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14. 前公爵夫人の指導
……『本物の淑女』とは、こういう方のことを言うのだわ……!
アイゼルが手紙を出して数日後。
王都にある公爵邸では、息子からの要請を受けてやってきたアイゼルの母――ローザリア・シャロック前公爵夫人を迎えていた。
夫を亡くして以降、公爵領の別邸で暮らしているローザリアがここへ足を運ぶのは実に約二年ぶりだという。
緊張で手に汗を感じながらローザリアと初めての挨拶を交わしたリースベットは、その美しさに思わず見惚れてしまった。
歳の頃は四十代前半のはずだが、リースベットとそう変わらなく見える。
成人を過ぎた息子が二人もいるなどとても信じられないほど若々しく輝かんばかりの美貌だ。
エルマ風に言うならば「美魔女」という言葉がぴったりだろう。
ただリースベットが目を奪われたのは、外見的な麗しさだけが理由ではなかった。
……すごい。内側から気高く、高貴な気品が滲み出ているわ。
その場にいるだけで人の視線を惹きつける、並々ならぬ存在感を放つローザリアに、リースベットは『本物の淑女』のなんたるかを教えられた気がした。
異母姉アメリアも社交界の華ともてはやされていたが、明らかに格が違う。
「この度はご足労ありがとうございます、母上」
「いいのよ。他ならぬアイゼルからの依頼ですもの。貴方がわたくしに何かを頼んでくるなんて滅多にないことだから驚いたわ。まあ、わたくしに一報も入れず、貴方が突然結婚した時の方がよっぽど驚いたけれど」
「事情は手紙にも書き記したとおりですので。妻のリースベットをよろしくお願いします」
「ええ、分かったわ。貴方のお嫁さんがどんな子なのか今から楽しみですもの」
品定めするような視線をローザリアから向けられ、リースベットはビクリとする。
こんな完璧な本物の淑女に、これから自分は指導を受けるのだと思うと、それに見合う成果を出せるか心配でたまらなかった。
……それにしても今、なんだか不穏な会話が聞こえたのだけれど……?
ローザリアは『一報もなくアイゼルが突然結婚した』と言っていなかっただろうか。
てっきりこの結婚は、『多産の血筋』にあやかってでも跡継ぎを欲している公爵家の総意で進められたものだとリースベットは思っていた。
だが、そうではなく、当主であるアイゼルの一存で決められたのだとするれば……
……もしかするとローザリア様は私のことを快く思っていないかも……。
結婚翌日にルイズと初めて顔を合わせた際にも、リースベットは同様の不安を抱いた。
しかし結果的に、思いの外歓迎してもらえたという経験があったため、無意識のうちにきっとアイゼルの母にも受け入れてもらえるだろうと楽観的になっていた。
……ダメだわ私。公爵家に嫁いで来てからというものの、皆さんに良くしてもらって、穏やかな生活すぎて、すっかり気が緩んでいたわ。
きっとローザリアはアイゼルの妻として相応しいかを己の目で見定めようとしている。
アイゼルは他に選択肢がなかったからリースベットと結婚したわけで、もう少し時期が早ければ本来アメリアが妻となっていたはずだ。
ローザリアに妻失格の烙印を押され、アイゼルにハズレだったと思われないためにも、力を尽くさねばとリースベットは思った。
特に閨でアイゼルを満足させられない自分だからこそ、せめてアイゼルの恥にならないよう妻という立場をきちんと全うする義務がある。
……そう思うと、王宮舞踏会で妻として相応しく振る舞えるよう準備も頑張らなければね!
