9 / 15
決意
しおりを挟む
「急げ! こっちだ!」
アレンはクレアの手を引き、街の中を走り続けていた。
老婆と引き離した際に、泣きわめいていたクレアであったが、今はある程度落ち着いていた。
目じりに涙を浮かべながらも、懸命にアレンの後を付いてくる。
クレアが落ち着きを取り戻しつつある事に安堵したアレンは、自分が斬った相手の素性を、クレアから確認する。
「お前を奴隷として扱っていた連中だと? 前の街で斬った奴らの仲間か?」
「はい、まさか追って来てるとは、思いませんでした……」
走りながらであった為、クレアの説明は途切れ途切れであったが、それでもアレンは、相手の素性を把握する事ができた。
「それだけお前に、執着があるって事か」
「いえ、それは無いと思います」
アレンの予想に対し、クレアは首を横に振る。
「あいつらのリーダーは、気紛れで、何かに執着するような人間には見えませんでした。私の他にも同じような境遇の人達がいたのですが、その男の気紛れで……」
クレアの言葉は途中で途切れてしまったが、アレンにも察する事はできた。
恐らく、殺されたのだろう。
そしてクレアの言う通り、彼女に執着がないのに追ってきているというのならば、
「仲間か、あるいは面目を潰された事への報復か……」
そういう理由であれば、相手はしつこく追ってくる可能性がある。
最悪の場合、相手を潰さなければ、終わりが来る事はない。
「お前の知っている限りでいい。相手がどんな連中か、人数はどれくらいか教えてくれ」
最悪の場合を考えて、アレンはクレアから、相手の情報を聞き出す事にした。
アレンに聞かれたクレアは、頭の中で相手の情報を思い出し、それをアレンへと伝えるのだった。
相手の頭目の名は、ギールという名前だという。
赤色の髪を生やし、同じような色の剣を持った酷薄な男。
自分の楽しみの為に、金品を奪う事にも、人を殺す事にも、何の躊躇いもないという。
そんな危険な男を中心とした荒くれ者の集団。それがアレン達を追っている相手だと、クレアは言う。
「相手は何人くらいだ?」
「私が、逃げ出した時は……二十人はいなかったと思います」
クレアの答えに、アレンは思わず舌打ちする。
今まで斬った相手の恰好から、相手がゴロツキの類いだとは思っていたが、予想よりも数が多かった。
すでにアレンは、五人を斬ってはいるが、まだ十人以上残っている事になる。
「囲まれるのだけは、避けたいところだな」
街の出口を目に捉えながら、アレンは街の周囲の地図を思い浮かべる。
今向かっている出口から繋がる道は三つ。
二つは、平坦とした街道を、一つは、山道へと進む道だ。
「こっちだな」
アレンは即座に、山道へと進む道に決めた。
平坦な道では、人目につきやすく、隠れる場所もない。それに、馬を使われてしまえば、容易に追いつかれるし、囲まれやすくもある。
それに比べて、山道の周囲には樹木が立ち並んでおり、身を隠すにも、大勢を相手にするにもうってつけだった。
「もう少しだけ頑張れよ」
「……はい!」
苦しそうなクレアに、励ましの声を掛けるアレン。
すでに息が上がり、辛そうなクレアであったが、弱音を吐く事なく、アレンの後を付いて行くのだった。
街から離れ、山道の入口へと辿り着いたアレンとクレア。
幸いな事に、追ってくる相手の姿は、まだ無かった。
二人は休息をとる為、山道から少し外れ、木々の間へと身を隠す事にした。
「大丈夫か?」
アレンは木の根へと座り込み、自分の息を整えながら、水の入った革袋をクレアへと差し出す。
「大丈夫です……少し休めば、何とかなります」
アレンから革袋を受け取ったクレアは、口元へと運び、一気に傾ける。
全速力で駆け抜けたせいでカラカラになった喉が、潤いを取り戻し、クレアは人心地をつく。
できれば、クレアの体力が戻るまで、ここで休みたかったアレンだったが、そう上手くいきそうにはなかった。
道の方へと目を向けると、数人の男達が、街の方からこちらへと向かって来るのが見えた。
その中には、クレアが言っていた赤毛の男の姿も……。
男達の姿を確認しアレンは、静かに立ち上がる。
どの道、逃げ切る事は難しいと思っていたのだ。
ならば、少しでも有利な状況で仕掛けるしかない。
「お前はここに隠れていろ」
「貴方は……?」
「俺は……奴らを片付けてくる」
不安そうに眺めてくるクレアをその場に残し、アレンは山道へと向かう。
その瞳に、決意と戦意を漲らせて……。
