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22. 公爵領デート① : 幸せな時間
シャロック公爵領は、王都から馬車で二日のところにある。
王都へ繋がる街道沿いに位置しており、その抜群の立地条件から、人や物、情報が集まる交流の場として領地は発展してきた。
その領地を領主として治めているのが、シャロック公爵・アイゼルだ。
ただし、アイゼルは王宮での仕事があるため普段は王都に住んでおり、領地は信頼を置く代官に管理を任せていた。
アイゼル自身も定期的に帰領しているが、加えてアイゼルの右腕であるルイズが領主代理として度々領地を訪れて代官を補佐する体制を敷いている。
さらに、前公爵夫人であるローザリアも夫亡き後は領地の本邸で暮らして領地の状況に目を光らせていた。
まさに公爵領は、シャロック公爵家の人々にとって本拠地とも言える大切な場所である。
そんな公爵領内にある領主館の一室では、その日、二人の女性の楽しげな声が響き渡っていた。
「あら、リースベット。シンプルなワンピース姿も似合うじゃないの。素敵だわ!」
「フフフ、大奥様! 実はこれ、ワンピースではないんですよ!」
「まあ、そうなの?」
「一見ワンピース風ですが、ブラウスとスカートを組み合わせてます! 今日はこの後旦那様と街歩きデートということなんで、このエルマがコーディネートしましたっ!」
「わたくしも主人とはよく王都や領都でデートしたものだわ。ああ、懐かしい」
声の主は、成人した息子がいるとは信じられない衰え知らずの美貌を誇る前公爵夫人のローザリア。
そしてもう一人は、代々公爵家の使用人を務める家系の娘である、破天荒侍女のエルマだ。
その二人の傍では、エルマが見繕った『街歩きデートで敵なしのお嬢様ファッション』に身を包んだリースベットが控えめに微笑んでいた。
胸元のリボンが存在感を放つ白いプリーツブラウスと、ふわりと膨らむ優雅なシルエットをした青色のハイウエストスカートの組み合わせは、シンプルながら気品に溢れており、リースベットの清楚な美しさを引き立てている。
エルマが自慢げにリースベットの姿を見せびらかすのも納得の仕上がりだった。
「待たせたな。準備が出来たなら出よう」
そこに同じくホワイトシャツとベスト、そしてスラックスという実に簡素な装いをしたアイゼルが姿を見せる。
ジャケットもマントも羽織っておらず、常とは異なる服装だが、シンプルだからこそ逆にアイゼルの美貌が際立っていた。
「リースベット、ぜひ領都の良さを体験してきてちょうだいね。アイゼル、しっかり案内するのよ? 二人とも気をつけて行ってらっしゃい」
「奥様、楽しんできてくださいねー! お土産話をお待ちしてまぁーす!」
ローザリアとエルマに笑顔で見送られ、リースベットはアイゼルと一緒に玄関から馬車へ乗り込む。
これからリースベットはアイゼルの案内の元、シャロック公爵領の領都を見て回るのだ。
ちなみにエルマが述べていた通り、これは視察ではなく、デートである。
……初訪問の領都は楽しみだけれど……アイゼル様と二人きりで外出なんて初めての事だから緊張するわ……!