淑女中の淑女であるローザリアに教えを請えるのはとても貴重な機会だ。
発案してくれたエルマと、段取ってくれたアイゼルに感謝して、全力で取り組もうと心に誓う。
ローザリアを前に、緊張で揺れていたリースベットの瞳は、今や真摯な光を宿す澄み切った瞳へと様変わりしていた。
その日からさっそくローザリアの指導は始まった。
公爵夫人に相応しい立ち居振る舞いを身につけるのが目標だ。
リースベットも伯爵令嬢として最低限の振る舞いはできているし、決して見苦しくはない。
だが、それはあくまで中位貴族の令嬢レベルの身のこなしであり、高位貴族の夫人の域には到底達していなかった。
そのことを指導が始まって早々にリースベットは痛感した。
「そう、ティーカップやグラスを持つ時は静かにゆっくりとね。指先まで気を抜かないように意識して」
「カーテシーをする時は、もっと腰を落とすのよ。そして指先でドレスをそっと摘んで。あと、優雅な微笑みも忘れてはいけないわ」
「エスコート相手の腕や手を取る時は、軽く添える程度で十分よ。握りすぎると下品に見えるから注意が必要ね」
ローザリアからはリースベットの一挙手一投足に次々と指摘が入った。
それらの指摘はどれも実に的確だった。
実際にローザリアの手本を見せてもらうと、自分とは全く違う美しい所作にリースベットは何度も驚かされた。
……さすがだわ。ゆっくりとした動作を心がけながら身体の隅々まで意識して使うと、こんなにも美しく優雅に見えるなんて。
ほんの少しの意識の差がこれほど大きな違いを生むのだと目の当たりにした。
ローザリアに伝授されるのは、所作だけでない。
淑女として大切な心構えなどもみっちり伝授された。
リースベットは教えられたことを余すことなく吸収しようと、指導中だけでなく、四六時中意識して実践しながら毎日を過ごした。
そのおかげで、ローザリアでさえ目を見張る速さで日に日に所作が洗練されていく。
二週間が経った頃には、見違えるほどの美しい立ち振る舞いが身についており、まるで生まれながらの高位貴族のようだった。
「身のこなしについては十分合格だわ。これなら王宮舞踏会でも問題ないはずよ。わたくしが保証するわ」
「ありがとうございます。ローザリア様の素晴らしい指導のおかげです」
「ホントに見違えるほど所作が美しくなりましたよね! 毎日間近で拝見してて驚きましたもん。さすが奥様! フフフ、素敵なレディへの階段を確実に登ってますねっ!」
この日は息抜きも兼ねて、リースベットとローザリアは公爵邸の庭園でお茶をしていた。
二人の傍ではエルマが給仕を務めている。
朗らかな陽気の中、目に映る色とりどりの花々は華麗に咲き誇り、口にする紅茶は香り高く味わい深い。
その場には、思わずふっと力抜ける緩やかな雰囲気が漂っていた。
にもかかわらず、教えを忠実に守り、指先まで気を抜かないリースベットを見て、ローザリアは内心感嘆していた。
……飲み込みの速さにも驚いたけれど、この子のひたむきさは目を見張るわ。
この二週間、ローザリアは立ち振る舞いを指導する傍ら、リースベットが嫁としてシャロック公爵家に相応しいのかを厳しく吟味していた。
出来のいい息子・アイゼルが選んだ相手なのだから、おかしな子ではないだろうとは信じてはいたが、自分の目で確かめずにはいられない。
なにしろローザリアは面白くなかったのだ。
いくら当主であるアイゼルが別邸で暮らす前公爵夫人に婚姻許可を取る必要がないとはいえ、母である自分を除け者にするなんて。
要は拗ねていたのである。
そんな中、滅多に頼み事をしてこない息子が、わざわざ妻のためにローザリアを頼ってきた。
俄然その妻がどんな子かなのか興味が湧くというものだ。
手紙が届くやいなや、一も二もなく別邸を飛び出してきたのは言うまでもない。
……それにしても、想像以上に素直で心の綺麗な良い子だったわ。外面だけは美しい、腹の中真っ黒な性悪女とは全く違うわね。
自分の足りないところを補おうと、真摯に努力する姿勢にも好感が持てる。
というか、自分が口にする言葉一つ一つを真剣に受け止め、裏表のない澄んだ瞳で尊敬の眼差しを向けてくるような相手を可愛いと思わない方がおかしい。
……アイゼルったら、女を見る目も確かだったのね。
己の息子の慧眼を心の中で称賛しつつ、目の前のリースベットに改めて視線を向ける。
パッと目を引く華やかな美女ではないが、儚げで清楚な雰囲気持つ整った顔立ちの義娘は、まだまだ色々と伸び代がありそうだ。
