ジャック&ミーナ ―魔法科学部研究科―

浅山いちる

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英雄(ヒーロー)⑤

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 三人が足を踏み入れたそこは、工房になっていた。薄暗く、燃えるような音と臭いが立ち込めている。

 外見よりも中は広く、様々なものが散らばっていた。
 剣、鎧、矢、盾などがあったが、そのどれもほとんどが、パーツ毎にバラされ、未完成の状態で置かれている。
 所々、被せられた布の中身も、そのような物がほとんどだった。

 ジャックがふと、後ろの窓ガラスを見る。
 入り口横にあるそれは、汚れで外もマトモに見れない状態にあった。

「ここ、誰か居るのか?」
「ええ」

 三人がさらに奥へ進むと、その目には、火の付いた炉、鞴(ふいご)、金床、ハンマーが見えてくる。
 先程とは違い、それらの付近はキチンと整頓され、人が使用している事を 三人が足を踏み入れたそこは、工房になっていた。薄暗く、燃えるような音と臭いが立ち込めている。

 外見よりも中は広く、様々なものが散らばっていた。
 剣、鎧、矢、盾などがあったが、そのどれもほとんどが、パーツ毎にバラされ、未完成の状態で置かれている。
 所々、被せられた布の中身も、そのような物がほとんどだった。

 ジャックがふと、後ろの窓ガラスを見る。
 入り口横にあるそれは、汚れで外もマトモに見れない状態にあった。

「ここ、誰か居るのか?」
「ええ」

 三人がさらに奥へ進むと、その目には、火の付いた炉、鞴(ふいご)、金床、ハンマーが見えてくる。
 先程とは違い、それらの付近はキチンと整頓され、人が使用している事を感じさせる。

「あれ、いないのかしら?」

 一番奥まで来た彼らだったが、辺りに人影はなかった。

「エドじい! 居るかしら!?」

 しかし、彼女の声が反響するだけで、何も返ってこない。

「エドじい!!」
「居ないんじゃないか?」
「そんな訳ないわ」

 もう一度叫ぶミーナ。

「エドじい!! エドワード!! いないの——」
「誰じゃ!! こっちは気持ち良く昼寝しとるのに起こしおって!!」

 怒声と共に、部屋の端で膨らんでいた布がむくりと盛り上がり、それがめくれると、中から一人の老人が現れる。

「なによ、居るじゃない。——エドじい。私よ」

 起きたばかりの翁は眼を細める。

「なんじゃ、ミーナか」
「なんだ、はないでしょ?」

 彼は、まだ覚めきらぬ重い体を起こし、寝床から出ると、天井から下がるランプに火をつける。
 そして、それを付け終えると、椅子に座り、台に置いてあったパイプを手に持ち、煙草に火をつけた。

「ミーナ、誰なんだ? この人?」
「鍛治師『エドワード』。通称『エドじい』よ」

 彼は、煙草の煙を勢いよく上に吐いて、一服をしていた。
 彼女は、隣の二人を紹介する。

「エドじい、この二人がジャックとフィリカよ」
「初めまして」
「初めまして、フィリカです」
「お前らが話に出てくる二人か。——なに、そんな堅く話さなくてもええぞ。よく来たな」

 フォッフォッフォッ、と、篭った声をしながらも、老人は軽快に笑う。
 人の良さそうな彼の姿に、二人は緊張を緩める。

「ミーナからよく話は聞いておるよ。馬鹿のジャックに、食いしん坊のフィリカだろ?」

 あながち間違いでもないが、エドワードのその言葉に、二人は虚をつかれる。

「お前、何話してんだよ······」
「本当のことじゃない」
「なんか悪意ありません······?」
 
 ジャックは、椅子に座る老人の方に向き直り、彼の抱く印象を正そうとする。

「えっと、エドじい。俺の名誉のためにちゃんと訂正しとくけど、俺は頑張り屋なの」
「私もですよ。単なる成長期による食欲ですよ」
「どっち一緒じゃろ」
『ちがう!』
「エドじいの言う通りよ」
「違ぇよ!」「違います!」

