ジャック&ミーナ ―魔法科学部研究科―

浅山いちる

文字の大きさ
3 / 83

最初の魔法②

しおりを挟む
「その格好似合わないわね」

 兵士の甲冑を着たまま椅子に座るジャックを、彼女は指摘する。

「それはお前もだろ? 白衣だなんて。それに俺の格好は、いよいよこれからだ! って時に呼ばれたんだから仕方ないだろ? 俺は少しでも長く、これを着ていたいんだよ」
「あら、それは悪い事したわね」

 彼女に、全く悪びれた様子はなかった。
 だがそんな事は気にせず、ジャックは話を続ける。

「ここ数年何してたんだ? 急に音沙汰なくなったと思ったら、まさかこんな所に居やがって」
「······ずっと家に篭って、魔法とは別のこと勉強してたのよ。その後は軍と協力して鉄のより良い精錬方法とか、より威力のある大砲を作るにはどうしたらいいか、とか······そんなとこかしら」
「本当に魔法と関係ないことしてたんだな」
「全く、ということもないけれど······そうね。ただ、その"関係ないこと"もようやく、実を結んだってとこかしら。やっと······"この場所"を手に入れられたんだから」

 机に両手をついて、ミーナはしんみりとしていた。
 それを見たジャックは、幼い頃の彼女を思い出す。

「"そこ"が変わってなくて安心したよ。小さい時、あんだけ散々魔力の可能性について聞かされたんだからな」
「······そうだったわね」

 彼女も、昔を思い出して微笑んだ。

 ――人の中に存在する魔力。それを糧に発動するのが魔法。
 ミーナの夢は、そこにモンスターの力を借りて、実用化することだった。

 魔力は誰しもが手に入れられるものだが、人それぞれ備わっている魔力の量は別で、訓練で増やせない事もないが、生まれつきによるものが大きい。

 ちなみに、それら魔力が使われた例がない事はない。だが、例えあったとしても、相手に魔力を送り込んで、生命力をほんの少しだけ上げ、怪我の回復をわずかに早くしたり、身体の凍えたの人に、体温と魔力を練り合わせたものを送り込んで、少し身体を温めたりなど、あくまで戦闘向きではなく、人と人との間でしか使えない、補助的なものでしかなかった。
 その上、それらの魔法は個人差もあり、どれもこれも長時間使い続けて、初めて効果のあるものばかりだった。

 効率も悪く、戦闘では使えない。おまけに、個人の魔力に左右されやすい点から、人々の間では実用化されずに埋もれた資源となっていた。

 だが、ミーナはその"埋もれた資源"にこそ、目を付けていた。
 魔力を別の"なにか"と混ぜ合わせる事が出来れば、それを生かす事が出来るのではないか、と。

「あんた、魔法使った経験あるわよね?」
「昔、一緒にやった"アレ"か?  "アレ"魔法って呼べるのか?」
「一応、魔法よ」
「へぇー、何も知らずに付き合ってただけなのにな」

 ジャックは呑気に頭の後ろで手を組む。

 ーー幼い頃からミーナは魔力、魔法に興味持っていた。
 最初のきっかけは、幼い彼女が転んで擦りむいた際に、母親が長い時間をかけて魔力で治療をしてくれた事だった。
 そして、泣き止むまで母が付き添って治療してくれて嬉しかった、と誰かに話したかったミーナが、隣家だったジャックにその事を話したのが、二人の付き合いの始まりだった。

 それから、幼いミーナは魔力について勉強し、母のしてくれた魔法や、魔力でどんな事ができるのか、その可能性を試すために、度々ジャックを呼んでは実験に付き合わせていた。