見定めるつもりが、すっかりリースベットの人柄や可能性に魅入られているローザリアである。
「せっかく立ち振る舞いを身につけたのですもの、次は実際に社交の場で実践してみましょう。そうね、最初は当家と親交が深い他家が主催するお茶会が良いかしら」
「お茶会、ですか?」
「ええ、何事も練習は大切だもの。王宮舞踏会の前に多少の場数を踏めばリースベットの自信にもなるはずよ」
「確かにローザリア様のおっしゃる通りだと思います。緊張しますが頑張ります……!」
「そんなに肩の力を入れなくても大丈夫よ? わたくしも一緒に出席するから安心してちょうだい」
「ありがとうございます、ローザリア様」
「ねえ、リースベット。もし貴女が嫌でなければ、わたくしのことは母と呼んでくれないかしら? アイゼルの妻である貴女はわたくしの娘ですものね」
すっかりリースベットをアイゼルの嫁として認めているローザリアは、可愛い義娘にそんなお願いを口にした。
実子は息子二人であったため叶わなかった、娘としてみたいあれこれがたくさんある。
夫を早くに亡くした上に、成人した息子たちは忙しさからか素っ気ない。
寂しさを持て余していたローザリアにとって、リースベットは彗星の如く現れた構い倒したくなる逸材だった。
一方、突然母と呼んでと言われたリースベットは、感激で胸がいっぱいになっていた。
……ローザリア様は指導の時もとても優しくしてくださったし、こんな素敵な方に娘と思っていただけるなんて光栄だわ。
実母と同じような慈悲深い眼差しを向けられ、懐かしさに胸がつまる。
「………お、お義母様」
くすぐったい気持ちを胸にリースベットは少し照れながら控えめにその呼び名を口にした。
同じ呼び方をする相手が伯爵家にもいるが、まったく違う言葉のように感じるから不思議だ。
「義娘ができるのは初めてだからとても嬉しいわ。これからも仲良くしましょうね」
「はい、お義母様……!」
「さっそくお茶会について話し合いましょう。当日リースベットの装いはどんな感じが良いかしら? 今日の淡い色合いのドレスも素敵だけれど、周囲に印象を残すためにもう少しはっきりした色でも良いわね」
「大奥様! それでしたら、旦那様の髪の色を思わせる藍色のドレスはどうですか? 髪はすっきり纏めれば軽やかで奥様にお似合いだと思います!」
「あら、エルマ。さすが専属侍女ね。良案だわ! それならアクセサリーは――……」
その後、張本人であるリースベットを蚊帳の外に、義娘を着飾って楽しみたいローザリアと主人を最高のレディに仕立て上げたいエルマが共鳴し合い、大いに盛り上がったのは言うまでもない。
アイゼルが手紙を出して数日後。
王都にある公爵邸では、息子からの要請を受けてやってきたアイゼルの母――ローザリア・シャロック前公爵夫人を迎えていた。
夫を亡くして以降、公爵領の別邸で暮らしているローザリアがここへ足を運ぶのは実に約二年ぶりだという。
緊張で手に汗を感じながらローザリアと初めての挨拶を交わしたリースベットは、その美しさに思わず見惚れてしまった。
歳の頃は四十代前半のはずだが、リースベットとそう変わらなく見える。
成人を過ぎた息子が二人もいるなどとても信じられないほど若々しく輝かんばかりの美貌だ。
エルマ風に言うならば「美魔女」という言葉がぴったりだろう。
ただリースベットが目を奪われたのは、外見的な麗しさだけが理由ではなかった。
……すごい。内側から気高く、高貴な気品が滲み出ているわ。
その場にいるだけで人の視線を惹きつける、並々ならぬ存在感を放つローザリアに、リースベットは『本物の淑女』のなんたるかを教えられた気がした。
異母姉アメリアも社交界の華ともてはやされていたが、明らかに格が違う。
「この度はご足労ありがとうございます、母上」
「いいのよ。他ならぬアイゼルからの依頼ですもの。貴方がわたくしに何かを頼んでくるなんて滅多にないことだから驚いたわ。まあ、わたくしに一報も入れず、貴方が突然結婚した時の方がよっぽど驚いたけれど」
「事情は手紙にも書き記したとおりですので。妻のリースベットをよろしくお願いします」
「ええ、分かったわ。貴方のお嫁さんがどんな子なのか今から楽しみですもの」
品定めするような視線をローザリアから向けられ、リースベットはビクリとする。
こんな完璧な本物の淑女に、これから自分は指導を受けるのだと思うと、それに見合う成果を出せるか心配でたまらなかった。
……それにしても今、なんだか不穏な会話が聞こえたのだけれど……?
