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番外編
番外編 召喚獣事件
「おはよう! リル、クリア!」
アレクは朝、召喚獣達のいる部屋へと向かった。
そんなアレクをリル、クリアが出迎える。
「おはよう」
「アレク、目元にくまが出来ているぞ? 寝不足か?」
「なっ、何でもないよ!」
リルの鋭い問いに、ブンブンとアレクは首を振った。
まさか、薬の資料をコッソリ書いている途中で居眠りし、挙げ句の果てに兄と姉にバレて部屋のベッドまで運ばれてしまった。などという情けない話は召喚獣に話したくはなかった。
リルはまだ何か言いたげだったが、アレクがリルをモフモフと撫でる。
「モフモフ……暖かいよね」
「当然だ。私は生きているのだからな」
言葉そのものは少ないが、リルはどこからどう見ても喜んでいた。
何にせよ、顔がニマニマと自信ありげに笑っており、尻尾がパタパタと左右に揺れていた。
そんな光景を微笑ましく見守るクリアはふとアレクの髪が飛び跳ねていることに気がついた。
「アレク、髪」
クリアがフワリと舞い降り、アレクの髪にそっと口づける。
「あ……ありがとう!」
アレクの髪はいつもどうり綺麗になっていた。
満足げに微笑み、クリアは質問する。
「時間、大丈夫なの?」
「……あ!! 授業始まっちゃう!!じゃあ、また後で!!」
バタバタと忙しく走り、アレクは出て行った。
ここは生徒や教師の召喚獣を預かる所である。
魔法で割と広くしてある空間は、召喚獣の好きな物で溢れかえっていた。
ちなみに、最近のリルのお気に入りは犬用ジャーキーである。
クリアはフワフワと浮かび上がってリルの近くに来た。
もしゃもしゃと夢中でジャーキーをほおばるリルを見て不思議そうな顔をした。
「それ、美味しいの?」
「食べるか?」
スッと前足で差し出されたジャーキーをクリアが受け取ろうとした瞬間。
「おりゃああああああっ!!」
バシンッと横から凄まじいスピードでジャーキーを奪い取った者が居た。
立派な黄金色の毛並みに愛らしいクリクリとしたつぶらな瞳。
ライアンの召喚獣、タイショだった。
「……タイショ」
「はっはー! やっぱり肉食獣は横から気配を消して獲物を掴み取る! これがあるべき姿だな!」
獲物を掴み取るのではなく、奪い取るの間違いではないだろうか。
げんなりとした顔でリルはタイショを見つめた。
と、クリアがタイショに迫る。
「何、毎度毎度横取りばっかしてくれてるのよ……あなたはあなた用のご飯があるでしょ……?」
「ま、そんなに怒んなってー」
気楽な返事に、パキインッという氷が割れる音が響いた。
「……氷の息吹」
ビュオオオッ! と吹雪がタイショに襲いかかった。
見事に氷付けにされてしまうタイショだったが、みるみると氷が溶ける。
自らの放つ熱で氷を溶かしたタイショが、クリアを睨みつけた。
「死ぬじゃねーか!!」
「チッ……そのまま永久に凍ればよかったものの」
「つまり死ねと!?」
小さく舌打ちをするクリアに傷つきながらも、ガウッとタイショは鳴いた。
今、リルとタイショは小さくなっており、愛くるしい。
ので、喧嘩をしている様子もじゃれあっているようにしか見えないのだが、氷の召喚獣であるクリアとリルは炎の召喚獣であるタイショが苦手だった。
何となく、暑苦しいと言うか何と表現すべきか。
とにかく、何となく嫌だった。
「……何してるの? あんた達」
うぬぬぬ、と睨み合っているリルとクリア、タイショに声をかけた一つと影。
「オルタス」
そう、ユリーカの召喚獣であるオルタスであった。
ケット・シーらしいフワフワとした毛並みは輝かしいほど空色に染まっていた。
その瞳には聡明そうな光が宿り、さすがユリーカの召喚獣、と言わんばかりだった。
呆れたとばかりにオルタスはタイショを睨んだ。