 エドワードは三人のやり取りを、あの笑い方をして楽しそうに見ていた。

「お前の周りも賑やかになったのぉ」
「えぇ、おかげさまでね」

 ミーナは腕を組んで少し笑う。

「それで、今日は何の用じゃ?」
「あれよ。頼んでおいた物、出来てるかしら?」
「あぁ、その事か。それならとっくに出来とるよ」

 彼は立ち上がると、近くの机で小さく膨らみを持っていた布をバッと取り上げる。

「おおおおお!!」

 そこに隠れていたものに興奮するジャック。
 驚嘆するジャックが見たもの、その老人のめくった布の中にあったものは、十五センチ程の小銃だった。

「どうじゃ、カッコいいだろ?」
「あぁ!! それにこんな小さいの見たことないぞ! すげえな! エドじい!」
「なに、わしの手にかかれば、こんなのお茶の子さいさいじゃ」

 通常のマスケット銃が平均一・五メートル
に対して、この銃はその十分の一だった。

「盛り上がってる所申し訳ないんですが、これ、何なんですか?」

 それを聞いたジャックは、商品を紹介する商人のように手を広げ、彼女に説明する。

「いいか、フィリカ。これは『銃』って言ってな、この国じゃ火薬が貴重だから作られてないけど、火薬を使って弾丸を飛ばす、非常に高い攻撃性能を持つ遠距離武器なんだぞ」
「へぇー、そんな武器が。——でも、どうしてそんな凄いものが、この国では使われていないんですか?」
「まぁ······買うにしても値が張るし、この国じゃ火薬の原料が産出できず、本体を大量に作っても撃てないから、その関係もあって全く作られてないんだ。——あと、国の軍の事情もあって、時折やってくる大型モンスターに備えての、大砲に使う火薬と鉄で手一杯なんだよ」

 あまりに仔細まで話す彼に、黙っていたミーナがつい口を開く。

「あんた、やけに詳しいわね」
「ほとんど聞いたことだけどな」
「そうなの?」
「あぁ。ごく偶に、遠い異国の行商が街に売りに来てるだろ? その時にマスケット銃見つけて、銃のこと聞くついでに、この国の事情とか愚痴とかも色々聞いたんだ」
「ふーん······」

 ミーナは、いつもより明らかに目を光らせている彼を、物柔らかに見ていた。

「あなた、意外とこういうのは興味を持つのね」
「そりゃそうだろ。だって、この武器で言うなら、このフォルム、そこから放たれる弾丸。たった一撃で仕留められるその性能には、男なら惚れない者はいないってもんだろ?」
「······私にはよく分かんないけど」

 しかし、そんな彼にエドワードは共感する。

「お前さんよく分かっとるな」
「だろ!? これを手に入れるために、その異国に連れてってもらおうか本気で悩んだくらいなんだ」
「おぉ、わしも昔、武器のために各地を回ろうと考えたことあるぞ!」
「本当か、おっさん!? 同志だな!」
「じゃな!」

 すっかり意気投合してその事について話し始めていた。

「なんか変な二人ですね」
「そうね」

 そんな二人のやり取りを、冷ややかな目で彼女らは見ていた。

 しばらくして、ようやく落ち着いたジャックが戻ってくる。

「なぁそれで、この銃どうするんだ? どうせなら俺に使わせてくれよ」

 ジャックは、赤い髪の少女と老人を交互に見る。
 そんな彼にミーナが答える。

「······水を差すようで悪いけど、これ、フィリカに持たせようと思ってるの」
「えっ!?」「なに!?」

 突拍子もない事に、フィリカも思わず声を上げる。

「そんな驚かないの。あなたの護身用よ。私たちは剣や炎があるけど、あなたはどちらもちゃんと扱えないでしょ?」
「そうですけど······」
「炎がちゃんと扱えるようになるまでの間よ。それに武器があった方が、私たちも安心しやすいもの」
「たしかに」
「でも私、複雑な武器の扱いは出来ませんよ?」
「単純じゃよ。玉を込め、相手に向け、引き金を引くだけじゃ」

