ。

こんなこと今までなかった。

これはあのインタビューがきっかけだったのだろう。

じっくり会話をさせて頂く機会に恵まれ、常務の仕事に対する姿勢や考えに共感と尊敬を覚えた。

あの容姿なうえに、あの中身なんて、素敵すぎて。


このドキドキはときめきなのだと自覚しているけど、一体私は何にときめいているのか。

それが問題なのだ。

常務に惹かれてドキドキしているのか、常務に春樹の面影を重ねてドキドキしているのか。

それが分からなくて、ただただ混乱している。

そんな混乱の最中、響子と太一くんに誘われて、仕事終わりに3人で飲みに行くことになった。

お店は先日行ったハンバーグ店だ。

あの店は夜はダイニングバーになるらしく、お酒が楽しめる。

夜に行くのは初めてなので楽しみにしていた。

水曜日の今日は、ノー残業Dayとして、残業を極力しないことを会社が推奨している。

予定どおりに業務を終え、私は定時でオフィスを出ると、ハンバーグ店へと向かった。

お店に着くと私が一番乗りだった。

しばらくすると、太一くんが外出先から直帰でお店にやって来た。

「太一くん、お疲れ様!まだ響子は来てないの」

「あれ、LINE見てない?今日中マストな仕事が急に降って来たらしくて、ちょっと遅れるってさ」

「え、そうなんだ。気づかなかった!」

そう言われてスマホを見ると、確かに響子からその旨のメッセージが入っていた。

きっと予定外の仕事だったのだろう。

メッセージから響子の怒り具合がなんとなく伝わってくる。


「じゃあ先に飲んでようか。太一くん何飲む?」

「とりあえず生で!」

「了解」

私たちは飲み物と少しつまめる料理も注文した。

「では改めて、お疲れ~!乾杯~!」

太一くんの掛け声でグラスを合わせると、私たちは仕事終わりの疲れた身体に、生ビールを流し込む。

外出続きで喉が渇いていたのだろう、太一くんは美味しそうに生ビールを一気に飲み干しすと、2杯目をオーダーする。


「最近どう?忙しい?」

私は太一くんに近況を尋ねた。

「いや~ぶっちゃけ忙しい!今日こうやって定時で帰れるのなんて奇跡だわ。亮祐常務が来てから海外事業が一気に動き出したし、スピード感がすごくてついて行くのに必死」

太一くんの口からいきなり常務の話が飛び出し、思わずドキッとする。

太一くんにとって直属の上司だから当然話題に上がるだろうとは思っていたが、さっそくである。

「そういえば、百合もこの前常務を取材したんだろ?どうだった?」

「あ、うん。ちょうど今日出来上がった原稿の確認依頼をメールしたら即レスでビックリしちゃった」

あの日の取材のことを思い出すとまたドキドキしそうだったから、私は少し返答をズラしてメールのことを話した。

「だよな~。業務処理スピードが桁違いなんだろうな。取材はどんな感じだった?広報部2名で対応したんだろ?」

努力の甲斐虚しく、結局会話は取材日のことに戻ってきてしまった。

こうなったら無視するのも変だから、私はあの日を思い出しながら口を開く。

「その日突発案件が入って、私だけが対応することになったの。取材そのものはスムーズだったよ。事前に質問に目を通しておいてくださったみたいで、色々話していただけたし」

「え、一対一だったの?あの常務と?」

「不可抗力で結果的にね」

そう言うと、太一くんがなぜか私をじっと見つめてきた。

「な、なに?何か私の顔に付いてる?」

「いや。なんか百合、さっきから目が泳いでる感じがする。いつもと何か態度が違わない?動揺してるっていうか」

「そ、そうかな‥‥?」

まさか太一くんにそんなことを気づかれるとは思わず、さらに動揺してしまう。

「何かあった?もしや常務に口説かれた?」

とんでもないことを言い出した。

そんなことあるわけがない、ただ私がドキドキして混乱しているだけなのに。

「そんなわけないでしょ!そんな女性社員全員を敵に回すような発言はやめてよ。こわい」

「じゃあ逆に百合が常務のこと好きになっちゃったとか?」

「‥‥‥尊敬する気持ちはあるけど、好きとかじゃないよ。それに私なんかが恐れ多い」

「ふーん、そっか」

太一くんは私の反応を伺うかのようだ。

そしてまた私をじっと見る。

何か言いたそうな様子で、そして何かを決心したかのように頷くと口を開いた。

「あのさ、百合は今彼氏いないんだよな?」

「え?あ、うん」

「百合に彼氏がいない時に、こんなふうに2人きりになるチャンスはなかなかないからさ。ちょっと伝えたいことがあるんだけど‥‥。俺さ、入社した頃からずっと百合のこと好‥‥‥」

「ごっめーーん!お待たせーーー!」

太一くんが何か私に伝えようとしてくれている最中、響子がお店に到着して、私たちの会話を遮る形となった。

「‥‥‥響子。お前‥‥ひどっ‥‥」

「響子、お疲れ様!残業大変だったね」

「あれ?なんか私、マズいタイミングに来た?」

「大丈夫だよ。ごめんね太一くん。話の途中だったよね。最後聞こえなかったんだけど何?」

「‥‥‥いや、やっぱ今はいいわ。響子、なに飲む?」

太一くんは話を切り上げ、響子に声をかける。

そのあと私たちは、改めて響子を交えて乾杯をし、近況をお互いに話し始めた。


そして、たくさん食べて飲んで話した3時間後。

「じゃあ私こっちだから。今日はありがとう!また飲もうね。お疲れ様!」

私は帰路に着くため、別方面の2人と駅の入り口で別れた。


 ◇◇◇


「ねぇ、もしかして太一くん、私が来た時って百合に告白してる最中だった?」

「‥‥‥」

「図星ですか。本当に申し訳ない!でもまぁすべてはタイミングだからね。そういう運命だったんでしょうよ」

「‥‥‥辛辣だな。5年待ったけど、何かもう次は来ない予感がする」

「5年見てきたけど、なんとなくその予感は正しい気がする。いつでも飲みには付き合ってあげるからね」


響子と太一くんの間でこんな会話が繰り広げられていたことを私は知らなかったーー。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

