王太子殿下に魅了をかけてしまいました。大至急助けてください

キマイラ

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王太子殿下に魅了をかけてしまいました。大至急助けてください

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 私はテディに魅了をかけようとした。確かに目が合っていた。だというのにその瞬間彼らの立ち位置が変わって王太子殿下に魅了がかかってしまった。

 私たちはよく目が合った。それは私が彼を見つめていたからだし彼も私を見ていたからだ。だというのに彼は私に声をかけてくれなかった。男爵令嬢の身分では王太子殿下を護衛中の辺境伯子息に声をかけることなんてできなかった。

 私たちはお姫様と野良犬だった。二人とも娼館で生まれた子供で邪魔者扱いされていた。疎まれていたと言ってもいい。魅了と媚びしか武器を持たぬお姫様にとって誰にも媚びず腕っぷしの強い野良犬は憧れの存在だった。野良犬にとっても自分に懐くお姫様は憎からず思う対象だったはずだ。当時十歳だった三つ年上の野良犬は大人に混じって用心棒のようなことをしていた。そこで私たちは約束をした。大きくなったら私が客を取らされる前に二人で逃げようと。だというのに野良犬は大人に連れて行かれた。彼は貴族の落とし胤だというのだ。野良犬は野良犬じゃなくて私には手の届かない血統書付きの猟犬だったのだ。

 野良犬が迎えに来てくれるなんてことは想像もしなかった。そんなことは言われていないし、私たちが交わした約束は果たされないのだと野良犬が連れて行かれる時に悟った。私たちの道は二度と交わらない。十五になってとうとう客を取ることになった私は母の馴染みの客だったという男の前に連れて行かれた。私と同じクリーム色の髪をした男は私の姿を見て泣き崩れたのだった。そして男は私になにもせずそのまま私を娘として引き取った。

 貴族になった私は血反吐を吐く思いで行儀作法を身につけた。私には一年しかなかった。来年には学園へ入らないといけないと言うのだ。だからそれまでに貴族らしい振る舞いや常識を身に付ける必要があったのだ。

 そうして入った学園で私は野良犬と再会したのだった。彼は昨年卒業していたが王太子殿下の護衛としてこの学園に出入りしていた。赤銅色の髪に金色の目。子供の頃から大柄だった体はさらに大きくなっていて、顔には迫力が増した。鋭かった眼光はあの頃のままでなにもかもを敵だと思っていたあの頃とは環境が違うはずなのにと思ったけれどひどく懐かしかった。もう野良犬だなんて呼べない。王太子殿下の護衛なんてしているのだから。今じゃ立派な血統書付きの猟犬だ。

 私は運悪く入学式の日に王太子殿下とぶつかってしまってその時彼を見つけたのだ。私が彼を見間違うはずがない。その日から私は彼を見つめていた。彼も私を見ていた。だというのにいっこうに声をかけてこない。私は焦れていた。私には時間がない。卒業したら借金のかたにある伯爵の後妻に入ることになっているのだから。少しの時間でいいから夢が見たかった。あの頃見た夢の続きを見たかった。だから私は野良犬――テディに魅了をかけることにしたのだ。だというのに失敗した。確かに目が合っていた。はずだったのに。魅了をかけるその瞬間、彼らの立ち位置が変わって王太子殿下に魅了がかかってしまったのだ。次に目が合った時、魅了を解いたのだがもう手遅れだった。王太子殿下は私に興味を持ってしまった。入学式の日にぶつかってしまったのも悪かったのかもしれない。王太子殿下は私に話しかけてくださるようになった。

 野良犬は私を呼び出した。王太子殿下の様子に私がなにをしたか悟ったのだろう。

「ナンシー、馬鹿な真似はやめろ」

 開口一番そう言われた。

「助けてテディ、私あの人に魅了をかけるつもりなんてなかった!」

「早く魅了を解け。今ならまだ間に合う」

「それが、もう解いてるのよ。私、いったいどうしたらいいの?」

「なら、嫌われるしかないだろう」

「どうしたら嫌ってもらえるかしら」

 私たちは作戦会議をした。そして非常識な馬鹿女のフリをすることにした。それこそ王太子殿下に対する振る舞いとしては相応しくないような身の程知らずと言える対応をした。身分差のない先輩に気安く接するような、そんな礼節を弁えない女のフリをした。そんな女に好意を抱き続けるわけがない。そう思ったのに。王太子殿下は私にさらに入れ込んだ。非常識だと注意してくる良心的な方には学園では皆平等なはずです! とのたまって私はどんどん学園内で孤立していった。それと反比例するように王太子殿下は私に夢中になっていく。どうしたらいいのか分からなかった私はテディに相談したかったけれどなかなか二人になれなくて困った。

