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14. デート(Side千尋)
「きゃああああーーーーーー!!」
「やばーーーいっ!!」
「うおーーーーーーーーーっ!!」
家族連れ、カップル、友人グループなど多くの人々で賑わっている土曜日の遊園地。
絶叫マシーンが有名なここでは、いたるところから、興奮するような叫び声が耳に飛び込んでくる。
若者を中心とした来場者の顔には明るい笑顔が弾けていた。
そんな園内に、俺と彼女はちょうどエントランスから中へ足を踏み入れたところだ。
他の来場者とは異なり、彼女の顔には戸惑いの色が浮かんでいて、辺りをキョロキョロ見回している。
「遊園地……?」
「そうだよ。意外だった?」
「はい。食事に行くのかなと思ってました。動きやすい服装でって連絡頂いたのは不思議でしたけど」
「遊園地なら歩き回るし動きやすい方がいいでしょ?」
今日ここに来ることは事前に彼女に告げていなかった。
ただ休日にデートに誘い、迎えに行くから動きやすい服装で来てと述べただけ。
いつものきっちりとした服装とは異なり、Tシャツにカラーパンツ、スニーカーというカジュアルな格好をした彼女の姿は新鮮だ。
その姿だけで今日が休日でプライベートなのだということを強く実感する。
「なんで遊園地なんですか?」
彼女にとってここは予想外の場所だったらしい。
声には困惑が混じっていた。
「遊園地キライ?」
「いえ、嫌いではないです。ただ来るのは20年ぶりくらいです。瀬戸社長はよく来るんですか?」
「俺も学生の頃以来だよ?」
「えっ。じゃあなんで今日ここに?」
アッサリとそう言う俺に、彼女は目を丸くした。
そもそもお酒も飲まず、ホテルにも行かずのデートなんて何年ぶりだろうか。
しかも口説き目的の遊び相手じゃない女の子とのデートなんて初めてである。
ましてや遊園地。
彼女に答えたとおり十数年ぶりだ。
もちろん俺がここを選んだのには理由があった。
「言ったでしょ?協力するって。まずは気を紛らわすのがいいって言ったの覚えてる?」
「はい、それはもちろん」
「遊園地って思いっきり叫べるし、ストレス発散になると思うんだよね」
「ストレス発散、ですか?」
「そう。俺が思うに詩織ちゃんって溜めがちなんじゃない?外で声出してれば発散できるし、きっと気も紛れるよ」
これは先日彼女が泣いているのを見て思ったことだった。
堰を切ったように涙が止めどなく溢れていた。
たぶんずっとしっかり泣いてなかったんじゃないかと思う。
「確かにそうかもしれません。自分では思い付きませんでした。親身に考えてくださってありがとうございます」
彼女はいたく感心したようで、尊敬にも似た眼差しを向けてくる。
それをくすぐったく感じながら、同時に少しの罪悪感にも襲われた。
……親身どころか、あのタイミングでデートに誘うなんて詩織ちゃんの弱みに漬け込んでるみたいなもんだ。卑怯だって分かってる。
レセプションの日、彼女の秘めた想いを打ち明けられた。
彼女は「気持ち悪くないか、軽蔑しないか」と俺の反応を気にしているようだった。
当の俺はまったくそんなことはなかった。
むしろ逆だ。
兄をずっと一途に思っていたことを知り、引くどころかますます彼女への想いが強くなった。
こんなに一途な彼女に俺だけを見てもらえたらどんなに幸せだろうかと思った。
奔放な母を見て育ったから、女なんて結局のところ取っ替え引っ替えという植え付けられた意識。
恋愛に期待が持てず、どうせ裏切られるだろうと恋愛において女性不信だった。
最初から本気にならないよう殻に籠ってた。
だからゲーム感覚で女の子を口説いてたのだと思う。
……でもたぶん心の奥底では、お互いに一人だけを想い合う恋愛に憧れてたんだろうな。
彼女に惹かれるようになってそれを自覚した。
俺には無縁なことだと思っていたけど。
小日向詩織という存在は、そんな俺に衝撃をもたらしたのだ。
……なんでもいいから、なりふり構わず本気で詩織ちゃんが欲しい。
彼女に好きになったと宣言した時とは比較にならないほど、その想いは強い。
長年の想いに苦しみ涙する彼女に対して、したたかにデートに誘うほどに本気だ。
「ここの遊園地は絶叫マシンが多いですね」
「その方が気兼ねなく叫べるよ。詩織ちゃんは絶叫系は大丈夫?」