「あんた、人の物を勝手に取るの止めなさい」
「で、でも……猫としての楽しみがっ! お前も猫科なら分かるだろ!?」
「分からんわよ」
ギャウギャウとわめくタイショをよそに、ペロペロと自分の前足を舐めるオルタス。
と、後ろからピョコンピョコンと灰色のウサギが飛び跳ねて来た。
シオンの召喚獣のスキャリーだ。
それと一緒に居るのはアリーシャの召喚獣のレモン。
クルクルと飛び回って何かを探しているようだった。
「どうかしたのか?」
リルが問いかけると真っ先にスキャリーが鳴きだした。
「キューッ! キュ、キュキュッ」
「……何? そんな大切な物を無くしたのか」
「可哀想」
「何て言ってるんだー?」
リルとクリアがウンウンと何かを訴えるスキャリーに頷くのを見て、タイショは首を傾げた。
人語を解することの出来ない召喚獣と会話が出来るのは、能力の高い召喚獣だけだ。
普通の召喚獣には無理なので、クリアが通訳する。
「スキャリー、リボン無くしちゃったんだって」
「リボン? それって……スキャリーが毎日付けてる?」
「そう。主様に贈ってもらったんだって」
そういえば、とスキャリーの首もとを見る一同。
確かに、いつも付いているはずの赤色のリボンが無くなっていた。
シオンがスキャリーに渡していたのを思い出して全員はうなる。
「多分この部屋の外だよね……?」
「ピィッ、ピッ」
オルタスの問いに同じく話せないレモンが、まるで意志疎通をするかのように鳴いた。
「じゃあ、探しに行こう!」
「え!? タイショ!?」
バッと飛び出したタイショに、全員が慌てて着いていった。
(にしても……大丈夫なのかしら? 部屋から出て)
ポツリ、とクリアはそんな事を思ったが、まあいいかと本人の面倒くさがりな性格が飛び出してしまい、六匹は部屋の外に駆け出した。
◆ ◆ ◆
「む! あれはアレクの兄様と姉様!」
リルが見つけたのは移動中で並んで歩く銀髪の双子、ガディとエルルであった。
ババッと物凄いスピードで飛びかかった六匹だったが。
「!」
咄嗟にバリアを張ってしまったガディの目の前で、それぞれがバチンバチンと見えない透明な壁に阻まれてズルズルと崩れ落ちた。
怪訝そうな顔をしながら、エルルはリル達を覗き込んだ。
「この子達は……?」
「! 初めてお会いするな。私はアレクの召喚獣のリルだっ」
「アレクの!?」
最愛の弟の名前にピクッと反応するエルルに、ガディがささやいた。
「コイツ、フェンリルだぞ」
「ーー! フェンリルね。初めて見た。可愛い」
アレクと同様に、エルルにモシャモシャと頭を撫でられたリルは満足そうに目を閉じた。
すると、横からタイショがエルルに話しかけた。
「なあ! 赤いリボンって見なかったか?」
「赤いリボン? さあ、分からないわ」
「俺もだな」
双子はそう頷いた。
残念そうにしながらも、六匹は立ち去ることにする。
「ありがと! んじゃ!」
『……お騒がせしました!』
忙しく駆け出す全員の代わりに、球体になったクリアがお礼の言葉を述べた。
そして、全員が去った後、ガディがぽつりとつぶやく。
「何だったんだあれは……」
「とりあえず、アレクの召喚獣は覚えたわ」
戸惑いの表情を浮かべるガディの横で、エルルはワキワキと手を動かした。
◆ ◆ ◆
次に廊下で会ったのはリリーナとティール、それとノエラの三人組だった。
「あ! ユリーカの召喚獣の……」
即座にオルタスを見つけたノエラが、オルタスに駆け寄った。
喉の裏側を撫でると、満足そうなゴロゴロという鳴き声を響かせる。
「こんにちは、主の姉様」
「こんにちは」
ニコニコと嬉しそうにノエラはオルタスの喉を撫で続ける。
すると、横からティールがリル達に聞いた。
「そういえば、召喚獣がここで何してるの?」
「! そうだった! 本題を言わねば……」
『赤いリボンを知らない?』
口を開いたのはクリアだった。
