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赤い髪の(小)悪魔①
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「フィリカ······、おまえ胸ないのな」
「耳引きちぎりますよ?」
ジャックの背中に乗って密着していたフィリカは、彼の肩に置いていた手を伸ばし、身体を離した。
「頭、気を付けろよ。そこ通ったばっかりなんだからまだ——」
「あっ」
彼が注意してる側からフィリカの後頭部は、辺り一面に巡らされたツタを揺らしてしまった。
彼らの目の前にあった実が、透明から黒へと変わっていく。
「はぁ······またか······」
「今のはジャックさんが変なこと言うからいけないんでしょう!?」
「今のは俺のせいじゃないだろ!?」
そんな口喧嘩をしているとは露知らず、ミーナは張り巡らされたツタの外で腰に手を当て「ダメね······」と独り言を言う。
打開案が浮かばない彼女は、遠くにいる二人に声を掛けた。
「休憩にしましょー! 一旦戻ってきてー!」
「あいよー」「わかりましたー」
フィリカを背負ったジャックは、慎重にツタの間をくぐっては、彼女の元を目指して戻っていく。
——昨日。
「これでどうかしら?」
ジャックとミーナは研究室で横に並び、一冊の図鑑を眺めていた。
『ホウエイプラント』
森林に群生して育つ、つるを持つ樹木である。木の周りにピンとツタを張り巡らせて縄張りを作り、その中で幾つもの実をその木に成らせる。
その実は綺麗な透明色をしているが、もしツタに触れると、植物の防衛本能から、実の中の成分をツタの中の成分と化合させ、毒へと変えてしまう。化合した果実は色が透明から黒へと色を変えるため、毒を見た目で判断する事は容易である。
また、透明の果実は食す事もでき、滋養にも良いが、万が一に黒の果実を食べれば、全身が痺れを起こし、呼吸困難にも陥る。
そして、黒の実の果肉は、人には分からぬ、魔物の好む匂いを放ち、たちまち彼らをおびき寄せてしまう。だが、黒くなった果実は、へたや皮が固くなるため、落ちにくくもなり、その実を傷付けさえしなければ、匂いも発せらない。
ちなみに、数日すれば実の中の毒も分解され、元の透明色へと色を戻すので、放っておいても特に問題はない。
「かなり植物寄りのモンスターだな」
「植物よ。ただ、魔物を寄せ付ける危険性があるから、この本に載っているんでしょうね」
「なるほど。でも、なんでこの植物なんだ?」
「"魔物が好む"って書いてあるでしょ? つまり、その実を魔物――モンスターが食べるって事だと思うの。人であれ、モンスターであれ、食べた物は身体の一部となっていくでしょう?」
「あぁ······だから、ドラゴンの血と同じように、これも魔法が作れるんじゃないか、と
「そういうこと」
「まぁ、危険が少ないのはなによりだ」
「なら決まりね」
――こうして二人は、炎に続く新しい魔法を作るため、手に入れる物を決めていた。
その後、フィリカを迎えた二人は、街の南にある小平原を超え、そこにある小さな森――『イーリアの森』へと足を運んでいたのだった。
ツタの外の木陰に座り、三人は反省会をしていた。
「フィリカの魔法があっても、なかなか難しいものなのね······」
足を折って草の上に横座りしたミーナは、顎に手を当てて考え込んでいた。そして、ふと先の出来事を思い出した彼女は、フィリカにその事を問いかける。
「それにしてもフィリカ、あなた疲れてない? あんなトコで頭上げるなんて、あまりにも不注意だわ」
「あれはジャックさんが——」
「あぁ、きっと疲れてんだよ。何回トライしたか分からないからな。それにツタの位置だって毎回変わるし、神経だって使うんだ」
自分の言葉を遮るように喋るジャックに、フィリカはムッとする。
「別に——」
「それに、俺もフィリカ背負い続けて脚にきてるから、ちょうど休みたかったんだよ。フィリカも後ろ乗り続けて疲れただろ?」
「そんなことは——」
「だから今はゆっくり休もうぜ。なっ?」
ジャックはフィリカの肩を軽く叩く。
「······もういいです」
ぺたん座りをしてお菓子を食べていたフィリカは、頬を膨らます。そんな二人を見て、ミーナは首を傾げていた。
そんな事情を追及するでもなく、彼女は、木のほうへと視線を移した。
「······もう半分以上黒くなっちゃったわね」
