ジャック&ミーナ ―魔法科学部研究科―

浅山いちる

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Prologue(プロローグ)

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 ここは小国『ウィルドニア』にある、とある農園。

 いつもより暖かい一日となった今日、一人の少年が木陰で気持ち良く眠っていた。その気持ち良さからか、顔はゆるみ、だらしない格好をしている。
 だが、そんな心地よい夢の中にいる銀髪の少年を、どこからか、飛んできた木の実が叩き起こした。

「いてっ、なんだよ············リンゴ?」

 彼が顔を押さえながら周りを見ると、ちょうど食べ頃の真っ赤な林檎が落ちていた。
 ちなみに、彼が寝ていたのはナラの木である。

「ミーナ······おまえだろ」
「ばれた?」

 彼の寝ていた木の後ろから、白いワンピースを着た少女がひょこっと現れる。
 腰の辺りまで伸びサラリとした赤い髪は、その白の上に浮かんで、彼女の存在をより際立たせている。

「たべよっ。ジャック」

 そう言う彼女の手には、小さなナイフが握られていた。
 そして、刃先を向けたまま近づく彼女。

「まてまて! あぶねぇから! 刃をこっち向けるなって!」

 ぷすっと顔を膨らませて、ナイフを下に向けると、少女は彼の隣へと座る。

「······いいじゃん」
「ぜんぜん良くねぇよ。ったく、どうせなら、剥いてもらってからこいよ」
「だっていまママ、街いってて家いないんだもん」
「じゃあ帰ってくるまでガマンしたらいいだろ?」
「そしたら暗くなるじゃん」

 ミーナは、顔をぷいっと逸らす。

「······ったく、まぁいいや、かせって」

 ジャックは彼女からナイフを受け取ると、九歳というその年齢とは似合わず、器用にその皮をスルスルと剥いていく。だが、

「板か、なんかもってるか?」
「ううん」

 二人は黙って目を合わせる。

「······じゃあ、分けれないじゃん」
「いいよ。わたしがひとりで食べるから」
「いや、おれも食べてぇよ」

 仕方なく彼は、林檎を手に乗せて、ゆっくりと押しながらナイフを入れていく。しかし、

「いてっ」

 林檎は二つに割れたが、最後の最後で、彼は自分の指をかすめてしまった。
 それを見て、慌てる少女。

「だ、だいじょうぶ? ジャック」
「うーん、ちょっと切れただけかな」

 左手の人差し指から、膨らむように出た血が、ゆっくりと流れ出てくる。

「まぁ、すぐとまるだろ」

 彼はナイフを草の上に置くと、血の付いてない片割れを少女に渡す。
 不安な表情でそれを受け取る少女。

 ジャックは、傷ついた指を口に含むとすぐに離し、持っていた林檎を彼女に見せる。

「とりあえず食べようぜ。水含んでるうちのほうがうまいだろ?」

 ミーナはまだ食べずに怪我の心配をしていたが、彼はそんなことは気にせず、その果実へとかぶりつく。

「あぁ、うめぇー。やっぱお前んちのリンゴさいこうだなー」
 
 罪悪感をまだ持っていた彼女だったが、美味しそうに食べる彼の姿を見て、持っていた林檎をゆっくりとかじり始める。

「ごめん······」
「いいんだよ、治るもんだから」

 それから二人は黙って林檎を食べていた。
 草原の枯れた匂いが秋風と共に、時折やってくる。
 彼らから少し離れた所で、農夫が街に売りに行く野菜を、荷台に積んでるのが見えた。

「ジャックはさ、将来どうするの? あの人みたいになるの?」

 彼女の声の調子は、先程よりも少し戻ってきていた。

「うーん······なんも考えてない」
「なりたいものとかないの?」
「なりたいものかぁ······。そうだなー、どうせなら城の兵士とかかなー」
「ふーん」

 林檎を先に食べ終えたジャックは、芯を草むらへ放ると、自身のズボンで、濡れた手を拭う。

「おまえはなんか決めてるのか?」

 彼女は手を止め、目の前の林檎をじっと見た。

「わたしは、なりたいってより、やりたいことかな·······」
「へぇー。なにするんだ?」

 ジャックは仰向けに寝転がって、彼女の返事を待つ。

「わらわない?」
「たぶん」
「たぶん? じゃあ言わない」

 ぷいっ、と顔をそらすミーナ。
 二人の間に無音が流れる。
 なんとなく気まずくなるジャック。

「わ、わかったって······。笑わないから」
「ほんとに?」
「あぁ」

 それを聞いて、ゆっくりと深呼吸をするミーナ。
 そして、意を決した彼女は、秘めた想いを彼に打ち明ける。

「······わたしね、魔法をつくりたいの」
「へ?」

 寝転がるジャックは、思わず彼女の方を見る。



「モンスターから魔法をつくるの」



 刹那、彼らの横を風が吹き抜ける。
 食べかけの林檎を持つ少女は、この季節とは真逆の、清々しい、晴れやかな表情をしていた。
 それを見たジャックは言葉を失う。

「それでね、魔法をつかって、色んな人のためになる物をつくりたいの」

 そう言って彼女は、林檎を一口パクッとし、彼の反応を待ってた。しかし、いくら待っても返ってこない返事に、彼女は痺れを切らし、先に口を開いてしまう。

「ねぇ、笑わないでとは言ったけど、聞いといてなにも言わないのもどうなの?」

 その声に、ようやく我へと返るジャック。

「あ、あぁ、わるい。ちょっと驚いただけだよ」

 彼は目を背け、いましがた彼女に見惚れていた事をごまかす。

「いいんじゃないか。ずっと魔法すきだったもんな」
「でしょ!?」
「あぁ」

 彼女は嬉しそうに林檎の続きを食べる。
 ジャックはまだ、透き通るような深紅の目を輝かせた、彼女の横顔が忘れられなかった。

「そうだジャック! せっかくだから、その手治してあげる」
「まだそんなことできないだろ?」
「それでもちょっとは治せるよ」

 彼女は急いで残りの部分を食べると、その手のまま、ジャックの傷口を両手を覆った。
 彼の手に、彼女のものとは違う熱が伝わってくる。

「モンスターから魔法ねぇ······」
「まだカノウセイの段階だけどね、きっとできるの」
「ふーん······」

 ジャックは自分が怪我した原因をふと思い出す。

「ったく、それだけ頭いいなら、まな板でもなんでも持ってきてくれよ」
「そ、それは······」

 彼女は視線を横にずらす。

「つぎ······覚えてたらね」
「いや、覚えてろよ」

 そうして彼らは、幼い頃を共に過ごしていたのだった。
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