捧げし者達への鎮魂歌

馬之屋 琢

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決意

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「急げ! こっちだ!」
 アレンはクレアの手を引き、街の中を走り続けていた。
 老婆と引き離した際に、泣きわめいていたクレアであったが、今はある程度落ち着いていた。
 目じりに涙を浮かべながらも、懸命にアレンの後を付いてくる。
 クレアが落ち着きを取り戻しつつある事に安堵したアレンは、自分が斬った相手の素性を、クレアから確認する。
「お前を奴隷として扱っていた連中だと? 前の街で斬った奴らの仲間か?」
「はい、まさか追って来てるとは、思いませんでした……」
 走りながらであった為、クレアの説明は途切れ途切れであったが、それでもアレンは、相手の素性を把握する事ができた。
「それだけお前に、執着があるって事か」
「いえ、それは無いと思います」
 アレンの予想に対し、クレアは首を横に振る。
「あいつらのリーダーは、気紛きまぐれで、何かに執着するような人間には見えませんでした。私の他にも同じような境遇の人達がいたのですが、その男の気紛れで……」
 クレアの言葉は途中で途切れてしまったが、アレンにも察する事はできた。
 恐らく、殺されたのだろう。
 そしてクレアの言う通り、彼女に執着がないのに追ってきているというのならば、
「仲間か、あるいは面目を潰された事への報復か……」
 そういう理由であれば、相手はしつこく追ってくる可能性がある。
 最悪の場合、相手を潰さなければ、終わりが来る事はない。
「お前の知っている限りでいい。相手がどんな連中か、人数はどれくらいか教えてくれ」
 最悪の場合を考えて、アレンはクレアから、相手の情報を聞き出す事にした。
 アレンに聞かれたクレアは、頭の中で相手の情報を思い出し、それをアレンへと伝えるのだった。

 相手の頭目の名は、ギールという名前だという。
 赤色の髪を生やし、同じような色の剣を持った酷薄こくはくな男。
 自分の楽しみの為に、金品を奪う事にも、人を殺す事にも、何の躊躇ためらいもないという。
 そんな危険な男を中心とした荒くれ者の集団。それがアレン達を追っている相手だと、クレアは言う。

「相手は何人くらいだ?」
「私が、逃げ出した時は……二十人はいなかったと思います」
 クレアの答えに、アレンは思わず舌打ちする。
 今まで斬った相手の恰好から、相手がゴロツキの類いだとは思っていたが、予想よりも数が多かった。
 すでにアレンは、五人を斬ってはいるが、まだ十人以上残っている事になる。
「囲まれるのだけは、避けたいところだな」
 街の出口を目に捉えながら、アレンは街の周囲の地図を思い浮かべる。
 今向かっている出口から繋がる道は三つ。
 二つは、平坦とした街道を、一つは、山道へと進む道だ。
「こっちだな」
 アレンは即座に、山道へと進む道に決めた。
 平坦な道では、人目につきやすく、隠れる場所もない。それに、馬を使われてしまえば、容易に追いつかれるし、囲まれやすくもある。
 それに比べて、山道の周囲には樹木が立ち並んでおり、身を隠すにも、大勢を相手にするにもうってつけだった。
「もう少しだけ頑張れよ」
「……はい!」
 苦しそうなクレアに、励ましの声を掛けるアレン。
 すでに息が上がり、辛そうなクレアであったが、弱音を吐く事なく、アレンの後を付いて行くのだった。



 街から離れ、山道の入口へと辿り着いたアレンとクレア。
 幸いな事に、追ってくる相手の姿は、まだ無かった。
 二人は休息をとる為、山道から少し外れ、木々の間へと身を隠す事にした。
「大丈夫か?」
 アレンは木の根へと座り込み、自分の息を整えながら、水の入った革袋をクレアへと差し出す。
「大丈夫です……少し休めば、何とかなります」
 アレンから革袋を受け取ったクレアは、口元へと運び、一気にかたむける。
 全速力で駆け抜けたせいでカラカラになった喉が、潤いを取り戻し、クレアは人心地をつく。
 できれば、クレアの体力が戻るまで、ここで休みたかったアレンだったが、そう上手くいきそうにはなかった。
 道の方へと目を向けると、数人の男達が、街の方からこちらへと向かって来るのが見えた。
 その中には、クレアが言っていた赤毛の男の姿も……。
 男達の姿を確認しアレンは、静かに立ち上がる。
 どの道、逃げ切る事は難しいと思っていたのだ。
 ならば、少しでも有利な状況で仕掛けるしかない。
「お前はここに隠れていろ」
「貴方は……?」
「俺は……奴らを片付けてくる」
 不安そうに眺めてくるクレアをその場に残し、アレンは山道へと向かう。
 その瞳に、決意と戦意をみなぎらせて……。
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