球体のせいかどこかくぐもった声を響かせるクリアを不思議そうにティールはつついた。
「へーっ、すごい! この子、誰?」
「ティール! そんなにつっついちゃダメでしょ! 失礼よ!」
調子に乗ってクリアをツンツンとつつきまくる友人を、慌てて引き剥がすリリーナ。
そして、クリアにぺこりと頭を下げる。
「ごめんなさいね。礼儀がそんなになってなくて」
『……自己紹介がまだだったわね。私はアレクの契約者の氷の聖霊、クリア』
「アレク君の!?」
途端、ガバッと食いついて来たのはリリーナだった。
その言葉を聞いた瞬間クリアをつっつきだす。
『あの……あなたさっき、つついたら失礼とかどうとか言ってなかったかしら……?』
クリアの問いかけをガン無視してつつきまくっていたが、ひとまず落ち着いた。
ふう、と息を吐いてリリーナは言った。
「残念だけど、見ていないわね」
『……あんなにつつかれたのに』
ポロッと愚痴をこぼしながらクリアは浮き上がった。
『じゃあ、行きましょう』
「ノエラ。いつまでその子触ってるの」
「ふふふっ、もふもふ」
今もニコニコとしながらオルタスの毛を撫でまくるノエラだったが、オルタスがスクッと立ち上がった。
「なでなで、感謝する」
「ああ~、後もうちょっとー」
惜しみながらノエラはズルズルと引き下がった。
◆ ◆ ◆
カーンカーンカーン……
授業の終わりを示す鐘の余韻を聞き取り、召喚獣達はため息をついた。
「ここまで探して、まだ見つからないとは……」
『どこにあるんでしょうね、スキャリーのリボン……』
「キュウ……」
どこか切なげに鳴くスキャリーに、全員が同情の意志を寄せる。
その瞬間。
グギュルルル~
「……………」
「……ご飯、食べに行きましょう」
空気を読まない腹の音が思い切り響いた。
そういえばお昼時である。
生徒は皆食堂に向かっている。
もしかしたら情報を得る時に飯のおこぼれがもらえるかも、という期待を抱いて全員は食堂へ向かった。
◆ ◆ ◆
「ふう~、いい匂いだな」
食堂に広がる匂いを嗅いでタイショはよだれを垂らす。
ポテポテと歩く姿はどうしても目立ってしまうもの。
そして、ある人に会ってしまったのだ。
「……何でこんな所にいるの? みんな」
出会ったら強制送還されそうな、主達に。
「えーっと、あの……そのだな」
しかめっ面を決め込んだアレクの前で、リルは必死で言い訳を探していた。
もともとスキャリーのリボンを探しに来たとは言え、勝手に召喚獣が部屋から出ていい訳が無いのだ。
よって、出るのは緊急時だけになっている。
そんな中、学園内をうろつきまわったあげくにご主人こと飼い主に見つかれば終わりも同然。
と、そんな中、タイショの発言が飛び出した。
「あのな! スキャリーのリボン探しに来たんだ!」
「リボン?」
後ろからひょいっとシオンが顔を出す。
そっと自分の手の中にある昼食を机に置き、スキャリーに近づいた。
怒られる、とばかりに目をウルウルとにじませたスキャリーの首もとを確かめると、確かにあの赤色のリボンは無くなっていた。
「……スキャリー」
「キュ」
「なくしちゃったものはしょうがないよ。また、新しいの作ってあげる」
「キュウ……」
しゅん、と落ち込んだスキャリーを見ているとどこかいたたまれない気持ちにさせられてしまう。
異様な雰囲気の場になった時、一人の人影が現れた。
「なになに? みんな何してるの」
金髪を無造作にまとめ、相変わらず眠たそうな目をまたたかせるその人物はアレク達の教師であるアリーシャだった。
肩にはいつの間にとまったのかレモンが満足そうにちょこんと乗っている。
「アリーシャ先生。赤色のリボンって見なかったですか?」
ユリーカがアリーシャに聞いた。
と、思わぬ答えが返って来た。
「それって……これのこと?」
「あ!」
シオンがアリーシャの掲げる物を見た瞬間に声を上げた。
