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英雄(ヒーロー)⑥
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彼らは外へ出て、声の方へと向かっていた。
そこには腕から血を流して倒れる女性がいる。
「どうした、なにがあった?」
「こ、こども······息子がモンスターに······」
怪我をした彼女の指差す先、石橋の上には、二匹の狼の魔物がいた。
その内の一匹が、幼い男の子の足に噛みついて、彼を引きずっている。
その男の子は泣き叫びながら、地面を掴んで必死に足掻いていた。
「どうして!? こんな所までモンスターが来るなんてそうないはずよ!?」
「とりあえず行くぞ! ——くそっ、何やってんだよここの兵士達は!」
橋の傍らには一人の兵士が倒れているだけだった。
彼らは急いで橋の上へと向かう。
「二匹だけか、今ならなんとかなるな」
「ええ」
ジャックは剣を抜き構え、ミーナは薬包紙を取り出していた。
ミーナが薬を飲もうとしたその時、パスッという音が響き、二人の間から矢が飛び出した。
矢は何もくわえず、牙を見せる狼の胴体へと刺さる。
撃たれた魔物は少し飛び上がりはしたが、足の踏ん張りが利かず、そのまま倒れ込む。
二人は後ろを振り返る。
そこにはエドワードが、あの小銃を持って立っていた。
その後ろには、隠れるようにフィリカが立っている。
「どうじゃ、悪くないじゃろ?」
彼が後ろを見てそう言うと、フィリカはコクコクと頷いてみせる。
そうしてエドワードは次の矢を装填しようとする。だが、
「いかん、矢筒を持ってくるのを忘れた。すまん! お前ら、あとは頼むぞ!」
「おい······どうせならもう一匹やってくれよ······」
「まったくね······」
二人は前を向き直して、魔物を見る。
すると、足に噛み付いていた魔物は、子供の胴に噛み付き、子供を持ち上げて走り去ろうとしていた。
「まずい! 追うわよ、ジャック!」
「おう。——フィリカ! 必ず連れて帰るから、医者呼んでおいてくれ! あと助けも!!」
彼女は手を挙げてそれに応える。
ジャック達は武器をしまい、走って追いかける。
魔物は街の外まで逃げ始めていた。
それを追いかけ、二人も走る。
街を出てしばらくしても、彼らは魔物にまだ追いつけなかった。
「くそっ、子供くわえてんのに早いな」
「じりじりと離されてるわね」
二人の体力も徐々に落ち始めていた。
それを考えて、ジャックが彼女に手を出す。
「ミーナ、魔力も回復してるだろうから、あの強化魔法使わせてくれ。このままだと逃がしちまう。——お前も使えるだろうけど、俺のほうが早く追いつけるだろ?」
「······そうね、分かったわ」
そうして彼女は、ポケットから出した薬を彼に渡す。
ジャックは、走りながら器用にそれを飲むと、紙を放り投げる。
「じゃあ先行くぞ」
「えぇ、私も後で追いつくわ」
「あぁ。気を付けろよ」
「あなたもね」
その会話の直後、ジャックの足の速さが一気に上昇する。
跳ねるように走る彼は、じわりじわりと魔物との距離を詰める。
彼が魔物にあと少しで追いつく頃、草原の真ん中に盛り上がった場所が見えてくる。
そこは、魔物が住処にしている洞窟だった。
「早く決めないとな······」
ジャックは剣を抜き、足に込める魔力をさらに高める。そして、その爆発的な脚力で一気に距離を詰めると、魔物に向け剣を振る。
切られると同時に、鳴き声を上げる狼。
——くそっ、浅いか。
しかし、魔物は痛みでくわていた子供を放していた。
ジャックは、剣を片手に持ち替えると、落ちた子供を抱え、少し敵と距離を取る。
「大丈夫か?」
子供は嗚咽を漏らしながらも頷いて、彼の質問に答える。
「よし、よく頑張ったな。だけど、もう少しだけ待ってろよ」
ジャックは少年の頭を撫でると、剣をもう一度構え、敵の攻撃に備える。
唸り声を上げるモンスター。
そして、二、三度噛むように牙を見せると、彼らに向け一気に走り出す。
ジャックは剣をしっかりと握り直す。
「俺が相手で悪かったな。今の俺は敵無しなんだよ」
飛び掛かる魔物よりも速く踏み出した彼は、牙を避けると、剣を振り、狼の体を素早く斬り裂いた。
