ジャック&ミーナ ―魔法科学部研究科―

浅山いちる

文字の大きさ
30 / 83

英雄(ヒーロー)①

しおりを挟む
「あー······、全身いてぇ······」

 ジャックは机に突っ伏していた。

「またやってたの?」
「あぁ······」

 あれから彼は、スライの時間がある度いつも、剣の訓練をしていた。
 そして今はそれが終わり、あの部屋で身体を休めているところだった。

「ホント馬鹿ね」
「あぁ!?」

 ジャックは机に頬を当てながら声を出す。
 そんな彼を他所に、ミーナは本を読んで、次に手に入れられそうな魔法の素材を探す。

「ったく······スライのやつ······、なんで見た目と違ってあんな馬鹿力なんだよ······」

 ジャックは、拳を作っては広げ、拳を作っては広げを繰り返す。

「誰です? スライって」

 机の反対側に座って、本を読んでいたフィリカが、ジャックに尋ねる。
 しかし、彼が答えるよりも先に、別のところから声がする。

「彼の練習相手よ」
「あぁー、なるほど」
「あれ、ミーナ。お前あいつ知ってるのか?」
「えぇ。あなたをここに誘う前、あなたを調べた際に一緒に知ったの」
「ふーん」

 ジャックは怪訝な顔でジッと彼女を見る。
 彼女は視線に気付き、本を少し下ろす。

「なによ? 別に調べてたって変じゃないでしょ? あんたら、いっつも気持ち悪いぐらい一緒にいたんだもの」
「なんだよその言い方······。そりゃあまぁ、確かに一緒に居ることは多かったけどさ······。ってか、そんな見てたなら声かけろよ」
「いいじゃない。あなたが使えなかったら、放っておくつもりだったんだもの」
「おい。——でも単に、俺と気の合うやつがあいつ、ってだけだったろ?」
「えぇ、そうだったわ。哀しいことに」
「なんで哀しいんだよ」
「だってあんた、交流の幅が狭すぎるんだもの。もう少し人と触れ合ったって、いいんじゃないのかしら?」

 そう言って彼女は、読み終えた本を置き、次の本をパラパラとめくり始める。

「······うるせぇ、余計なお世話だ」

 鼻を鳴らすジャック。
 彼は顔の向きを変えて、机向こう、反対側に座る少女を見る。

「そういえばフィリカ、伝言伝えてくれたのも、そのスライだぞ」
「えっ、そうだったんですか?」

 フィリカは、読んでいた本から彼へと視線をずらす。

「あぁ。たまたま通りかかった時に教えてくれたんだ」

 彼は、自分が物思いに耽っていた事は伏せる。

「へぇー。じゃあ今度、お礼しなくちゃいけませんね!」
「いや別に、あいつはそんな事気にしないと思うぞ」
「えー、そうなんですか?」
「あぁ。そんなことよりむしろ、お前のほうに興味持ってたな」
「えっ! そんな、やだ·····私に興味を持つだなんて······どうしよう······」

 フィリカは頬に両手を当て、顔をふるふるとする。

「そういう事じゃねぇよ······。お前が何者なんだ、って話になったんだ。——あっ、そうだよ! フィリカお前、伝言にハイゼル司令官使ったろ?」
「使ったなんて人聞き悪いですね。頼んだだけですよ?」
「いやいや、そうじゃなくて。頼むにしても普通、上官には頼まないだろ······。大事なことや緊急ならまだしも、こんな事になんて——」
「私は緊急だと思いましたけど?」

 彼女の不意の答えに、ジャックはつい言葉を詰まらせる。

「まぁ、ハイゼルさんも喜んでたし、今回はいいじゃないですか」
「ハイゼルさんって······」

 もはや何処から突っ込んでいいのか、彼には分からなかった。
 その時、話を聞いてたミーナが、本に目を通しながら二人の会話に入る。

「いいんじゃないの? 司令官が喜んでるのなら」

 ジャックは逆に顔を向け、本の向こうの彼女に問いかける。

「······いいのか? こいつ、またやりかねないぞ?」
「相手が喜んでるならいいのよ」
「それでいいのか······?」
「いいのよ」
「うーん······」
「いいんですよ」
「お前が言うなよ」
 