「どうしたらいいの、テディ。全然うまくいかないわ」

「非常識な女が好みだとは思いもよらなかった。すまない。こうなったら、常識的な対応を取るべきじゃないか? お前も他の女と変わらないと思わせればきっと大丈夫だ」

「そうよね、毛色の違う猫が気になってるだけだわ。今度こそきっとうまくいくわよね」

 その日から私は殿下に常識的な対応を取ることにした。それとなく距離を置こうとも。だというのに殿下はさらに私に夢中になった。身分の差を考えて身を引こうとするいじらしい娘だと思われてしまったようだった。私が殿下に常識的な対応を取るようになってから周囲の目も変わった。好意的になってしまったのだ。さしずめ私と殿下は結ばれることのない悲劇の恋人というところか。

 テディはそれとなくこのままでは私が叶うことのない夢を捨てきれず不幸な結婚をするはめになると言ってくれたらしい。だからきっぱり縁を切れとも。普通なら現実的な相手を学園で見繕う。私の場合は借金のかたに後妻に入ることが決まっているので当てはまらないが。

 とうとう卒業パーティーの日が来た。殿下は今年で卒業だから今日を乗り切ればもう会うことはないはずだ。だが、この日私は殿下に呼び出されていた。しがない男爵令嬢の私は逆らうことなどできなかった。嫌な予感しかしない。

「さあいこう、アン。全て私に任せていれば大丈夫だ」

「殿下」

 不安に揺れる私の目を見て安心させるように微笑む殿下に嫌な予感が的中したのだと悟った。ああ、もうどうにでもなれ。どうせ私の将来は伯爵の後妻だ。いまさらなにが起きたってこれ以上私の未来は悪くなりようがないのだから。

 腹を括って殿下にエスコートされるまま歩く。

「エスメラルダ。君との婚約を破棄する」

「まあ、殿下。突然なにをおっしゃいますの?」

「私は真実の愛を見つけてしまった。故に君との結婚はできない。どうか許してくれ」

 私たちを中心に人の輪ができていた。誰もがどうなるのかと聞き耳を立てていた。私は誰かにこの場から連れ出してもらいたかった。

 そんな私たちの元へと向かってくる一団がいた。テディと宰相と陛下だ。この国で最も高貴な人の登場に会場はざわついた。

「恐れながら陛下、殿下は魔女に魅了をかけられています」

 テディがそう声をかけた。どうするつもりかは知らないがなんらかの考えがあるのだろう。私はとにかくこの状況をなんとかしてほしかった。叶うならここから連れ出してほしかった。

「父上、私は魅了などかけられておりません」

「アン・オールストン男爵令嬢。君はアルバートに魅了をかけたのかね? 虚偽を申せば君だけでなく男爵家にも責が及ぶ」

 ああ、そのために宰相を連れてきたのか。彼は人の嘘を見抜く力を持っているともっぱらの評判だから。

「わたくしは殿下に魅了をかけました。ですがあれは事故だったのです」

「なぜそのようなことになったか説明せよ」

「あの日、わたくしは意中の方に魅了をかけるつもりでした。ですが偶然殿下にかかってしまったのです。わたくしはできるだけ早く殿下の魅了を解きましたが時既に遅く殿下はわたくしに声をかけてくださいました」

 陛下は頷く宰相の方を見ていた。

「君はなぜそのような愚かな行為を?」

「ただ、思い出がほしかったのです。そして少しの間夢が見たかったのです」

 またしても陛下は頷く宰相を見ていた。

「身を引こうとは思わなかったのかね?」

「なんとか殿下に嫌っていただこうといたしました。けれどどれもが逆効果で今の状況を招いてしまいました。わたくしはどんな罰でもお受けいたします。王族に魅了をかけるなどという大それたことをしでかしてしまったのですから」

 陛下は頷く宰相を見て頭が痛いと言わんばかりの表情をした。

「恐れながら陛下、意に沿わぬ結婚がこの娘には一番堪えることでしょう。今後愚かな行為を繰り返せぬよう我が妻として私が責任を持って辺境の地で見張りましょう。そして二度と意中の方とやらを垣間見れぬよう辺境の地で一生を過ごすのが一番の罰になりましょう」

 そう言ったテディを私は驚きに目を見開いて見つめることしかできなかった。

「そうだな。セオドア・リード辺境伯令息に任せよう。アン・オールストン男爵令嬢、直ちに荷物を纏めて辺境へ向かい婚姻を結べ。この婚姻は王命である。何人たりとも覆せん。そして二度と王都に足を踏み入れることは許さん」