 そう言って、エドワードはやり方を彼女に教える。

「まず、この本体、横のレバーを引くじゃろ? と、その前にこっち説明か。——ジャック、銃の威力の元は知っとるかの?」
「あぁ。火薬を中で爆発させるんだろ?」
「そうじゃ。しかし、さっきのお前さんの話にも出てきた通り、この国では火薬は貴重でなかなか手に入らん。そこでコレを代用したんじゃが······見えるかの?」

 彼は、銃口をジャックとフィリカに見せる。

「なんでしょう? 白い細いのが見えますけど······」
「糸······? いや、弦じゃないか?」
「そうじゃ。クロスボウに使われる弦を中に仕込んである」
「銃とクロスボウを合わせたのか」
「そうじゃ。クロスボウだと矢をセットするのに結構な力が必要じゃろ?」
「たしかに」
「それを補うためのこの銃身じゃ。小さな力でも簡単に充填が出来るよう、本体を小さくし、このレバーを引いて、弦を巻いて、歯車で止めることで、女子でも使えるようになっておる」
「はぁー、すげえな」

 ジャックは一人で驚いていた。
 いまいち理解が出来ていないフィリカが口を開く。

「えっとつまり、とりあえず最初にレバーを引けばいいんですね?」
「そうじゃな。そしたら、この専用の矢を中に入れる。カチッと音がするからの」

 と、同時に金属の音が鳴る。

「そしたら、あとは的に向け、引き金を引くだけじゃ」

 エドワードは、近くに置いてあった丸太に銃を向ける。
 パシュっという音と共に、勢いよく飛び出した矢が丸太に突き刺さる。

「おぉー」

 フィリカは声を上げる。
 しかし、その性能に、腑に落ちないジャックは首を傾げていた。

「······でも、この威力じゃ刺さりはするだろうけど、武器としても護身用としても厳しいんじゃないか?」
「あぁ、その通りじゃ。じゃが、この武器の本質はそっちじゃない。——のう? ミーナ」
「ええ。そこにカヤクダケのトゲから採った、麻痺性の矢を使うの」
「麻痺性の矢?」
「矢尻にあのトゲの麻痺成分を仕込んであるの。ドラゴンみたいな大型のモンスターには速効性はないけど、街の付近にいるような小さな動物型モンスターになら、効果はあるはずよ」
「はぁー、なるほど······」
「ちなみに、今飛ばしたのは試用品のもんじゃがの。本物はこっちにある」

 彼は、壁に立ててある小さな矢筒を指差す。

「実際使う時は、皮の手袋でもするようにの。自分にでも刺さったら本末転倒じゃ」
「あと少し欠点を上げるとしたら、複数には向かない事と、外した場合に再装填で少し時間がかかることね」
「そこは外さないよう練習すればいいんじゃ」
「そうね」
「そういえば、エドじい。これ一人で作ったのか?」
「いいや、設計図はミーナが持ってきもんじゃ。部品の製作、組み立ては全てわし一人じゃがの」
「一人で······」
「すごいな······」
「ミーナさんもですけど、奇才というか天才というか······」
「あぁ、改めて驚かされるな······」

 ジャックとフィリカは、二人の持つモノに圧倒されていた。

「どう? フィリカ。使ってみてくれる?」

 彼女は悩んでいた。

「えっと」

 しかし、彼女が答えようとしたその時——

「きゃあああああ!!」

 と、外にいる女性の大きな悲鳴が、彼らのいる建物の中まで響いた。
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