狼は動かなくなる。
「······いって、ちょっと調子に乗りすぎたな」
剣をしまう時に、ジャックは込めすぎた魔力の反動を受けていた。
少年は涙を浮かべながらその光景を見ていた。
彼に近づくジャック。
「立て······ないよな。その傷じゃ」
少年の腹の傷は浅かったが、足は連れて行かれる前にひどく噛まれていた。
ジャックは彼をおんぶする為にしゃがむ。
「少し動けるか?」
しかし少年は、ジャックをじーっと見て動かなかった。
「どうした? 傷、痛むか?」
少年はハッとして首を横に振ると、ジャックの背中につかまる。
「よし、帰るぞ」
そうして、彼が立ち上がって歩き出すと、少年が口を開く。
「······カッコいいね、お兄ちゃん。ありがと!」
「へへっ、気にすんなって!」
初めて人にしっかり感謝をされた事に、彼は照れ臭そうにしていた。
「ぼく、大きくなったらお兄ちゃんみたいになる!」
「おぉ、そうか?」
「うん! 強くなって、いろんな人たすけたい!」
「おっ、いい心がけだな! 将来楽しみだ」
少年はすっかり痛みも忘れていた。
そこに、後から来たミーナが合流する。
「大丈夫?」
「あぁ。問題ない」
だがその時、彼の後ろから唸り声がする。
仲間を殺されたモンスターが、報復するために群れでやって来ていた。
「マジか」
「全然問題あるじゃない······」
「どうしようお兄ちゃん······」
少年はまた泣きそうになっていた。
「大丈夫よ。お姉さんに私に任せておきなさい」
ミーナは困惑する少年の頭を撫でると、ポケットから小瓶を取り出し、それを飲む。
ジャックは距離を取って彼女を見守る。
威嚇する狼の群れ。
「ったく、先に子供を傷付けたのはアナタ達でしょう?」
彼女の周りに炎が現れる。
「地獄の炎に焼かれなさい」
彼女が手を前に出すと、炎が魔物の足元から火柱となって勢いよく現れる。
突如現れた炎に身を焼かれる狼の群れ。
魔物の一匹一匹の小さい身体は、あっという間に炎の中へと溶けていった。
彼女が手を下ろすと、残っていたのは焼け野原だけだった。
「すごい······」
「ほんとバケモンだな······」
「お兄ちゃん、ぼく、あのお姉ちゃんみたいになりたい」
「おい、俺のほうはどうした」
ミーナは軽く服を直して、二人に合流する。
「さっ、帰りましょう」
「あぁ」
そうして二人は、怪我をした子供を連れて、歩いて街へと帰って行った。
「あっ! ジャックさん達です!!」
彼らの姿に気付いたフィリカが大きく手を振る。それに応えるように、ミーナが手を振り返す。
「よかった!! ああ·····!!」
三人の姿を見た少年の母親は、橋の上で泣き崩れていた。
母親に子供を引き渡すため、ジャックは少年をゆっくり下ろす。
「足とお腹、怪我してるから、医者連れてやってくれ。あんたの怪我もちゃんと診てもらえよ?」
「はい······! ありがとうございます! 本当にありがとうございます!!」
背中から降りた少年は、腕に包帯を巻く母親に抱かれていた。
魔物から離れた時に転がった衝撃と血で、子供の服はボロボロに汚れてしまっていた。
「んじゃ、行こっか」
「ええ」
「待ってください!」
工房へ戻ろうとする二人を、彼女が引き止める。
「なんとお礼をしたらよいか······」
「別にいいよ。たまたまそこに居ただけだし。なぁ? ミーナ」
「えぇ。あなた方が無事なら、それで十分です」
ジャックとミーナはそう言って立ち去ろうとしたが、彼女は子供を離して、執拗に二人を引き止める。
「そんな、そういう訳には!」
「うーん·····どうする?」
「どうしましょう······」
さすがに、助けた彼らも困惑をしていた。
だが、何か答えないと放しそうにない女性。
「じゃあ······今度お食事でもお願いします」
「あぁ、それいいな。マトモな飯食えないこと多いしな」
「そんなのでいいんですか······?「
「えぇ」「あぁ」
「ありがとうございます······!!」
彼女は深々と頭を下げる。
そうして二人は、少年と母親から離れていく。
もう一度彼らを呼び止める声がする。
しかし、それはさっきとは違い、もっと幼い声だった。
「またね! ヒーローのお兄ちゃん! お姉ちゃん! ありがとうー!!」