なぜ二人が公爵領に来ていて、しかもデートをする運びとなっているのか。
事の始まりは、王宮舞踏会から数日後のことである。
その日、仕事を終えて王宮から帰って来たアイゼルと夕食を済ませ、普段と同じように寝室で落ち合った。
いつもならそのまま自然と口づけが始まり、行為へと移行していくのだが、この日はアイゼルから「話がある」と切り出されたのだ。
真剣な面持ちのアイゼルを前に、リースベットは只事ではない雰囲気を感じ取り、戦々恐々としていたのだが……
「……来週、一緒に公爵領に行かないか? リースベットはまだ訪れたことがなかっただろ? 領都はなかなか活気もあって見て回ると面白いはずだ。俺が案内する」
アイゼルの口から飛び出したのは、なんと公爵領へのお誘いだった。
想像していた話とは百八十度違う内容に意表を突かれ、リースベットはパチパチと目を瞬いた。
もちろんそのお誘いに対して異論などなく、リースベットはすぐに頷いた。
だがその翌日以降、公爵領への訪問計画が具体的になってくるうちに、あれがデートのお誘いだった事実に遅ればせながらリースベットは気がついた。
というのも、公爵領へ向かうのはアイゼルやリースベットの他、侍女のエルマや複数の護衛も一緒なのだが、領都を見て回るのはアイゼルと二人きりという段取りだったのだ。
……まさかアイゼル様が私をデートに誘ってくださるなんて思いもしなかったから本当に驚いたわ。てっきり視察のお誘いだと思っていたのに。
まさに青天の霹靂であった。
そうして今現在へと至るわけだが、いまだになぜアイゼルが突然デートに誘ってくれたのか、リースベットはその真意を掴みかねていた。
「……あの、今さらなのですが。どうしてアイゼル様は私をデートに誘ってくださったのですか?」
無駄な行動を厭うアイゼルのことだ。
何か深い意図があるのかもしれないと思ったリースベットは、領都の中心街へ向かう馬車の中で思い切ってアイゼルに訊ねてみた。
もし何かしらの目的があるのだとしたら、それを知らずにいるリースベットはアイゼルの意思に沿わない言動をしてしまう恐れがある。
それだけは避けたい。
「……ここ数ヶ月、リースベットは忙しくしてただろ? 王宮舞踏会も無事終わったのだから気分転換になればと思ってな」
……えっ、私の気分転換のために……?
思わぬ言葉が返ってきて、リースベットは目を丸くした。
アイゼルの本音の本音は、リースベットの心証を挽回するためではあったが、口にした返答も本心だ。
リースベットが王宮舞踏会のために頑張っていたことをアイゼルはよく知っている。
だからこそ、その頑張りを労ってあげたいという気持ちがあった。
言うなれば、このデートは頑張ったリースベットへのご褒美といったところである。
……義務的な関係の夫婦にもかかわらず、アイゼル様がこうして私を思いやってくださるのがとても嬉しい。
リースベットは思わず顔を綻ばせた。
「ありがとうございます。お気遣い頂いてとても嬉しいです!」
言葉でもその嬉しさをアイゼルに届ける。
アイゼルもどこかホッとした様子で、目元を和らげた。
そうこうしているうちに馬車が中心街に到着した。
人目につかないところで降車し、そこで御者とも別れ、リースベットとアイゼルは二人きりになって街を歩き出す。
アイゼルは勝手知ったる場所という様子で、足にまったく迷いがない。
一方リースベットは興味深げに辺りをキョロキョロと見渡しながら、ふと気になったことをアイゼルに訊ねた。
「あの、もう一つお伺いしたいのですが、場所はなぜ公爵領だったのですか?」
「この前も言ったが、リースベットに公爵領を見てもらいたいと思ったからだ。俺の妻になった君は領主夫人でもあるからな。ただ今回は視察ではない。気楽にしてくれて大丈夫だ」
そのためにこの格好なのだから、と言いながらアイゼルは少し口角を上げる。
確かにこの装いではとても公爵位を持つ領主夫妻には見えないだろう。
豪商か下位貴族だと思われるに違いない。
しかしながら、いくら服装を変えようとも、隠し切れないものもある。
街を歩き出してしばらくすると、リースベットはすれ違う人々がチラチラとアイゼルを見ていることに気がついた。
やはりというべきか、たとえ簡素な装いをしていようとも、並外れたアイゼルの美貌は人の目を引くようだ。
すると一瞬煩わしそうに眉を顰めたアイゼルは、懐から何かを取り出し、素早くそれを装着した。
「眼鏡、ですか?」
「ああ、認識阻害の機能が付いた特別製だ。シャロック公爵家の家宝として代々受け継がれいる。こういう時に役立つ優れものだ」
なんでも十数代前の当主が、他国で手に入れたものらしい。
その当主はお忍びで国内外を見て回るのが楽しみだったそうで、この眼鏡を愛用していたという。
そんな説明に耳を傾けならが、リースベットはアイゼルに目を向けて驚いた。
眼鏡を掛けたアイゼルが全く違う顔に見えるのだ。
独自技術で作られたものだそうだが、信じられないほどの驚愕の機能である。
眼鏡効果もあり、先程までの視線は急速に気にならなくなっていった。