ローザリアは『一報もなくアイゼルが突然結婚した』と言っていなかっただろうか。
てっきりこの結婚は、『多産の血筋』にあやかってでも跡継ぎを欲している公爵家の総意で進められたものだとリースベットは思っていた。
だが、そうではなく、当主であるアイゼルの一存で決められたのだとするれば……
……もしかするとローザリア様は私のことを快く思っていないかも……。
結婚翌日にルイズと初めて顔を合わせた際にも、リースベットは同様の不安を抱いた。
しかし結果的に、思いの外歓迎してもらえたという経験があったため、無意識のうちにきっとアイゼルの母にも受け入れてもらえるだろうと楽観的になっていた。
……ダメだわ私。公爵家に嫁いで来てからというものの、皆さんに良くしてもらって、穏やかな生活すぎて、すっかり気が緩んでいたわ。
きっとローザリアはアイゼルの妻として相応しいかを己の目で見定めようとしている。
アイゼルは他に選択肢がなかったからリースベットと結婚したわけで、もう少し時期が早ければ本来アメリアが妻となっていたはずだ。
ローザリアに妻失格の烙印を押され、アイゼルにハズレだったと思われないためにも、力を尽くさねばとリースベットは思った。
特に閨でアイゼルを満足させられない自分だからこそ、せめてアイゼルの恥にならないよう妻という立場をきちんと全うする義務がある。
……そう思うと、王宮舞踏会で妻として相応しく振る舞えるよう準備も頑張らなければね!
淑女中の淑女であるローザリアに教えを請えるのはとても貴重な機会だ。
発案してくれたエルマと、段取ってくれたアイゼルに感謝して、全力で取り組もうと心に誓う。
ローザリアを前に、緊張で揺れていたリースベットの瞳は、今や真摯な光を宿す澄み切った瞳へと様変わりしていた。
その日からさっそくローザリアの指導は始まった。
公爵夫人に相応しい立ち居振る舞いを身につけるのが目標だ。
リースベットも伯爵令嬢として最低限の振る舞いはできているし、決して見苦しくはない。
だが、それはあくまで中位貴族の令嬢レベルの身のこなしであり、高位貴族の夫人の域には到底達していなかった。
そのことを指導が始まって早々にリースベットは痛感した。
「そう、ティーカップやグラスを持つ時は静かにゆっくりとね。指先まで気を抜かないように意識して」
「カーテシーをする時は、もっと腰を落とすのよ。そして指先でドレスをそっと摘んで。あと、優雅な微笑みも忘れてはいけないわ」
「エスコート相手の腕や手を取る時は、軽く添える程度で十分よ。握りすぎると下品に見えるから注意が必要ね」
ローザリアからはリースベットの一挙手一投足に次々と指摘が入った。
それらの指摘はどれも実に的確だった。
実際にローザリアの手本を見せてもらうと、自分とは全く違う美しい所作にリースベットは何度も驚かされた。
……さすがだわ。ゆっくりとした動作を心がけながら身体の隅々まで意識して使うと、こんなにも美しく優雅に見えるなんて。
ほんの少しの意識の差がこれほど大きな違いを生むのだと目の当たりにした。
ローザリアに伝授されるのは、所作だけでない。
淑女として大切な心構えなどもみっちり伝授された。
リースベットは教えられたことを余すことなく吸収しようと、指導中だけでなく、四六時中意識して実践しながら毎日を過ごした。
そのおかげで、ローザリアでさえ目を見張る速さで日に日に所作が洗練されていく。
二週間が経った頃には、見違えるほどの美しい立ち振る舞いが身についており、まるで生まれながらの高位貴族のようだった。
「身のこなしについては十分合格だわ。これなら王宮舞踏会でも問題ないはずよ。わたくしが保証するわ」
「ありがとうございます。ローザリア様の素晴らしい指導のおかげです」
「ホントに見違えるほど所作が美しくなりましたよね! 毎日間近で拝見してて驚きましたもん。さすが奥様! フフフ、素敵なレディへの階段を確実に登ってますねっ!」
この日は息抜きも兼ねて、リースベットとローザリアは公爵邸の庭園でお茶をしていた。
二人の傍ではエルマが給仕を務めている。
朗らかな陽気の中、目に映る色とりどりの花々は華麗に咲き誇り、口にする紅茶は香り高く味わい深い。
その場には、思わずふっと力抜ける緩やかな雰囲気が漂っていた。
にもかかわらず、教えを忠実に守り、指先まで気を抜かないリースベットを見て、ローザリアは内心感嘆していた。