二人は、お互いを見る。
そして、手を振る少年に、笑顔で手を振り返すと、街の方へと帰っていった。
そこには腕から血を流して倒れる女性がいる。
「どうした、なにがあった?」
「こ、こども······息子がモンスターに······」
怪我をした彼女の指差す先、石橋の上には、二匹の狼の魔物がいた。
その内の一匹が、幼い男の子の足に噛みついて、彼を引きずっている。
その男の子は泣き叫びながら、地面を掴んで必死に足掻いていた。
「どうして!? こんな所までモンスターが来るなんてそうないはずよ!?」
「とりあえず行くぞ! ——くそっ、何やってんだよここの兵士達は!」
橋の傍らには一人の兵士が倒れているだけだった。
彼らは急いで橋の上へと向かう。
「二匹だけか、今ならなんとかなるな」
「ええ」
ジャックは剣を抜き構え、ミーナは薬包紙を取り出していた。
ミーナが薬を飲もうとしたその時、パスッという音が響き、二人の間から矢が飛び出した。
矢は何もくわえず、牙を見せる狼の胴体へと刺さる。
撃たれた魔物は少し飛び上がりはしたが、足の踏ん張りが利かず、そのまま倒れ込む。
二人は後ろを振り返る。
そこにはエドワードが、あの小銃を持って立っていた。
その後ろには、隠れるようにフィリカが立っている。
「どうじゃ、悪くないじゃろ?」
彼が後ろを見てそう言うと、フィリカはコクコクと頷いてみせる。
そうしてエドワードは次の矢を装填しようとする。だが、
「いかん、矢筒を持ってくるのを忘れた。すまん! お前ら、あとは頼むぞ!」
「おい······どうせならもう一匹やってくれよ······」
「まったくね······」
二人は前を向き直して、魔物を見る。
すると、足に噛み付いていた魔物は、子供の胴に噛み付き、子供を持ち上げて走り去ろうとしていた。
「まずい! 追うわよ、ジャック!」
「おう。——フィリカ! 必ず連れて帰るから、医者呼んでおいてくれ! あと助けも!!」
彼女は手を挙げてそれに応える。
ジャック達は武器をしまい、走って追いかける。
魔物は街の外まで逃げ始めていた。
それを追いかけ、二人も走る。
街を出てしばらくしても、彼らは魔物にまだ追いつけなかった。
「くそっ、子供くわえてんのに早いな」
「じりじりと離されてるわね」
二人の体力も徐々に落ち始めていた。
それを考えて、ジャックが彼女に手を出す。
「ミーナ、魔力も回復してるだろうから、あの強化魔法使わせてくれ。このままだと逃がしちまう。——お前も使えるだろうけど、俺のほうが早く追いつけるだろ?」
「······そうね、分かったわ」
そうして彼女は、ポケットから出した薬を彼に渡す。
ジャックは、走りながら器用にそれを飲むと、紙を放り投げる。
「じゃあ先行くぞ」
「えぇ、私も後で追いつくわ」
「あぁ。気を付けろよ」
「あなたもね」
その会話の直後、ジャックの足の速さが一気に上昇する。
跳ねるように走る彼は、じわりじわりと魔物との距離を詰める。
彼が魔物にあと少しで追いつく頃、草原の真ん中に盛り上がった場所が見えてくる。
そこは、魔物が住処にしている洞窟だった。
「早く決めないとな······」
ジャックは剣を抜き、足に込める魔力をさらに高める。そして、その爆発的な脚力で一気に距離を詰めると、魔物に向け剣を振る。
切られると同時に、鳴き声を上げる狼。
——くそっ、浅いか。
しかし、魔物は痛みでくわていた子供を放していた。
ジャックは、剣を片手に持ち替えると、落ちた子供を抱え、少し敵と距離を取る。
「大丈夫か?」
子供は嗚咽を漏らしながらも頷いて、彼の質問に答える。
「よし、よく頑張ったな。だけど、もう少しだけ待ってろよ」
ジャックは少年の頭を撫でると、剣をもう一度構え、敵の攻撃に備える。
唸り声を上げるモンスター。
そして、二、三度噛むように牙を見せると、彼らに向け一気に走り出す。
ジャックは剣をしっかりと握り直す。
「俺が相手で悪かったな。今の俺は敵無しなんだよ」
飛び掛かる魔物よりも速く踏み出した彼は、牙を避けると、剣を振り、狼の体を素早く斬り裂いた。
狼は動かなくなる。
「······いって、ちょっと調子に乗りすぎたな」
剣をしまう時に、ジャックは込めすぎた魔力の反動を受けていた。
少年は涙を浮かべながらその光景を見ていた。