「寛大な処遇をありがとうございます」

 そう言って頭を下げた。
 王族に魅了をかけた女に対しては恐ろしく寛大な処遇だった。正直死罪もあり得ると思っていたのに。テディがなにを思って私と結婚すると言ったのかは分からないが、きっと昔馴染みが死ぬのを放っておけなかったのだろう。

 私はテディに連れられて会場を後にした。その後は大急ぎで荷物を纏めて馬車に乗せられ辺境へ向かった。一週間かかってようやく辿り着いた。その間テディと一緒だったが会話はなかった。時折目が合うもののなにを話せばいいのか分からなかった。テディもそう考えているようだった。

 辺境に辿り着いて真っ先に連れて行かれたのは教会だった。そこで結婚誓約書にサインして夫婦になった。ご両親に挨拶すらしていないがいいのだろうか。

 屋敷に案内されてご両親と会うのはなにより不安だった。たぶん私のしでかしたことは王都から早馬で知らせが届いていることだろう。夫人はもう鬼籍に入っていらっしゃるらしく辺境伯しかいなかった。まあ、じゃなかったら娼婦の産んだ子供なんて迎えに来ないよなとようやく気がついた。

「君が息子が攫ってきた子かい?」

「攫ったなどとおっしゃらないでください。私は死罪になってもおかしくないところをご子息に救われたのですから」

「なら、その恩を息子に返してやってくれ」

 それだけ辺境伯はおっしゃって私とテディだけが残された。

 夕飯の席で誰も会話をしようとはしなかった。沈黙が痛い。私はそのまま部屋に戻って侍女にお風呂に入れてもらった。……急な話だったはずだが随分と扱いがいい。正直もっと冷遇されるのだろうと思っていた。王太子殿下に魅了をかけるようなとんでもない女だ。それなりの扱いをされるだろうと思っていた。だというのに侍女まで付けられている。

 一人頭を悩ませる私の元へテディがやってきた。なんの用だと怪訝に思う私をベッドに押し倒してテディは口を開く。ベッドに縫い付けるよう掴まれた手首が少し痛い。

「ナンシー、お前はもう俺のものだ。泣いても喚いてもそれは覆らない」

「そうね、結婚したものね。私たち」

「抵抗しないのか」

「抵抗する理由がないわ」

「魅了をかけたい男がいたんだろう?」

「私が魅了をかけたかったのはあなただもの。私はあなたと約束通り逃げたかった。それが叶わないことは知っていたけどせめて少しの間夢が見たかった」

「そんなはずがない。お前はいつだって殿下とその御学友を見つめていたじゃないか」

 女の手練手管には騙されないと言わんばかりに眼光を鋭くしてテディは私を睨むように見る。

「馬鹿ねテディ。あの人たちじゃなくてあなたを見ていたから私たちあんなに目が合ったんじゃない」

「信じられない」

「信じさせてあげるわ。ねえ、どうしたら信じてくれる?」

「なら、抵抗しないでくれ。妻として俺を受け入れろ」

「もちろん。ねえ、手を離して。少し痛いわ」

 そう言うとハッとしたようにテディは手を離した。

「すまない」

 自由になった両手を伸ばしてテディの頬に添えてそのまま唇まで導いた。キスを実際にするのは初めてだった。けれど女たちが客を喜ばせようとキスするのを何度も見ていたからどうすればいいのかは知っていた。どこもかしこも大きくて硬そうなテディなのに唇は柔らかいのだと知って妙な気分だった。優しく食んで開いた口に舌を忍び込ませてくすぐった。そのうちテディの方も舌を絡めてくるようになった。されっぱなしは性に合わないんだろう。

「ん、ふぅ……ん」

 大きくて肉厚な舌が口内に侵入してきてどこもかしこも舐められてない場所なんてないくらい翻弄された。

 唇が離れてテディは射殺さんばかりの目で私を見ていた。

「随分手慣れてるな」

「私は十五まで娼館にいたのよ。嫌でも覚えるわ。そっちこそ手慣れてるじゃない」

 面白くない。そう表情に出して私も言った。

「俺がいたのは十歳までだがそれでも覚えた。お前と同じだ。……なあ、ナンシー。客は取ったか」

 悲しそうな顔をして聞くものだから面白くない気持ちはあっという間にどこかへ行ってしまった。

「最初の客がね、お父様だったの。だからなにもされてない」

「それなら俺が初めてか」

「そうよ。キスをしたのもそう。夫のあなたが全部最初になるのよ」

 そう言えばどこか嬉しそうに触れるだけのキスをしてきた。

「ナンシー、お前の全てを見せてくれ」

 その言葉に従って私は身につけているものを全て脱いだ。

「あなただけが見るだなんてフェアじゃないわ」

 私はテディを脱がせにかかった。とはいえ私も生娘だ。下着は脱がせなかった。流石にそこまで思い切れない。痩せた子供だった彼は立派な筋肉の鎧を纏っていた。筋肉の隆起なんて私にはないものだから新鮮で腹筋をなぞった。