「本当にすごい機能ですね……! もし今アイゼル様とはぐれてしまったら、見つけるのが大変そうです」
「確かに、その懸念はあるな……」
リースベットの何気ないつぶやきに、アイゼルは少し思案する素振りを見せたかと思うと、次の瞬間……
「それなら、こうしておけばいい」
そう言って、リースベットの手を取り、そしてその手をギュッと握りしめた。
「………!」
不意打ちで訪れた触れ合いに、リースベットは声にならない声を上げる。
「これなら、はぐれる心配はないだろ?」
これで問題は解決だとばかりにアイゼルは満足そうな表情をうっすら浮かべると、そのままリースベットの手を引いて歩き出した。
「ここが中心街のメインストリートだ。見ての通り、飲食店や宿屋を中心に様々な商店が立ち並んでいて、領内で一番活気がある」
そして、何事もなかったように街の案内をし始める。
片やリースベットは、とても平常心ではいられない。
ドキドキドキドキと胸の鼓動は一気に速くなり、触れ合っている手には汗が滲んでくる。
せっかくアイゼルが街について説明してくれているのに、まったく頭に入ってこず、生返事を繰り返す始末だ。
……どうしよう。なんだかものすごく恥ずかしいし、くすぐったい気分だわ。
きっとアイゼルは、はぐれないための手段として必要性に迫られ、こうしてくれているのだと思う。
でもこの触れ合いは、閨での出来事でもなければ、舞踏会など人目のある場所でのエスコートでもない。
『しなければならない』触れ合いではなく、『リースベットがはぐれないため』の触れ合いだ。
つまり、リースベットのことを思いやってのことなのだ。
デートに誘ってくれた理由もリースベットを気遣ってのものだった。
父と実母のように、義務的な関係の夫婦は冷め切った仲の者も多い中、アイゼルはリースベットに歩み寄ろうとしてくれている。
まだ子を成すという役割も果たせていないし、閨でもアイゼルを満足させられていない妻だというのに。
……すごく、すごく嬉しい。
繋いだ手から伝わってくる温もりに、リースベットはどうしようもなく胸を締め付けられた。
王都へ繋がる街道沿いに位置しており、その抜群の立地条件から、人や物、情報が集まる交流の場として領地は発展してきた。
その領地を領主として治めているのが、シャロック公爵・アイゼルだ。
ただし、アイゼルは王宮での仕事があるため普段は王都に住んでおり、領地は信頼を置く代官に管理を任せていた。
アイゼル自身も定期的に帰領しているが、加えてアイゼルの右腕であるルイズが領主代理として度々領地を訪れて代官を補佐する体制を敷いている。
さらに、前公爵夫人であるローザリアも夫亡き後は領地の本邸で暮らして領地の状況に目を光らせていた。
まさに公爵領は、シャロック公爵家の人々にとって本拠地とも言える大切な場所である。
そんな公爵領内にある領主館の一室では、その日、二人の女性の楽しげな声が響き渡っていた。
「あら、リースベット。シンプルなワンピース姿も似合うじゃないの。素敵だわ!」
「フフフ、大奥様! 実はこれ、ワンピースではないんですよ!」
「まあ、そうなの?」
「一見ワンピース風ですが、ブラウスとスカートを組み合わせてます! 今日はこの後旦那様と街歩きデートということなんで、このエルマがコーディネートしましたっ!」
「わたくしも主人とはよく王都や領都でデートしたものだわ。ああ、懐かしい」
声の主は、成人した息子がいるとは信じられない衰え知らずの美貌を誇る前公爵夫人のローザリア。
そしてもう一人は、代々公爵家の使用人を務める家系の娘である、破天荒侍女のエルマだ。
その二人の傍では、エルマが見繕った『街歩きデートで敵なしのお嬢様ファッション』に身を包んだリースベットが控えめに微笑んでいた。
胸元のリボンが存在感を放つ白いプリーツブラウスと、ふわりと膨らむ優雅なシルエットをした青色のハイウエストスカートの組み合わせは、シンプルながら気品に溢れており、リースベットの清楚な美しさを引き立てている。
エルマが自慢げにリースベットの姿を見せびらかすのも納得の仕上がりだった。
「待たせたな。準備が出来たなら出よう」
そこに同じくホワイトシャツとベスト、そしてスラックスという実に簡素な装いをしたアイゼルが姿を見せる。
ジャケットもマントも羽織っておらず、常とは異なる服装だが、シンプルだからこそ逆にアイゼルの美貌が際立っていた。
「リースベット、ぜひ領都の良さを体験してきてちょうだいね。アイゼル、しっかり案内するのよ? 二人とも気をつけて行ってらっしゃい」
「奥様、楽しんできてくださいねー! お土産話をお待ちしてまぁーす!」
ローザリアとエルマに笑顔で見送られ、リースベットはアイゼルと一緒に玄関から馬車へ乗り込む。
これからリースベットはアイゼルの案内の元、シャロック公爵領の領都を見て回るのだ。
ちなみにエルマが述べていた通り、これは視察ではなく、デートである。
……初訪問の領都は楽しみだけれど……アイゼル様と二人きりで外出なんて初めての事だから緊張するわ……!