 視界に映らない彼女に、ジャックは思わず突っ込んでしまう。

 決して賑やかではないこの部屋だったが、徐々にいつもの雰囲気が戻りつつあった。
 そしてその事は三人が三人共、心のどこかで同じように感じているようでもあった。


「それにしても、お前ら本ばっか読んでるよなぁ······」
「悪いかしら?」
「ジャックさんもどうです? 楽しいですよ? 新しい事も知れて」
「そうかもしんないけどさ、さっきからずーっと座ってる気がして······。もう少し身体動かしてもいいんじゃないのか?」
「それはあなたが動き足りないだけよ」
「どういう事だよ······」
「私たちはこれで十分だもの」
「そうですよ」
「いや、絶対動きたくないだけだろ······」

 彼女らは本を見て、返事をしない。

「もうどうでもいいって感じだな······。——あー、身体いてぇ!」
「うるさいわよジャック」
「······そうだ、ミーナ。なんか爆発的に筋肉モリモリになる魔法とかないのか? そしたらこうやって、身体痛める必要も無くなるだろ?」
「ジャックさん、何言ってるんですか。そんな都合のいいものあるわけないじゃないです——」
「あるわよ」
『えっ』

 二人が同時にミーナの方を見る。

「近いものなら」
「嘘だろ······」
「あるんですか······」
「えぇ」

 ミーナは、本に栞を挟むと立ち上がり、例の棚から薬を取り出すと、彼の前に差し出す。

「あのキノコから作ったものよ」

 ミーナは腕を組んで、その薬包紙を見る。
 その包みに、ジャックは手を伸ばす。

「ただ······あんた、それでいいの?」

 包みを取ろうとするジャックの手が止まる。

「剣が上手くなるわけじゃないのよ?」

 ミーナは、真っ直ぐ彼の目を見る。

「痛いとこ突いてくるな」
「当然でしょ? あなたの目指す"強さ"とはちょっと種類が違うんだから」

 彼は一人、頭の中で思いを巡らす。
 しばらく長い沈黙が、二人の間に流れる。

「······あぁ、そうだな」

 そう言ってジャックは、出していた手を引っ込める。
 それを見た彼女は溜息をつく。
 すると彼女は、ジャックに近付き

「それが分かってるならいいの」

 と言い、彼の手を取り、そこに薬包紙を乗せた。

「使ってみなさい」
「······いいのか?」
「ええ。どうせ、近いうち渡すつもりだったんだから」
「ふーん······」

 ジャックはその薬包紙を見ては握り、ミーナの方を見る。
 彼女は、小さな鉄製の鍵と用紙を持って、外出の準備をしていた。

「外行くわよ。その力を試すのに、この場所じゃ不十分だわ」
「いいのか? 結構、人目につくだろ?」
「あなたがいつも訓練してる場所の奥なら、誰も来ないでしょ?」
「あぁ、あそこか」

 目線を上にして、そこを思い出したジャックは納得の表情をする。

「フィリカも行くわよ」
「えっ、あ、はい!」

 本を読んでいた彼女は、慌ただしくそれを閉じる。
 そして立ち上がると、椅子に置いてあったカバンを肩に掛け、急いで彼女の元へ行く。

 三人が部屋を出ようとしたその時、「あ、そうだ」と言って、ジャックが口を開く。

「水持ってっていいか?」

 彼は甕(かめ)の方を指差し、ミーナに尋ねる。

「好きにしなさい」

 ジャックは近くにあった、手の平に収まる程の小瓶を取ると、それに水を入れに行く。
 彼と彼女らの距離が離れる。
 それを確認したフィリカは、

「戻ってきて良かったですね」

 と、ミーナの隣でボソッと呟く。

「······そうね」

 二人はジャックの背中を見る。

「ありがとね、フィリカ」
「ふふ、わたしは何もしてませんよ?」
「そうかしら?」
「ええ」

 そこに、左手に、栓をした容器を持つジャックがやってくる。

「悪い、待たせたな」
「それじゃ、行きましょ」
「はい」

 そうして三人は、新たな魔法を試す為、この部屋を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...