ミーナの見ている先、群生している木の半分以上は黒の果実へと変わってしまっていた。
「毎回、良いところまでは行くんだけどな」
「奥のほうに行くと、ツタが密集してるんですよねぇ」
「あら、そうなの?」
しまった、という感じでフィリカが口を押さえる。
「ん? あ、あぁ······」
ジャックもつい、歯切れ悪く返事をしてしまった。
それによって三人の表情が一気に重くなる。
それは三人が三人とも、ミーナが一人で挑戦していた時の事を思い出したからだった。
そんな中、ジャックが最初に口火を切る。
「あんな大口叩いてたのに、二回やって二回とも、三歩でツタに触れたからな······。あれ······苦手の域超えてるよ」
「そうですね······」
「足元注意したと思ったら、次すぐ頭引っ掛かって······」
「そうでしたね······」
「戻る時にも一人でツタに絡まってたし······」
「そうですね······」
「あれはある意味才能だよ。だって、しまいにはさ——」
「ジャック、もうやめて······」
今回全く力になれないミーナは耳を赤くし、両手で顔を覆っていた。
「ミーナさんが不得手なのは別として、なんであんな複雑にツタを張るんですかね······」
悪気のないフィリカの言葉に、今日一番傷付いたミーナはそれをジャックに八つ当たりする。
「なんでよ。教えなさいジャック」
「俺が知るか······」
ミーナもフィリカも運動神経は悪いほうではないのだが、片足でバランスを取ろうとした時には、体勢を崩し、倒れてしまうことがあった。
それに比べジャックは、訓練生時代の賜物だろうか、片足で立って目を瞑っても、全くバランスを崩さないほどの、身体能力を兼ね備えていた。まさに今回の役目には適役だった。
が、一人では、草むらに隠れたツタを見つける事が出来ず、それを踏んでしまい、実を黒くしてしまう事が度々あったのだ。
そこで三人が考えたのは「ジャックがフィリカを背負う」というものだった。
フィリカの魔法を使いながら進めば、ジャックの足元はカバー出来る。そして、小さな身体のフィリカを背負っても、彼女が動かない限りジャックは、バランスを崩して倒れる事もなかったからだった。
フィリカの魔法があるとくれば余裕だ、と彼らはタカをくくっていたが、実際はそんな容易ものではなかった。
「迷路みたいなんだよな」
「ええ。通れるには通れるんですが、ゴールには辿り着けないって感じですよね」
三人の間に沈黙が流れる。
そして再び、ジャックが最初に口を開く。
「······なぁ、今更なんだけどさ、実が黒くなるのは覚悟して、あそこの下で数日過ごしたらいいんじゃないか?」
二人は、ジャックのほうをバッと見た。
「その手がありましたね······」
「だろ?」
だが、フィリカが感心の意を示すのとは裏腹に、ミーナのほうは「何を言ってるの」という驚きだった。
「フィリカ······、ジャックはいいかもしれないけど、私たちも数日ここで過ごすのよ? お風呂も無しに」
「あっ······そうでした······」
それを聞いたフィリカは肩を落とす。
「それじゃあこの案は却下ですね。ジャックさん一人でやって下さい」
「おい」
「でも、その方法は確実に実が取れるわよねぇ······。魔法作れるって証明出来たら、城の兵士にでもやらせようかしら······」
「そ、そうですね」
「······不憫だな、その兵士」
自分の案が今は廃案になったのを確認して、ジャックは「それで」と言い、話を戻す。
「何か作戦は出そうか?」
「いいえ······。でも、とりあえず私も状況を知りたいから『コンタクト』で教えてくれないかしら?」
「いいけど、俺が『コンタクト』するのか? フィリカの方が長く出来そうだし、そのほうがいいんじゃ······」
「フィリカにはツタの方に集中してほしいの。それに私も、フィリカとはまだ合わせた事ないから『コンタクト』するのにきっと時間かかっちゃうわ」
「あぁ、そういうこと」
二人の会話を聞いていたフィリカが口を挟む。
「すみません······。その『コンタクト』っていうのは何ですか?」
「魔力で頭の中の思考を繋げるの」
「へぇー、そんなこと出来るんですか······」
「えぇ」
そう言うとミーナは、ジャックの前に左手を差し出した。だがジャックは、彼女のその手首に付けられた装飾品を目にして、出しかけていた右手を止める。