「はい、大丈夫です。でも久しぶりすぎてちょっと緊張はしますね」
気を紛らわすために来たと聞いて困惑ぎみだった様子から一転、彼女は非常に前向きに楽しもうとしているようだ。
自分のために親身に付き合ってくれているのだから、とでも思っているのだろう。
好きだと以前伝えたのに、自分への好意によるものだとは考えていなさそうだ。
「じゃあさっそくアレ乗ってみようか?」
俺はこの遊園地で目玉となっている絶叫マシンを指差した。
世界最大級の非常に激しいコースターだそうで、乗り場には待ち列ができている。
同意した彼女とともにその列に並んだ。
「ここの遊園地は初めて?」
「いえ、子供の頃に家族と来たことがあります」
「そうなんだ。このコースターも乗ったことあるの?」
「はい。確か子供の頃にちょうどできたばかりで話題になってました。怖かったんですけど、乗ってみようって誘われて、手を繋いでもらって列に並びました」
そう話す彼女は、昔を懐かしむような遠い目をしている。
誰に手を繋いでもらったか、彼女は言わなかった。
それでもそれを推測するのは簡単だ。
おそらくお兄さんなんだろう。
柔らかな表情がそれを物語っている。
……前はこの表情を見て、仲の良い兄妹なんだなと微笑ましく思ったし、ただたとえ兄でも面白くないなと思ったけど、詩織ちゃんの想いを知ってしまうと……。つまり、好きな人を想ってるわけで……。
そのことが予想以上に自分の胸に突き刺さった。
一途な彼女に惹かれたのに、その一途さを垣間見てキツイと感じるなんて自分勝手かもしれない。
俺は気を逸らすために話題を変えることにした。
「仕事はどう?もう慣れた?」
「おかげさまで慣れてきました。でもまだまだ瀬戸社長のお役には立てていないので、もっと頑張ります」
「そんなことないよ。助かってるよ。……てかさ、社長はやめない?今日は休日だし」
「あ、そうですよね。すみません……!」
彼女は恐縮したように身を縮める。
そんな態度に距離を感じた。
たとえ一度体を重ねていようとも、彼女からは線を引かれているような感じがする。
それがなんとももどかしい。
ふと、歓迎会の時に彼女が健一郎のことを「健ちゃん」と呼んでいたのを思い出した。
……健一郎にすら、まだ負けてるな。
この距離をどうやって縮めていけばいいのか。
ゲーム感覚で女の子を口説いてばかりいた俺には、妙案も思いつかない。
とりあえずは、弱みに漬け込んだにしろ、今こうして休日に彼女と一緒にいられることを喜ぶべきだろう。
ちょうど順番が来て、俺たちは絶叫マシンに乗り込む。
急降下、急上昇、急旋回する非常にに激しいコースターはスリル満点だった。
彼女は大声までは出さないものの、控えめに声をあげていた。
コースターから降りて、乱れた髪を直す彼女の表情はどこかスッキリとしている。
「どうだった?」
「すっごく爽快でした!乗っている間は、なにも考えられなくて、ただただスリルが楽しくて。瀬戸さんがストレス発散になるって言ってたのが分かりました」
「気分転換にいいでしょ?」
「ホントにその通りですね」
珍しく彼女の声が分かりやすく弾んでいる。
明るい笑顔を見せる彼女に、俺も自然と笑顔になった。
それから俺たちは次々に絶叫マシンを制覇していった。
学生の時ぶりに遊園地に来たが、大人になった今の方が非日常感があって純粋に楽しい。
久しぶりに童心に帰った気がする。
彼女も同じなのか、ずいぶんと無邪気な感じになっていた。
「あ!瀬戸さん、あれ見てください。チュロス売ってますよ。食べませんか?」
「あの細長いやつ?」
「はい。チュロスってなんか遊園地来たって感じしませんか?」
「ああ、確かに言われてみればそうかも」
彼女はお店の方に向かって行き、2つ分のチュロスを購入して、その1つを俺に差し出す。
お財布を出す暇もなく、奢られる形になった。
「俺が払ったのに」
「いえ、瀬戸さんには入園料も払って頂いてますから。チュロスくらいで申し訳ないですけど」
「じゃあ遠慮なく。ありがとう」
「こちらこそ、今日連れて来て頂いて本当にありがとうございます。いつもカフェで読書したり、映画に行ったり一人で過ごしてばかりだったので、こうやって外で遊べて楽しかったです」
チュロスをかじりながら、そんな素直な感謝を彼女は口にする。
リラックスしたふにゃっとした笑顔を向けられ、チュロスを食べる手も止めて俺はそっちに釘付けだ。
