ジャック&ミーナ ―魔法科学部研究科―

浅山いちる

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赤い髪の(小)悪魔③

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「なにやってんのよ!!」

 程なくしてツタの中から現れた二人は彼女と合流すると、そのまま走って森の外へ向かう。
 走りながらミーナは二人に尋ねる。

「なんで?! うまくいったんじゃないの?!」
「うまくはいってたんだよ。ただ、いつ落ちたか分からない黒い実を、俺が倒れた拍子に潰しちゃったらしい」

 と言って、汚れた自分の服を前に引っ張り、ミーナに見せる。

「潰しちゃったらしい、じゃないわよ!バカ! それにあんたがその服着てたら、ずっと魔物おびき寄せちゃうじゃない!」
「まぁ、落ち着けって。なぁ、フィリカ?」
「はい。ミーナさん、とりあえずこれ食べて落ち着いてください」

 そう言って鞄から一つの実を取り出すとそれをミーナに渡す。

「なによ、これ」
「あの実だよ」
「そんなことは分かってるわよ!」
「走りながらの水分補給にもいいから、とりあえず食ってみ?」

 ジャックはデタラメな嘘をつく。
 ミーナは怪訝そうな顔でフィリカからその実を受け取ると、走りながらその実をかじる。

「んんっ!! なにこれ!? うんまああぁい!! ほっぺ落ちそうー!!」

 彼女は幸せそうな顔でその実を食べていた。二人は「やったな」という感じに目を合わせ、グーサインを出す。
 だが、それも束の間だった。実を食べ終えた彼女が二人に言う。

「ねぇ······あんたたち、これ食べてて遅れたの?」

 突然のドスが効いた彼女の声に二人はドキッとして、しどろもどろする。

「い、い、い、いや、わわ、私はやめた方がいいってジャックさんにいったんですよぉ? でもこの人が勝手に——」
「嘘つけ! なに言ってんだ! お前キラッキラッした目で"私も!"なんて言ってたくせに! 裏切るのか!?」
「ジャックさんが食べなければそうは思わなかったですよ! あんな美味しそうな顔して食う方が悪いんです!」
「なんだと! 俺は親切に実をとってやっただけだろ!? それに、ミーナに食べさせたら怒りも吹っ飛ぶって言ったのもお前だろ? なんで俺だけが——」
「ねぇ」

 あの低い声が二人の会話を遮る。

「あんたら、帰ったら覚えてなさい」
『······はい』




 しばらくして、ジャックが周りの気配に気付く。

「かなりついてきてるな」
「ええ。でも、もうすぐ森の外よ。頑張って走って。フィリカもね」
「はい」

 なんとか追いつかれることなく、森の外へ出た三人は少しペースを落とし、後ろを振り返る。




 砂埃とゴゴゴゴゴという音とともに、木や草の陰に隠れて見えなかったモンスター達が、茂みから一斉に姿を現した。

「おい······、こんな連れてきたのかよ······」

 熊や鷲、猪に狼、それらが変形した魔物。ツルを脚のように使い、地面を歩く異形の花。木の幹に目と口を生やした樹木の群れが、横一列になるように、後ろから彼らを追いかけてきていた。

「よくこんな森に入って無事でしたね······」

 三人は再び全力で走り出す。だが、魔物との距離を放せるでもなく、詰められるわけでもなく、同じ距離を保ったまま、街が遠くに見える位置まで来ていた。
 このまま街に入るわけにもいかない。かと言ってこのまま走り続ければ、先に力尽きるのは自分達だと、三人は分かっていた。
 その状況に、いよいよ痺れを切らしたミーナが立ち止まる。

「あぁ、もう! しつこいわねー!」

 後ろを振り返った彼女は、胸ポケットに入れていた一つの包み紙を取り出した。

「おいミーナ!! 何してんだ!!」
「いいから下がってて!!」

 包みの中に入れられた深紅の薬を口に含むと、彼女は左側に手を伸ばした。同時に放り投げられた薬包紙が宙を舞う。

 すると、何もない空間から炎が現れ、紙を燃やした。

 やがて、彼女の左右にも、炎が現れる。
自分の前で、反時計回りに小さくクルリと左手を回し、腕を少し上げたかと思うと、何かを握るような動作を胸の前でし、その手を一気に前方へ突き出した。
 同時に、彼女の周り、半円から溢れるように出た炎が、大波となってモンスターたちに襲いかかった。

 ——グオオおおおお!!