「あれ、そんなブレスレット付けてたか?」
「あぁ、これ? 昨日、城に行く途中で買ったのよ」
ミーナは、出していた手を自分の方に寄せ、それを眺めていた。彼女の左手首には、細い金色のブレスレットがきらりと輝いていた。
ジャックは「ふーん······」と言って、それを触りながら少し口角を上げる彼女を見る。すると、横からフィリカが顔を出して彼を茶化す。
「ジャックさん、女性の小さな変化に気付くなんてやりますね」
「······うるさい」
どこか恥ずかしさを覚えたジャックは、フィリカの頭をわし掴みにすると、ぐぐっと力を込めていく。
「あああ! 痛い痛い痛い! すみません、すみません! すみませんって!! もう言いませんからー!」
頭を掴んでいる手を叩きながら彼女が涙目でそう懇願すると、ジャックは力を入れていた手を緩める。
痛みから解放されたフィリカは頭を押さえ、髪を整えながら、不貞腐れて言葉を漏らす。
「はぁ······思ったより馬鹿力なんですね······」
「もっかい掴まれたいのか?」
「やめなさい、ジャック」
フィリカは両手で頭を隠していた。
静止されたジャックは仕方なく、ミーナの方を見て右手を差し出す。そこに彼女も手を重ねる。
一瞬だけ光が灯ると、二人は手を離した。
「さっ、効果が切れる前に行きましょう」
そう言うとミーナは立ち上がりお尻を払う。
それにつられてジャックも立ち上がる。
「『コンタクト』でしたっけ? ほんとに聞こえるんですか?」
乱された髪を整えながら立ち上がるフィリカは、半信半疑ながらに彼女に尋ねた。
「聞こえるわよ。試しに何か言ってごらん」
フィリカはミーナの耳元でボソボソと囁くと、すぐにジャックは右手と右膝を上げ、左手をグーにして腰に添えた。
「おぉー! すごいですね!」
「なんだよ、このポーズ」
「ミーナさん! 城に帰ったら私ともやって下さい!」
「いいわよ、やりましょう」
「無視かい······」
そんなポーズを取り続ける彼を余所に、「やったー!」と言ってフィリカは両手を組み、ミーナの前で軽く飛び跳ねる。
彼女の肩から下がるカバンは、ゆさゆさと揺れていた。
それから三人は移動して、透明な木の実が見えるツタの前までやってくる。
「それじゃあ、連絡よろしくね」
「あぁ」
そう言ってジャックは、ミーナに手を振るフィリカを乗せて、再びツタの中へと潜り込んで行った。
「耳引きちぎりますよ?」
ジャックの背中に乗って密着していたフィリカは、彼の肩に置いていた手を伸ばし、身体を離した。
「頭、気を付けろよ。そこ通ったばっかりなんだからまだ——」
「あっ」
彼が注意してる側からフィリカの後頭部は、辺り一面に巡らされたツタを揺らしてしまった。
彼らの目の前にあった実が、透明から黒へと変わっていく。
「はぁ······またか······」
「今のはジャックさんが変なこと言うからいけないんでしょう!?」
「今のは俺のせいじゃないだろ!?」
そんな口喧嘩をしているとは露知らず、ミーナは張り巡らされたツタの外で腰に手を当て「ダメね······」と独り言を言う。
打開案が浮かばない彼女は、遠くにいる二人に声を掛けた。
「休憩にしましょー! 一旦戻ってきてー!」
「あいよー」「わかりましたー」
フィリカを背負ったジャックは、慎重にツタの間をくぐっては、彼女の元を目指して戻っていく。
——昨日。
「これでどうかしら?」
ジャックとミーナは研究室で横に並び、一冊の図鑑を眺めていた。
『ホウエイプラント』
森林に群生して育つ、つるを持つ樹木である。木の周りにピンとツタを張り巡らせて縄張りを作り、その中で幾つもの実をその木に成らせる。
その実は綺麗な透明色をしているが、もしツタに触れると、植物の防衛本能から、実の中の成分をツタの中の成分と化合させ、毒へと変えてしまう。化合した果実は色が透明から黒へと色を変えるため、毒を見た目で判断する事は容易である。
また、透明の果実は食す事もでき、滋養にも良いが、万が一に黒の果実を食べれば、全身が痺れを起こし、呼吸困難にも陥る。
そして、黒の実の果肉は、人には分からぬ、魔物の好む匂いを放ち、たちまち彼らをおびき寄せてしまう。だが、黒くなった果実は、へたや皮が固くなるため、落ちにくくもなり、その実を傷付けさえしなければ、匂いも発せらない。
ちなみに、数日すれば実の中の毒も分解され、元の透明色へと色を戻すので、放っておいても特に問題はない。