なぜ二人が公爵領に来ていて、しかもデートをする運びとなっているのか。
事の始まりは、王宮舞踏会から数日後のことである。
その日、仕事を終えて王宮から帰って来たアイゼルと夕食を済ませ、普段と同じように寝室で落ち合った。
いつもならそのまま自然と口づけが始まり、行為へと移行していくのだが、この日はアイゼルから「話がある」と切り出されたのだ。
真剣な面持ちのアイゼルを前に、リースベットは只事ではない雰囲気を感じ取り、戦々恐々としていたのだが……
「……来週、一緒に公爵領に行かないか? リースベットはまだ訪れたことがなかっただろ? 領都はなかなか活気もあって見て回ると面白いはずだ。俺が案内する」
アイゼルの口から飛び出したのは、なんと公爵領へのお誘いだった。
想像していた話とは百八十度違う内容に意表を突かれ、リースベットはパチパチと目を瞬いた。
もちろんそのお誘いに対して異論などなく、リースベットはすぐに頷いた。
だがその翌日以降、公爵領への訪問計画が具体的になってくるうちに、あれがデートのお誘いだった事実に遅ればせながらリースベットは気がついた。
というのも、公爵領へ向かうのはアイゼルやリースベットの他、侍女のエルマや複数の護衛も一緒なのだが、領都を見て回るのはアイゼルと二人きりという段取りだったのだ。
……まさかアイゼル様が私をデートに誘ってくださるなんて思いもしなかったから本当に驚いたわ。てっきり視察のお誘いだと思っていたのに。
まさに青天の霹靂であった。
そうして今現在へと至るわけだが、いまだになぜアイゼルが突然デートに誘ってくれたのか、リースベットはその真意を掴みかねていた。
「……あの、今さらなのですが。どうしてアイゼル様は私をデートに誘ってくださったのですか?」
無駄な行動を厭うアイゼルのことだ。
何か深い意図があるのかもしれないと思ったリースベットは、領都の中心街へ向かう馬車の中で思い切ってアイゼルに訊ねてみた。
もし何かしらの目的があるのだとしたら、それを知らずにいるリースベットはアイゼルの意思に沿わない言動をしてしまう恐れがある。
それだけは避けたい。
「……ここ数ヶ月、リースベットは忙しくしてただろ? 王宮舞踏会も無事終わったのだから気分転換になればと思ってな」
……えっ、私の気分転換のために……?