そこには、真紅のリボンがぶら下がっていたのであった。
「キューーーッ!」
ばっと猛烈な勢いでスキャリーがリボンに飛びついた。
アリーシャがそっとたしなめると、リボンを渡す。
「はい」
「先生! それどこで!?」
「ん? 廊下に落ちてたよ?」
シオンはスキャリーからリボンを受け取り、首もとに結んでやる。
そこには、いつもどうり真っ赤なリボンが残された。
「キュー」
「良かったな」
『本当よね』
うんうんと後ろで頷く召喚獣達。
と、
「さ、早く帰ってね?」
「……………」
しまったとばかりに後ろを振り返ると、アレクが腕組みをして立っていた。
大分お怒りのようである。
「ご、ごめん」
「……まあ、しょうがないけど」
ふう、とため息をついたことでどうにか許してもらえたことを察すると、召喚獣達は安堵した。
その時、またタイショが叫ぶ。
「なあ! ライアン! それ、ちょっとくれ!」
「え?」
ばっとタイショがライアンに飛びついた。
そういえば、タイショは少し前からライアンの持つ飯に釘付けであった。
それを引き金に、全員が主にねだりだす。
「なあ、アレク」
『ねえ、アレク』
「……分かったよ」
「キュ、キュー」
「そうだね。お腹すいたわよね」
「主……その……」
「オルタスも? しょうがないわね」
「………よかった、一件落着」
ふう、と生徒達の様子を見守りながらアリーシャは息をはいた。
と、横からレモンが米粒を少量つついた。
アレクは朝、召喚獣達のいる部屋へと向かった。
そんなアレクをリル、クリアが出迎える。
「おはよう」
「アレク、目元にくまが出来ているぞ? 寝不足か?」
「なっ、何でもないよ!」
リルの鋭い問いに、ブンブンとアレクは首を振った。
まさか、薬の資料をコッソリ書いている途中で居眠りし、挙げ句の果てに兄と姉にバレて部屋のベッドまで運ばれてしまった。などという情けない話は召喚獣に話したくはなかった。
リルはまだ何か言いたげだったが、アレクがリルをモフモフと撫でる。
「モフモフ……暖かいよね」
「当然だ。私は生きているのだからな」
言葉そのものは少ないが、リルはどこからどう見ても喜んでいた。
何にせよ、顔がニマニマと自信ありげに笑っており、尻尾がパタパタと左右に揺れていた。
そんな光景を微笑ましく見守るクリアはふとアレクの髪が飛び跳ねていることに気がついた。
「アレク、髪」
クリアがフワリと舞い降り、アレクの髪にそっと口づける。
「あ……ありがとう!」
アレクの髪はいつもどうり綺麗になっていた。
満足げに微笑み、クリアは質問する。
「時間、大丈夫なの?」
「……あ!! 授業始まっちゃう!!じゃあ、また後で!!」
バタバタと忙しく走り、アレクは出て行った。
ここは生徒や教師の召喚獣を預かる所である。
魔法で割と広くしてある空間は、召喚獣の好きな物で溢れかえっていた。
ちなみに、最近のリルのお気に入りは犬用ジャーキーである。
クリアはフワフワと浮かび上がってリルの近くに来た。
もしゃもしゃと夢中でジャーキーをほおばるリルを見て不思議そうな顔をした。
「それ、美味しいの?」
「食べるか?」
スッと前足で差し出されたジャーキーをクリアが受け取ろうとした瞬間。
「おりゃああああああっ!!」
バシンッと横から凄まじいスピードでジャーキーを奪い取った者が居た。
立派な黄金色の毛並みに愛らしいクリクリとしたつぶらな瞳。
ライアンの召喚獣、タイショだった。
「……タイショ」
「はっはー! やっぱり肉食獣は横から気配を消して獲物を掴み取る! これがあるべき姿だな!」
獲物を掴み取るのではなく、奪い取るの間違いではないだろうか。
げんなりとした顔でリルはタイショを見つめた。
と、クリアがタイショに迫る。
「何、毎度毎度横取りばっかしてくれてるのよ……あなたはあなた用のご飯があるでしょ……?」
「ま、そんなに怒んなってー」