「かなり植物寄りのモンスターだな」
「植物よ。ただ、魔物を寄せ付ける危険性があるから、この本に載っているんでしょうね」
「なるほど。でも、なんでこの植物なんだ?」
「"魔物が好む"って書いてあるでしょ? つまり、その実を魔物――モンスターが食べるって事だと思うの。人であれ、モンスターであれ、食べた物は身体の一部となっていくでしょう?」
「あぁ······だから、ドラゴンの血と同じように、これも魔法が作れるんじゃないか、と
「そういうこと」
「まぁ、危険が少ないのはなによりだ」
「なら決まりね」
――こうして二人は、炎に続く新しい魔法を作るため、手に入れる物を決めていた。
その後、フィリカを迎えた二人は、街の南にある小平原を超え、そこにある小さな森――『イーリアの森』へと足を運んでいたのだった。
ツタの外の木陰に座り、三人は反省会をしていた。
「フィリカの魔法があっても、なかなか難しいものなのね······」
足を折って草の上に横座りしたミーナは、顎に手を当てて考え込んでいた。そして、ふと先の出来事を思い出した彼女は、フィリカにその事を問いかける。
「それにしてもフィリカ、あなた疲れてない? あんなトコで頭上げるなんて、あまりにも不注意だわ」
「あれはジャックさんが——」
「あぁ、きっと疲れてんだよ。何回トライしたか分からないからな。それにツタの位置だって毎回変わるし、神経だって使うんだ」
自分の言葉を遮るように喋るジャックに、フィリカはムッとする。
「別に——」
「それに、俺もフィリカ背負い続けて脚にきてるから、ちょうど休みたかったんだよ。フィリカも後ろ乗り続けて疲れただろ?」
「そんなことは——」
「だから今はゆっくり休もうぜ。なっ?」
ジャックはフィリカの肩を軽く叩く。
「······もういいです」
ぺたん座りをしてお菓子を食べていたフィリカは、頬を膨らます。そんな二人を見て、ミーナは首を傾げていた。
そんな事情を追及するでもなく、彼女は、木のほうへと視線を移した。
「······もう半分以上黒くなっちゃったわね」
ミーナの見ている先、群生している木の半分以上は黒の果実へと変わってしまっていた。
「毎回、良いところまでは行くんだけどな」
「奥のほうに行くと、ツタが密集してるんですよねぇ」
「あら、そうなの?」
しまった、という感じでフィリカが口を押さえる。
「ん? あ、あぁ······」
ジャックもつい、歯切れ悪く返事をしてしまった。
それによって三人の表情が一気に重くなる。
それは三人が三人とも、ミーナが一人で挑戦していた時の事を思い出したからだった。
そんな中、ジャックが最初に口火を切る。
「あんな大口叩いてたのに、二回やって二回とも、三歩でツタに触れたからな······。あれ······苦手の域超えてるよ」
「そうですね······」
「足元注意したと思ったら、次すぐ頭引っ掛かって······」
「そうでしたね······」
「戻る時にも一人でツタに絡まってたし······」
「そうですね······」
「あれはある意味才能だよ。だって、しまいにはさ——」
「ジャック、もうやめて······」
今回全く力になれないミーナは耳を赤くし、両手で顔を覆っていた。
「ミーナさんが不得手なのは別として、なんであんな複雑にツタを張るんですかね······」
悪気のないフィリカの言葉に、今日一番傷付いたミーナはそれをジャックに八つ当たりする。
「なんでよ。教えなさいジャック」
「俺が知るか······」
ミーナもフィリカも運動神経は悪いほうではないのだが、片足でバランスを取ろうとした時には、体勢を崩し、倒れてしまうことがあった。
それに比べジャックは、訓練生時代の賜物だろうか、片足で立って目を瞑っても、全くバランスを崩さないほどの、身体能力を兼ね備えていた。まさに今回の役目には適役だった。
が、一人では、草むらに隠れたツタを見つける事が出来ず、それを踏んでしまい、実を黒くしてしまう事が度々あったのだ。
そこで三人が考えたのは「ジャックがフィリカを背負う」というものだった。
フィリカの魔法を使いながら進めば、ジャックの足元はカバー出来る。そして、小さな身体のフィリカを背負っても、彼女が動かない限りジャックは、バランスを崩して倒れる事もなかったからだった。
フィリカの魔法があるとくれば余裕だ、と彼らはタカをくくっていたが、実際はそんな容易ものではなかった。
「迷路みたいなんだよな」
