私の瞳に映る彼。

美並ナナ

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27.熱愛報道(Side百合)

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それは突然の出来事だった。

朝出社するなり、嵐のように忙しくなり、私は混乱しながら訳も分からず目の前のマスコミ対応に朝から晩まで追われる。

なぜなら、我が社の常務と人気モデルの熱愛スクープが週刊誌に報じられたからだ。

そう我が社の常務であり、私の彼氏でもある大塚亮祐、その人であるーー。



その日朝出社すると、突然安西部長に広報部メンバー全員が緊急で集められた。

こんなことはめったにないので、私たちに緊張が走る。

閉ざされた会議室で安西部長から話されたのは、今日発売の週刊誌に常務と人気モデルの宮園奈々の熱愛スクープが掲載されているという事実だった。

当社も相手方の事務所も全く事前に週刊誌側から確認もなく、すっぱ抜かれた状態とのことだ。

内容は”人気モデル宮園奈々、大塚フードウェイのイケメン御曹司とお泊まり愛”だ。

マンションに2人が入っていく姿が撮られているそうだ。


安西部長はその情報を掴み次第、急いで亮祐さんも含めた上層部と緊急会議を行い、マスコミ対応について取り決めたそうだ。


「取り決めた内容をもとに作成したのが、この想定Q&Aね。これから続々とマスコミからの問い合わせや取引先からの電話、それにおそらく宮園さんのファンからとか、ともかく関係各所からひっきりなしに問い合わせが入ると思うの。みんなにはその対応をお願いするのだけど、その際の回答はこのQ&Aに沿って対応してね」


全員がそのQ &Aに目を通す。

そして一様に困惑した表情を浮かべた。

なぜなら、その回答案は「事実関係を確認中のため回答は差し控えさせて頂きます」という肯定も否定もしないものだった。

「もうすでに上層部と話して事実関係の確認は済んでるんじゃないんですか?」

由美ちゃんが首を傾げた。

普通だったら肯定か否定かどちらかの見解で押し通しそうなものだ。

「それが私もよく分からないのだけど、上層部の皆さんが肯定も否定もしないで欲しいっておっしゃるのよ。何かをその間に調整されるみたいではあるんだけど」

「‥‥」

「私たち広報にとっては正直やりにくい対応よね。確認中で濁すことしかできず、たぶん電話口で詰められるだろうし。でもこれが上層部の決定事項だから、みんなには申し訳ないけど頑張ってほしいの。お願いね」

安西部長も対応方法について納得していないところがあるのだろう。

やや困ったような色を目に浮かべていた。

そうこうしているうちに電話が鳴り出し、私たちは会議室を飛び出し、全員一丸となって対応にあたる。

(亮祐さんに熱愛報道‥‥?どういうこと!?)

私の頭の中は大混乱だった。

その日は朝から晩まで熱愛報道の問い合わせに追われ、通常業務は全く手がつけられなかった。

お昼も食べる暇がなく、デスクにストックしてあった軽食をつまむ程度だった。

当然ながら今日は残業だ。



この熱愛報道は対外的な反響だけでなく、社内もその比じゃないくらい騒がしくなった。

今日は当の本人である亮祐さんは会社に出社していないらしい。

そのためか、わざわざ事実確認を広報部へしてくる社員もいたほどだ。

社外対応だけて精一杯だったので、社内からの問い合わせは控えて欲しいと内心少しイライラしてしまった。

でも私の気が立っているのは、もちろん忙しさもあるけれど、もっと私情によるものだ。

私も忙しくてスマホを見る時間がなかったけど、ふと見ると特に亮祐さんからも連絡は入っていない。

なにも説明がないのだ。


広報部のメンバーが途中で買ってきた週刊誌の記事を見たけれど、確かに写っているのは亮祐さんだった。

しかも見慣れたあのマンションに入っていくところだった。

この写真を見て彼のマンションだと分かるのは私だけだが、だからこそ余計にこれが事実であることが分ってしまう。

(亮祐さんどういうこと‥‥?この女性とも関係があったってこと‥‥??)

私の心がザワザワする。

それと同時に、訳がわからな過ぎて説明がないことへの不満が胸をかすめる。

訳もわからず、彼氏の熱愛報道のマスコミ対応をしなければいけないなんて、ものすごい拷問のように感じた。

幸いにも今日は金曜日だ。

週末を挟むことでこの報道は少しは鎮火するだろう。

いつもなら金曜の夜は亮祐さんのマンションに行くのだが今日はどうしようかとふと考える。

するとそのタイミングでちょうどスマホのバイブが震え、メッセージの受信を知らせる。

相手は亮祐さんだった。

私はふぅと一呼吸してからメッセージのやりとりをする。


“今日仕事何時頃に終わりそう?会える?”

“まだ残業中です。21時頃の見込みです”

“終わったら都内にあるミュンスターホテルに来てくれない?今そこにいるんだ”

“マンションじゃないんですか?”