気楽な返事に、パキインッという氷が割れる音が響いた。
「……氷の息吹」
ビュオオオッ! と吹雪がタイショに襲いかかった。
見事に氷付けにされてしまうタイショだったが、みるみると氷が溶ける。
自らの放つ熱で氷を溶かしたタイショが、クリアを睨みつけた。
「死ぬじゃねーか!!」
「チッ……そのまま永久に凍ればよかったものの」
「つまり死ねと!?」
小さく舌打ちをするクリアに傷つきながらも、ガウッとタイショは鳴いた。
今、リルとタイショは小さくなっており、愛くるしい。
ので、喧嘩をしている様子もじゃれあっているようにしか見えないのだが、氷の召喚獣であるクリアとリルは炎の召喚獣であるタイショが苦手だった。
何となく、暑苦しいと言うか何と表現すべきか。
とにかく、何となく嫌だった。
「……何してるの? あんた達」
うぬぬぬ、と睨み合っているリルとクリア、タイショに声をかけた一つと影。
「オルタス」
そう、ユリーカの召喚獣であるオルタスであった。
ケット・シーらしいフワフワとした毛並みは輝かしいほど空色に染まっていた。
その瞳には聡明そうな光が宿り、さすがユリーカの召喚獣、と言わんばかりだった。
呆れたとばかりにオルタスはタイショを睨んだ。
「あんた、人の物を勝手に取るの止めなさい」
「で、でも……猫としての楽しみがっ! お前も猫科なら分かるだろ!?」
「分からんわよ」
ギャウギャウとわめくタイショをよそに、ペロペロと自分の前足を舐めるオルタス。
と、後ろからピョコンピョコンと灰色のウサギが飛び跳ねて来た。
シオンの召喚獣のスキャリーだ。
それと一緒に居るのはアリーシャの召喚獣のレモン。
クルクルと飛び回って何かを探しているようだった。
「どうかしたのか?」
リルが問いかけると真っ先にスキャリーが鳴きだした。
「キューッ! キュ、キュキュッ」
「……何? そんな大切な物を無くしたのか」
「可哀想」
「何て言ってるんだー?」
リルとクリアがウンウンと何かを訴えるスキャリーに頷くのを見て、タイショは首を傾げた。
人語を解することの出来ない召喚獣と会話が出来るのは、能力の高い召喚獣だけだ。
普通の召喚獣には無理なので、クリアが通訳する。
「スキャリー、リボン無くしちゃったんだって」
「リボン? それって……スキャリーが毎日付けてる?」
「そう。主様に贈ってもらったんだって」
そういえば、とスキャリーの首もとを見る一同。
確かに、いつも付いているはずの赤色のリボンが無くなっていた。
シオンがスキャリーに渡していたのを思い出して全員はうなる。
「多分この部屋の外だよね……?」
「ピィッ、ピッ」
オルタスの問いに同じく話せないレモンが、まるで意志疎通をするかのように鳴いた。
「じゃあ、探しに行こう!」
「え!? タイショ!?」
バッと飛び出したタイショに、全員が慌てて着いていった。
(にしても……大丈夫なのかしら? 部屋から出て)
ポツリ、とクリアはそんな事を思ったが、まあいいかと本人の面倒くさがりな性格が飛び出してしまい、六匹は部屋の外に駆け出した。
◆ ◆ ◆
「む! あれはアレクの兄様と姉様!」
リルが見つけたのは移動中で並んで歩く銀髪の双子、ガディとエルルであった。
ババッと物凄いスピードで飛びかかった六匹だったが。
「!」
咄嗟にバリアを張ってしまったガディの目の前で、それぞれがバチンバチンと見えない透明な壁に阻まれてズルズルと崩れ落ちた。
怪訝そうな顔をしながら、エルルはリル達を覗き込んだ。
「この子達は……?」
「! 初めてお会いするな。私はアレクの召喚獣のリルだっ」
「アレクの!?」
最愛の弟の名前にピクッと反応するエルルに、ガディがささやいた。
「コイツ、フェンリルだぞ」
「ーー! フェンリルね。初めて見た。可愛い」
アレクと同様に、エルルにモシャモシャと頭を撫でられたリルは満足そうに目を閉じた。