「ええ。通れるには通れるんですが、ゴールには辿り着けないって感じですよね」
三人の間に沈黙が流れる。
そして再び、ジャックが最初に口を開く。
「······なぁ、今更なんだけどさ、実が黒くなるのは覚悟して、あそこの下で数日過ごしたらいいんじゃないか?」
二人は、ジャックのほうをバッと見た。
「その手がありましたね······」
「だろ?」
だが、フィリカが感心の意を示すのとは裏腹に、ミーナのほうは「何を言ってるの」という驚きだった。
「フィリカ······、ジャックはいいかもしれないけど、私たちも数日ここで過ごすのよ? お風呂も無しに」
「あっ······そうでした······」
それを聞いたフィリカは肩を落とす。
「それじゃあこの案は却下ですね。ジャックさん一人でやって下さい」
「おい」
「でも、その方法は確実に実が取れるわよねぇ······。魔法作れるって証明出来たら、城の兵士にでもやらせようかしら······」
「そ、そうですね」
「······不憫だな、その兵士」
自分の案が今は廃案になったのを確認して、ジャックは「それで」と言い、話を戻す。
「何か作戦は出そうか?」
「いいえ······。でも、とりあえず私も状況を知りたいから『コンタクト』で教えてくれないかしら?」
「いいけど、俺が『コンタクト』するのか? フィリカの方が長く出来そうだし、そのほうがいいんじゃ······」
「フィリカにはツタの方に集中してほしいの。それに私も、フィリカとはまだ合わせた事ないから『コンタクト』するのにきっと時間かかっちゃうわ」
「あぁ、そういうこと」
二人の会話を聞いていたフィリカが口を挟む。
「すみません······。その『コンタクト』っていうのは何ですか?」
「魔力で頭の中の思考を繋げるの」
「へぇー、そんなこと出来るんですか······」
「えぇ」
そう言うとミーナは、ジャックの前に左手を差し出した。だがジャックは、彼女のその手首に付けられた装飾品を目にして、出しかけていた右手を止める。
「あれ、そんなブレスレット付けてたか?」
「あぁ、これ? 昨日、城に行く途中で買ったのよ」
ミーナは、出していた手を自分の方に寄せ、それを眺めていた。彼女の左手首には、細い金色のブレスレットがきらりと輝いていた。
ジャックは「ふーん······」と言って、それを触りながら少し口角を上げる彼女を見る。すると、横からフィリカが顔を出して彼を茶化す。
「ジャックさん、女性の小さな変化に気付くなんてやりますね」
「······うるさい」
どこか恥ずかしさを覚えたジャックは、フィリカの頭をわし掴みにすると、ぐぐっと力を込めていく。
「あああ! 痛い痛い痛い! すみません、すみません! すみませんって!! もう言いませんからー!」
頭を掴んでいる手を叩きながら彼女が涙目でそう懇願すると、ジャックは力を入れていた手を緩める。
痛みから解放されたフィリカは頭を押さえ、髪を整えながら、不貞腐れて言葉を漏らす。
「はぁ······思ったより馬鹿力なんですね······」
「もっかい掴まれたいのか?」
「やめなさい、ジャック」
フィリカは両手で頭を隠していた。
静止されたジャックは仕方なく、ミーナの方を見て右手を差し出す。そこに彼女も手を重ねる。
一瞬だけ光が灯ると、二人は手を離した。
「さっ、効果が切れる前に行きましょう」
そう言うとミーナは立ち上がりお尻を払う。
それにつられてジャックも立ち上がる。
「『コンタクト』でしたっけ? ほんとに聞こえるんですか?」
乱された髪を整えながら立ち上がるフィリカは、半信半疑ながらに彼女に尋ねた。
「聞こえるわよ。試しに何か言ってごらん」
フィリカはミーナの耳元でボソボソと囁くと、すぐにジャックは右手と右膝を上げ、左手をグーにして腰に添えた。
「おぉー! すごいですね!」
「なんだよ、このポーズ」
「ミーナさん! 城に帰ったら私ともやって下さい!」
「いいわよ、やりましょう」
「無視かい······」
そんなポーズを取り続ける彼を余所に、「やったー!」と言ってフィリカは両手を組み、ミーナの前で軽く飛び跳ねる。
彼女の肩から下がるカバンは、ゆさゆさと揺れていた。
それから三人は移動して、透明な木の実が見えるツタの前までやってくる。
「それじゃあ、連絡よろしくね」
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