捧げし者達への鎮魂歌

馬之屋 琢

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アレンの言葉と共に、手の中の剣がより強く、蒼く、輝き出す。
 今までは己の生命を守る為、ほんの少ししか剣の力を出していなかったアレンだったが、今は違う。
 剣の力が増すにつれ、アレンは自分の中から、何かがごっそりと抜け落ちていく感覚を味わっていた。
「……長くはもたないな。さっさとケリを付けるとするか」
 そしてアレンは駆け出していく。
 自分が命を懸けてでも、するべき事をしに。



 ギールは信じられないような物を見る目で、自分へと迫るアレンの事を見ていた。
「自分の魂を代償にするだぁ?」
 アレンの行動は、ギールには理解できなかった。
 それでは例えこの戦いに勝っても、アレンの命はないのだから。
「馬鹿じゃねえのか、お前!? 自分の命を削るとか……正気とは思えねえな!」
「お前が言ったんだろう? 魔剣を使う奴なんて、皆どっか狂ってるんだってな!」
 アレンとギールの剣が、再び激突する。
 先程まで、アレンの剣を悠々と弾き返していたギールだったが、
「何だぁ、この力は!?」
 今回は、そうはならなかった。
 アレンとギールの剣が、激しくせめぎ合う。
 二人の力は互角。
 いや、わずかではあるが、アレンの方が上であった。
 アレンは徐々に、ギールの剣を押し込んで行く。
「こっちは何十人もの血を吸ってるんだぞ!? 何で、魂一つに押されてるんだよ!」
「覚悟が! 重みが! 違うんだよ!」
 アレンが剣を振り抜き、ギールの身体を、魔剣ごと弾き飛ばす。
「ありえねぇ、たかが一つの魂に負けるはずがねぇだろうが」
 ギールは、今起きた出来事が信じられなかった。
 多くの血を吸い、強化された自分の魔剣が負けるはずが無いと。
「そうだ、まだ血が足りねえんだ。あいつに勝つ為にはもっと血を……」
 以前のギールであれば、もう少し別の考えが出来たかもしれない。
 だが、半ば魔剣の狂気に侵されている今のギールには、まともな判断力は残っていなかった。
 ギールの血走った眼が、クレアをとらえる。
「血だ……俺が勝つ為にもっと血を……血を寄こせえぇぇ!」
 更なる血を求めて、クレアへと牙を剥こうとするギール。
「行かせる訳ねえだろうが!」
 クレアを守るように、その進路上へとアレンが立つ。
「邪魔すんじゃねえよぉぉ!」
 しかし、狂気に呑まれたギールが、止まる事は無かった。
 邪魔者を排除しようと、紅い魔剣を振り上げる。



「……憐れだな」
 自分へと迫り来るギールの姿見て、アレンは昨夜のクレアの言葉を思い出す。
「魔剣は周囲に災いをもたらす……か」
 それは、持ち主とて例外ではないようだ。
 今のギールの姿を見て、アレンはそう感じていた。
「この剣はどうだろうな……」
 持ち主の魂と引き換えに、力を与えるおのが剣。
 持ち主の命を奪うのだから、この剣は確かに災いをもたらすものと呼べるかもしれない。
 だが、
「俺は不幸だとも思っていないし、後悔もしていない」
 アレンは不敵に笑う。
「この力のおかげで、出来る事があるんだからな」
 目の前に迫るギールに対し、静かに剣を構えるアレン。
 そして、己の剣へと、更なる力を込めていく。
 己の全てを、出し尽くすかのように。
「さぁ、俺の全てをくれてやるよ!」
 アレンの剣が、より強い輝きを放つ。
「うおおおぉぉぉぉぉ!!」
「死ねええぇぇぇぇぇ!!」
 自分へと振り下ろされる紅い魔剣に対し、アレンが、己が剣を振り抜く。
 アレンの想いが、魂が込められた剣は、その想いに応え、紅き魔剣を、その持ち主ごと砕くのであった。
 
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