すると、横からタイショがエルルに話しかけた。
「なあ! 赤いリボンって見なかったか?」
「赤いリボン? さあ、分からないわ」
「俺もだな」
双子はそう頷いた。
残念そうにしながらも、六匹は立ち去ることにする。
「ありがと! んじゃ!」
『……お騒がせしました!』
忙しく駆け出す全員の代わりに、球体になったクリアがお礼の言葉を述べた。
そして、全員が去った後、ガディがぽつりとつぶやく。
「何だったんだあれは……」
「とりあえず、アレクの召喚獣は覚えたわ」
戸惑いの表情を浮かべるガディの横で、エルルはワキワキと手を動かした。
◆ ◆ ◆
次に廊下で会ったのはリリーナとティール、それとノエラの三人組だった。
「あ! ユリーカの召喚獣の……」
即座にオルタスを見つけたノエラが、オルタスに駆け寄った。
喉の裏側を撫でると、満足そうなゴロゴロという鳴き声を響かせる。
「こんにちは、主の姉様」
「こんにちは」
ニコニコと嬉しそうにノエラはオルタスの喉を撫で続ける。
すると、横からティールがリル達に聞いた。
「そういえば、召喚獣がここで何してるの?」
「! そうだった! 本題を言わねば……」
『赤いリボンを知らない?』
口を開いたのはクリアだった。
球体のせいかどこかくぐもった声を響かせるクリアを不思議そうにティールはつついた。
「へーっ、すごい! この子、誰?」
「ティール! そんなにつっついちゃダメでしょ! 失礼よ!」
調子に乗ってクリアをツンツンとつつきまくる友人を、慌てて引き剥がすリリーナ。
そして、クリアにぺこりと頭を下げる。
「ごめんなさいね。礼儀がそんなになってなくて」
『……自己紹介がまだだったわね。私はアレクの契約者の氷の聖霊、クリア』
「アレク君の!?」
途端、ガバッと食いついて来たのはリリーナだった。
その言葉を聞いた瞬間クリアをつっつきだす。
『あの……あなたさっき、つついたら失礼とかどうとか言ってなかったかしら……?』
クリアの問いかけをガン無視してつつきまくっていたが、ひとまず落ち着いた。
ふう、と息を吐いてリリーナは言った。
「残念だけど、見ていないわね」
『……あんなにつつかれたのに』
ポロッと愚痴をこぼしながらクリアは浮き上がった。
『じゃあ、行きましょう』
「ノエラ。いつまでその子触ってるの」
「ふふふっ、もふもふ」
今もニコニコとしながらオルタスの毛を撫でまくるノエラだったが、オルタスがスクッと立ち上がった。
「なでなで、感謝する」
「ああ~、後もうちょっとー」
惜しみながらノエラはズルズルと引き下がった。
◆ ◆ ◆
カーンカーンカーン……
授業の終わりを示す鐘の余韻を聞き取り、召喚獣達はため息をついた。
「ここまで探して、まだ見つからないとは……」
『どこにあるんでしょうね、スキャリーのリボン……』
「キュウ……」
どこか切なげに鳴くスキャリーに、全員が同情の意志を寄せる。
その瞬間。
グギュルルル~
「……………」
「……ご飯、食べに行きましょう」
空気を読まない腹の音が思い切り響いた。
そういえばお昼時である。
生徒は皆食堂に向かっている。
もしかしたら情報を得る時に飯のおこぼれがもらえるかも、という期待を抱いて全員は食堂へ向かった。
◆ ◆ ◆
「ふう~、いい匂いだな」
食堂に広がる匂いを嗅いでタイショはよだれを垂らす。
ポテポテと歩く姿はどうしても目立ってしまうもの。
そして、ある人に会ってしまったのだ。
「……何でこんな所にいるの? みんな」
出会ったら強制送還されそうな、主達に。
「えーっと、あの……そのだな」
しかめっ面を決め込んだアレクの前で、リルは必死で言い訳を探していた。
もともとスキャリーのリボンを探しに来たとは言え、勝手に召喚獣が部屋から出ていい訳が無いのだ。
よって、出るのは緊急時だけになっている。