思わぬ言葉が返ってきて、リースベットは目を丸くした。
アイゼルの本音の本音は、リースベットの心証を挽回するためではあったが、口にした返答も本心だ。
リースベットが王宮舞踏会のために頑張っていたことをアイゼルはよく知っている。
だからこそ、その頑張りを労ってあげたいという気持ちがあった。
言うなれば、このデートは頑張ったリースベットへのご褒美といったところである。
……義務的な関係の夫婦にもかかわらず、アイゼル様がこうして私を思いやってくださるのがとても嬉しい。
リースベットは思わず顔を綻ばせた。
「ありがとうございます。お気遣い頂いてとても嬉しいです!」
言葉でもその嬉しさをアイゼルに届ける。
アイゼルもどこかホッとした様子で、目元を和らげた。
そうこうしているうちに馬車が中心街に到着した。
人目につかないところで降車し、そこで御者とも別れ、リースベットとアイゼルは二人きりになって街を歩き出す。
アイゼルは勝手知ったる場所という様子で、足にまったく迷いがない。
一方リースベットは興味深げに辺りをキョロキョロと見渡しながら、ふと気になったことをアイゼルに訊ねた。
「あの、もう一つお伺いしたいのですが、場所はなぜ公爵領だったのですか?」
「この前も言ったが、リースベットに公爵領を見てもらいたいと思ったからだ。俺の妻になった君は領主夫人でもあるからな。ただ今回は視察ではない。気楽にしてくれて大丈夫だ」
そのためにこの格好なのだから、と言いながらアイゼルは少し口角を上げる。
確かにこの装いではとても公爵位を持つ領主夫妻には見えないだろう。
豪商か下位貴族だと思われるに違いない。
しかしながら、いくら服装を変えようとも、隠し切れないものもある。
街を歩き出してしばらくすると、リースベットはすれ違う人々がチラチラとアイゼルを見ていることに気がついた。
やはりというべきか、たとえ簡素な装いをしていようとも、並外れたアイゼルの美貌は人の目を引くようだ。
すると一瞬煩わしそうに眉を顰めたアイゼルは、懐から何かを取り出し、素早くそれを装着した。
「眼鏡、ですか?」
「ああ、認識阻害の機能が付いた特別製だ。シャロック公爵家の家宝として代々受け継がれいる。こういう時に役立つ優れものだ」
なんでも十数代前の当主が、他国で手に入れたものらしい。
その当主はお忍びで国内外を見て回るのが楽しみだったそうで、この眼鏡を愛用していたという。
そんな説明に耳を傾けならが、リースベットはアイゼルに目を向けて驚いた。
眼鏡を掛けたアイゼルが全く違う顔に見えるのだ。
独自技術で作られたものだそうだが、信じられないほどの驚愕の機能である。
眼鏡効果もあり、先程までの視線は急速に気にならなくなっていった。
「本当にすごい機能ですね……! もし今アイゼル様とはぐれてしまったら、見つけるのが大変そうです」
「確かに、その懸念はあるな……」
リースベットの何気ないつぶやきに、アイゼルは少し思案する素振りを見せたかと思うと、次の瞬間……
「それなら、こうしておけばいい」
そう言って、リースベットの手を取り、そしてその手をギュッと握りしめた。
「………!」
不意打ちで訪れた触れ合いに、リースベットは声にならない声を上げる。
「これなら、はぐれる心配はないだろ?」
これで問題は解決だとばかりにアイゼルは満足そうな表情をうっすら浮かべると、そのままリースベットの手を引いて歩き出した。
「ここが中心街のメインストリートだ。見ての通り、飲食店や宿屋を中心に様々な商店が立ち並んでいて、領内で一番活気がある」
そして、何事もなかったように街の案内をし始める。
片やリースベットは、とても平常心ではいられない。
ドキドキドキドキと胸の鼓動は一気に速くなり、触れ合っている手には汗が滲んでくる。
せっかくアイゼルが街について説明してくれているのに、まったく頭に入ってこず、生返事を繰り返す始末だ。
……どうしよう。なんだかものすごく恥ずかしいし、くすぐったい気分だわ。
きっとアイゼルは、はぐれないための手段として必要性に迫られ、こうしてくれているのだと思う。
でもこの触れ合いは、閨での出来事でもなければ、舞踏会など人目のある場所でのエスコートでもない。
『しなければならない』触れ合いではなく、『リースベットがはぐれないため』の触れ合いだ。
つまり、リースベットのことを思いやってのことなのだ。
デートに誘ってくれた理由もリースベットを気遣ってのものだった。
父と実母のように、義務的な関係の夫婦は冷め切った仲の者も多い中、アイゼルはリースベットに歩み寄ろうとしてくれている。
まだ子を成すという役割も果たせていないし、閨でもアイゼルを満足させられていない妻だというのに。
……すごく、すごく嬉しい。
繋いだ手から伝わってくる温もりに、リースベットはどうしようもなく胸を締め付けられた。
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