パリの時とも、会社の時とも違う、自然体の笑顔。
本来の彼女はきっとこんな感じなんだろうなと思った。
「やばーーーいっ!!」
「うおーーーーーーーーーっ!!」
家族連れ、カップル、友人グループなど多くの人々で賑わっている土曜日の遊園地。
絶叫マシーンが有名なここでは、いたるところから、興奮するような叫び声が耳に飛び込んでくる。
若者を中心とした来場者の顔には明るい笑顔が弾けていた。
そんな園内に、俺と彼女はちょうどエントランスから中へ足を踏み入れたところだ。
他の来場者とは異なり、彼女の顔には戸惑いの色が浮かんでいて、辺りをキョロキョロ見回している。
「遊園地……?」
「そうだよ。意外だった?」
「はい。食事に行くのかなと思ってました。動きやすい服装でって連絡頂いたのは不思議でしたけど」
「遊園地なら歩き回るし動きやすい方がいいでしょ?」
今日ここに来ることは事前に彼女に告げていなかった。
ただ休日にデートに誘い、迎えに行くから動きやすい服装で来てと述べただけ。
いつものきっちりとした服装とは異なり、Tシャツにカラーパンツ、スニーカーというカジュアルな格好をした彼女の姿は新鮮だ。
その姿だけで今日が休日でプライベートなのだということを強く実感する。
「なんで遊園地なんですか?」
彼女にとってここは予想外の場所だったらしい。
声には困惑が混じっていた。
「遊園地キライ?」
「いえ、嫌いではないです。ただ来るのは20年ぶりくらいです。瀬戸社長はよく来るんですか?」
「俺も学生の頃以来だよ?」
「えっ。じゃあなんで今日ここに?」
アッサリとそう言う俺に、彼女は目を丸くした。
そもそもお酒も飲まず、ホテルにも行かずのデートなんて何年ぶりだろうか。
しかも口説き目的の遊び相手じゃない女の子とのデートなんて初めてである。
ましてや遊園地。
彼女に答えたとおり十数年ぶりだ。
もちろん俺がここを選んだのには理由があった。
「言ったでしょ?協力するって。まずは気を紛らわすのがいいって言ったの覚えてる?」
「はい、それはもちろん」
「遊園地って思いっきり叫べるし、ストレス発散になると思うんだよね」
「ストレス発散、ですか?」
「そう。俺が思うに詩織ちゃんって溜めがちなんじゃない?外で声出してれば発散できるし、きっと気も紛れるよ」
これは先日彼女が泣いているのを見て思ったことだった。
堰を切ったように涙が止めどなく溢れていた。
たぶんずっとしっかり泣いてなかったんじゃないかと思う。
「確かにそうかもしれません。自分では思い付きませんでした。親身に考えてくださってありがとうございます」
彼女はいたく感心したようで、尊敬にも似た眼差しを向けてくる。
それをくすぐったく感じながら、同時に少しの罪悪感にも襲われた。
……親身どころか、あのタイミングでデートに誘うなんて詩織ちゃんの弱みに漬け込んでるみたいなもんだ。卑怯だって分かってる。
レセプションの日、彼女の秘めた想いを打ち明けられた。
彼女は「気持ち悪くないか、軽蔑しないか」と俺の反応を気にしているようだった。
当の俺はまったくそんなことはなかった。
むしろ逆だ。
兄をずっと一途に思っていたことを知り、引くどころかますます彼女への想いが強くなった。
こんなに一途な彼女に俺だけを見てもらえたらどんなに幸せだろうかと思った。
奔放な母を見て育ったから、女なんて結局のところ取っ替え引っ替えという植え付けられた意識。
恋愛に期待が持てず、どうせ裏切られるだろうと恋愛において女性不信だった。
最初から本気にならないよう殻に籠ってた。
だからゲーム感覚で女の子を口説いてたのだと思う。
……でもたぶん心の奥底では、お互いに一人だけを想い合う恋愛に憧れてたんだろうな。
彼女に惹かれるようになってそれを自覚した。
俺には無縁なことだと思っていたけど。
小日向詩織という存在は、そんな俺に衝撃をもたらしたのだ。
……なんでもいいから、なりふり構わず本気で詩織ちゃんが欲しい。
彼女に好きになったと宣言した時とは比較にならないほど、その想いは強い。
長年の想いに苦しみ涙する彼女に対して、したたかにデートに誘うほどに本気だ。
「ここの遊園地は絶叫マシンが多いですね」
「その方が気兼ねなく叫べるよ。詩織ちゃんは絶叫系は大丈夫?」
「はい、大丈夫です。でも久しぶりすぎてちょっと緊張はしますね」
気を紛らわすために来たと聞いて困惑ぎみだった様子から一転、彼女は非常に前向きに楽しもうとしているようだ。