「私があなたを選んだ理由、なんとなくわかるでしょ?」
「あぁ。なんとなくな」

 ようやくジャックは、腑に落ちた顔をしていた。

「それで······今回は何するんだ?」

 片肘をついて、ジャックはミーナに問う。

「今回はね······炎を作るの」
「炎?」
「ええ。炎よ」

 ミーナは得意気な顔でジャックに言う。
 しかし、あまりに突拍子もないことに、彼は言葉が出なかった。

「······さすが、昔とは考える事が違うな。でも、こんなトコに居るんだから、タダじゃいかないんだろ?」
「勘がいいわね」
「詳しく話してくれ」

 ミーナが新しく作り出そうとしている魔法は、あるモンスターの一部を人の体内に吸収させ、それを魔力と混ぜ合わせて新しい魔法を作る、という考えのものだった。

「そんな簡単に上手くいくのか?」
「私だってまだ可能性の段階よ。いくつも考えてた中で、いま一番手が届きそうなのがこれなの」

 彼にはまだ、俄かに信じ難かった。
 だが、そんなことはお構いなしのミーナ。

「そうだ。あなた、武器の扱いは出来るんでしょうね?」
「まぁ、それなりには」
「そっ。折角だけど、今回はナイフだけでいいわよ」
「それだけでいいのか?」
「ええ、血が採れればいいもの」
「血を採る?」
「そう、ドラゴンの血」
「はぁ?」

 再び彼は、言葉を失う。

「ドラゴンなんて本当にいるのか?噂でしか聞いたことないぞ」
「私もそうだったわよ。ただ最近、ドラゴンをキメリア火山で見たって情報が複数入ってきてね」
「その情報、確かなのか?」
「八割方ね。もしかしたら、既に他の場所へ移動してる可能性もないわけじゃないけど······」
「それは行ってみないと分からないわけか······」
「えぇ」

 そうして、ミーナが話を続けようとすると、妙に考え込んでいる彼に気付く。

「どうしたの?」
「いや、その······ドラゴンって近付いて大丈夫なのかなー、って?」
「あら、怖いの?」

 彼女の言葉が、ジャックのプライドをチクリとする。

「いや、凶暴なんだろ? 鋭い牙で肉を噛みちぎるって聞いたぜ? お前なんかの細い身体だって一瞬でガブリッ! って······」

 彼は、両手で作った上下の牙で、噛み付く仕草をしてみせる。
 だが、それを見た彼女は冷ややかな目をしていた。

「そのために囮(あなた)がいるんでしょ?」
「おい」
「冗談よ」

 こいつならやりかねない、とジャックが思っていると、ミーナが小さく溜め息をついて愚痴をこぼす。

「本当はドラゴンを倒したいけれど、どう考えても私たち二人じゃ厳しいわよねぇ? 司令部に協力も仰いだけど、人手不足って断られるし、たとえそうでなくとも、成果もないこんな所には人も兵器も割いちゃくれないし······やってられないわ」
「······薄情だな」
「ホント」

 ミーナはムッとした顔をしていた。
 だが、少しして「話を戻すわ」と言うと、気持ちを切り替えて、話し始める。

「だから、二人でできる作戦を考えたの。」
「作戦?」
「ええ」

 ミーナは頷いて、重要な点を黒板に書き記していく。

「文献によると、ドラゴンの皮膚は鱗に覆われていて、刃も通さないらしいわ」
「じゃあ、どうするんだ? 傷付けなきゃ血も採れないだろ?」
「そう急かさないで。ーーいい? ドラゴンの鱗は全体が覆われてるように見えるけど、一枚一枚にはわずかに隙間があるの。だから、そこを手で持ち上げて、ナイフを刺し込み、傷を付けるの」
「······それ作戦って言うのか?」
「何も考えずに突っ込むよりはマシでしょ?」

 釈然としないジャックだが、とりあえず頷く。
 それを見て、彼女は話を進める。

「そして切ったら、今度は傷口付近にこの小瓶を突っ込んで、血を集めるの」

 彼女は、ポケットから取り出した瓶を机に置く。
 手の中に収まりそうな程の、小さなガラス瓶だ。

「そして、ある程度集めたら栓をして······撤収。ーー簡単でしょ?」
「······それ、誰がやるんだよ」

 言うまでもない、という表情で、彼女はジャックを見る。
 彼は眉間にシワを寄せしばらく黙っていたが、覚悟を決めると深く溜息をつく。

「やる事は、わかった?」
「あぁ。昔と違って危険だな」
「新しい事には危険が付き物なのよ」
「なにいってんだ」

 軽く笑いながらジャックは立ち上がり、背伸びをした。
 そして、終わりに一言付け加える。

「本当に、魔法が出来ることを願うよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...