【ルーズに愛して】指輪を外したら、さようなら

深冬 芽以
恋愛
 インテリアデザイナーの相川千尋《あいかわちひろ》は、よく似た名前の同僚で妻と別居中の有川比呂《ありかわひろ》と不倫関係にある。  ルールは一つ。  二人の関係は、比呂の離婚が成立するまで。  その意味を深く考えずに関係を始めた比呂だったが、今となっては本気で千尋を愛し始めていた。  だが、比呂の気持ちを知っても、頑なにルールを曲げようとしない千尋。  千尋と別れたくない比呂は、もう一つのルールを提案する。  比呂が離婚しない限り、絶対に別れない__。 【ルーズに愛して】シリーズ ~登場人物~  相川千尋《あいかわちひろ》……O大学ルーズサークルOG                 トラスト不動産ホームデザイン部インテリアデザイン課主任                   有川比呂《ありかわひろ》……トラスト不動産ホームデザイン部設計課主任                千尋の同僚                結婚四年、別居一年半の妻がいる  谷龍也《たにたつや》……O大学ルーズサークルOB              |Free Style Production《フリー スタイル プロダクション》営業二課主任  桑畠《くわはた》あきら……O大学ルーズサークルOG               市役所勤務、児童カウンセラー  小笠原陸《おがさわらりく》……O大学ルーズサークルOB                 |Empire HOTEL《エンパイアホテル》支配人    小笠原春奈《おがさわらはるな》……陸の妻                   |Empire HOTEL《エンパイアホテル》のパティシエ  新田大和《にったやまと》……O大学ルーズサークルOB                新田設計事務所副社長                五年前にさなえと結婚  新田《にった》さなえ……O大学ルーズサークルOG  新田大斗《にっただいと》……大和とさなえの息子  亀谷麻衣《かめやまい》……O大学ルーズサークルOG               楠行政書士事務所勤務               婚活中  鶴本駿介《つるもとしゅんすけ》……楠行政書士事務所勤務

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「結婚したらこっちのもんだ。 絶対に離婚届に判なんて押さないからな」 既婚マウントにキレて勢いで同期の紘希と結婚した純華。 まあ、悪い人ではないし、などと脳天気にかまえていたが。 紘希が我が社の御曹司だと知って、事態は一転! 純華の誰にも言えない事情で、紘希は絶対に結婚してはいけない相手だった。 離婚を申し出るが、紘希は取り合ってくれない。 それどころか紘希に溺愛され、惹かれていく。 このままでは紘希の弱点になる。 わかっているけれど……。 瑞木純華 みずきすみか 28 イベントデザイン部係長 姉御肌で面倒見がいいのが、長所であり弱点 おかげで、いつも多数の仕事を抱えがち 後輩女子からは慕われるが、男性とは縁がない 恋に関しては夢見がち × 矢崎紘希 やざきひろき 28 営業部課長 一般社員に擬態してるが、会長は母方の祖父で次期社長 サバサバした爽やかくん 実体は押しが強くて粘着質 秘密を抱えたまま、あなたを好きになっていいですか……?

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

氷の上司に、好きがバレたら終わりや

naomikoryo
恋愛
──地方から本社に異動してきた29歳独身OL・舞子。 お調子者で明るく、ちょっとおせっかいな彼女の前に現れたのは、 “氷のように冷たい”と社内で噂される40歳のイケメン上司・本庄誠。 最初は「怖い」としか思えなかったはずのその人が、 実は誰よりもまっすぐで、優しくて、不器用な人だと知ったとき―― 舞子の中で、恋が芽生えはじめる。 でも、彼には誰も知らない過去があった。 そして舞子は、自分の恋心を隠しながら、ゆっくりとその心の氷を溶かしていく。 ◆恋って、“バレたら終わり”なんやろか? ◆それとも、“言わな、始まらへん”んやろか? そんな揺れる想いを抱えながら、仕事も恋も全力投球。 笑って、泣いて、つまずいて――それでも、前を向く彼女の姿に、きっとあなたも自分を重ねたくなる。 関西出身のヒロイン×無口な年上上司の、20話で完結するライト文芸ラブストーリー。 仕事に恋に揺れるすべてのOLさんたちへ。 「この恋、うちのことかも」と思わず呟きたくなる、等身大の恋を、ぜひ読んでみてください。

契約書は婚姻届

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「契約続行はお嬢さんと私の結婚が、条件です」 突然、降って湧いた結婚の話。 しかも、父親の工場と引き替えに。 「この条件がのめない場合は当初の予定通り、契約は打ち切りということで」 突きつけられる契約書という名の婚姻届。 父親の工場を救えるのは自分ひとり。 「わかりました。 あなたと結婚します」 はじまった契約結婚生活があまー……いはずがない!? 若園朋香、26歳 ごくごく普通の、町工場の社長の娘 × 押部尚一郎、36歳 日本屈指の医療グループ、オシベの御曹司 さらに 自分もグループ会社のひとつの社長 さらに ドイツ人ハーフの金髪碧眼銀縁眼鏡 そして 極度の溺愛体質?? ****** 表紙は瀬木尚史@相沢蒼依さん(Twitter@tonaoto4)から。

処理中です...