ごうまんなアルファ

たたた、たん。

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だって、男は知っている。愛するとは、見返りを求めないこと。相手を幸せにすることだと。

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「鮫島はいないのか」

 その日、鮫島は東京に医療道具の新調をしに出かけていて、診療所にいるのはオメガ一人だけだ。オメガが弱音を吐露した後、鮫島は、それでも藍澤くんは変わったんだよ、と苦笑した。オメガにその意味は分からなかったし、その後は、昂った感情を見せたのが恥ずかしくて避けていたので、鮫島が出掛けてくれたのはありがたかった。

「ローストビーフを持ってきたのだが。いつか一人で食べ切れるか?」

 そう言って、男が出したのは肉の塊で、とても一人、いや、二人でも食べ切れる量ではない。ただ、美味しい食事を食べてきた男がわざわざ土産として待ってきたものだ。美味しくないはずがない。

「この量は一人で食べ切れないです……そもそも、二人でも食べ切れないとも思います」
「そうか?私なら一人で食べる量だが」

 けろり、と言い切る男にオメガは瞠目し、また1キロはあるだろう肉の塊に目を落とす。この量を食べる男の身体は引き締まっていて、理想的な体型だ。オメガは、元々小食なので別に太ることはないが、男の引き締まった身体よりふくよかで。

「凄いですね。いくら食べても太らないんですか?」
「まあ、そうだな。何もしなくても筋肉はつくし、いくら食べても太らない。アルファなんてそんなもんだ」

 女性が聞いたら、嫉妬で気が狂いそうな台詞を傲慢に言い放つ。鮫島の食生活を知っているオメガは分かるが、それはアルファの特性ではなく、男の特性だ。鮫島もオメガよりは食べるが、太らないよう食生活に気を使っているようだった。

「ええと、もし良ければ食べていきませんか?」
「いいのか?」
「一人で食べるのは寂しいですし、誰かと食べた方が美味しいじゃないですか」

 あなたと一緒だともっと美味しく感じるんです、という言葉を飲み込み、オメガは男と少しでも一緒にいられるように説得を試みる。男は勿論、了承した。幼少期から食事は一人で、話しながら食べるなんてマナー違反のため、黙々と食べるしかなかった男に、一人の食事が寂しいと言う考えは全くない。ただ、誰かとと言うより、オメガと一緒に食べれればより美味しく感じられる気がした。

「すみません。付け合わせは、もやしとかほうれん草しかないんですけど……」
「構わない」

 そもそも男だって、島で食べるなら美味しいものなど期待していない。ただ、男もそれを正直に言うのはオメガを傷付けると学習し、一言返すだけだったが、オメガはその「構わない」をしょうがないけど構わない、とネガティブに取ってしまい、少し気落ちしたようだった。

(また、やってしまった。こういう時は……)

「いつかと一緒に食べられるなら、なんでも美味しいさ」

 オメガは、また顔を真っ赤にして、急いで調理台に走った。






 男は暫くして帰った。オメガを残して。
 いつも鮫島が一緒にいるわけではない。でも、何故か寂しく感じる。

 女々しくなんな、とシャワーあがりの水が滴る髪を耳にかけ、オメガは自分の頬を叩く。ジンジンとした頬はうっすら赤く染まっており、鏡には、オメガらしく大きな目のまあまあ整った顔立ち。ベータの中では、そこそこモテて整っていると自負していた顔立ちも男の前だと歯が立たないとオメガは落胆する。

 せめて、男の隣に似合うほどに整った顔立ちなら良かった。そうすれば。

 否、例えそうだとしても、選ぶ立場は男のものだ。どんなに綺麗な人でも男が選ぶとは限らない。男が選ぶのはきっと。……きっと、オメガより素敵な人であって欲しいと思う。

 男のことを考えていたら不意に、子宮の奥が疼いた。

「うそ……」




 男は、その日も遅くまで、まだ仕事をしていた。一時は、外部から社長を招聘していたため、心配の声も上がったが、それによって会社内の改革も無事終わり、オメガ社員を冷遇するなどの差別的人種の排除は完璧に行われた。

 時刻は22時を周り、残りの資料の確認を屋敷で行うかという時。

 机の上に置いておいた携帯電話がオメガからのメッセージの訪れを告げた。男は、オメガからの電話やアプリのメッセージは普段と違う音を設定している。そのため、オメガからの着信はすぐに分かり、可能な限り、すぐ見れるようにしてあるのだ。
 注意散漫だ、と男の秘書は最初眉間にシワを寄せ、小言を言ったが、実際、楽しみがあると仕事の効率は上がる。秘書は、もう何も言わずに男について来るだけだ。