“ごめん、会ってから色々説明するから”


どうやら説明してくれるつもりはあるようだ。

私としてもちゃんとどういうことか知りたかった。

“分かりました。仕事が終わったら向かいます”

“良かった。ホテルに着いたら連絡して”

“今日は常務のせいでとっても忙しかったんで、仕事が終わらなくて遅くなるかもしれませんがご了承ください”

溜まっていた不満が顔を出し、少し嫌味なメッセージを送ってしまった。

それから一生懸命に残っていた仕事を仕上げ、会社を出てホテルへ向かった。



「百合、怒ってる?本当にごめん。全部説明させて」

ホテルの部屋に入るなり、亮祐さんはいきなり私を抱きしめてきた。

それがやましいことがあったのを誤魔化すかのようで、なんだか余計に私の神経を逆撫でた。

「‥‥」

私は何も言わず、彼を抱きしめ返すこともせず、ただ突っ立っていた。

そんな私の態度がいつもと違うことを察したようで、亮祐さんは腕に力を込める。 

「‥‥苦しい。とりあえず座りませんか?」

抗議するように彼の腕を軽く叩いた。

「分かった。座って話そう」

私たちはソファーへ移動し、並んで腰をかけた。

亮祐さんはここで仕事をしていたようで、ソファーの前のテーブルには書類が広がっていた。


「今日は一日ここで仕事をしていたんだ。会社に行くのも、マンションに帰るのも控えた方が無難だろうと思ってね」

「‥‥」

「百合はあの週刊誌報道って見た?」

「‥‥見ました。そして今日は終日、その報道に対する社外対応に追われてました」


私は視線を下に向けて、少し俯く。

すると亮祐さんが私の手を握る。


「百合、こっちを見て。ちゃんと説明させて」

「‥‥」

「あの報道はもちろんガセだよ。俺には百合がいるしね。ただ、百合も気付いたと思うけどあの写真自体は事実なんだ」

「‥‥あのモデルさんとも付き合ってたってこと?」

「違うよ、そんなわけない!」

私の発言に亮祐さんは信じられないとばかりに大きく目を見開く。

「だって亮祐さんのマンションに一緒に入って行ったんですよね」

「そうだけど、実はあの時もう1人一緒にいて3人だったんだよ」

「もう1人?」

「そう。実は宮園さんは叔父の彼女でさ、あの日叔父から紹介されたんだ。1件目で食事した後に、俺の家で飲み直したんだけど、叔父が電話中で少し離れてたタイミングであれを撮られたんだよ」

「専務の彼女さん‥‥?」


それは意外な話だった。

まさか熱愛中だったのが亮祐さんの叔父様である専務だったとは。


「本当はすぐにでも事実無根だと否定コメントを発表したかったんだけど、ちょうど叔父と宮園さんが入籍を調整中の時期でさ。宮園さんの事務所と、宮園さんの出演しているCMスポンサーと色々協議する必要性が出てきたから、すぐに否定しないことになったんだ」

「‥‥だからあの回答対応だったんですか」 

「そう。おかげでさっき調整がついて、明日にでも正式に叔父と宮園さんの結婚を発表することになったよ。中途半端な熱愛報道されるくらいなら、報道に乗っかる形でこのタイミングで事実を発表する方が良いだろうって判断だね」

「‥‥なるほど」

つまりこの発表に向けて、上層部は水面下で色々調整していたのであろう。

「この調整が正式決定するまでは、機密事項だから百合にも話すことができなくて。今このタイミングまでなにも説明できなくてごめんね。不安にさせたよね?」

日中に亮祐さんから連絡がなかったことはこういう理由だったわけだ。

頭では納得しているものの、心はそうはいかない。

私の微妙な表情をした顔を亮祐さんは覗き込む。

「百合?」

「‥‥」

「ほら、言いたいこと言って?溜めてる顔してるよ」

「‥‥説明の連絡がなかった理由は理解できました。理解はできるんですけど‥‥」

「うん」

「本当に訳もわからない状態で、自分の彼氏の熱愛報道についてひっきりなしに来る問い合わせに対応しなきゃいけないなんて‥‥すごく辛かったんです‥‥」

「百合‥‥」

ちょっと拗ねたような怒ったような顔で、亮祐さんを見据えた。

亮祐さんは握っていた手を離し、そのまま私を引き寄せると、頭を包み込むように優しく抱きしめてくれた。

私も彼の体温を感じて安心したくて、腕を彼の背中に回してギュっと抱きしめ返す。

「本当にごめんね。百合には仕事としても、彼女としても大変な目に合わせてしまったなってすごく反省してる。あんな写真を撮られるなんて俺も迂闊だった」

「本当に何もなかったんですよね?」

「ないよ。ないにきまってる。俺は百合にしか興味ないし、百合しか好きじゃない。百合が確かめたいんだったら、叔父や宮園さんから証言してもらうよ?」

「そこまでしなくてもいいです。亮祐さんのこと信じます」

「‥‥良かった。これで百合に愛想尽かされたらと思うと俺も怖かった」

亮祐さんはふぅと安堵の息を吐く。

その様子を見て、亮祐さんも動揺していたのかもしれないと思った。

「亮祐さんも怖かったの?」

「そうだよ。百合が俺を信じてくれなかったらどうしようってソワソワしてたし。ここ来た時も明らかに怒ってる様子だったし、怒った百合なんか初めてだったからどうしようかと思った」

眉を下げてそう言う亮祐さんは、なんだかいつもより弱々しくて可愛かった。

「可愛い‥‥」

ポロッと思っていたことを言葉で漏らし、思わず彼を宥めるように、彼の頭を撫でてしまった。

少しの間私に頭を撫でられていた亮祐さんだが、しばらくするとおもむろに立ち上がる。

「百合に可愛がられるのも新鮮だけど、お礼に次は俺が百合を可愛がってあげるね?さ、百合行くよ」

「えっ?行くってどこへ?」

「バスルーム。一緒に入ろう」

「‥‥!」

亮祐さんは楽しそうな笑みを向ける。

(こういう時の亮祐さんは逃げ場を塞いでくるから、私にはもう選択肢ないんだろうなぁ‥‥。一緒にお風呂、恥ずかしい‥‥!)

「嫌?」

「‥‥嫌じゃないです」

私は無駄な抵抗は諦め、ひたすら羞恥に耐えながら頷いたーー。

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