アレンはクレアの手を引き、街の中を走り続けていた。
老婆と引き離した際に、泣きわめいていたクレアであったが、今はある程度落ち着いていた。
目じりに涙を浮かべながらも、懸命にアレンの後を付いてくる。
クレアが落ち着きを取り戻しつつある事に安堵したアレンは、自分が斬った相手の素性を、クレアから確認する。
「お前を奴隷として扱っていた連中だと? 前の街で斬った奴らの仲間か?」
「はい、まさか追って来てるとは、思いませんでした……」
走りながらであった為、クレアの説明は途切れ途切れであったが、それでもアレンは、相手の素性を把握する事ができた。
「それだけお前に、執着があるって事か」
「いえ、それは無いと思います」
アレンの予想に対し、クレアは首を横に振る。
「あいつらのリーダーは、気紛れで、何かに執着するような人間には見えませんでした。私の他にも同じような境遇の人達がいたのですが、その男の気紛れで……」
クレアの言葉は途中で途切れてしまったが、アレンにも察する事はできた。
恐らく、殺されたのだろう。
そしてクレアの言う通り、彼女に執着がないのに追ってきているというのならば、
「仲間か、あるいは面目を潰された事への報復か……」
そういう理由であれば、相手はしつこく追ってくる可能性がある。
最悪の場合、相手を潰さなければ、終わりが来る事はない。
「お前の知っている限りでいい。相手がどんな連中か、人数はどれくらいか教えてくれ」
最悪の場合を考えて、アレンはクレアから、相手の情報を聞き出す事にした。
アレンに聞かれたクレアは、頭の中で相手の情報を思い出し、それをアレンへと伝えるのだった。
相手の頭目の名は、ギールという名前だという。
赤色の髪を生やし、同じような色の剣を持った酷薄な男。
自分の楽しみの為に、金品を奪う事にも、人を殺す事にも、何の躊躇いもないという。
そんな危険な男を中心とした荒くれ者の集団。それがアレン達を追っている相手だと、クレアは言う。
「相手は何人くらいだ?」
「私が、逃げ出した時は……二十人はいなかったと思います」
クレアの答えに、アレンは思わず舌打ちする。
今まで斬った相手の恰好から、相手がゴロツキの類いだとは思っていたが、予想よりも数が多かった。
すでにアレンは、五人を斬ってはいるが、まだ十人以上残っている事になる。
「囲まれるのだけは、避けたいところだな」
街の出口を目に捉えながら、アレンは街の周囲の地図を思い浮かべる。
今向かっている出口から繋がる道は三つ。
二つは、平坦とした街道を、一つは、山道へと進む道だ。
「こっちだな」
アレンは即座に、山道へと進む道に決めた。
平坦な道では、人目につきやすく、隠れる場所もない。それに、馬を使われてしまえば、容易に追いつかれるし、囲まれやすくもある。
それに比べて、山道の周囲には樹木が立ち並んでおり、身を隠すにも、大勢を相手にするにもうってつけだった。
「もう少しだけ頑張れよ」
「……はい!」
苦しそうなクレアに、励ましの声を掛けるアレン。
すでに息が上がり、辛そうなクレアであったが、弱音を吐く事なく、アレンの後を付いて行くのだった。
街から離れ、山道の入口へと辿り着いたアレンとクレア。
幸いな事に、追ってくる相手の姿は、まだ無かった。
二人は休息をとる為、山道から少し外れ、木々の間へと身を隠す事にした。
「大丈夫か?」
アレンは木の根へと座り込み、自分の息を整えながら、水の入った革袋をクレアへと差し出す。
「大丈夫です……少し休めば、何とかなります」
アレンから革袋を受け取ったクレアは、口元へと運び、一気に傾ける。
全速力で駆け抜けたせいでカラカラになった喉が、潤いを取り戻し、クレアは人心地をつく。
できれば、クレアの体力が戻るまで、ここで休みたかったアレンだったが、そう上手くいきそうにはなかった。
道の方へと目を向けると、数人の男達が、街の方からこちらへと向かって来るのが見えた。
その中には、クレアが言っていた赤毛の男の姿も……。
男達の姿を確認しアレンは、静かに立ち上がる。
どの道、逃げ切る事は難しいと思っていたのだ。
ならば、少しでも有利な状況で仕掛けるしかない。
「お前はここに隠れていろ」
「貴方は……?」
「俺は……奴らを片付けてくる」
不安そうに眺めてくるクレアをその場に残し、アレンは山道へと向かう。
その瞳に、決意と戦意を漲らせて……。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる