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赤い髪の(小)悪魔④
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ミーナとフィリカは研究部屋で二人きりだった。ジャックは、燃やされた服の代わりを貰うべく、軍に申請をしに行っていた。
お互い喋る事なく、研究をする準備をしていた。フィリカにはまだ恐怖が尾を引いていた。
「もう怒ってないわよ、フィリカ」
そんな中、先に口を開いたのはミーナだった。通りの時とは違い、本物の笑顔でフィリカに話しかけていた。
その表情に胸を撫で下ろし、彼女はミーナの元へと寄っていく。
「すみませんでした······」
「いいの。もう気にしないで」
「それに······」
彼女はフィリカの鼻に、ツンと指を当てた。
「手握ってる間、ずっと震えてたでしょ? アレで十分よ」
「······意地悪ですね」
彼女はムスッとした顔をしてみせたが、すぐに笑っていた。いつもの感じで話せる事にフィリカは安心していた。
「······それにしても、ミーナさん。あの魔法すごいですね」
「ん、アレ? あれ、フィリカの"魔法を飛ばす"っていうのを応用してみたのよ。今までそんな使い方しなかったもの。フィリカのおかげよ」
そう言ってミーナは、フィリカの頭をよしよしよしと撫でる。どこか話がズレた気もしていたが、褒められた事で、どこか誇らしく、嬉しくなった彼女はエヘヘ、と顔を綻ばせる。
そんな中ジャックが帰ってきた。少しやつれた顔をしている。
「はぁ······まったく大変だったよ」
「あら、同じ服じゃない」
「あれも元々、軍の支給品なんだよ」
「そうなの?」
特に驚く様子もなく彼女は言う。
「そうなの? じゃねぇよ······。倉庫管理してる女の人に"服、燃えました"なんて言っても、はぁ? って顔されて、"正当な理由じゃないと無理です。"って、全然取り合ってくれないし······。仕方なくちゃんと"魔法で燃やされました。"なんて言っても、胡散臭そうな顔だけされて大変だったんだぞ。——たまたまハイゼル司令官通ったから良かったけどさぁ······。司令官にも笑われてたんだぞ。"ハッハッハッ、君の服燃やされたのか! ミーナ君らしいな!"って。まぁ、おかげで助かったけど······」
「嘘でもつけば良かったじゃない。あなたの得意分野でしょ?」
「そう簡単に嘘つけるか! それに、そんなトコで嘘ついたら牢屋行きだろ」
「バレなきゃいいのよ」
「おい」
「それより、今の魔法の認知はその程度なのよね······。当然なのかもしれないけど」
彼の服を燃やした事よりも、彼女はもはやそっちの方を気にしていた。
「もういいよ······。それで、この実どうするんだ?」
「あら、手伝ってくれるの?」
透明の実が置かれた机の横にジャックは座る。
「前は任せっぱなしで、どうしてるかも知らなかったからな。少しぐらい知っておこうと思って」
「ふーん······。じゃあ、この実絞ってもらおうかしら」
彼女は、頭巾ほどの大きさの布を彼に渡す。
「全部か?」
「とりあえず半分でいいわ」
リンゴほどの大きさの実は全部で八個あった。逃げる途中食べた分を考えると、全部で九個の実を今回彼らは取っていた。
「わかった」
「ミーナさん、私は?」
「フィリカは記録を取ってちょうだい。使った量や材料とかね」
「わかりました」
部屋の端に備えてある白紙と羽ペン、インクをフィリカは取りに行く。
その間にミーナは、街で買っておいた材料を準備する。小さな木箱や麻布の袋から、小瓶に入った液体や、細かく刻まれた葉が出てくる。
それらを小さな陶器に移すと、天秤に乗せて重さを量る。その横でフィリカがペンを動かす。
「そういえばミーナ。ふと思い出したんだけど、なんでドラゴンの洞窟で『コンタクト』した時、俺の魔力が五分くらいで切れるって分かったんだ?」
「あぁ、あれね。フィリカも知っておいて欲しいんだけど」
はい、と言って、メモを取りながら彼女の声に応える。
「人の魔力の全体量はその人に触れれば分かるの。訓練すればね。——それで、『コンタクト』の魔法なんだけど、これは相手の魔力と自分の魔力の圧力を、最初に等しくしないといけないの。いつも私が合わせてたからあなたは気にしなかったと思うけど······」
果実を絞りながらジャックは頷く。
「最初触れた時に知った全体量とあなたから流れる魔力の圧力から、空になるまでの時間をおおよそで導き出したの」
「そんな事出来るのか?」
「経験を重ねれば出来るわ。魔力をちゃんとした数値にする術が、私達にあればいいんだけどね」
一つの実を絞り終えたジャックが布を開くと、葡萄の皮のような外身が、そこに残っていた。
「これどうする?」
「こっちの皿に入れといてちょうだい」
「分かった」
ジャックは、彼女に渡された銀の器に布をひっくり返す。そして、くっ付いたままの皮を手で丁寧に一つ一つ剥がしていく。
「その······圧力を合わせるのは難しいんですか?」
「そうね······相手と並走するイメージかしら? それか、相手と手を合わせて押しあってるような感じね」
「へぇー。ちなみに、ジャックさんがミーナさんに合わせる事は出来るんですか?」
「出来ないこともないけど、その分魔力を多く使うから推奨はしないわ。足の速い人に遅い人が合わせるのも大変でしょう?」
たしかに······、と彼女は納得する。
「だから、フィリカがジャックと『コンタクト』する場合は、きっとあなたが合わせなきゃいけないのよ?」
「ええっ、そうなんですか?」
「悪いな、フィリカ」
「あんたも練習はすんのよ」
ミーナはジャックに突っ込むと、隣にいる少女に視線を移す。
「フィリカ。あなたなら、そんな難しいものじゃないわ。大丈夫よ、自信持って」
「······はい!」
「単純だなぁ······」
一喜一憂するフィリカを見て、ジャックはそうは呟いていた。
「出来たわ」
「見た目としては、変わりませんね」
「失敗じゃないのか?」
「殴るわよ?」
彼らの前にあったのは小瓶に入った透明な液体だった。それは様々な素材を煮詰めてフラスコから移したものだった。
「ジャック。飲んでみなさい」
「いや、ここはフィリカに譲るよ。初めてだろ?」
「いえ、私、記録係ですし······」
「いいから飲みなさい。ジャック」
二度指名された彼は、渋々その容器に手を伸ばす。目の前でそれを持ったまま、一度"ゴクリ"と唾を飲むと、その液体を一気に飲み干した。空のビンを机の上にコンッ!と置く。
「ど、どうですか······?」
メモの乗ったボードを抱えながら、フィリカが様子を窺う。
「う······」
「う?」
中途半端な言葉を漏らす彼に、フィリカが思わず聞き返す。
「う······」
彼の周りに緊張が走る。
「うまい」
「へ?」「はぁ?」
その声に緊張の糸が一気にほぐれる。
「うまいぞこれ! ちょっと味変わっちゃったけど、これはこれでメッチャ美味しい!」
「そんな味の感想聞きたいんじゃないわよ!! 魔法は!?」
「······うーん。何も変わった様子はないし。魔力でなんかしても何か出来そう気配ないぞ」
「······変ね。何か間違えたかしら?」
「わ、私も確かめます!」
「おまえ飲みたいだけだろ」
フィリカは、棚にある空のビーカーを取りに行く。
「飲む気まんまんじゃねえか!! どんだけ飲むんだよ!」
「おかしいわね······。理論的には上手くいくはずなんだけど······」
フィリカの取ったメモを見て彼女は呟く。
「フィリカ。ちょっと量を増やして飲んでみて」
「はい!」
待ってましたと言わんばかりにフィリカはビーカーに液体を移す。容器の半分くらいまでが満たされる。
「入れ過ぎだろ」
「飲んでいいですか?」
「ええ」
許可をもらった彼女は一気に中身を飲み干す。
——ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ。
「······んはぁ」
幸せに満ちた顔で、両手に容器を持ったままの彼女。しばらくそのままで固まっている。
「············で、変化はあるのか?」
夢現の彼女をジャックが引き戻す。
「······はっ! えっとですね、特に······変わりはないです」
「ないのかよ!」
自分の身体をあちこち見ながら彼女は答える。それを聞いて、ミーナもその液体をビンに入れて飲む。
「変ね······」
「流石に失敗じゃないのか?」
フラスコの中身は、あと一杯ほどで無くなりそうだった。
「何か見逃してるのかしら? 見逃していること············この実に関するコト、何でもいいから言ってくれないかしら?」
「······透明」
「美味しい」
「黒いのはモンスターを呼ぶ」
「ツタの中の木にできる」
「他には?」
「七色に輝く」
「ツタに触れると黒くなる」
「黒いのは数日経つと元に戻る」
彼女はハッとした顔をする。
「それよ」
そう言うと、ミーナは鍵の掛かった棚の中から薬を取り出す。
「おい、それ炎のやつだろ?」
返事もせず彼女は、フラスコの中の残りを全て小瓶に移す。
「おーい、聞いてんのか?」
「いいから見てて」
ミーナは紙に入った粉を口に含むと、小瓶の左右に手を置いた。彼女がそれに手を当て、しばらくすると、中の液体があの粉の色と同じ、深紅色へと染まっていく。
『おおー!!』
横で見ていた二人から驚嘆の声が漏れる。
「これは魔力を保存できるのよ。飲めば魔力の回復も図れるだろうし、その効果を得る事ができるわ。——ただ、魔力の性質上、扱えるのは本人だけだけどね」
「すげぇ······」
「すごいです! ミーナさん! これ! 沢山ストックしておけば、もう敵無しじゃないですか!」
しかし、彼女は浮かない顔をしていた。
「どうしたんですか?」
「うーん······そうだといいんだけどね。恐らく数日で、また透明に戻っちゃうわ」
「······あぁ、あの実がそうだからか」
「えぇ。魔力を分解して放散するんだと思う」
「でも、無いよりはマシじゃないか?」
「そうだけど······」
「まだ何かあるのか?」
まだ彼女は顔をしかめていた。
「······もう一つ。きっと容量が小さいのよ。私が魔力を流して、すぐに飽和状態になっちゃったわ」
「わかるんですか?」
「ええ。最初は水が流れていうような感覚あったけど、すぐに止まっちゃったわ」
「じゃあ、全く効果ないのか?」
「いえ······効果はちゃんと得られると思うわ。ただ、かなり短くなると思うの。きっと、三十秒得られたら良い方じゃないかしら······」
「粉の方はどれくらいだっけ?」
「三十分よ」
「分と秒じゃ大違いだな······」
「魔力の回復にしても、大量に飲まなきゃいけないのよね······」
「これは······成功と呼んでいいのか分かりませんね······」
重い空気が三人を包む。
「············あの実、食べましょう」
机の上に残った四つの果実を彼女は見る。
「いいのか? また取りに行くなんて御免だぞ?」
「その時は兵士に任せるのよ」
「あぁ、そうだっけな······」
「それに、実一つで、小ビン十個は取れるでしょ? 今はそれだけあれば十分だわ」
「ってことは······一人一個ずつ食えるな!」
「やったー!」
「もう一度ささっと作って、あれ食べるわよ!」
「おう!」
「はい!」
あの森での味を思い出した彼らには活気が戻りつつあった。もはや、今回の研究結果については、もう、彼らにはどうでも良くなっていた。