「ナンシー」

 熱っぽいギラギラした目で見られて、吐息混じりに名前を呼ばれてその気にならない女がいるだろうか。

「テディ、いっぱい触って?」

 私の精一杯の誘惑はお気に召したらしく両の胸に手が伸びた。揉みしだく力加減はとても優しくてどこかたどたどしいその動きに胸がキュンとした。胸の先端に吸い付かれて舌でくすぐられて思わず声が出た。

「あ……」

 手がだんだん下へ下へと降りてくる。太ももを撫でられてそのまま足を開かされた。

 女の部分にしゃぶりつかれて悲鳴じみた嬌声をあげる。

「あ、あん……まって、いやぁ」

「待たない。気持ちいいんだろ?」

「わかんない!」

 舌で陰核をくすぐられれば喘ぐことしかできなかった。こんなことは知らない。女たちが抱かれるのを見たことなんて両手の指じゃ足りないくらいある。けれど私はこんな行為を見たことがない。

 半ばパニックになる私のことなんて知らないとばかりに指が隘路に侵入してくる。テディの指は太くて、裂けてしまいそうだと思った。少しの痛みに体を固くする私を宥めるように体のあちこちにキスをされた。指がだんだん増やされて三本の指で慣らされる頃には私は小さく喘いでいた。

「あっ」

 指がお腹側のそこに当たった時大きな声が出てしまった。

「ここか?」

「そこ、やぁっ」

 余裕のない私をテディは楽しそうに見つめる。嫌だと言っているのにそこばかり刺激されてわけが分からなくなりそうだ。

 隘路を満たしていた指が引き抜かれて熱いものが触れる。

「いいか? ナンシー」

「いいわ、テディの好きにして」

 少しずつ熱くて硬いものが私の体の中を満たしていく。痛かった。でも力を抜くよう努めた。それが一番いいのだと教えてもらったことがあったから。

「全部入った」

 嬉しそうにそう言うものだから思わず笑ってしまった。ああ、本当にテディは可愛い。いや、見た目はゴツいし強面だけど。

「あ、あっ、いたっ」

 テディが動く度声を上げた。快楽もないわけじゃないけどやっぱり痛い。痛みに喘いでいるんだか快楽に喘いでいるんだか自分でもよく分からなかった。でも痛みを訴える度テディは嬉しそうにするのだ。私が痛がる度に喜ぶなんてひどい男だと思った。けれどこの男に与えられるものなら痛みすら愛しいと思う私もきっとどこかおかしくて私たちはお似合いだと思った。

 ぎゅうぎゅうと陰茎を締め付けて果てればテディも果てた。熱い飛沫が腹を満たすのが分かってなんだか満たされた気持ちになる。

 テディはゆっくりと私から出て行って二人で横になった。

「ナンシー、俺はずっとお前が欲しかった。何度も手を伸ばしてその度にお前は俺の手をすり抜けていった」

 そっと私の手を握って指を絡める。

「学園を卒業して真っ先に俺たちのいた娼館に行ったがお前はもういなかった。それからお前を引き取った貴族を探して結婚を申し込んだが断られた。お前の嫁ぎ先はもう決まっていると言われてな」

 抱き寄せられて耳元で秘め事でも囁くように言葉を続ける。

「学園でお前の姿を見れるだけで幸せなんだと自分に言い聞かせた。お前はいつも殿下とその御学友を見つめていると思っていたしな。だがお前は足を踏み外した。それも自ら足を踏み外したんだ。チャンスだと思った」

「チャンス?」

「ああ、俺みたいな野良犬の手の届く場所まで落ちてきた。だから俺はお前をここに攫って来ることにした。お前はもう辺境から出さない。社交だってさせない。王都には陛下直々に足を踏み入れるなと言われているしな。……誰にも、助けなんて求めさせない」

「テディ、あなたそんなに私が好きなの?」

「好きなんて言葉じゃ言い表せないくらいな」

「嬉しい。それに私は十五まで娼館にいたのよ、社交なんて無理よ。できることならやりたくないわ。助けなんて求めない。だって私はあなたに捕まって幸せなんだもの」

 そう言って擦り寄れば信じられないものでも見るような目で見られた。

「ねえテディ、きっと私たちみたいなのを割れ鍋に綴じ蓋って言うのよ。あなたが私を信じられないならきっと信じさせてあげる。幸せになりましょう? ドレスはいらないけど子供はたくさん欲しいわ」

 そう言って口付ければテディは泣きそうな顔で微笑んだ。ああ、きっと大丈夫。私たちは幸せになれると確信して私も笑みを浮かべた。
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