 ちょうど帰ろうという時に来たオメガからの着信を、すぐに見ない理由がなかった。

「っ!今からいつかの元へ行く」

 いつも男らしく傲慢で優雅に歩く男が、目を離せば走り出しそうな勢いで、焦り出す。男の血相を変えた様子を初めて見て、オメガの元へ向かうと知らない周りの人々は、遂に先先代当主が亡くなられたのかと、大騒ぎで。男が家の方針を勝手に変え、一族やアルファの群れは混乱を極めたが、男の手腕で今や落ち着いている。だが、男の祖父は決してそれを赦さず、男との仲は最悪だ。伝説がいくつかあるほど優秀な祖父を超え、類いないカリスマ性を備えた男に惚れた部下は多い。男の祖父が反対しても、男が改革を進められたのは男の優秀さゆえだ。

「ヘリを用意させます」

 男の様子を見て、急がせますか、など聞く愚か者はいなかった。男の命令が下った瞬間から最速で動くのが日常なのだ。

 近くのヘリポートに、ヘリを用意させ、急いで島へ向かう。男は、自分を愚かだと思わない。オメガのたった一言。

【たすけて。今すぐ会いたい。】

 そんな言葉で、予定をずらしてまで急ぎ駆けつけることを今までの男は軽蔑の眼差しで見ていた。あの控えめなオメガが男を頼る。助けが必要なときに、自分を頼ってもらえることがどんなに大切なのか、鮫島を恨めしく思っていた男になら分かる。

 その日は、雲ひとつない晴れで視界も良好なため、ヘリは普段よりも15分早く着いた。そこから急いで、車に乗り換え、オメガのいる診療所に向かわせる。男がこんなに焦ったのは、初めてだったかもしれない。オメガが屋敷を去った時は、自分の気持ちを受け入れられず、焦ることも出来ず、生きるために必要な源を失くした気分だったが、今は違う。オメガ以外のなにもかもを持った男が、それでもこれ以上早く移動することのできない不甲斐なさ、焦りがある。そして、男は誰にも見せないようにしたが、喜びがあった。他の誰でもない、鮫島でもない、過去オメガを苦しめた男を、今はただの友人の男を、オメガが頼りにしたから。

 オメガが助けを必要とする不測の事態。真っ先に警察を呼ぶか、救急車を呼ぶか迷ったが、あのオメガが男を呼ぶのなら、大事にしたくないのかもしれない、と思う。島にいる警察の代わりの退職した70代のボランティアと診療所の主が今日いないことも確認済みだった。万が一のため、各機関にすぐに出動できるよう手を回しておいた。

 診療所について、すぐに玄関のインターホンを押す。普段だったらもう少し待つ応答も男には長く感じられて、裏口のカギを使いそこから直で住居スペースに入る。

「っ……」

 部屋中に広がる甘い匂い。甘いものが苦手な男でも本能が欲してしまう魅惑のにおい。オメガのフェロモン。間違いなく、オメガがヒートを起こしている。アルファである男、その上、男にとってオメガはまだ運命のつがいで、他のオメガより何倍も理性を揺るがすそのフェロモンで男が正気を保てるか分からない。だが、男は進んだ。大丈夫だと。もう、二度と男はオメガを傷つけない。そう誓った。だって、男はオメガを。

 入ったこともない、リビングの奥。オメガの部屋は探さなくても分かった。フェロモンの濃いところを辿れば、そこにオメガはいる。順調にオメガの部屋の前にたどり着いた男は、深い深呼吸をした。扉の奥は、もっと濃い匂いがするはずだ。

「私だ。入るぞ」

 ノックをして、オメガの部屋に入る。予想してた以上のフェロモンに理性をぎゅっと引き締めたが、それ以上に、ベッドの上のオメガの淫らな姿に欲情した。今までの焦りを忘れたように一歩一歩ゆっくり歩けば、そのたびに理性が解けていくようだった。一人の人間がただの獣に成り下がる感覚。嫌いだった感覚。今は受け入れたそれを、しかしこのままではいけないと男の理性が警報を鳴らす。手を伸ばせば、オメガに届く距離。オメガはやっと男の存在に気が付いた。

