私の瞳に映る彼。

美並ナナ

文字の大きさ
45 / 47

40.決意(Side亮祐)

しおりを挟む
朝起きた時に百合が隣にいるというのは、なんて幸せなことだろう。

ニューヨークのホテルで目を覚ました俺は、隣で眠る百合を見て思わず目を細める。

起こしてしまわないようにそっと抱きしめ、百合の体温と静かな寝息を感じると愛しさが込み上げてくる。



昨夜の百合は、信じられないくらい自分をさらけ出し、自分の気持ちを一生懸命伝えてくれた。

それが俺の不安と疑念を拭うためで、百合の想いを俺に分かって欲しいと思う真摯な姿勢に心を打たれた。

あれだけ気持ちを込めて言われれば、疑うのもバカらしくなる。

百合は亡くなった彼を俺に重ねているわけではなく、俺自身をちゃんと見ていて、俺自身が好きなのだと実感した。

(もっと早くにちゃんと聞けば良かった。そうすればギクシャクした関係になり、百合を悲しませることもなかったのに。本当にそれは反省だな‥‥)


百合が俺のどういうところが好きなのかも挙げてくれたが、その中にも容姿に関することが入ってなくて思わず百合らしいと思った。

やっぱり百合は他の女性とは違う、特別な女性なのだと心底思う。


俺は百合を残してそっとベッドから出ると、貴重品を入れた鍵付きの引き出しを開ける。

そこには、手の平より小さなサイズのベルベット素材の箱が入っていた。

それは百合へ贈ろうと思っていた指輪だった。

両親へ紹介した頃に購入し、実は箱根旅行の時に渡そうと思っていたのだが、あの同級生との遭遇があり渡しそびれていたのだ。

そして今日まで関係がギクシャクしてしまい、渡す機会がなかったのだが、なぜかニューヨークまで持ってきてしまっていた。

ニューヨークに百合が来ることは予想していなかったのに、なぜ自分がこれを持ってきたのかは完全に謎だ。

でもしかし、指輪がここにあり、百合がニューヨークにいて、再び心を通じ合わせた今、これはある意味運命のようなものではないだろうか。

運命とか奇跡とか、そういう目に見えないものは普段信じないのだが、そんな俺でも何かのお告げだと感じずにはいられなかった。

(百合があんなに自分をさらけ出して気持ちを伝えてくれたんだ。今度は俺が伝える番だろう)

俺は指輪の箱を握りしめ、決意を込めた。


百合は土日+5日の有休という1週間の休みでニューヨークに来ているという。

4泊6日のスケジュールだ。

俺も仕事があるので、日中は別行動をし、夜は一緒に過ごすことになった。

百合は初めてのニューヨークだということで、ガイドブックで行きたいところを調べてきているようだった。


「あぁ、そういえば今ちょうど長谷くんも短期でニューヨークに出張で来てるよ」

「え!太一くんも!?それは知らなかったです。偶然会ってバレないようにしなきゃ」

「長谷くんは日中は仕事だし、何度かニューヨークには来てるからそもそも観光地は回らないだろうから、会う心配はないと思うよ」

「それならいいけど‥‥」


俺も百合がいることで内心浮かれているから変に思われないようにしないとなと思った。

こうして百合との短いニューヨーク生活が始まった。

夜はニューヨークで人気のレストランや夜景が綺麗な観光地などに一緒に行った。

百合は日中に1人で行った場所の話などを楽しそうにしてくれる。

特に美術館巡りを楽しんでいるようだ。



そうして迎えた5日目。

6日目は日本へ帰国するための移動だけでほぼ潰れてしまうため、実質最後のニューヨークであり、最後の夜だ。

俺は少し早めに仕事を終えると、百合との待ち合わせ場所であるブルックリンへと向かう。

ブルックリンは、ニューヨーク市の地区で、マンハッタンから橋を超えたところに位置している。

お洒落なショップやカフェ、レストランなどが多く、近年は人気の観光地になっている場所だ。

予定より早く着いた俺は、近くにあったカフェに入り、コーヒーを注文する。

無意識に薄手のコートのポケットに入れた小さな箱に手を伸ばし、その存在を確認した。

「Hey, Ryosuke! 」

その時、後ろから男性の声で名前を呼びかけられて振り返る。

それは大学時代からのアメリカ人の友人だった。

アメリカに住んでいる頃はよく飲みに行っていた友人だったが、日本に帰国してからは会っていなかった。

そういえばブルックリンに住んでいると言ってたなと思い出す。

「Long time no see! When did you come back to NY?(久しぶりだな!いつニューヨークに戻ってきたんだよ?)」

「Well, it’s just a business trip.(まぁ、ただの出張だよ)」

「Oh, I see. By the way, Something seems different about you. Do you have a girlfriend by any chance?(お、そうなんだ。ところでさ、なんか亮祐は雰囲気が変わったな。もしかして彼女できた?)」


友人は「亮祐に彼女ができるなんてまさかな」というふうな表情で俺を見て笑う。

この友人は百合と出会う前の、女性とテキトーに遊び、本気の相手を作らなかった俺を知ってるからこそこう言っているのだ。

半年くらい前の話なのに、もう懐かしいなと自嘲めいた笑いが浮かぶ。

まさか俺が1人の女性に真剣になり、結婚したいと思うようになるとはあの頃は思わなかった。

俺はあの頃を知る友人に晴れやかな顔で宣言する。

「Yeah, I have a girlfriend now and I’m gonna propose to her from now(そう、彼女がいるし、まさにこれから彼女にプロポーズするつもりだよ)」

「No way! Seriously!? (うそだろ!マジで!?)」

大きな目をこれでもかというくらい見開き、友人は驚愕している。

自分でも信じられない変化なのだから、友人が驚くのも無理ないだろう。

その後、友人からは熱い激励を受けた。


「亮祐さん、お待たせ」

そのあと、ちょうど百合がやってきて俺と百合は予約していたレストランへ向かう。

ーー今日こそ百合に伝えよう。ずっと渡さず持っていたこれと共に。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

ハイスペックでヤバい同期

衣更月
恋愛
イケメン御曹司が子会社に入社してきた。

社長から逃げろっ

鳴宮鶉子
恋愛
社長から逃げろっ

友達婚~5年もあいつに片想い~

日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は 同僚の大樹に5年も片想いしている 5年前にした 「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」 梨衣は今30歳 その約束を大樹は覚えているのか

処理中です...