……飲み込みの速さにも驚いたけれど、この子のひたむきさは目を見張るわ。
この二週間、ローザリアは立ち振る舞いを指導する傍ら、リースベットが嫁としてシャロック公爵家に相応しいのかを厳しく吟味していた。
出来のいい息子・アイゼルが選んだ相手なのだから、おかしな子ではないだろうとは信じてはいたが、自分の目で確かめずにはいられない。
なにしろローザリアは面白くなかったのだ。
いくら当主であるアイゼルが別邸で暮らす前公爵夫人に婚姻許可を取る必要がないとはいえ、母である自分を除け者にするなんて。
要は拗ねていたのである。
そんな中、滅多に頼み事をしてこない息子が、わざわざ妻のためにローザリアを頼ってきた。
俄然その妻がどんな子かなのか興味が湧くというものだ。
手紙が届くやいなや、一も二もなく別邸を飛び出してきたのは言うまでもない。
……それにしても、想像以上に素直で心の綺麗な良い子だったわ。外面だけは美しい、腹の中真っ黒な性悪女とは全く違うわね。
自分の足りないところを補おうと、真摯に努力する姿勢にも好感が持てる。
というか、自分が口にする言葉一つ一つを真剣に受け止め、裏表のない澄んだ瞳で尊敬の眼差しを向けてくるような相手を可愛いと思わない方がおかしい。
……アイゼルったら、女を見る目も確かだったのね。
己の息子の慧眼を心の中で称賛しつつ、目の前のリースベットに改めて視線を向ける。
パッと目を引く華やかな美女ではないが、儚げで清楚な雰囲気持つ整った顔立ちの義娘は、まだまだ色々と伸び代がありそうだ。
見定めるつもりが、すっかりリースベットの人柄や可能性に魅入られているローザリアである。
「せっかく立ち振る舞いを身につけたのですもの、次は実際に社交の場で実践してみましょう。そうね、最初は当家と親交が深い他家が主催するお茶会が良いかしら」
「お茶会、ですか?」
「ええ、何事も練習は大切だもの。王宮舞踏会の前に多少の場数を踏めばリースベットの自信にもなるはずよ」
「確かにローザリア様のおっしゃる通りだと思います。緊張しますが頑張ります……!」
「そんなに肩の力を入れなくても大丈夫よ? わたくしも一緒に出席するから安心してちょうだい」
「ありがとうございます、ローザリア様」
「ねえ、リースベット。もし貴女が嫌でなければ、わたくしのことは母と呼んでくれないかしら? アイゼルの妻である貴女はわたくしの娘ですものね」
すっかりリースベットをアイゼルの嫁として認めているローザリアは、可愛い義娘にそんなお願いを口にした。
実子は息子二人であったため叶わなかった、娘としてみたいあれこれがたくさんある。
夫を早くに亡くした上に、成人した息子たちは忙しさからか素っ気ない。
寂しさを持て余していたローザリアにとって、リースベットは彗星の如く現れた構い倒したくなる逸材だった。
一方、突然母と呼んでと言われたリースベットは、感激で胸がいっぱいになっていた。
……ローザリア様は指導の時もとても優しくしてくださったし、こんな素敵な方に娘と思っていただけるなんて光栄だわ。
実母と同じような慈悲深い眼差しを向けられ、懐かしさに胸がつまる。
「………お、お義母様」
くすぐったい気持ちを胸にリースベットは少し照れながら控えめにその呼び名を口にした。
同じ呼び方をする相手が伯爵家にもいるが、まったく違う言葉のように感じるから不思議だ。
「義娘ができるのは初めてだからとても嬉しいわ。これからも仲良くしましょうね」
「はい、お義母様……!」
「さっそくお茶会について話し合いましょう。当日リースベットの装いはどんな感じが良いかしら? 今日の淡い色合いのドレスも素敵だけれど、周囲に印象を残すためにもう少しはっきりした色でも良いわね」
「大奥様! それでしたら、旦那様の髪の色を思わせる藍色のドレスはどうですか? 髪はすっきり纏めれば軽やかで奥様にお似合いだと思います!」
「あら、エルマ。さすが専属侍女ね。良案だわ! それならアクセサリーは――……」
その後、張本人であるリースベットを蚊帳の外に、義娘を着飾って楽しみたいローザリアと主人を最高のレディに仕立て上げたいエルマが共鳴し合い、大いに盛り上がったのは言うまでもない。
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