そして、先より早い時間で、彼らはその液体を作り終えると
「いただきます」
「いただき!」
「いただきまーす!」
まるで今日の出来事を忘れるかのように、彼らはその実を食した。
——つづく。
お互い喋る事なく、研究をする準備をしていた。フィリカにはまだ恐怖が尾を引いていた。
「もう怒ってないわよ、フィリカ」
そんな中、先に口を開いたのはミーナだった。通りの時とは違い、本物の笑顔でフィリカに話しかけていた。
その表情に胸を撫で下ろし、彼女はミーナの元へと寄っていく。
「すみませんでした······」
「いいの。もう気にしないで」
「それに······」
彼女はフィリカの鼻に、ツンと指を当てた。
「手握ってる間、ずっと震えてたでしょ? アレで十分よ」
「······意地悪ですね」
彼女はムスッとした顔をしてみせたが、すぐに笑っていた。いつもの感じで話せる事にフィリカは安心していた。
「······それにしても、ミーナさん。あの魔法すごいですね」
「ん、アレ? あれ、フィリカの"魔法を飛ばす"っていうのを応用してみたのよ。今までそんな使い方しなかったもの。フィリカのおかげよ」
そう言ってミーナは、フィリカの頭をよしよしよしと撫でる。どこか話がズレた気もしていたが、褒められた事で、どこか誇らしく、嬉しくなった彼女はエヘヘ、と顔を綻ばせる。
そんな中ジャックが帰ってきた。少しやつれた顔をしている。
「はぁ······まったく大変だったよ」
「あら、同じ服じゃない」
「あれも元々、軍の支給品なんだよ」
「そうなの?」
特に驚く様子もなく彼女は言う。
「そうなの? じゃねぇよ······。倉庫管理してる女の人に"服、燃えました"なんて言っても、はぁ? って顔されて、"正当な理由じゃないと無理です。"って、全然取り合ってくれないし······。仕方なくちゃんと"魔法で燃やされました。"なんて言っても、胡散臭そうな顔だけされて大変だったんだぞ。——たまたまハイゼル司令官通ったから良かったけどさぁ······。司令官にも笑われてたんだぞ。"ハッハッハッ、君の服燃やされたのか! ミーナ君らしいな!"って。まぁ、おかげで助かったけど······」
「嘘でもつけば良かったじゃない。あなたの得意分野でしょ?」
「そう簡単に嘘つけるか! それに、そんなトコで嘘ついたら牢屋行きだろ」
「バレなきゃいいのよ」
「おい」
「それより、今の魔法の認知はその程度なのよね······。当然なのかもしれないけど」
彼の服を燃やした事よりも、彼女はもはやそっちの方を気にしていた。
「もういいよ······。それで、この実どうするんだ?」
「あら、手伝ってくれるの?」
透明の実が置かれた机の横にジャックは座る。
「前は任せっぱなしで、どうしてるかも知らなかったからな。少しぐらい知っておこうと思って」
「ふーん······。じゃあ、この実絞ってもらおうかしら」
彼女は、頭巾ほどの大きさの布を彼に渡す。
「全部か?」
「とりあえず半分でいいわ」
リンゴほどの大きさの実は全部で八個あった。逃げる途中食べた分を考えると、全部で九個の実を今回彼らは取っていた。
「わかった」
「ミーナさん、私は?」
「フィリカは記録を取ってちょうだい。使った量や材料とかね」
「わかりました」
部屋の端に備えてある白紙と羽ペン、インクをフィリカは取りに行く。
その間にミーナは、街で買っておいた材料を準備する。小さな木箱や麻布の袋から、小瓶に入った液体や、細かく刻まれた葉が出てくる。
それらを小さな陶器に移すと、天秤に乗せて重さを量る。その横でフィリカがペンを動かす。
「そういえばミーナ。ふと思い出したんだけど、なんでドラゴンの洞窟で『コンタクト』した時、俺の魔力が五分くらいで切れるって分かったんだ?」
「あぁ、あれね。フィリカも知っておいて欲しいんだけど」
はい、と言って、メモを取りながら彼女の声に応える。
「人の魔力の全体量はその人に触れれば分かるの。訓練すればね。——それで、『コンタクト』の魔法なんだけど、これは相手の魔力と自分の魔力の圧力を、最初に等しくしないといけないの。いつも私が合わせてたからあなたは気にしなかったと思うけど······」
果実を絞りながらジャックは頷く。
「最初触れた時に知った全体量とあなたから流れる魔力の圧力から、空になるまでの時間をおおよそで導き出したの」
「そんな事出来るのか?」
「経験を重ねれば出来るわ。魔力をちゃんとした数値にする術が、私達にあればいいんだけどね」
一つの実を絞り終えたジャックが布を開くと、葡萄の皮のような外身が、そこに残っていた。
「これどうする?」
「こっちの皿に入れといてちょうだい」
「分かった」
ジャックは、彼女に渡された銀の器に布をひっくり返す。そして、くっ付いたままの皮を手で丁寧に一つ一つ剥がしていく。
「その······圧力を合わせるのは難しいんですか?」
「そうね······相手と並走するイメージかしら? それか、相手と手を合わせて押しあってるような感じね」
「へぇー。ちなみに、ジャックさんがミーナさんに合わせる事は出来るんですか?」
「出来ないこともないけど、その分魔力を多く使うから推奨はしないわ。足の速い人に遅い人が合わせるのも大変でしょう?」
たしかに······、と彼女は納得する。
「だから、フィリカがジャックと『コンタクト』する場合は、きっとあなたが合わせなきゃいけないのよ?」
「ええっ、そうなんですか?」
「悪いな、フィリカ」
「あんたも練習はすんのよ」
ミーナはジャックに突っ込むと、隣にいる少女に視線を移す。
「フィリカ。あなたなら、そんな難しいものじゃないわ。大丈夫よ、自信持って」
「······はい!」
「単純だなぁ······」
一喜一憂するフィリカを見て、ジャックはそうは呟いていた。
「出来たわ」
「見た目としては、変わりませんね」
「失敗じゃないのか?」
「殴るわよ?」
彼らの前にあったのは小瓶に入った透明な液体だった。それは様々な素材を煮詰めてフラスコから移したものだった。
「ジャック。飲んでみなさい」
「いや、ここはフィリカに譲るよ。初めてだろ?」
「いえ、私、記録係ですし······」
「いいから飲みなさい。ジャック」
二度指名された彼は、渋々その容器に手を伸ばす。目の前でそれを持ったまま、一度"ゴクリ"と唾を飲むと、その液体を一気に飲み干した。空のビンを机の上にコンッ!と置く。
「ど、どうですか······?」
メモの乗ったボードを抱えながら、フィリカが様子を窺う。
「う······」
「う?」
中途半端な言葉を漏らす彼に、フィリカが思わず聞き返す。
「う······」
彼の周りに緊張が走る。
「うまい」
「へ?」「はぁ?」
その声に緊張の糸が一気にほぐれる。
「うまいぞこれ! ちょっと味変わっちゃったけど、これはこれでメッチャ美味しい!」
「そんな味の感想聞きたいんじゃないわよ!! 魔法は!?」
「······うーん。何も変わった様子はないし。魔力でなんかしても何か出来そう気配ないぞ」
「······変ね。何か間違えたかしら?」
「わ、私も確かめます!」
「おまえ飲みたいだけだろ」
フィリカは、棚にある空のビーカーを取りに行く。
「飲む気まんまんじゃねえか!! どんだけ飲むんだよ!」
「おかしいわね······。理論的には上手くいくはずなんだけど······」
フィリカの取ったメモを見て彼女は呟く。
「フィリカ。ちょっと量を増やして飲んでみて」
「はい!」
待ってましたと言わんばかりにフィリカはビーカーに液体を移す。容器の半分くらいまでが満たされる。
「入れ過ぎだろ」
「飲んでいいですか?」
「ええ」
許可をもらった彼女は一気に中身を飲み干す。
——ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ。
「······んはぁ」
幸せに満ちた顔で、両手に容器を持ったままの彼女。しばらくそのままで固まっている。
「············で、変化はあるのか?」
夢現の彼女をジャックが引き戻す。
「······はっ! えっとですね、特に······変わりはないです」
「ないのかよ!」
自分の身体をあちこち見ながら彼女は答える。それを聞いて、ミーナもその液体をビンに入れて飲む。
「変ね······」
「流石に失敗じゃないのか?」
フラスコの中身は、あと一杯ほどで無くなりそうだった。
「何か見逃してるのかしら? 見逃していること············この実に関するコト、何でもいいから言ってくれないかしら?」
「······透明」
「美味しい」
「黒いのはモンスターを呼ぶ」
「ツタの中の木にできる」
「他には?」
「七色に輝く」
「ツタに触れると黒くなる」
「黒いのは数日経つと元に戻る」
彼女はハッとした顔をする。
「それよ」
そう言うと、ミーナは鍵の掛かった棚の中から薬を取り出す。
「おい、それ炎のやつだろ?」
返事もせず彼女は、フラスコの中の残りを全て小瓶に移す。
「おーい、聞いてんのか?」
「いいから見てて」
ミーナは紙に入った粉を口に含むと、小瓶の左右に手を置いた。彼女がそれに手を当て、しばらくすると、中の液体があの粉の色と同じ、深紅色へと染まっていく。
『おおー!!』
横で見ていた二人から驚嘆の声が漏れる。
「これは魔力を保存できるのよ。飲めば魔力の回復も図れるだろうし、その効果を得る事ができるわ。——ただ、魔力の性質上、扱えるのは本人だけだけどね」
「すげぇ······」
「すごいです! ミーナさん! これ! 沢山ストックしておけば、もう敵無しじゃないですか!」
しかし、彼女は浮かない顔をしていた。
「どうしたんですか?」
「うーん······そうだといいんだけどね。恐らく数日で、また透明に戻っちゃうわ」
「······あぁ、あの実がそうだからか」
「えぇ。魔力を分解して放散するんだと思う」
「でも、無いよりはマシじゃないか?」
「そうだけど······」
「まだ何かあるのか?」
まだ彼女は顔をしかめていた。
「······もう一つ。きっと容量が小さいのよ。私が魔力を流して、すぐに飽和状態になっちゃったわ」
「わかるんですか?」
「ええ。最初は水が流れていうような感覚あったけど、すぐに止まっちゃったわ」
「じゃあ、全く効果ないのか?」
「いえ······効果はちゃんと得られると思うわ。ただ、かなり短くなると思うの。きっと、三十秒得られたら良い方じゃないかしら······」
「粉の方はどれくらいだっけ?」
「三十分よ」
「分と秒じゃ大違いだな······」
「魔力の回復にしても、大量に飲まなきゃいけないのよね······」
「これは······成功と呼んでいいのか分かりませんね······」
重い空気が三人を包む。
「············あの実、食べましょう」
机の上に残った四つの果実を彼女は見る。
「いいのか? また取りに行くなんて御免だぞ?」
「その時は兵士に任せるのよ」
「あぁ、そうだっけな······」
「それに、実一つで、小ビン十個は取れるでしょ? 今はそれだけあれば十分だわ」
「ってことは······一人一個ずつ食えるな!」
「やったー!」
「もう一度ささっと作って、あれ食べるわよ!」
「おう!」
「はい!」
あの森での味を思い出した彼らには活気が戻りつつあった。もはや、今回の研究結果については、もう、彼らにはどうでも良くなっていた。
そして、先より早い時間で、彼らはその液体を作り終えると
「いただきます」
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