 業火は、追ってきた魔物を一匹と残らずに呑み込んでいた。

 モンスターの断末魔と木々の燃える音が草原に響き渡る。炎の中で浮かぶ黒い影が次々と崩れ去っていく。十五秒ほどしてその影は何処にも見えなくなった。
 それを確認したミーナは、ブレスレットをした左手を、軽く振り降ろす。火柱のように高くなっていた炎が一気に姿を消した。

 その光景を見ていた二人は唖然とする。

「ジャックさん······。あれが、ドラゴンの血を使ったっていう新しい魔法ですか······?」
「いや、そうだけど······俺が使った時はあんな悪魔染みてなかったぞ······」

 炎が消えた後も、少しの焦げるの臭いと、パチッ、パチッ、と燃える音はまだ辺りに残っていた。
 モンスターは一匹残らず、あの炎に身を焼かれていた。

「全力でやってもこんなものなのね。修行不足かしら」

 彼女の反省を聞いて二人は青ざめる。 

「ジャック、あんたの服貸しなさい」

 さっきの魔物の姿を見ていたジャックは言われるがままに、半袖のシャツを脱いで彼女に渡した。彼から服を受け取った彼女は、手の上でそれを燃やす。

「あぁ······俺の服······」

 ジャックは哀しそうな目で、その凄惨な様を見ていた。やがて、手の上に乗っていた服は灰になると、風に運ばれていった。

「これでもう、追われる事はないわね。行きましょう」

 パンパンと両手を払うと、ミーナは先に歩みを進める。残された二人は竦然としていた。

「フィリカ、魔法使うアイツには逆らわないようにしような······」
「そ、そうですね······」
「どうしたの二人とも? 行くわよ」
『はい、ミーナさん······』




 ——城へと繋がる、街の大通り。

 街行く人々は、三人が通る度に怪しげな顔をして彼らを見ていた。

"ママー、なんであのひと上半身裸なの?"
"コラッ、見ちゃいけません!"

"君は絶対あーなっちゃダメだよ?"
"うん! 大丈夫! なりたくないから!"

"やだー、なにあれー?"

 色んな人の声がジャックの耳へと飛び込んでくる。

「違う······俺はこんな風に注目されたかったんじゃない······」

 少女二人が、後ろに上半身裸の男を連れて歩く。それは、多くの人が往来するこの通りには、あまりに異様な光景だった。

「堂々と歩きなさい、ジャック」
「歩けるか······」
「色んな人にチヤホヤされたかったんでしょ?」
「こういう事じゃねぇよ······」

 恥ずかしさのあまり、ジャックは顔を隠していた。

 フィリカも顔を隠すように俯き気味で歩いていた。
 "わざわざ人通りの多い、この道を通らなくても······"そう思った彼女は、あまりにも不可解なミーナの行動に疑いを覚える。
 やがて何かに勘付く彼女。
 自分の身の危険を感じた彼女は、あたかも探していた店を今見つけたかのような演技をする。

「あっ! ミ、ミ、ミーナさん! そっ、そういえばわたし! あ、あそこで、か、買いたいものがあったんですよ——」
「あら、家でも買うの?」

 彼女の指差していた先にあったのは"売り出し中"の看板が掛けられた空き家だった。
 焦っていたフィリカは、あまりにも適当な方向を指差してしまっていた。

「あっ、ち、ち、違いました!」

 彼女は眼鏡を外す動作をする。

「あれ、おかしいなー。眼鏡の度が合ってないんですかねー? ちょっと直してもらいに行ってこようかなー」

 墓穴を掘った彼女は、もはや何でもいいからはやく逃げなければ、と、いい加減な理由をつけてその場から離れようとする。だが

「どこ行くの? フィリカ」

 肩を掴まれ「ひぃ!」と短く声をあげる。フィリカの耳元で囁くように彼女は言う。

「声、震えてるわよ?」

 フィリカは一瞬、肩を縮める。
 彼女がおそるおそる後ろを振り向くと、赤い髪の女が目を細め、優しそうな笑顔を作り、そこに立っていた。
 フィリカはその顔を見て戦慄する。

「な······なんでもないです······」

 その笑顔にはまだ、あの森での怨念が目に見えて宿っていた。

 ミーナはまるで"逃がさない"というように彼女の手を取ると、その手を揺らしながら街の真ん中を歩いて行く。
 恥辱を受ける少年。恐怖に怯える少女。

 こうして彼らの凱旋は、あまりにも不本意な形で幕を閉じる事となった。
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