彼に近づくジャック。
「立て······ないよな。その傷じゃ」
少年の腹の傷は浅かったが、足は連れて行かれる前にひどく噛まれていた。
ジャックは彼をおんぶする為にしゃがむ。
「少し動けるか?」
しかし少年は、ジャックをじーっと見て動かなかった。
「どうした? 傷、痛むか?」
少年はハッとして首を横に振ると、ジャックの背中につかまる。
「よし、帰るぞ」
そうして、彼が立ち上がって歩き出すと、少年が口を開く。
「······カッコいいね、お兄ちゃん。ありがと!」
「へへっ、気にすんなって!」
初めて人にしっかり感謝をされた事に、彼は照れ臭そうにしていた。
「ぼく、大きくなったらお兄ちゃんみたいになる!」
「おぉ、そうか?」
「うん! 強くなって、いろんな人たすけたい!」
「おっ、いい心がけだな! 将来楽しみだ」
少年はすっかり痛みも忘れていた。
そこに、後から来たミーナが合流する。
「大丈夫?」
「あぁ。問題ない」
だがその時、彼の後ろから唸り声がする。
仲間を殺されたモンスターが、報復するために群れでやって来ていた。
「マジか」
「全然問題あるじゃない······」
「どうしようお兄ちゃん······」
少年はまた泣きそうになっていた。
「大丈夫よ。お姉さんに私に任せておきなさい」
ミーナは困惑する少年の頭を撫でると、ポケットから小瓶を取り出し、それを飲む。
ジャックは距離を取って彼女を見守る。
威嚇する狼の群れ。
「ったく、先に子供を傷付けたのはアナタ達でしょう?」
彼女の周りに炎が現れる。
「地獄の炎に焼かれなさい」
彼女が手を前に出すと、炎が魔物の足元から火柱となって勢いよく現れる。
突如現れた炎に身を焼かれる狼の群れ。
魔物の一匹一匹の小さい身体は、あっという間に炎の中へと溶けていった。
彼女が手を下ろすと、残っていたのは焼け野原だけだった。
「すごい······」
「ほんとバケモンだな······」
「お兄ちゃん、ぼく、あのお姉ちゃんみたいになりたい」
「おい、俺のほうはどうした」
ミーナは軽く服を直して、二人に合流する。
「さっ、帰りましょう」
「あぁ」
そうして二人は、怪我をした子供を連れて、歩いて街へと帰って行った。
「あっ! ジャックさん達です!!」
彼らの姿に気付いたフィリカが大きく手を振る。それに応えるように、ミーナが手を振り返す。
「よかった!! ああ·····!!」
三人の姿を見た少年の母親は、橋の上で泣き崩れていた。
母親に子供を引き渡すため、ジャックは少年をゆっくり下ろす。
「足とお腹、怪我してるから、医者連れてやってくれ。あんたの怪我もちゃんと診てもらえよ?」
「はい······! ありがとうございます! 本当にありがとうございます!!」
背中から降りた少年は、腕に包帯を巻く母親に抱かれていた。
魔物から離れた時に転がった衝撃と血で、子供の服はボロボロに汚れてしまっていた。
「んじゃ、行こっか」
「ええ」
「待ってください!」
工房へ戻ろうとする二人を、彼女が引き止める。
「なんとお礼をしたらよいか······」
「別にいいよ。たまたまそこに居ただけだし。なぁ? ミーナ」
「えぇ。あなた方が無事なら、それで十分です」
ジャックとミーナはそう言って立ち去ろうとしたが、彼女は子供を離して、執拗に二人を引き止める。
「そんな、そういう訳には!」
「うーん·····どうする?」
「どうしましょう······」
さすがに、助けた彼らも困惑をしていた。
だが、何か答えないと放しそうにない女性。
「じゃあ······今度お食事でもお願いします」
「あぁ、それいいな。マトモな飯食えないこと多いしな」
「そんなのでいいんですか······?「
「えぇ」「あぁ」
「ありがとうございます······!!」
彼女は深々と頭を下げる。
そうして二人は、少年と母親から離れていく。
もう一度彼らを呼び止める声がする。
しかし、それはさっきとは違い、もっと幼い声だった。
「またね! ヒーローのお兄ちゃん! お姉ちゃん! ありがとうー!!」
二人は、お互いを見る。
そして、手を振る少年に、笑顔で手を振り返すと、街の方へと帰っていった。
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