「あいざわさん・・・」

 高揚した頬に、濡れた瞳。小さく男の名前を呼ぶ唇は、むしゃぶりつきたいほどに妖しく濡れて、オメガの小ぶりなペニスは、腹につくほどにそり立っていた。男がこの姿を見たのは、初めてではない。前は、そのオメガの発情した姿を蔑み、嫌ったポーズをして、心の奥、自分でも気が付けない無意識で、抗えない程に惹かれ、何よりも欲情していた。前よりそれが、酷い。

 今すぐ、抱きたい。男は、ごくりと口にたまった唾液を飲む。男のスーツを押し上げるそれを開放して、今すぐあの魅惑の香りがするオメガの秘部に突っ込みたい。挿入したら、思いっきり腰を振って、その蜜壺の締まりを堪能したい。今まで、弄ってやらなかった乳輪のふくらんだ立ち上がった乳首をひねって、噛んで口で転がしたい。

 男はいつだって、抑制剤を飲んでいる。それでも、オメガがいなくなって以来、誰も抱いておらず、寝不足が続いたことから抑制剤の強さを弱めていたため、発情したのだ。男が発情したのは、オメガを初めて抱いた時だけ。そこに、理性の文字なんてなかった。

 それでも、目の前の男のご馳走に手を出さないのは、それこそ、男の本能でもあった。もう、オメガを傷つけない。傷つけたくない。その本能にまで染みついた想いだけが、男の脚を止めている。
 そんな時、固まって動かない男をとろんとした目で見つめたオメガが手を伸ばす。ゆっくり近づいてくる右手は、体を支えてていた左手が崩れたことで急降下する。ベッドから落ちそうなオメガを反射で受け止めた男にオメガは、縋りつきながら免罪符を渡した。

「助けて」

 男の理性が完全に切れた瞬間だった。オメガが望んでいる。そう、悟ったのかもしれない。男は、オメガの口にしゃぶりつき、その甘い唾液をすすりながら、早急にオメガの秘部に指を入れる。オメガのそこは、もう、粘液でぐちゃぐちゃになっており、指を吸い込んでくる。解す必要など皆無だと分かった男は、片手でファスナーを下ろし、完全に立ち上がった凶悪を外気に晒した。縋りついて男のキスにうっとりしているオメガを片手で支えながら、その蜜壺にペニスを添え挿入しようとした時。

 藍澤さん。

 記憶を失くしたオメガが、そう言って男に笑いかけたあの感動を思い出す。

 男は、勢いよくオメガを引き離し、なるべくフェロモンを吸わないように口で息をする。ご褒美をいきなり奪われて訳の分からない顔をしているオメガをよそに、男はペニスをしまう。勿論、反り勃ったそれを完全にしまうことは出来ず、ファスナーは上がらない。覆うのは薄いシルクの布一枚。でも、それは、男の決意と理性による何よりも厚い防御だった。

「なんで……?ちょうだい、ねえ、ちょうだい」

 男のペニスを欲しがるオメガは、男のペニスをそこから出そうと必死に手を伸ばすが、男に手を止められてしまう。

「駄目だ。それは、お前の意思じゃない。ヒートに飲まれているだけだ」

 男だって、今すぐにでも挿入したかった。オメガだってそれを望んでいる。だけど、今のオメガはヒートで冷静な判断が出来なくなっているだけ。男は、知っている。愛するとは、見返りを求めないこと。相手を幸せにすることだ。今ここでオメガの望みを叶えたって、オメガは幸せにならない。後で後悔することになるだろう。オメガは、男を愛していないのだから。

「ちがう、ちがうよぉ。ほしいの。ほしいの。ねえ、ちょうだい」
「っ駄目だ」

 いとおしい相手のセックスの要求を拒むのは、理性が必要だ。男の欲望と理性は未だ均衡を保っていて、不意に欲望に傾きそうになる。並みのアルファなら、とっくに理性を飲まれていただろう。

「ねえ、ほしいの。ぼくのここにあいざわさんの。ちょうだい、ね、ちょうだいよ」

 オメガは両脚を開き、蜜壺の入り口を指で押さえて見せつけた。何かを欲しているように、くぱくぱと開閉しているそこの具合のよさを男は知っている。

 もう一度、ごくりと唾液を飲み込んだ男は、オメガに手を伸ばしその脚に手をかけ、押し倒した。

「っなんでぇ!」

 理性に負けたからではない。男は、オメガのペニスを擦り、蜜壺の一番感じる場所を指で刺激する。

「抜けば、理性も戻ってくる。我慢しろ」
「やだぁ、やだぁ。あいざわさんのちょーだいよぉ!」

 その夜は、一晩中オメガを一人快楽に堕とし、男はずっと理性と戦い続けた。



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