自分のために親身に付き合ってくれているのだから、とでも思っているのだろう。
好きだと以前伝えたのに、自分への好意によるものだとは考えていなさそうだ。
「じゃあさっそくアレ乗ってみようか?」
俺はこの遊園地で目玉となっている絶叫マシンを指差した。
世界最大級の非常に激しいコースターだそうで、乗り場には待ち列ができている。
同意した彼女とともにその列に並んだ。
「ここの遊園地は初めて?」
「いえ、子供の頃に家族と来たことがあります」
「そうなんだ。このコースターも乗ったことあるの?」
「はい。確か子供の頃にちょうどできたばかりで話題になってました。怖かったんですけど、乗ってみようって誘われて、手を繋いでもらって列に並びました」
そう話す彼女は、昔を懐かしむような遠い目をしている。
誰に手を繋いでもらったか、彼女は言わなかった。
それでもそれを推測するのは簡単だ。
おそらくお兄さんなんだろう。
柔らかな表情がそれを物語っている。
……前はこの表情を見て、仲の良い兄妹なんだなと微笑ましく思ったし、ただたとえ兄でも面白くないなと思ったけど、詩織ちゃんの想いを知ってしまうと……。つまり、好きな人を想ってるわけで……。
そのことが予想以上に自分の胸に突き刺さった。
一途な彼女に惹かれたのに、その一途さを垣間見てキツイと感じるなんて自分勝手かもしれない。
俺は気を逸らすために話題を変えることにした。
「仕事はどう?もう慣れた?」
「おかげさまで慣れてきました。でもまだまだ瀬戸社長のお役には立てていないので、もっと頑張ります」
「そんなことないよ。助かってるよ。……てかさ、社長はやめない?今日は休日だし」
「あ、そうですよね。すみません……!」
彼女は恐縮したように身を縮める。
そんな態度に距離を感じた。
たとえ一度体を重ねていようとも、彼女からは線を引かれているような感じがする。
それがなんとももどかしい。
ふと、歓迎会の時に彼女が健一郎のことを「健ちゃん」と呼んでいたのを思い出した。
……健一郎にすら、まだ負けてるな。
この距離をどうやって縮めていけばいいのか。
ゲーム感覚で女の子を口説いてばかりいた俺には、妙案も思いつかない。
とりあえずは、弱みに漬け込んだにしろ、今こうして休日に彼女と一緒にいられることを喜ぶべきだろう。
ちょうど順番が来て、俺たちは絶叫マシンに乗り込む。
急降下、急上昇、急旋回する非常にに激しいコースターはスリル満点だった。
彼女は大声までは出さないものの、控えめに声をあげていた。
コースターから降りて、乱れた髪を直す彼女の表情はどこかスッキリとしている。
「どうだった?」
「すっごく爽快でした!乗っている間は、なにも考えられなくて、ただただスリルが楽しくて。瀬戸さんがストレス発散になるって言ってたのが分かりました」
「気分転換にいいでしょ?」
「ホントにその通りですね」
珍しく彼女の声が分かりやすく弾んでいる。
明るい笑顔を見せる彼女に、俺も自然と笑顔になった。
それから俺たちは次々に絶叫マシンを制覇していった。
学生の時ぶりに遊園地に来たが、大人になった今の方が非日常感があって純粋に楽しい。
久しぶりに童心に帰った気がする。
彼女も同じなのか、ずいぶんと無邪気な感じになっていた。
「あ!瀬戸さん、あれ見てください。チュロス売ってますよ。食べませんか?」
「あの細長いやつ?」
「はい。チュロスってなんか遊園地来たって感じしませんか?」
「ああ、確かに言われてみればそうかも」
彼女はお店の方に向かって行き、2つ分のチュロスを購入して、その1つを俺に差し出す。
お財布を出す暇もなく、奢られる形になった。
「俺が払ったのに」
「いえ、瀬戸さんには入園料も払って頂いてますから。チュロスくらいで申し訳ないですけど」
「じゃあ遠慮なく。ありがとう」
「こちらこそ、今日連れて来て頂いて本当にありがとうございます。いつもカフェで読書したり、映画に行ったり一人で過ごしてばかりだったので、こうやって外で遊べて楽しかったです」
チュロスをかじりながら、そんな素直な感謝を彼女は口にする。
リラックスしたふにゃっとした笑顔を向けられ、チュロスを食べる手も止めて俺はそっちに釘付けだ。
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