そんな中、学園内をうろつきまわったあげくにご主人こと飼い主に見つかれば終わりも同然。
と、そんな中、タイショの発言が飛び出した。
「あのな! スキャリーのリボン探しに来たんだ!」
「リボン?」
後ろからひょいっとシオンが顔を出す。
そっと自分の手の中にある昼食を机に置き、スキャリーに近づいた。
怒られる、とばかりに目をウルウルとにじませたスキャリーの首もとを確かめると、確かにあの赤色のリボンは無くなっていた。
「……スキャリー」
「キュ」
「なくしちゃったものはしょうがないよ。また、新しいの作ってあげる」
「キュウ……」
しゅん、と落ち込んだスキャリーを見ているとどこかいたたまれない気持ちにさせられてしまう。
異様な雰囲気の場になった時、一人の人影が現れた。
「なになに? みんな何してるの」
金髪を無造作にまとめ、相変わらず眠たそうな目をまたたかせるその人物はアレク達の教師であるアリーシャだった。
肩にはいつの間にとまったのかレモンが満足そうにちょこんと乗っている。
「アリーシャ先生。赤色のリボンって見なかったですか?」
ユリーカがアリーシャに聞いた。
と、思わぬ答えが返って来た。
「それって……これのこと?」
「あ!」
シオンがアリーシャの掲げる物を見た瞬間に声を上げた。
そこには、真紅のリボンがぶら下がっていたのであった。
「キューーーッ!」
ばっと猛烈な勢いでスキャリーがリボンに飛びついた。
アリーシャがそっとたしなめると、リボンを渡す。
「はい」
「先生! それどこで!?」
「ん? 廊下に落ちてたよ?」
シオンはスキャリーからリボンを受け取り、首もとに結んでやる。
そこには、いつもどうり真っ赤なリボンが残された。
「キュー」
「良かったな」
『本当よね』
うんうんと後ろで頷く召喚獣達。
と、
「さ、早く帰ってね?」
「……………」
しまったとばかりに後ろを振り返ると、アレクが腕組みをして立っていた。
大分お怒りのようである。
「ご、ごめん」
「……まあ、しょうがないけど」
ふう、とため息をついたことでどうにか許してもらえたことを察すると、召喚獣達は安堵した。
その時、またタイショが叫ぶ。
「なあ! ライアン! それ、ちょっとくれ!」
「え?」
ばっとタイショがライアンに飛びついた。
そういえば、タイショは少し前からライアンの持つ飯に釘付けであった。
それを引き金に、全員が主にねだりだす。
「なあ、アレク」
『ねえ、アレク』
「……分かったよ」
「キュ、キュー」
「そうだね。お腹すいたわよね」
「主……その……」
「オルタスも? しょうがないわね」
「………よかった、一件落着」
ふう、と生徒達の様子を見守りながらアリーシャは息をはいた。
と、横からレモンが米粒を少量つついた。
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「お前の看病などいらない。薬師がいれば十分だ」
王太子カールにそう告げられ、侯爵令嬢リーゼは静かに宮廷を去った。
誰も知らなかった。夜ごとの見回り、薬の飲み合わせの管理、感染症の予防措置——宮廷の健康を守っていたのは薬師ではなくリーゼだったことを。
前世で救急看護師だった記憶を持つ彼女は、辺境の診療所で第二の人生を始める。
一方、リーゼが去った宮廷では原因不明の発熱が蔓延し、王太子自身も倒れる。
迎えに来た使者にリーゼは告げる——「お薬は出せます。でも、看護は致しません」
愛していました。待っていました。でもさようなら。
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魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
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